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2019年08月31日(土)
『ASH&Dライブ2019』

『ASH&Dライブ2019』@北とぴあ さくらホール


しかも正装。どよめく観客。幕が開いたときの「???!!!???」って空気、忘れられん。

いやあ……さあどんな球がくるか、カーブか、シンカーかフォークか、とミットを構えて待っていたらバスケットボールが飛んできた(©原田宗典)みたいな心境でした。そういえばここのさくらホール、吹奏楽とかの室内クラシック演奏会でしか来たことがなかった。そりゃグランドピアノ二台用意出来るわ。で、そのグランドピアノ二台に耐えうるセリもあるわ。舞台機構知ったら使いたくなるわ。しかしASH&Dのライブでそれを見るとは思わなかったよ……。構成・演出はふじきみつ彦と向田邦彦。いいもの観た〜、有難う!


高佐さんがリハの動画あげてくれました。何度も観ちゃう…格好いい……。すっごい練習しただろうな……。

実は涼太マネはすぐ判ったんだけど、もうひとりが誰か最初は判らなくて。ギースのおふたり、舞台では『10月突然大豆のごとく』でしか観たことがなかったので、高佐さんにこんなスペックがあるとは存じ上げず……。ちなみに後半のコントではハープ(サウルハープってやつ? ペダルのないタイプの)も演奏していて驚いた。このときは、古代ギリシャのひとみたいな月桂冠と白い衣裳でした。やだ似合う。

ちなみに元ネタはこれです。YMOの代表曲でもありますが、ピアノver.のこっちですね。

・tong poo

ほぼ完コピ。これは坂本龍一ひとり(と自動演奏)のver.で、教授と矢野顕子が連弾してるver.もありますが、今回の二重奏ver.は矢野顕子と上原ひろみの演奏を参考にしたと思われます。グランドピアノを二台向かい合わせにしたセッティングもそうですし。私もライヴで聴いた憶えあるんだよな、いつだったかな……。

前述したリハ動画にもありますが、演奏終盤にセリが下がりピアノが降りていく。ステージ奥の暗闇を見つめると、まことさんとムロさんが立っている。わあっと起こる拍手をしばし受け、ふたりがゆっくり歩み出る……というオープニングでした。うれしいやらおかしいやらですよ。バツの悪そうなまことさんとムロさん、「こんな恥ずかしいオープニングあるかよ」。いやー笑った笑った。改めてご挨拶とオープニングトーク。『モーゴの人々』の話もちょっと出ましたね、あれがムロさんのASH&D初仕事だったのか…今思えば貴重なものを観たな……。まことさんもムロさんの大ブレイクには驚いていたようで「君、すごいねー」なんていってましたわ。ちょっと前、シティボーイズ好きな友人と「ムロさんもはやASH&Dの稼ぎ頭だね、大きな事務所に移籍しちゃったらどうしよう、おじいちゃんたちを支えて!」なんて冗談で話してたんだけど、いやいやホント、よかったね。

さて最初のコントはなんだ? と気を改めてミットを構える。繰り広げられたのは斉木さんと久本さんのカニエビカラオケショー。今度はセパタクローのボールが飛んできた気分であった。カオスに陥る観客。斉木さんの歌が強烈過ぎて、歌詞の内容が全然頭に入ってこない。久本さんがなんとか軌道に乗せようとするんだけど、相手が規格外過ぎて全然円滑に進まない。歌のお兄さんとお姉さんがエビとカニの扮装(でいいのか、あれ?)で歌を唄い、客席を練り歩きたいやきを配り、もうこの歳なんで引退するとかしないとかひと悶着あり、訳がわからないまま大団円を迎える。あれは何だったんだろう、今でも咀嚼出来ない。ちなみにたいやき配り、あとで二階にも行きますからねといっていた。やさしい。実際行ってた。でもステージ上で行われてるコントとは全然関係ないタイミングで現れて配り出したので、二階席が騒ぎになってた。一階席からは全く様子が見えないので何がなんだかわからない。『東海道四谷怪談』で、歌舞伎座各所にお岩さんが現れたときの感じに近い。

続いて出てきたラブレターズ。「……やりづれえなー」「なんでこの出順なんだよ」とボソリ、これが大ウケ。わかる、わかるよ。しかしヤクルトレディコントは正攻法でめちゃめちゃ面白く、そうだよな、コントライブってこういうものなんじゃないのか、そもそも……とホッとする。そういう意味ではラブレターズと阿佐ヶ谷姉妹、ザ・ギースはたよりになる(笑)。下着泥棒、SLクラブネタ面白かった。素直に楽しかった。阿佐ヶ谷姉妹の「ガリ色のドレス」最高、ギース尾関さんのSL嬢のコスチューム最高。

