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2017年04月30日(日) ■
『2017・待つ』
GEKISHA NINAGAWA STUDIO『2017・待つ』@彩の国さいたま芸術劇場 NINAGAWA STUDIO(大稽古場) 初期メンバーが中心となり、再びの『待つ』。ベニサン・ピットで観続けた、思い入れのあるシリーズ。懐古と発見と、可能性と。蜷川さんの遺したものは、これからどうなっていくのだろう。 『待つ』シリーズにゴールド・シアターとネクスト・シアターの面々が出ていることの喜び。総出のフェルナンド・アバラール『戦場のピクニック』、その説得力。実際にその時代を知っているひとびとから発せられる「あったあった」「このくらい」「あたりまえ」というような言葉があまりにも軽妙で、戦争が日常にあるくらしについて考えを巡らせずにはいられない。その「あたりまえ」をつきつけられるのはネクストのメンバー。若い世代の彼らは、それ以外の道を探そうとする。その誠実な思いに老人たちも歩みよっていく。戦場で食べるランチ、戦場で聴く音楽。そしてダンス。ひとときの安らぎ。夢のような時間は、やがて暗闇にかえっていく。この光景は、ニナスタ、ゴールド、ネクストの役者が揃ってこそのもの。 このパートのみ演出に井上尊晶のクレジットがあった。独特のサポートが必要で、独特のメソッドがあるゴールドという劇団。次回彼らを演出する岩松了にそのノウハウが伝えられていくのだろう。 そうそう、清家栄一はひとりでやるのが常だった。思い入れがあるのだろうシェイクスピア作品の数々。そうとは知らず観ていても、ちょっとした言葉のつかいかたで「あ、これきっとそうだわ」と気づく清水邦夫作品『花飾りも帯もない氷山よ』を立体化したのは飯田邦博×塚本幸男。ウィリアム・サローヤン『パパ・ユーアクレイジー』、幸田文『終焉』、小澤僥謳『火宅の人』を引用した構成が見事だった妹尾正文×堀文明。 大石継太×岡田正のパートは、オムニバス形式の今作で唯一拍手が起こったパート。前田司郎『逆に14歳』をふたりで演じる。最初そうだとわからなかった(声でやっと気づいた)大石さんの変わり身に驚く。ちょっとしたメイクと、マウスピースでこんなにもかわるのか。改めてこのひとの柔軟な、透明な資質に驚かされる。悲劇も、喜劇も、どんな物語もひきうけることができる。いつからか女方の役まわりが増えた岡田さんも、ジェンダーと世代を超える人間の姿を見せてくれる。葬儀に出る機会が増え、身体は衰え、心や弱る。それでもふたりは14歳の瑞々しさに溢れて、いつでもそこへかえることが出来る。泣き笑いで拍手を贈る。 この盛り上がりのあとどうするか…と思っていたところ、田丸雅智『キャベツ』という不条理SFのような短編がきた。初めて知る作家だが、ふと思い出したのは宇野イサム。かつてニナスタに在籍していた「すこしふしぎ=SF」な短編を多数発表していた作家だ。新川將人×野辺富三はその「すこしふしぎ」をひとなつこく演じる。これ面白かったな、野辺さんの新しい魅力を発見した感じ、ゆるキャラ(失礼)のようなかわいらしさ。向かいに裏方で入っていたネクストの續木さんが座っていたんだけど、思わず吹き出しちゃったって感じで笑っていたのも微笑ましかった。 そして、ニナスタの面々によるレジナルド・ローズ『十二人の怒れる男』。観られてうれしかった。何度も繰り返される「話しあいましょう」という台詞。自身がこの世界に存在することを知らせたい、認めてもらいたいといわんばかりに熱弁をふるう登場人物たち。この集団がはじまった頃、こういう熱気に満ちていたのだろうなと追体験させてもらった気分で胸が熱くなる。そうそう、初めて役者の井上尊晶さんを観たことにもなんだか感動したな。「GEKISHA NINAGAWA STUDIO翻案」とクレジットがあり、今の世相や問題に置き換えたであろうやりとりもある。それでもこの作品がいつ観ても“現在”だ。作品のもつ普遍性は素晴らしくもあり、悲しくもある。世界が、人間が変わっていないということだからだ。ちょっとした言葉から浮き彫りになる差別意識、個人的怨嗟。常に“現在”を見据えていた蜷川さんに観てもらいたかった。戸川純、シガーロス。聴きなれた曲ときおり我にかえる。そうだ、蜷川さんはもういないのだ。でも、と思う。だから、とも思う。 このパートにネクストのメンバーが加わっていたこと、ニナスタの面々に一歩も引かない演技をみせていたことも頼もしかった。『戦場の〜』同様、世代のぶつかりあい、そして「話しあい」。彼らがこれからどんな演劇を見せてくれるのか楽しみにしている。そのときを「待つ」。 ----- ・終演後大石継太さんは人魚の肉喰った族だという話をしました(笑)綺麗な顔立ちよねー、そして最初観たときから殆ど印象がかわらない ・宣美に鳥井和昌、当日パンフレットに「協力」として今回出演していないあのひとこのひとの名前があったこともうれしかった・[NINAGAWA STUDIO WEB SITE]-ニナガワ・スタジオ- ・9人の俳優たちのプロフィール ・さいたまゴールド・シアターも参戦、エチュード発表 ・9人の俳優たちの座談会『9人、〈待つ〉を語る。』 「ふだん言い出しっぺになるようなイメージではなかった人(大石)が、すごく強力に「やろうよ」って言うのは珍しいなあと思った」。というわけで、言い出しっぺは大石さんだったとのこと。うん、わかる……お通夜の話、鈴木裕美さんもツイートしていましたね。『待つ』の大石さんを観るの、大好きだった・蜷川幸雄の遺産。『2017・待つ』の言葉と身体|長谷部浩の劇評
2017年04月29日(土) ■
『裸の王様』
KAJALLA#2『裸の王様』@日経ホール カーテンコールで小林さんも仰ってましたが「土曜日の大手町、こんなにひとがいないとは」。オフィス街なので土日は閑散としており、スタバやタリーズすら開いてなかった……。そしてビル街なので当然各建物が大きい。ちょっと隣の様子を見にいってみるか…と思うも、これが結構な距離になるんですな。施設内に至ってはコンビニすら開いていなかった。来週行く豊洲の某劇場の予行練習をした気分でしたわ〜、土曜日でこれなら日曜日はもっとさびしかろう。 それはともかく、主催が日経新聞とTBSラジオだったのでこのホールだったのかな? 前半(三月)は銀河劇場でしたが、日程の都合と、行ったことのないホールに興味があったのでこちらを選んでみました。カンファレンスホールといった趣で、席には抽斗式のテーブルがついている(使わないでくださいとアナウンスあり)。椅子は背もたれが結構高いもので、なかなか視界を妨げます。演劇公演に特化した場所ではないと、こういうこともあるのだなあと興味深くもありました。 コントも日経を意識したのかなと思うものがあり(深読みしすぎかもしれないが)、それがまた小林さんらしく世界を見つめる優しさに満ちていてじんわりきた。そうあればいいのにね。声は決して大きくない、それでも届いてほしい。そしてひとを信じたい。そこに笑いがあればいい。コントマンシップにのっとって集まった今回のメンバーは、#1 からふたり入れ替わり。いきもの的なポジションを片桐さん→久ヶ沢さん、理路整然と罵詈雑言ポジションを安井さん→菅原さんという感じでしょうか。全体の印象はストイック、清潔感に満ちたものですが、そこへ久ヶ沢さんの野性味と菅原さんのぬめり味(なにそれ)が加味され、竹井さんと辻本さんの受けの巧さが光りました。
2017年04月28日(金) ■
DÉ DÉ MOUSE『dream you up tour 2017』
DÉ DÉ MOUSE『dream you up tour 2017』@UNIT す、すごかったよブチあがったわ……フジすごいことになるんじゃないでしょか。新譜『dream you up』は一見さんも常連さんもガッツリ摑むと思われるひとなつっこさでしたが、そのライヴばえすることといったら! 動画撮影OK、どんどんシェアしてってことだったんで探せばガンガンあがってると思いますが、終始アッパー、ハイテンション、多幸感がずっと続くというかなりやばい仕上がりでした。やべー。やべー。DÉ DÉ MOUSEイコール遠藤大介のソロプロジェクトなので、プラネタリウムソロセットやDJセット等、フットワークの軽さも魅力。間口が広く、リスナーもリーチしやすい。しかし今回のバンドセットはすげー。すげー。 思えばデデくんのライヴを初めて観たのがPTAの対バン で、それがバンドセットですごかったんですよね。ツインドラムで。あのときはまだ山本さんがDrsではなかった筈、誰だったんだろう。あれがなかったら出会わないままだったかもしれない、有難う菊地さんそしてブッキングしてくれたひと〜。誰だ。PTAはP-VINEじゃないからマタバくんではない筈だ。 今回から表記をDE DE MOUSEからDÉ DÉ MOUSEに変更(理由は後述リンクにて)、このバンドセットも初めてということで、デビューです! といい張ってました。「DE DE MOUSEさんって僕大好きでえ〜尊敬もしてるんですけどお〜」とかいってた(笑)。ツアー自体もこの日が初日、本当に初お披露目。編成はこんな。 ----- Key、Track operate:DÉ DÉ MOUSE G;観音(Sawagi) B:雲丹亀卓人(Sawagi) Drs:山本晃紀(LITE) ----- 山本さんがひとりで登場、ドラムソロからスタート。続けて雲丹亀さん、観音さんが出てきてベース、ギター、とフレーズが重ねられていく。フロアの熱が徐々にあがっていく。そして最後にデデくん登場、フロアがはじける。うわーバンドだよ! このオープニング最高でした。しかもその後最高がどんどん更新されていくという。