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2019年02月16日(土) ■
『ヘンリー五世』
彩の国シェイクスピアシリーズ・第34弾『ヘンリー五世』@彩の国さいたま芸術劇場 大ホール わーめちゃよかった。『ヘンリー四世』 からの流れをどう伝えるかなと思っていたんだけど、かつて自分が演じたフォルスタッフをああいう形で登場させるか、という「案内人」吉田鋼太郎の演出に唸る。鋼太郎さん自身が演じるこのコーラス(コロス/説明役)は残りのシェイクスピアシリーズ上演にも有効な手法だな。演出を兼任する鋼太郎さんの助けにもなるのではなかろうか。以下ネタバレしてます。 開幕は追憶。五年前(もうそんなかー)のハルとフォルスタッフがスクリーンに映し出される。走り、跳び、じゃれあうふたりは無邪気そのもの。やがて新しく厳しい時代がやってくる。ハルはフォルスタッフを打ち捨てる……映像の中の放蕩息子は、思慮深くも激しい気性を抱えた王として帰還する。『ヘンリー四世』から続投の松坂桃李は精悍さを増し、堂々としたもの。 追われたフォルスタッフは新しく始まる物語の説明役となる。動きづらい着ぐるみを捨て、スタイリッシュな衣裳(これ格好よかったわー)に着替えて悦に入る鋼太郎さん、ノリノリです。観客と舞台の橋渡しを嬉々と演じる。しかしみるみるうちに台詞に力が入る。初日から一週間といったところだが、正直声が嗄れ気味だ。心配ではあるが、それだけの意気込みなのだろう。何がなんでも観客を、この作品の虜にしてみせる。そんな気概が感じられる。そして隙あらば、おいしいところを俺がかっさらうぞという茶目っ気(笑)。鋼太郎さんのこういうとこ憎めない。 自虐的だと感じるくらい「想像力を使ってください」と彼はいう。埼玉県立彩の国さいたま芸術劇場が時空を超えます、と。それには皆さんの想像力が必要ですと繰り返す。「大丈夫ですか、ついてきてますか?」と問う。その観客の想像力だけに頼る訳にはいかないぞというカンパニーの気迫たるや。機動力あふれるセット、複数の役を演じ目まぐるしく出入りする役者たち。ギターとパーカッションの生演奏、ド迫力の殺陣。声、足音、ぶつかりあう身体と身体。埼玉県立彩の国さいたま芸術劇場が雨の戦場になる、血と泥にまみれた砦になる。何度その瞬間にシビれたか。『蒲田行進曲』ばりの階段落ちもあります。飛んでくる矢の扱いとか、演劇って面白いなあというアイディアが随所に見られます。といいつつふと思ったが、少数精鋭がアイディアを駆使して大軍と戦うこの図式、『十三人の刺客』 好きなひとのツボをつきそうだなってそれ私だ。エンタメの魅力がギュッとつまっていますよ! それにしても演者はたいへんなことだと思いますわ…マチソワとかもう……無事千秋楽を迎えられますように。 ウェールズとイングランド、そしてフランスと、英仏そして翻訳された日本語の台詞がナイスアイディアで飛び交う。薩摩弁のアイルランド訛り(確か。ちらっとあったよね?)そして土佐弁(だよね?)のウェールズ訛りには大ウケ。しぇからしくしゅばらしい兵法をまくしたてる、キレものフルエリンを演じる河内大和に抱腹絶倒。最高です。そしてネギな! 今回最前列だったのですが、衣裳にはお香がたきしめられているのか戦闘中はいい匂いが漂ってくるんだけど、終盤はネギ臭がすごかったです(笑)。 これね。 それにしても、現代に上演するにあたってつくづく示唆に富んだ作品だ。過去の狼藉から身を滅ぼすひと、人生をやり直す立場に立たされそして見事挽回するひと。寛容と狭量は紙一重。いくら紳士的であろうとしても略奪を止められないし、戦局が変わると捕虜も殺す。戦勝国への賞品として差し出されるといっても過言ではないキャサリンは、英語を練習してヘンリー五世との出会いを待っている。そしてヘンリーは、少年のような純真さをもってキャサリンに求婚する。 強さと弱さを兼ね備え、悩み乍らも国王として成長していく多層的な魅力をたたえた松坂さんのヘンリー。このキャスティング本当に待ってた! 役と演者の成長が重なる瞬間が観られるなんて、とても幸福なこと。物語への案内人へと姿を変えた、鋼太郎さんフォルスタッフとヘンリーの別れの場面は胸に迫りました。