しかしふりかえってみれば「“コント”ライブ」とは銘打ってなかったな。ライブにもいろいろあるのだと思い知りました。ASH&Dは芸人さんも役者さんも所属している事務所ですが、ライブに出るからには何か披露しなければならない(というか社員も出演しとるがな)。ムロさんときたろうさんは出所ネタのふたり芝居をやり、田本さんは尾崎豊の「I Love You」を唄い乍らトランプタワー(大統領じゃない方のトランプね)を作った。歌はうまかったがタワーは途中で崩れた。そして夙川さんと古関さんが提出したのはふたり芝居という名のほぼ実録であった。恐ろしくて書けない。というか「桑野さん」の話、以前『有吉反省会』で観たことがあったのでなんとか落ち着いていられたが、初見のひとはさぞや戦慄したであろう。悲鳴もあがってましたね(微笑)。ちなみに古関さんはきたろうさんのご子息なんですが、大竹さんとこの涼太マネといい、もともと不思議な事務所だったがこれからどうなっていくのだろうという期待…期待だろうか……不安? いや、それも違う。見当がつかない。行く末を見守りたい(笑)。

さあ、トリはシティボーイズ。きたろうさんちに初孫が生まれ、それを斉木さんとまことさんが見に来るというコント『赤ん坊待ち』。赤ん坊は不在で、帰りを待っている間三人があーだこーだとグダグダする。きたろうさんは赤ん坊になり、赤ん坊はポットになる。空の、あるいはポットを寝かせたベビーベッドを覗き込む三人。不条理な展開、何ひとつ解決しないままの暗転。ああ、これは『ゴドーを待ちながら』だ。暗闇のなか、この場にいられた幸運をしみじみ噛みしめる。シティボーイズのライブを観始めて二十年というところ。勿論もっと昔から、結成当初から観続けているひとたちもいる。こんなコントが観られる未来を思い描いていたひとはどのくらいいるだろう? そしてそれが実現するなんてことを。

台本どおりか間違えたのか区別のつかない台詞、それをたしなめる言葉もアドリブなのかどうか。もはやそれが「あたりまえ」。そしてそれが、面白い。シティボーイズが続いていること、三人が舞台に立っていること。コントをやっていること。それは本当にちいさな確率だ。年老いた身体と、重ねた人生経験と、長い時間をかけて培われた関係がないと表現しえないコント。彼らにしか出来ないコント。

ちなみに今回シティボーイズにコントをやってほしいと進言したのはムロさんだったそうです。もう手を合わせる思い、有難う有難う。まことさんが「シティボーイズの最後のコントがこれか!」といってさびしくもなりましたが、そんなこといわずにたまにでいいからやってくださいよ。またやりたいな、と思ってくれたらうれしいな。

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よだん。この日風間杜夫さんがいらしてたんですが、最後のトークのとき俺の本の音声版を風間に朗読してもらったんだ、風間来てるよな、風間〜! と客席に呼びかけ、立ち上がった風間さんに再び風間〜! 風間〜! と何度も名前を呼び乍ら両手をぶんぶん振っていたまことさんちょうかわいかった。



2019年08月25日(日)
『八月納涼歌舞伎』第二部

『八月納涼歌舞伎』第二部@歌舞伎座



『東海道中膝栗毛』、YJKTも四度目の今回でひと区切りのようです。ふざけ倒してるようでチラチラ猿之助さんと幸四郎さんのマジが見えるところが好きー。とろろ汁屋には滑り台も仕込んでありましたがな。大詰は本水ドバドバですがな。幸四郎さんなんか自ら水量多いところの真下に行ってましたがな。命懸けでひとを笑かしにかかる執念よ。

冒頭示された「夢」が数々の引用を通して見られる。いつの日か隼人くんと新悟くんで『女殺油地獄』が観られるかも、染五郎くんと團子くんの熊谷と敦盛が観られるかも。二年前のYJKTで、狐忠信を「やってみたい、」といった金太郎(当時)くんに猿之助さんが「早いわ!」って怒鳴り返してたけど、そんな日がくるのもそう遠くないと思えるところがいいじゃないの。実際染五郎くんと團子くんの成長は目覚ましく、この演目では本筋にガッツリ噛んだ人物を演じていました。猿之助さんたちは次世代の未来をも見ようとしてる、歌舞伎はまだまだ続くと宣言してる。

あの役をあのひとが、という文脈でいちばん驚かされたのは猿弥さんの娘義太夫。終演後配役チェックしてようやく気付いた有様でした。やー、「義太夫の方も芝居に参加さ(せら)れてる、笑い迄とってる、たいへんだなあ」なんて思って観てたよ! オエーゲホゲホとかいってたけど見事な唸りでしたよ!

