おひさまの日記
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2010年10月02日(土) ばいばい、お父さん<お笑い編 2>

父が亡くなり、通夜、告別式とこなしていく中で、
一般的には不謹慎であると言われる笑い、おかしいから笑うということを、
私達家族は何度も体験した。

そして、感じたのは、悲しみがそこにあるように、
笑いも楽しみもそこにある、どちらもただそこにある、ということ。

そして、人は瞬間瞬間を生きているのだと思った。
突き上げるような悲しみの1秒後に、
こらえきらない笑いや愉快なことがある。
それが自然なことだと思った。

悲しいから笑えないのではなく、
笑っているから悲しくないのではなく、
どちらもただそこにあった。
そして、そのどちらをも味わった。

通夜の夜、お線香を絶やさないために、私とabuとアンナは斎場に残った。

深夜、アンナと新しいお線香を焚きに行った。
棺を覗き込みながら、じーちゃん、お線香焚くよー、って。
その時、お坊さんが読経の際鳴らす、大きなちーんがあった。
なんて名前だかわからないんだけど、昔はそこによく木魚があったように思う。

私はどうしてもそれを鳴らしてみたくて、大きな棒を持って、ちーんと鳴らした。
ちーんと言うか、ごわーん、って感じ。
面白くて何度も何度も鳴らした。
読経の真似をして、ごわーん、ごわーん、って。
アンナはそんな私を見て大笑いした。
そして、はっとして私を制した。

「ママ!
 監視カメラがあるよ、全部映ってるよ!」

くるっと振り返ると、祭壇の真正面に監視カメラが取り付けられており、
こっちを向いていた。
私とアンナは、ぎゃははは!と笑いながら親族の控え室まで走って逃げた。
戻ってabuに話して3人で笑った。

そうやっている私達は、その瞬間、本当に愉快だったし、心から笑っていた。
そんな自分達が、なんだかうれしかった。

無理して明るく振る舞っているのではない。
本当におかしくて笑ったのだった。

親族の死にあたり、それではいけない、
喪に服して神妙な面持ちで静かにしていなければならない、
そんな観念がどこかにあったように思う。

けれど、実際に自分が親のが亡くなり、思った。
近い人の死に祭しても、そこには普段と同じく、色々な感情が存在し、
悲しみはたまたま大きいけれど、いつも通りでいていいんだと、そう思った。
その時その時感じるものを感じていていいんだ、と。

もちろん、不謹慎に映らないようにと、人前でげらげら笑うようなことは避けた。
だけど、私達は本当によく笑った。
私と母とabuとアンナで。その時、いつも一緒に父がいた。
笑いにはいつも父が介在していた。

そして、介在する父は、亡くなった人ではなく、
遠い昔、私を罵倒し木刀でめった打ちした人ではなく、
倒れた母の顔を何度も蹴って踏みつけた人ではなく、
病床で顔を歪める人ではなく、
今ここで私達を笑顔にする人だった。
笑いは光の渦となり、まさに "ディワリ" の中にいた。
私達はすでに新しい父と共にいた。
死が誕生だった。

あのカードの言葉を思い出した。

笑うきっかけは、いつも、くだらない、どうでもいいようなこと。
けれど、その笑いが心からの笑いであり、そこには父がいる、それを強く感じる。
笑うことで、私はそれまで近づけなかった父のそばに寄れたような、そんな気がする。
父が生きて施設にいる時よりも、亡くなった今、
父はより身近な、共にいて心地よい人として存在する。

父の映ったビデオが1本だけ残っている。
会社の忘年会で、かつらかぶって、こてこてのおかまメイクして、着物着て女装して、
梅沢富美男の「夢芝居」で踊り狂い、客席に向かって投げキッス。
会場が爆笑の渦。

私はそのビデオの中の父が好きだ。
家で般若のような顔をして怒鳴ったり暴力を振るったりする父よりうんと好きだ。
ビデオの中の父は、本当はずっと存在していたけれど、
私が出会えなかった父なのだと思う。
そして、会いたかった父。

今、私はそんな父と一緒にいる。

「それは死ではなかった。
 それは新しい生、復活だった。
 あらゆる死が新しい扉を開く」







余談だけど、
父が空に帰ってから、私を、私達家族を笑わせた、いくつかの出来事を。



【聖水でのお財布お清め事件】

父が亡くなってすぐ、
体をキレイにしてから着せる浴衣がなかったため、私は慌てて売店に向かった。
心臓がドキドキしていた。
とうとうこの日が来てしまった。

浴衣を買い、病室に戻る前にトイレに行った。
用を済ませて立ち上がった時、
脇の手すりの上に置いておいた浴衣と財布を肘で押してしまい、落下。
あっ!と思って手を伸ばす。
浴衣は押さえることができて事無きを得たが、
財布がまだ流していない便器の中にぽっちゃんと落ちた。

あああ…お母さんに預かった財布、まだ2万円入ってたのにもったいない…

そう考える時点で拾う気なし(笑)

いや、拾わなくちゃ!私は気を取り直し、
トイレットペーパーで手をぐるぐる巻きにし、
勇気を出して聖水でお清め中の財布を拾った。

拾ったはいいけど、どうするよ、これ?