奥行きのある裸舞台のあちらとこちらで、言葉なく視線を交わす。芳醇な時間でした。溝端淳平演じる小憎らしいフランス皇太子、優しい父の顔も見せるフランス王・横田栄司、市民の悲哀としたたかさを体現するピストル・中河内雅貴、ネクストシアターの面々もいい仕事っぷりでした。 戦場のシーン、遠くから聴こえてくるのは機銃掃射の音、戦闘機の音。現在へと繋げるために、その時代にはない音を蜷川さんはよく持ち込んだ。それがまた鳴っている。不意打ちで涙が出た。今後もこのシリーズは、蜷川さんだったらどう演出しただろうと思い乍ら観るだろう。その名残を留めつつ、役者として舞台に立つ鋼太郎さんだからこその演出を頼もしく感じました。残りあと三作、完走出来ますよう。 -----・『ヘンリー五世』限定メニューのご紹介┃イタリアン・レストラン「ペペロネ」 おなじみぺぺロネ、劇場併設のレストランです。うまそう……。デザートの「ヘンリーへの贈り物」は劇中に出てくるテニスボールを象っているそうですよ、洒落てる。 帰り道、おじいちゃんふたりが「(戦闘シーン)ありゃすごいな」「若手はともかくベテランはたまらんぞ」「気迫が伝わったな」と熱く語り合っていた。さい芸から与野本町駅へと歩く十数分は、こういう声があちこちから聞こえてくるのが楽しい。与野西中学校前のレリーフ通りで写真を撮るひとも沢山。街がとても賑やかで、ハレの空気を感じてうれしくなりました。住んでるひとには静かな方が日常なのだろうが。キャストの影響力は結構あるんじゃないかな。鋼太郎さんもここ一年でファン層を拡げたし。 蜷川さんが亡くなった直後のさい芸は灯が消えたようで、思い込みかもしれないけど劇場のある街も喪に服しているようだった。その空気がしばらく続いていて、この先どうなるのだろうと不安になっていたものだった。地味に通っていると変化が目につくものです。カフェメニューが縮小したり、営業時間が短くなったりね。大ホールでの公演がある土日曜日でも、街にひとがまばらだったことも。劇場はひとが集まってこそ。これからもいろいろな公演を観に足を運びたい。新しい挑戦を続ける劇場、スタッフに感謝するばかりです。
2019年02月05日(火) ■
旅行あれこれ その2
出発前、三年前に見かけた がごはん食べた直後だったので入店を諦めた『ヒマラヤ』 ロケ地のタッカンマリ店に行けないかなという話が持ち上がる。チェックインの際、ホテルのひとに「東大門のタッカンマリ横丁にあったんですが店名が分からなくて」と当時撮った画像を見せると、その場で検索、電話してくれました。「旧正月の休みに入るので、行くなら今日か明日しかありません」といわれる。おっ、開いてた。よかった! では明日の予約をお願い出来ますかと訊くと、えっ? という顔をされて「予約はしなくても大丈夫ですよ」といわれる。プリントアウトした地図と電話番号を渡してくれたが、この地図のどこだかわからん。ていうか多分この地図には載ってない(笑)。結局この辺りだったかなーとフラフラ歩いたら見つかりました。 元祖ウォンハルメ ソムンナン タッカンマリというお店でした。 『エリザベート』マチネ後に行ったのですが、成程行列などはなく、観光客もいなかった。お店の外には日本のテレビで紹介されました的な記事がいろいろ張ってあったが、この日は地元のひとしかいなかったかも。あーでもむしろこういうの楽しいな。 従業員は東南アジア系のひとたちで、壁には「今日は日本語を話せる従業員がいないのでこれを見てください」といったメニューの張り紙が。しかしこれに気付いたのは、入店した途端「ふたりか? じゃあAだね?」と英語でグイグイ案内され、「Aって何だ?」と思う間もなく鍋をドンとおかれボンと点火され鶏をバキバキカットされ、タレをテキパキ調合され「こう作る、OK?」と皿を渡され、鍋が煮える間ぼんやり店内を見まわしていたときだった。あ、二人前が鶏一羽でAってことなのね……。 丸鶏のときに撮影したかったがあれよあれよとカットされてしまったので、鍋の画像が地味です。しかし味はめちゃめちゃおいしかったー! エリンギ、ねぎ、じゃがいも、トッポギもたっぷり。〆のうどんもおかわりしたいくらいだった〜。