それにしてもこの引用、かなりの数。わかればわかる程面白かったんじゃないかなー、奥深いわ……。わからなくても面白く見せるところがまたすごいんだが。とろろによる『女殺油地獄』が白眉。桶が倒れてとろろが流れだした瞬間から、YJKTたちが登場する迄の数分が見もの。ドッとわき、しばらくざわざわしていた客席が、与三郎とお富のからみに見入る。笑いと緊迫感が異様な空気を生みました。その後出入りが始まり、現れた役者たちが次々とつるつるすべっていく有様はドリフ調、やんややんやの喝采に。ドリフってほんとすごいよなーと改めて感じ入った……というかそもそもはドリフが歌舞伎の手法を取り入れたのかな。機動力抜群の大掛かりな装置、廻り舞台による転換。舞台における安全を確保しつつギリギリの破壊力を見せる。

終演後、タさんに「大向こうからの引用もあって驚いた」といわれる。大向こうがかける言葉があって、それは役者さんによっては嫌われるもので近年は自粛傾向にあるものだそうで、それを猿之助さん自らいっちゃってたそうです。そういうことやるのがこのひとらしいというか……。しれっと観客を見ているし、しれっと芸も見せる。おそろしいひとです。

歌舞伎における芸というものは、もはや個人のものではない。勿論、この役者でないと、という芸はその時代毎にある。違う時代の芸を実際に目にすることは出来ないし、客席がどうわいたか知ることも叶わない。芸の道なかばで亡くなった方もいるし、次世代に繋げぬまま消えていった芸もあるだろう。師匠を失くした若者は、よその家に芸を習いに行く。請われる側も真摯に稽古をつける。役者の方々が歌舞伎界は皆家族、といっているが、そうした心得がないと歌舞伎という伝統芸能は続かない。時代によって歌舞伎は変わる。時代が巡っても歌舞伎は残る。

観客は無責任で気まぐれ。熱をあげたら通いつめる。飽きたらすぐ忘れてしまう。家庭や金銭的な問題で劇場から足が遠のくこともある。観客が歌舞伎のことを忘れて日々のくらしを送っているときも、ふと歌舞伎を思い出して再び劇場へ足を運んだときも、興行は続いている。自分もここ数年あまり歌舞伎が観られなかった。久しぶりに足を運んだ歌舞伎座では、変わらず公演が打たれていた。そのことをとても有難いと思った。劇場はいつも扉を開けていてくれる。劇場に住まう彼らは常に近くを見て、遠くを見ている。

よだん。弥次喜多でとろろというと、勘九郎さん(当時)のアーサー王(映画版『真夜中の弥次さん喜多さん』)を思い出します。嬉々として「夜でもアーサー!」と叫んでいた勘九郎さん、YJKTはどうでしたかね。あなたと三津五郎さんが始めた八月納涼歌舞伎はこれからも続きます。



2019年08月23日(金)
mouse on the keys『Park Live』

mouse on the keys『Park Live』@BEER TO GO


地下鉄銀座駅のB9出口が丁度B2フロアなんですけど、改札出る前からドカドカ聴こえてましてん。おかげで会場がどこかすぐわかった(笑)。

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Drs:川昭
Pf, Key:清田敦
Key:新留大介
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Tp, Cho:佐々木大輔
Vo:小林宏衣
VJ:Hello1103
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昨年オープンした「Ginza Sony Park」。ソニービルが2022年にリニューアルオープンする迄の間、地下スペースを使ってさまざまなプロジェクトが展開されています(Ginza Sony Park┃About Project)。そのなかのひとつ、『Park Live』にmotkが登場。VJ、ゲストプレイヤーも参加し本域の内容で一時間弱。フリーなのが申し訳ない気分。