しばらく考えた私は、洗面台に財布を置いて水を流した。
そして、財布の表面はもちろん、内側、中のお札まで、全部水洗い。
これでもかってくらい水洗い。

洗いながら思った。

「この期に及んでこんなギャグなことがなぜ起こるわけ?」

びしょびしょの財布に、濡れてれろれろになったお札と小銭を戻し、
これまたこれでもかってくらい手を洗い、
何事もなかったかのように病室に戻った。

母は泣いている。abuもアンナもうつむいている。

おしっこの中にお財布落としちゃったなんて言えない…

私はこう言って、水滴だらけの財布を母に返した。

「ごめんね。
 手を洗ってる時に洗面台にお財布落としちゃったの。
 びちょびちょになっちゃった」

いいよ、いいよ、そう言ってうなずきながら母は財布を受け取った。

父が体を清めてもらう間、
私達はロビーで葬儀屋さんとのやり取りを始めていた。
その合間に母にこっそり言った。

「お母さん、嘘ついてごめん。
 お財布、本当は洗面台じゃなくて、流してないトイレの中に落とした。
 一応全部洗ってきたけど…」

母が目を丸くした。

「えええっ!?」

合掌。



【オカメインコ事件】

身を清めてもらった父が、病院から自宅に搬送されてきた時のこと。
私達は神妙な面持ちで父を迎えた。
亡くなった父との対面、父の死との直面、頭がぐらぐらした。
白い布にくるまれ、布団に寝かせてもらった父。
葬儀屋さんが静かに布を外した。

何を覚悟したんだかわからないけれど、私は覚悟して父の顔をのぞき込んだ。

「えっ、えーーーっ!?
 お父さんっ、どしたの、その顔っ!!!」

死化粧をほどこしてもらった父は、まんまオカメインコだった。

しっかりファンデーションを塗ってもらって、
ほっぺにはまあるくオレンジのチークが濃く入ってて、それはそれはおてもやん。
しかも、まぶたにはパーブルのアイシャドウ、
しかも、しかも、ラメ入りでキラキラ。
さらに、口紅はピンク、しっかりピンク。

これじゃ場末の酒場のおかまじゃーん!!!

悲しみが吹っ飛んだ。
厳密に言うと、悲しみを超えたおかま顔だった。
眉毛のないバカ殿。

悲しみと込み上げる笑いが混在し、
私はどういう顔をしていいかわからなくなった。
あうあう、笑っていいのかな、いいのかな、いや…

でも、つい口にしてしまった。

「お父ちゃん、おかまみたいだね…」

全員が、ぶっ!と吹いたのを、私は見た。

もちろん、納棺の前に、葬儀屋さんにきちんときれいな顔に戻してもらいました。
さすが葬儀のプロ。

合掌。



【蚊と住職と私事件】

父の戒名と拝んでいただくお布施の相談でお寺を訪ねた。
住職が直々にお出になってくださった。

話している時、ふと気づくと、住職のほっぺに蚊がとまっていた。
住職は色白で、そこにでかい黒いヤブ蚊が。
そのコントラストで蚊がやけに目立つ。

家族なら、蚊!とか言ってぺしっ!とできるんだけど、ここは当然放置。

しかし、その蚊が、いつまで経っても住職のほっぺにいる。
穏やかにほほえむ住職と蚊。
だっ、だみだ〜、ツボだ〜、たすけて〜!

ひょっとしたら、住職は、大切な話をしているので、
かゆいのに耐えているのかもしれない。
頭が下がる。
下がるけど、その組み合わせとタイミングとシチュエーションが絶妙過ぎた。

合掌。



【名前を間違えてはいけません事件】

告別式が始まった時。開始に当たり、司会の方から故人の紹介があった。

この紹介のために、前日私達は打ち合わせをした。
父についてや、生前父がしたことなど、細かく伝えた。
それを元に紹介文を作るのだという。

父の紹介が始まった。
誕生日から始まり、生い立ち、趣味、仕事、紹介が進んでいった。

「また、故人は動物好きで、犬も飼っておりました」

私は心の中で思い出していた。お父さん、犬が大好きだった。

ミッキー(飼い犬の名前)をすごくかわいがってた。
よくお父さんとミッキーの散歩に行ったっけ。
楽しかった…。
目頭が熱くなった。

話は続いた。

「愛犬の名前は、ラッキー…」

私は、ぐっ!と変な音を立てて吹いてしまった。
瞬間的にツボに入ってしまって、おかしくてこらえきれなくなった。
笑って肩がぷるぷる震えているのがわかる。

ラッキーじゃないよ、ミッキーだって言ったじゃん、
確認もしたじゃん、名前違うから、違うからっ!

ゆうべのオカメインコで笑いに火がついていた私は、
不謹慎だと思いつつも反応してしまった。
うつむいて震えがおさまるのを待った。
最前列の私を後ろから見た人は、きっと泣いているように見えるだろう、
うん、そうさ、大丈夫さた。

「お父さん、ごめんね。
 お葬式なのにこんなに笑っちゃって」

ふと周りを横目で見ると、
笑いをこらえる私を見て家族も笑いをこらえているではないか。
みんなミッキーがラッキーに化けたことに気づいていたらしい。

合掌。



ばいばい、お父さん<お笑い編>はこれでおしまい。


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今日も読んでくれてありがと♪すごくうれしい!
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