あちこちにジョンミンさんたちの写真やサインが飾られてましたよ。三年前は『ヒマラヤ』公開直後だったから店外にも関連記事や写真がもっと張ってあったよ。おかげで気付けた。 移動してDOOTA MALLでお買いもの。1964百味堂のオーガニックソフトクリームおいしかったー。クレミア売ってるお店もありましたが、すっかり韓国のソフトアイスクリームの虜になってしまいました。 ----- 三日目。 チェックアウト前にカロスキルをうろっとし、LE ALASKAというパン屋さんでクロワッサンなどを買う。どれも鬼デカい……アメリカンサイズなのですね。外側はパリッパリ、中はもっちもちでおいしかった。日本語で「日本人ですか?」「いつ帰るんですか?」などと訊かれる。他のお店でもそうだったけど、こちらがカタコトの韓国語、英語で話しても、いや何もいわないうちから日本語で応対されることが多かった。中国人とどう区別してるんだろうねと話す。有難いやら申し訳ないやら。 このところ仁川空港内のロボットキンパでキンパを買って帰るのが恒例だったのですが、今回は往復ともに金浦空港。どっかに持ち帰り出来るキンパ屋さんないかなーと調べたら、空港隣接のロッテモール内スーパーにパルダ キム先生というお店があるとのこと。旧正月休みに入っているショップも結構あったけど、ロッテマートは開いてました。よかったー。くるみとクリームチーズのキンパを注文。その場で巻いてくれました、できたて〜。このために持ってきていた保冷袋に詰めて搭乗ですよ。帰宅後おいしくいただきました。 ----- ここぞとばかりにライアンを集めた。かわいい。ピーナツミルクはセブンイレブン、リップバームはCU。ハンドバターとハンドクリームはOLIVE YOUNG(右端のハンドクリームはセブンイレブン)で。ハンドバターは前回渡韓時に見かけて、帰る直前に買えばいいやと見送ったら以降見つけられなかった代物です。二年越しで買えたよ! しかし今回も、OLIVE YOUNG見かけるごとに入店して探したんだけど結局一店舗でしか見つけられず、そこでもラス1だった。人気商品なのか常に在庫薄なのか。 ----- 昨年の『リチャード三世』は、父がどうなるかわからない状態だったのでチケット購入や旅行の計画を控えていた時期で、実際それでよかったという結果になったのだけど、今後こういうことは増えていくのだろうなあ。そこらへんと折りあいつけつつ、無理のない範囲で動けたらいいな。単独行動も身軽だけど友人ときゃいきゃい行く旅も楽しい。ホテルはdormy inn PREMIUM SEOUL Garosugil。立地もよかったしサービスも施設も流石の至れり尽くせり、快適でした! マリス師今回は有難う〜。また行けますように!
2019年02月04日(月) ■
旅行あれこれ その1
今回はマリス師とふたり旅。旧正月直前だったので観光は期待出来ないね、遠征、出張のノリでサクッと行ってこよう! と話していたけれど、偶然にも恵まれ非常に充実した三日間となりました。これ迄の旅のなかでいちばん女子旅っぽ〜いなんていってた(笑)。出発直前迄喘息と気管支炎いったりきたりで戦々恐々だったんだけど、なんとか薬でおさえられてよかったよかった。 元画像はtumblrに置いてるので、まとめて大きな画面で見たい方はこちらをどうぞー。補正等しておらずそのまま載っけちゃってます。・一日目 ・二日目 ・二日目、Pierre et Gilles展@K Museum contemporary Art−その1 −その2 −その3 ・三日目 ・あれこれ ----- 一日目。 カロスキル のホテルにチェックイン。まずは仁寺洞に移転した利銀工房(公式サイトの地図、移転前のままなので最新の場所が載ってるinstaにリンク張っておきます) へ。ショップはすぐ見つかったのだが入口に鍵が……あー休暇に入っちゃったかな? と思う間もなくお店番らしきお嬢さんが帰ってきて、すぐ開けます! と招き入れてくれました。iPadでフォローしているinstaの画面を見せたらすごく喜んでくれた。こういうときモバイルって役に立つな。無事お買いものも出来、また来てね! と両手でバイバイして(かわいい!)お別れ。