音に導かれてふらふらB4に降りて行くと、カーテンで仕切られたフロアの向こう側から爆音が聴こえてくる。初めて来たので仕組みがわからず、カーテン開けたらそこがステージなんだろうか、近いなーと思いつつしばらく待つ。リハが終わり、カーテンが開きました。テーブルと椅子がズラリと並んでいて、え? え? と戸惑っていると、慣れたお客さんたちがどんどん席を確保していく。成程こうなってんのね…オールスタンディングだと思っていた……。なんとか座ることが出来ました。カーテンが開く迄いたところはそのままスタンディングスペースに。最終的には入場制限がかかるくらいの盛況だったようです。

川さん、身体重そう。懸命に叩いてるんだけど、動きに対して音が出てない感じ。数日前に熱中症になってとツイートしていたので心配になる。途中水をくれと何度も訴えていたのだが、スタッフがモニターについてのことかと勘違いしていたのかなかなか伝わらず。「のむやつ!」みたいなジェスチャーをしてやっと持ってきてもらっていた。普段の7〜8割くらいで叩いてるかな、という印象でした。それでも充分パワーヒッターなんだがな(推して知るべし)…おそろしい……。翌週月曜日に検査を受けたそうで、とりあえずは大丈夫だとのことで胸を撫で下ろす。爆弾抱えてるようなものだからね…おだいじにね……。

「spectres de mouse」で幕開け、川さんと清田さんのスパークが見えるようなアイコンタクトと演奏。精緻な演奏だが自由度は高い。リズム、パッセージ、少しの変化をも逃すまいとお互いを見る、見る。清田さんは鍵盤を見ていない。川さんの顔を見てる。前述したようにコンクリートうちっぱなしのスペース、そこへ7〜8割だろうが重く鋭く腹にクるドラム。リムショットもキックも残響多めの鳴り。そこへピアノの低音リズム、荘厳なエレクトロパターン……Massive Attackに代表されるブリストルサウンドを彷彿させる。既存の楽曲を新鮮な驚きとともに聴く。小林さんVoの「Pulse」と「Stars Down」は、夜、週末、銀座というシチュエーションによく合っていました。「Clarity」で新留さんが奏でる美しいハーモニー、サンプリングのクワイアも夜に似合う。「Circle」もすっかり定番、何度聴いても胸が熱くなる。

ライヴ当日にリリースされた新曲「Mind」は、motkらしいリズムに転調が加わりクールなのにアッパー感がある。どなたか以前彼らのサウンドのことを「冷静と情熱の間」といっていて膝を打ったけど、もはや「間」というより共存してますよね。どちらも内包し、前へ進む。ドラマ本編も好評だった『詐欺の子』ostもリリースが決まりうれしい限り。皆さんくれぐれも身体には気を付けて!

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・勝井祐二×mouse on the keysが劇伴、NHKドラマ「詐欺の子」サントラ発売決定┃音楽ナタリー



2019年08月11日(日)
『僕の中のあいつ』

『僕の中のあいつ』@シネマート新宿 スクリーン1


高校生の制服なんか着たソンウンさんがグッズになってたらそりゃ買うわ。ハート型バッジは売り切れてて残念だったわ。右は公開記念特別フライヤーで、映画本編にこんなシーンはありません(笑)。

原題は『내안의 그놈(僕の中のあいつ)』、英題は『Inside Me』。2019年、カン・ヒョジン監督作品。パク・ソンウン出演作で、日本公開はないのかなーと思っていたら意外とはやくやってきた。嬉しい! というのも、B1A4のジニョン初主演作だったからのよう。『怪しい彼女』に出ていたあの子ですね。このときと同様、本編上映前にメッセージ映像が流れました。なんでも6月から兵役に入っているそうで、お留守番中のファンにとってこの公開は嬉しいだろうな。ロビーにはファンたちから贈られた公開お祝いのバルーンスタンドが飾られていました。

という訳で、お話は僕があいつにあいつが僕にのボディチェンジもの。いじめられっこの高校生がコワモテの財閥社長と入れ替わってさあたいへん、社長の身体が寝ている間に社長の中身が高校生の身体で活躍します。設定としてはよくあるものかもしれないけど、これがま〜面白いこと。ホンの面白さ、演出のよさもあるし、そして何しろ役者が巧い。この手のコメディは役者が巧くないと興醒めなんだけど、現実に引き戻されることが全然ない。ソンウンさんのコメディセンスは周知のことですが、ジニョンさんの演技が見事。ぽっちゃりちゃんという設定で、中盤迄特殊メイクだったということもあり、これホントはジニョンさんの着ぐるみで中にソンウンさんが入ってんじゃないの……って設定そのまま(笑)を信じてしまいそうになりました。実際しばらく「ソンウンさんが台詞の吹き替えしてんのかな?」と思ったくらいで……それ程いいまわしや声のトーンがそっくりだった。

