初日 最新 目次 MAIL HOME


I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
kai
MAIL
HOME

2020年03月15日(日)
『コロンバス』

『コロンバス』@シアターイメージフォーラム シアター2


コロンバスに留まりたくないジン、コロンバスに離れることが出来ないケイシー。父を受け入れられないジン、母を突き放せないケイシー。数々のモダニズム建築の名作が点在する、非現実的な風景が日常の街でふたりは出会い、そして歩き出す。

コゴナダ監督のデビュー作。小津安二郎作品を敬愛し、彼と名コンビだった脚本家・野田高梧が監督名の由来とのこと。小津監督作品も満足に観ておらず、建築に詳しい訳でもない自分が何故これを観に行ったかというと、チケットを頂いたからなのでした。全く守備範囲外のものに手を伸ばすことが減った昨今、とても嬉しい出会いになりました。いやー…よかった……。

アメリカ・インディアナ州の小さな街、コロンバス。講演のため滞在していたここで父が倒れ、ジンはソウルから駆けつける。父の容態は思わしくなく、いつ最悪の事態になるかわからない。とはいえ、どうなるかわからない状態で安定しているともいえる。宙ぶらりんの状態のなか、ジンは地元の図書館で働くケイシーと出会う。ケイシーはジンに街と建築物を紹介していく。その会話のなかから、少しずつふたりの心の内側が見えてくる。

撮影監督はエリシャ・クリスチャン。会話のシーンはひきのカメラが多い。画の中心は美しい建築の数々、演者の表情はなかなか見えない。その分耳をすます。ひとつひとつ、ふたりの抱えているものが明らかになってくる。ケイシーは何故古い携帯……所謂ガラケーを使い続けているのか。エレノアはどうしてジンとその父親の間をとりもとうとするのか。「非対称でありながらバランスを保っている」時間が続く。ジンもケイシーも現状に苛立っている。しかし静かに、それを内に収め続ける。感情の爆発は一度だけ。カーステレオからの爆音にのって踊るケイシー。そのときジンは眠っている。しかしそのとき、彼は彼女の苛立ちを知ろうと一歩前に進むし、彼女は彼にひとつの打ち明け話をするのだ。そのときカメラはしっかりふたりの顔を捉えている。簡潔に、しかし徹底して無駄のないカットと台詞の数々。「なにも足さない、なにも引かない。」なんて名コピーを思い出してしまった(若い子は知らんだろう……)。

そして、登場人物が足を踏み外さないところにも好感が持てたのでした。ジンとエレノアがケイシーの年齢の話をするところもそうだし、ジンを帰すエレノアもそうだし、ジンがケイシーをサポートすることも。暗いキッチンで、ケイシーが丁寧にサンドウィッチをつくるシーンは、そうせざるを得ない環境と、それでも自暴自棄にならない彼女の地盤のようなものが胸に迫った。それを感じとったからこそ、ジンは彼女に進学を勧めたのだろう。かつて父が立っていたところにジンが立つところもよかった。父と子の構図が重なる。ああ、彼はここに留まり、父の残りの時間につきあうことにしたのだ。そう感じられるシーンだった。

ジンを演じるのはジョン・チョー、ケイシーを演じるのはヘイリー・ルー・リチャードソン。ふたりとも初めて観る役者さんでしたが、すっかり虜になってしまった。なんでもジョン・チョーは『カウボーイビバップ』の(スパイク役!)撮影中だそうで、これは気になる。そうそう、ケイシーの同僚を演じていたロリー・カルキンもよかったなあ、あの煙草の秘密を明かすところ! この名字……と思っていたら、マコーレー・カルキンの弟さんとのこと。確かにすごく良く似ていた。

映像を言葉が追いかけ、映像に言葉が重なり、二度と戻らない時間を焼き付けていく。動かない建築が、登場人物たちの心と身体の動きを見つめているようだった。これから幾度となく記憶から呼び起こし、撫でたり眺めたりするに違いない。コゴナダ監督作品、次も観てみたいな。

-----





・モダニズム建築が主役!? あの名作が映画『コロンバス』に次々登場。┃Casa BRUTUS
「この街がこれほど建築に恵まれている理由のひとつは、地元を代表する企業〈カミンズ・エンジン〉の創業者アーウィン・ミラーが1954年に財団を設立し、公共施設の建築費をサポートしたからだ。」
マップが掲載されているのがいいですねえ。ロケ地巡りしたら楽しそう

・家族の臨終に際しての態度、葬儀の風習、囲碁。ここ数年韓国の文化に触れる機会が多かったためすんなり理解出来たところもあり、それがこの映画に親しみを感じた理由のひとつになっているような気もする。監督と主演のジョン・チョーは韓国系アメリカ人

(20200410追記)
・「コロンバス」、「デッド・ドント・ダイ」の撮影 ー 緊急事態宣言をふまえて┃IndieTokyo
映画館が閉まり、身動き出来ない状況のなか配信された記事。素敵なレヴューです、是非ご一読を



2020年03月01日(日)
『初恋』

『初恋』@新宿バルト9 シアター8


こう撮ればPG12ですむんだと妙なところでも感心した。『殺し屋1』はエロではなくバイオレンス描写でR18になった初の事例だったそうだけど、受ける印象にそう差は感じなかったなあ。切った断面を見せない、とか内臓は見せない、とかそうした細やかな配慮(細工)によって青少年も楽しめるものになるんですね。レーティングとは……(微笑)。

『DEAD OR ALIVE』シリーズや『殺し屋1』が好きなひとは「あの三池崇史だ!」と燃えるし血が滾ると思います。でも懐古ではなくアップデートされてる。脚本の中村雅(NAKA雅MURA)、音楽の遠藤浩二と、「あの三池作品」の常連であるスタッフたちの仕事ぶりもそう。インパクトに溢れ、露悪的であり、ユーモアを忘れず、品と矜持がある。上海小吃(そう、出てるの! これにも燃えるわ)でチアチーがいっていた「仁」を、作品に感じるところもいいですね。自業自得に因果応報、爽快でもあります。やくざ映画といえば、の「荒磯に波」東映ロゴから始まったのも粋。高倉健リスペクト!