移転したのを知ったのが年明けてからで、情報も錯綜していたので辿り着けてよかった。繊細なつくりで、私のカメラの腕ではとてもその美しさを伝えきれないので撮影はしておりません……是非お店のinstaを、そして機会があったら実物をご覧ください〜。 その後同じ通りにあった江南麺屋というお店でお昼ごはん。名の通り冷麺が自慢なのだろうが(ユクスがやかんで出てきて飲み放題)寒かったのでマンドゥ(韓国の丸餃子。といっても具沢山でみっちみちのが3つは入ってた)入りスープをいただきました。あったまったうまかった。 歩ける距離だったので鍾路3街駅方面へ。タプコル公園ではあちこちでおじいちゃんたちが碁を打っていて、それを見物するひとたちも沢山いて、上野っぽい感じがまだまだ残っている。そこから1分ちょいの益善洞は、ガラリと雰囲気が変わっていました。三年前行ったときはこんな感じの趣ある韓屋村だったのですが 、リノベされたショップが立ち並ぶ繁華街になってた。行列が出来てるお店だらけで、ひととすれちがうのもひと苦労。望遠洞ティラミスの支店があったので映え〜☆ 女子旅〜☆ と買ってみる。かわいい、そしておいしかったです! 翌日は雨だったので、あの混雑と道の狭さでは傘も差せなかっただろうし食べ歩きも撮影も無理だったろう、土曜日に行っといてよかったねと話す。 芸術の殿堂はかなり規模の大きい総合芸術文化施設。早めに行っといてよかった、目当ての劇場に辿り着く迄随分迷いましたよね……アート施設の方ではジョン・レノン展をやっていたようです。 『オイディプス』観劇後、狎鴎亭ロデオに移動。24時間営業の清潭スンドゥブで夜ごはん。海鮮スンドゥブおいしかった! 石鍋で炊かれたごはんには、銀杏、粟、豆、黒米入り。おこげには薄い麦茶(かな?)を注いでおかゆに。残さずおいしくいただきました〜。そしてこのお店に行く途中、巨大なPierre et Gilles作品を発見して大興奮。なんと展覧会期中! 明日『エリザベート』の前に行こう! と盛り上がる。 ----- 二日目。 Pierre et Gilles展@K Museum contemporary Art キエーこんなに規模の大きい展覧会だったとは! デビュー(1976年)40周年の巡回展だったんですね。知ってるあれやこれ、知らないあれやこれ、堪能した。日本からはSandii(位置的にうまく撮れなかったので肉眼に焼き付けた)と新庄剛志がモデルの作品が出ていました。 観ているうちに「そういえば『親切なクムジャさん』のアートワークって、彼らの作品に影響を受けているのかしら」と今更思った。検索するとぼちぼち言及されてるなあ。公開当時はどう受けとめられていたのかな。
2019年02月03日(日) ■
『엘리자벳(エリザベート)』
『〈뮤지컬〉 엘리자벳(〈ミュージカル〉エリザベート)』@BLUE SQUARE Interpark Hall という訳でエリザデビューです。この日のメインキャストは上記画像のとおりですが……写真下手くそ選手権、名前がちゃんと写ってない。スケジュールを調べたところ、 --- エリザベート:シン・ヨンスク 死(トート):チョン・テグン ルキーニ:カン・ホンソク ヨーゼフ:ソン・ジュンホ ゾフィー:イ・ソユ ルドルフ:ユン・ソ --- とのことでした。 さて予備知識は事前にマリス師から受けたレクチャーのみ。「なんでミルクなの?」「ルキーニって実在する人物なの? なんで服がしましまなの?」といった基本的なことからご教授頂く。子役ちゃんソロナンバーの内容は、終演後に教えてもらってヒイッとなりましたよね(すごいウケてた)。その状態で観た初心者がキエーこの役好き! となったのはやはり(?)ルキーニなのでした。日本版で成河さんが演じた役だというので興味もあった。尋問に答えるという形でストーリー進行役を担う、エリザベートの暗殺者。演じるホンソクさんがまた、めちゃめちゃ っ ょ ぃ ……。クセの強さ、歌の強さ、ふるまいの強さ。やーもうずっと追ってましたわ。客いじりもするんで前方席じゃなくてよかったと安堵もした。