中身が入れ替わったことで、高校生は強くなる。身体を鍛え、いじめっこを撃退し、クラスメイトの女の子を守る……だけでなく、その女の子をも強くする(ってのがまたいいよね!)。社長は地位やしがらみから離れた自分を取り戻す。素直な気持ちに尻込みしていた自分を、入れ替わったお互いが後押ししてくれる。ふたりの身体がもとに戻っても、彼らは以前の自分ではないのです。周囲のひとびとも魅力的。空疎な生活でも社長にはあの部下(イ・ジュニョク)がいたし、いじめられていても高校生たちにはあの父(キム・グァンギュ)が、あの母(ラ・ミラン)がいた。まあ悪いひとは徹底的に悪いんですが(笑)そんななか財閥の会長(キム・ホンパ)に良心があってよかったなあとも思いましたよ。ほらエンタメで描かれる財閥ってホント腐ってるのばっかりだから…それ程韓国社会において財閥の暗部は根が深い訳で……。いじめ、地上げ、裏取引。さまざまな社会問題をさりげなく示し、しかし深入りはしない。コメディの美点でもある。虫の目がある。

ひとりひとりが自分とその隣人を気遣い、近くのひとにやさしくする。そうして新しい場が出来る、ひとびとはそこへ集い、新しいコミュニティが出来る。ひととひととの不思議な繋がりをファンタジーの味付けで描く。「戦争に反対する唯一の手段は、各自の生活を美しくして、それに執着することである。」という吉田健一の言葉を思い出しました(というか、PIZZICATO FIVEから知った言葉ですが)。社会の大きな変化や争いが起こるとき、いつもこの言葉を思い出す。まずは近くのひとから、ことから。早起きして大きなスクリーンで、沢山のひとと一緒に観られてよかったな。ジニョンさんのファンだけではなかったと思われる幅広い客層でしたが、皆さんドカンドカンウケてました。思わず声出して笑っちゃう、固唾をのんで登場人物を応援しちゃう。観客の気持ちがひとつになったと錯覚するような、心あたたまるコメディでした。

それにしてもソンウンさんかわいかったわーホント愛嬌あるわ。「死ぬにはぴったりの日だ」っていわれるシーンもあって、『新しき世界』好きとしてはそりゃ笑うわ。韓国映画ってこういうユーモア入れてきますよね。それにしてもソンウンさん、パク・へジンとの『マン・ツー・マン』といい、オ・スンフンとの『メソッド』といい、歳下の綺麗な男の子にふりまわされる作品が多いのは何故だろう。観る側としてはとても楽しい(笑)。ちなみに今回のキャスティング、ソンウンさんがジニョンさんを推薦したとのこと。若手と接する機会も多く、面倒見もよい方なんですねきっと。いやー、いい共演が観られました。

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・僕の中のあいつ┃輝国山人の韓国映画
いつもお世話になっております〜キャスト表ホント有難い!

・クラスメイトの女子高生を演じたイ・スミンは、チョン・ウソンとイ・ジョンジェのあの事務所(!)、アーティスト・カンパニー所属だそうです。いやあいい人材揃ってるわ〜

・今シネマート新宿にかかっている今作と『工作』、どちらにもソンウンさんとホンパさんが出演している。ハシゴして役柄の違いを楽しむのも一興ですね



2019年08月02日(金)
高橋徹也 トリオ・ワンマン『Long Hot Summer 2019』

高橋徹也 トリオ・ワンマン『Long Hot Summer 2019』@Shimokitazawa 440

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高橋徹也:Vo, G、鹿島達也:B、脇山広介:Drs
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トリオ編成初めて観ました。このメンツでのライヴは二度目で、ワンマンはお初とのこと。各々の音が剥き出しで、各曲のアレンジも相当変わっておりとてもスリリング、聴いてる方も気が抜けない。鹿島さんからスタートする曲も多く、ワントーン目のキーから次は何だ? と探る面白さも。キー、コード、リズムが徐々に集まり、メロディが現れたときのカタルシス! なんだか彫刻……というか石膏像みたいだったなあ。カンカンカン、と型を割るとパカッとなかから曲が出てくるの。