「誰一人欠けても、この恋は生まれなかった」という惹句にあるとおり、ホンの構成が見事。舞台は新宿歌舞伎町、取り引きされるブツを巡り、ヤクザとチャイニーズマフィアの抗争が起こる。裏切り、寝返り、場当たりとドミノのように状況は加速し、登場人物たちは走り、撃ち、斬り、殴る。緊張感に満ちたシーンで膝カックンをするように、彼らは絶妙の間で笑わせる。クマちゃんのもこもこパンツ、GPSアプリ、ぬいぐるみの発火装置、カチャーシーを踊る幻覚の父親。命のやりとりはギラギラしているのに軽快で、だからこそはかない。アニメーションが入る演出もポップ。実写が難しいシーンでVFXをこう使おう、という発想も素敵。

そんな作品に集ったキャストが自分の持ち場を最大限に盛り上げる。こういう「いい仕事」を存分に観られるうれしさ! 窪田正孝が三池監督と出会って十年ちょっと。満を持して主役として迎えられ、そこへ大森南朋や塩見三省、内野聖陽が帰還(再会)という図式も熱い。映画はこうしてつくられる。村上淳が初参加、というのもうれしい。メインキャストとしては初参加の染谷将太が、水を得た魚のように姑息脱力詰めの甘いヤクザを演じていました。歌舞伎町の社会的な住人である占い師と医師はベンガルと滝藤賢一。いい味出してる。そうそう、新妻聡が出ていることでアンダーグラウンド度がグッと増してます。『殺し屋1』でテレビに入っていた(物理的に)方です。いい感じに歳とって痩せて、ユ・ヘジンに似てきた(笑)。

女性たちが皆格好いいところにも好感。ベッキー、藤岡麻美の迫力。ふたりとも身体が切れ、アクションシーンが映える。主演の新人、小西桜子がとてもいい。往年のアイドルのようなあどけない顔立ち、タイトルバックであの姿を晒せる勇気と度胸(あの画を撮ると判断した監督も流石)。あのシーンでモニカの置かれている状況の説得力がグッと増した。そんな悲惨な環境にいた彼女が、現況に立ち向かおうと決意したときの解放された表情にはこちらも笑顔になってしまった。

そして窪田さん。ボクサーである理由、生きていることに無自覚だったレオが覚醒する瞬間を、あの瞳とあの身体で見せてくれました。役柄上受けの芝居が多かったのだけどこれがまたよくてね。イヤフォン分けっこで音楽を聴く、青春恋愛ドラマで定番のシチュエーションで「見てえ〜。何が見えてるか知りてえ〜」なんてやりとり、かわいらしいやら笑えるやらで最高でした。曲者揃いの演者のなかで光ってた。

いんやそれにしても音楽よかったなー……開巻しょっぱなのトライバルな感じ、またボアダムスの面々呼んだのかなと思った。あの音、ディジリドゥだったのか。サントラ出ないかなー配信でもいいから〜!

「最期に出会った、最初の恋」という惹句にも含みがある。レオは人生に、生きることに恋したのだ。それは執着でもある。「日本車を信じる」(笑・この台詞もシャレてる)ダイヴシーンから、解釈の道はふたつに分かれる。あのラストシーンが現実のものでありますように、と静かに祈る。こういう余韻が楽しめる映画は、人生に棲みつき愛していける映画です。いいものに出会えた。

-----


格好いいんでUS版のトレイラー


歴代「荒磯に波」。どれだったかな〜


東映系のバルト9だったせいか大々的に盛り上げられてた。大きなスクリーンで観られたしよかったな〜

・公式サイト
相馬宏充さん(好きー♡)の画コンテが載っててうれしかった。劇中のキャラクターイラスト(かわいい!)も描かれています

・そういえば三池監督、『ラヴ・レターズ』に出たんだよなー。お相手は有森也実さん。今思うとあのピュアな感じ、今作に通じるものがありました

・モニカの父親、パッと見ちょっとムラジュンぽかったので「父親って行方をくらましてヤクザになったの?」と見当違いな深読みをしてしまった(笑)

・あとわーってなったのはボクシング指導が塚本耕司さんだったこと!

・今『マトリ―厚労省麻薬取締官―』読んでるとこなのでヤクの描写にニヤニヤしました

・おーもりさんかなりモッサリしててよいです。ダメねー(役が)。役柄上説明台詞を多く受け持っていたんだけど、それをちゃんと聴かせる演技でよかったな。パンフレットで三池監督に「積み上げてきたキャリアの垢さえも魅力的に見せることができるタイプ(略)どう演じようかという次元を超えちゃっている」といわれていて、うれしくなってしまいましたうふふ。
若い子をつれてウロウロ、というシーンは『害虫』での役を思い出してニヤニヤしました

・そういえば『害虫』の主題歌ってNUMBER GIRLだったなー。帰宅したら無観客ライヴ配信の話題でSNSがわいていました