応えられなくて流れをとめてしまうよ! この役を成河さんがやったのか…すごくねえか、そもそも初のグランドミュージカルでこの役ってハードル高すぎねえか……と思って観ていたが、マリス師によると演出がウィーンとも日本とも結構違ったらしい。こっちのルキーニめっちゃ唄うだけでなくめっちゃ踊る。成河さんのことだから、日本版の演出に合わせた彼独自のアプローチで役を演じたのだろうな、それがよかったから反響も大きかったし今年またルキーニを演じることになったのだろうなと思いました。いつか日本版も観てみたいものです。いやさ、チケット争奪戦の様子を周囲から毎回聞いているので気軽には観られないと思っていますが。 あとゾフィー役のソユさんがキレッキレ。っ ょ ぃ ……。カーテンコールでは女性客から「キャーーーーー!!!!!」と大歓声が飛び、それを余裕で受けたあと客席を背にステージ奥へツカツカと歩いていく。「?」と思っていると、振り向きざまに指ハート×2をビシィ! と決め、再び「きゃあああああ!!!!!」と歓声を受けていた。ロックスターのようだった…ロックスターの姑……。 ヒイッとなったのはトートダンサーたちの筋力。一見皆さん細身なんですけど、ルドルフの遺体をタメもなくすいっと上腕だけの力で軽々とリフトしましたよ。ええ、すごくね? 片腕に着けている黒い翼もかなり大きく重量あるように見えましたが、やっぱりそれも軽々と振りまわして踊りまくる。すごい、兵役効果なの? 基礎筋力違くね? などと話す。力強さといえばエリザベート役のヨンスクさんもめちゃめちゃパワフル。歌も強烈でルキーニこのひと殺せんのかな、返り討ちに遭いそうなんて思って観ていた。 エリザベートの波乱の人生、革命前夜のウィーン、ひとつの時代の終焉。その何もかもが、自分の力ではどうにもできない速度をもって突き進んでいく。転換にはメリハリがあり、盆が回るスピードも速い(ように見えた。油断すると足を取られてすっ転びそう)。群舞もキレッキレ。固唾を飲んで見守る怒涛の150分でした。幕切れがまたインパクトあってわあっとなったなー。あの部分も演出違うのかな?Wikipedia によると ---演出についてはウィーン発のミュージカルらしく、ウィーン劇場協会の許可する範囲でオペラのようにプロダクション毎に自由となっている。また曲目やシーンの順番などもプロダクション毎に異なり、新曲も度々追加されている。 --- とのこと。虜になったファンが通いつめるのも納得です。面白かった! 帰り道「(『オイディプス』と)どっちにも首吊るひとが出てきたね……」「カラス(っぽい)羽根つける衣裳もね……」などと話す。いやはや楽しかったです! ----- ルキーニ役のホンソクさんって、パク・ソンウンさんと同じ事務所だったのかー。フォローしてるinstaの事務所アカウントから流れてきてびっくりした。動画で全部は伝わらないけど、この「ミルク」のルキーニは圧巻でした! ----- ソウルの「insta映えスポット」として、ピョルマダン図書館 とともに紹介されることの多いBOOK PARK。『エリザベート』を上演しているBLUE SQUAREと同じ建物内にありました。期せずして話題のスポットに行けたわー。カフェや閲覧スペースも充実していて本好きには居心地のよいところでした。劇場入り口に面した出店には『ぼのぼの』韓国版がぬいぐるみとともに平積みされてた。ジョンウさんのエッセイがあるならジョンミンさんの自伝とかないの? 写真集とかセーターブックとかさあ! と探してみたが見つかることはなかった(国民的俳優の解釈とは)。 劇場名からもわかるとおり、BLUE SQUAREの運営は韓国のチケットサイトであるInterpark。劇場、書店の他にVR体験施設やレストラン、カフェも入っています。カフェのメニューに「日本風カレーライス」ってのがあったけど、日本からのお客さんも多いのだろうな。ソフトクリームとジェラートの中間みたいな「ソフトアイスクリーム」てのがおいしかった〜(ソフトクリームは別にあった)。
2019年02月02日(土) ■
『오이디푸스(オイディプス)』