“Long Hot Summer”のタイトルに基づき構成されたセットは、真夏の夜のジャズ! フュージョンカラーあり、ブリティッシュロックありと、バラエティに富んだ選曲、生々しい演奏。「心は全裸で!」と仰ってましたが演奏も相当剥き身でした。鹿島さんはエフェクトもかなり凝っており、アップライトベースを使うナンバーもあり。脇山さんもエフェクター使ってたのかな、すごいリバーブかけてた箇所があった。あれどうやったんだろう、PAなのかなあ。高橋さんはカッティング主体のストレートな音色で、リズムが強く聴こえました。今回コードを出せるのがギター1本だったからかな。

で、ロックセクションなんですが、ブリティッシュ……いや、もっとローカルだな。マンチェスターのポストパンク。いうたらThe Smithですよ。「ハロウィンベイビー」「グッドバイ グッドバイ グッドバイ」「醒めない夢」のセクションは『俺のThe Smith解釈』な流れで震えたわ! 私が勝手にそう思ってるだけだが。しかしこうやって聴くとスミスってホント画期的でオリジナルなサウンドだなあ。それを自分のものにしてしまっている高橋さんもすごいが……モリッシーは中低音のヴォーカルが魅力ですが、高橋さんのハイトーンな声がこのサウンドにこうも似合うかと新しい発見でした。

声といえば、この日ちょっと喉のコンディションが不安定で「新しい世界」の転調の部分がかなり危うかったんですね。ちょっとハラハラしてたんですが、直後「大統領夫人と棺」の鹿島さんがすごかった。俺に注意を向けろといわんばかりの演奏で、脇山さんとのやりとりにも火花が見えるよう。いつものことではあるけれど、この日は怖いくらいの気迫だった。どんどん姿勢が前のめりになって、高橋さんにどんどん近づいていく。決して広くはないステージで、ネックがぶつかってしまうのでは? と思うくらい近づいて演奏していた。こういうところバンドらしいなーと思ったり。「24年のつきあい」、こういうときどうすればいいかお互いわかっているのだろうな。

「ライヴが決まったら、当日の自分をイメージして生活するんです。毎日同じ時間に同じことをして、トイレ行って(笑)その日に向けて……」と話してましたが、ピークパフォーマンスのためのフローを実践しているということですよね。今回はトリオ編成での選曲やアレンジを直前迄つめていたとのことなので、ちょっと勝手が違ったのかもしれません。しかしここで高橋さんは「ちょっと声が出なくて」「調子悪くて」といった言い訳を絶対しない。プロフェッショナルとしてのプライドと、プレイヤーとしてのチャレンジングを両立、継続していることは尊敬するなあ。

そうそう、「心は全裸」発言を筆頭に、毎度のこと乍らMCも面白かった。夏休みというお題から、鹿島さん曰く「独走したね(誰も話にからめない)!」。夏休み最終日に宿題を手伝ってくれた母親、泣き乍ら「どぶでタニシをとりました」と書いた日記、ワンカップ大関のコップに入った麦茶、ぐるぐるまわり乍ら消えたいぬ。独特の話術もあり相当笑ったんですが、いぬの話なんてなんだか同時に泣きそうになっちゃった。こういう記憶と視点からあの歌詞の世界が描かれるんだなあなんて思った。440は窓が大きく外光が沢山入るのですが、夕暮れどきに開演してだんだん暗くなっていくその雰囲気もよいのです。風知空知ともども、下北沢の素敵なライヴスペース。

「アロハ・リベンジ」とのことで衣裳はアロハ。リベンジなのか。人生初アロハ、そんなに痛恨だったのでしょうか。似合ってる、似合ってるってば!(笑)シャツがインだったのにはええっとなったけど(前回出してたよね?)! いやあ楽しかった、グルーヴお化けの出現におののいた夜でした。夏だけに。怪物も出たし……って、『夜に生きるもの』『ベッドタウン』を自身のなかにおさめた高橋さんにとって、“怪物”は今後のキーワードになりそうですね。年内発表を目指している次のアルバム、楽しみやら怖いやら。

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セットリスト(・トリオ・ワンマン終了!┃夕暮れ 坂道 島国 惑星地球より)

01. スタイル
02. Summer Soft Soul
03. サマーパレードの思い出
04. 憧れモンスター
05. in the mood
06. Night Slider
07. La Fiesta
08. 夜明け前のブルース
09. かっこいい車
10. チャイナカフェ
11. ハロウィンベイビー
12. グッドバイ グッドバイ グッドバイ
13. 醒めない夢
14. 新しい世界
15. 大統領夫人と棺
16. 真っ赤な車
17. 怪物
eucore
18. My Favourite Girl
19. 友よ、また会おう

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