『오이디푸스(オイディプス)』@芸術の殿堂 CJトウォル劇場 韓国観劇二泊三日の旅、まずはファン・ジョンミン主演のこちら。トウォル劇場のキャパは700強、三階席迄あります。役者たちはマイクを装着していました。場内は東京文化会館や昔の芸劇中劇場を思い出す雰囲気。客層はバラエティ豊かで、家族づれも。ジョンミンさんの「国民的スター」っぷりを実感する。今回初めて韓国のストレートプレイを観たのですが、ミュージカル同様ロビーにキャストパネルや撮影スポットがあるのには驚いた。グッズはプログラムとトートバッグだったかな。このトートバッグ、象形文字っぽい王冠と目のイラスト入りでひいん(泣)となる。 さて本編ですが、ネタバレしてますので未見の方はご注意を。制作はジョンミンさんの個人事務所SEM COMPANY、プロデューサーはジョンミンさんのパートナーでもあるキム・ミヘ、上演台本はハン・アリム、演出はソ・ジェヒョン。 後述のニュース記事に「ソポクレス原作の作品で、ソ・ジェヒョン演出と新しい創作陣で構成し、さまざまな変化を試みる予定」とあったが、成程こんな『オイディプス王』は初めてだ、と驚かされたことがいくつか。コロスの群唱は極力減らされ、通常は「歌」で描写される場面を役者たちが実際に演じてみせる。よって使者により伝えられる、イオカステの死の場面も視覚化されている。オイディプスとふたりの娘(アンティゴネー、イスメーネー)との別れの場面がない。娘たちはコロスの姿を借りてイオカステとの別れに登場し、母の死には嘆き悲しむ。コロス長はコロス──民衆ではなくオイディプスの背後に寄り添い、彼を操るように彼と同じ台詞を語る。まるでコロス長こそが、オイディプスの変えられない運命のように。 特に衝撃を受けたのは、イオカステの亡骸を抱きしめたオイディプスが「オモニ、オンマ、オンマ」続いて「アボジ」と泣きくれたことだ。聴き間違えてはいないと思うが、オイディプスは「オモニ」のあとに「オンマ」といった。どちらも「お母さん」の意味だが、「オンマ」はどちらかというとこどもの使う言葉で「ママ」や「おかあちゃん」といったニュアンスだ。オイディプスは初めて誰かのこどもになったのだ、初めて親のもとへと戻ったのだ。娘たちとの別れもなくテーバイを離れる彼は、初めてこどもの時代を取り返した。こんな親から生まれた娘たちは結婚も出来ず、子を宿すこともないだろうとオイディプスが嘆く場面がないことも、父との別れに悲しむ娘たちの姿がないことも象徴的。ハン・アリムの翻案は血縁が絶えることを恐れず、娘たちの未来には父親が嘆く以外の道があるという可能性を残した現代的なものに感じました。この作品においてはかなり新鮮。2500年前に書かれた物語が現代に上演されることの意味を考えました。 演者たちは抑制されたダンスのように動く。コロスの隊列は集団行動のように美しく移動したかと思えば、災厄に苦しみのたうつテーバイの市民に、禍々しい声色を発し三叉路の殺人を見守るカラスになる。重心を低く、這うように歩く予言者テイレシアスはさながら暗黒舞踏家。終始舞台のトーンは暗く、回る盆はどうあがいても悲劇に向かうしかない主人公の行く末を表しているかのよう。舞台が最も明るくなるのは、皮肉にも光を失ったオイディプスがテーバイを去るとき。真っ白な装束に着替えたオイディプスは舞台を降り、民衆──客席へ紛れて退場する。運命にとことん抗い、向き合ったあとの穏やかで、美しい表情。 ヴィジュアルに訴える演出は、韓国語の台詞についていけない者にとってとても助けになった。その一方で、目を潰す場面に血糊を使わない等、演者の力と観客の想像力を信じる清潔感がありました。目に見えないものを見せるという演劇を、見えないものを見る想像力を持つ観客を信じる演出家に好感を持ちました。演者も皆素晴らしかった。いいカンパニーだった……(ほれぼれ)。 集中力の高い、とても静かな客席でした。あたりまえといえばそうですが、実際はなかなかないものです。それだけ惹きつけられる作品だったということもあるでしょう。カーテンコールになると、熱いスタンディングオベーション。ああ、観ることが出来てよかった! --- さて真面目な感想は書き終えた。ジョンミンさんのオイディプス、素敵すぎてこっちの目が潰れる思いでしたよね。ランニングマンが観られたのにはキエーとなりましたよね……ジョンミンさんの! ダンス! ツーブロックにエクステの髪型も格好よかった。テーバイを離れるオイディプスは、3列分あるOP席と通常席間の通路から退場していくのですが、舞台を降りてきたときの客席の空気といったら。お、おりてきた! 近く通る! という緊張感がすごかった(笑)。通常席の4列目だったので結構近くで見られた…う、美しかった……目が! 綺麗! ピュアな瞳が亜弓さんのよう! 盲目の演技ってどうしても亜弓さんとマヤの『奇跡の人』思い出すよね〜世代〜などと終演後話す。それにしても華奢だった。脚も細くて長くて、綺麗なひとでしたよよよよよ。太らない体質ぽいよね、恰幅のいいひとの役がきたら身体つくるの大変だろうね、などと話してポワーとなる。 ところで出待ちした方のツイートを見たんだけど、ジョンミンさん松葉杖をついていたとのこと。心配だな……舞台観てるときあれっ? とは思った。若干足をひきずっていた。しかしオイディプスの足に傷があるのはストーリー上のポイントなので、意図的な表現だと思いなおした。ランニングマンや殺陣のシーンではスムーズに動いていたとは思うけど、どうなんだろう……負担が大きい動きだろうしなあ。といえば昨年の『リチャード三世』も負担の大きい姿勢を続けていて大変だったようだ。事故や怪我などなく、カンパニーが無事千秋楽を迎えられますように。 ----- ・연극 ‘오이디푸스' 연습실 공개 - 3장~6장 하이라이트VIDEO 約20分の(太っ腹!)リハーサルハイライト映像。有難い〜!・演劇「オイディプス」ファン・ジョンミンらの強烈なキャラクターポスター公開┃Kstyle 宣美も素晴らしかった〜・名著44 ソポクレス『オイディプス王』┃100分de名著 いいテキストがあったわ〜、てかこれオンエア観てたわ。バックナンバー取り寄せられたので復習。神話から戯曲が生まれ、上演されるようになる時代背景もわかって読み応えある ----- (追記;20190209)・90분간 휘몰아친 눈물과 절규, 황정민 파격 변신 '오이디푸스'┃NAVER 뉴스 (翻訳:・90分間吹き荒んだ涙と叫び、ファン・ジョンミン破格変身『オイディプス』 )・[연극 리뷰] 21세기 관객도 울린, 이 사내의 핏빛 절규┃NAVER 뉴스 (翻訳:・演劇レビュー:21世紀観客も泣かした、この男の血の色叫び ) レヴューも熱いわ……・[연극 '오이디푸스'] 배역마다 한 명이 투혼…'원캐스트'의 막강한 힘┃NAVER 뉴스 (翻訳:・演劇『オイディプス』配役ごとに一人が闘魂…「ワンキャスト」の莫強した力 ) 韓国ではストレートプレイでもダブル、トリプルキャストは珍しくないそうです。というか、日本の方が珍しいのかな? キャストに大きな負担がかからず、アクシデントがあった場合のリカバリにもなります。しかし今回のカンパニーは全役がワンキャストのようです・スイングとは?┃RR Voice Studio Official Blog メイン、アンサンブル、アンダースタディ、スタンバイ/オルタネート、スイングキャストの違いについてわかりやすく解説しているブログがありましたのでリンク張らせて頂きました。有難うございます。今回のカンパニー、スイングも不在なのかな? と話題ですが果たしてどうだろう・[연극 '오이디푸스'] 배역마다 한 명이 투혼…'원캐스트'의 막강한 힘┃NAVER 뉴스 (翻訳:・俳優ファン・ジョンミン「1年に一回ずつは演劇出演駄目押し 今年もオイディプス王で舞台に」 )・ファン・ジョンミン、これまで演劇に出演しなかった理由を語る「有名じゃなかったから」┃kstyle 日本語記事、ちょっとはしょりすぎ(笑)。映画俳優として確固たる地位を得ているのに何故今演劇を? という質問に、「観客がいなくて幕をあげられないときもあったけど、今はこうして来てくれる観客がいる。ずっと演劇に帰ることを考えていた」と答えています。「舞台にいる90分は自由に感じる」。舞台に魅入られたひとなのだなあ(そしてまた惚れなおす)。『リチャード三世』は観られなくて本当に残念だったけど、今後も舞台はコンスタントに続けてくれそう ----- (追記;20190218)VIDEO 2/10付で舞台映像がアップされてました