新譜からの曲は全部やったかな。曲順もほぼ一緒で、このアルバムがアルバムとして聴ける、ライヴの構成にも活かされている、と実感。反面各トラックのキャラ立ちも半端なく、「インターネットが存在する80年代、架空SFアニメの若いパイロット達の間で話題のヒットミュージック」という『dream you up』のコンセプトに膝を打つ。そう、ヒットチャートなのでどっから聴いてもポップなのだ。パイロットとは所謂旅客機のそれではなく戦闘機のもので、これを聴いてテンションあげて出撃する彼らを想像するとちょっと怖い気もしましたけどね。ドープな味わいもありますが、天然由来なドープだと思われるのでデデくん天才……と頭を垂れる。 音色的には確かに80'sを彷彿させるものがありますが、それでもレトロフューチャーとは一線を画すデデくんの資質がだだ漏れなのが頼もしい。MCのテンパり芸も含め(芸いうな)あのアッパーっぷりでフロアをぐいぐい引き上げていく手腕には参りましたといいたくなる。ホントMC面白いね…「ラモーンズぽく名前の前にマウスがつきます! 遠藤マウスです! あれこれじゃ両方苗字になっちゃう、マウス大介です!」やら「山本くんとはふたりでもやっててね(DE DE MOUSE + his drumner)、BL風味を出してるんだよね! 薄い本とか出てたら教えてほしいんだけどね!」やらヒヤヒヤすることもべらべら喋りますね……。そのなかに結構だいじな話もまぎれてた、今年のTAMAフェス のキュレーターを任されたとのこと。面白いことになりそうです。 デデくんの人格そのもののような(?)アッパーなトラックを人力で演奏する三人にも恐れ入る。キックもトラックとDrs両方から鳴らしてるから山本さんはクリック聴いてると思うんだけど、下半身(BPM)は惑わず、上半身(手数)は華やか。雲丹亀さんはスライド(グリッサンド)をフレーズの端々に仕込んでくるし、観音さんはkeyと聴き間違えそうな音色を駆使しつつカッティングに厚みを持たせる。安直な言葉だけど他に思いつかない、非常に有機的な演奏になっていました。たまらん。踊る、踊りてえ。踊らせてくれ。 というのも、フロア激混みでしてん。バッキバキのダンストラック聴かされて踊る空間がないのはなかなかの拷問であった…手もひとの隙間から引きずりだして挙げると今度は下げられなくなるというくらいでした……。 Anamanaguchiとのコラボ「Pump it Up」はアンコール、デデくんひとりでやりました。四つ打ちじゃなくなるところのキックの音が気持ちよかった。そしてオーラス、旧作から、とバンドセットで「dancing horse on my notes」。ううむこちらも素晴らしい。この編成で聴きたい曲、新譜以外にも沢山あるな。今後も楽しみ。フジを見据えてと思われる照明、演出といったスタッフワークも素晴らしかったです。 FAはPrimula 。お、面白かった…曲調もだけどVJが……自身がいろいろコスプレしてロケしてきた映像を流してるんですが、そこはかとなくやばい。セーラー(否JK)、手旗信号、海辺、短パン、学祭、せつない。こ、これは好きなやつ。 それにしてもDÉ DÉ MOUSEといいShobaleader One といい、デデくんやトムがベッドルームでコツコツバキバキつくってた「俺の考える最高のバンド」を実在化したものが聴けて、ビバ人力と感銘を受けた四月でありました。支離滅裂なまま終わる。 -----・DÉ DÉ MOUSE『dream you up』公式サイト ・CLOSE UP INTERVIEW : DÉ DÉ MOUSE|OTOTOY 出す前から手応えあったんですね。納得。そして表記変更について。「DE DE MOUSE」だと海外で「ディディマウス」とか「ドウドウマウス」と呼ばれちゃうんですって。今回のツアーにはパリのフェスも入っているので、そのときはちゃんとデデマウスと呼ばれることでしょう
2017年04月22日(土) ■
Suchmos『TOUR THE KIDS』
Suchmos『TOUR THE KIDS』@恵比寿ザ・ガーデンホール サチモス! ピース! ヴァイブス! キッズ! ドライヴ! い〜や〜よかった〜、この波乗った! ってときの若者の勢いが眩しくて未来は明るい〜とか思いましたよ。青春。眩しい。ミラーボールから降ってくる多幸感。 アディダス着てった方がいいですかね…と形から入ろうともしましたが結局いつもといっしょ、そしていつもといっしょってことでリキッドに行こうとしてました。習慣こわい。ガーデンホール久々だなあ、いつ以来だと思ったらヨンシー(シガーロス)以来 だった。六年半ぶり、ヒー。ヨンスとヨンシー、ヒー。そんなこんなで一見さんと思しき方も多く、彼らといっしょに歩んでます、歩み続けます! てな感じのキッズも多く、親子らしきひとも多く、とても幅広い客層。開演迄のフロアのワクワクした空気がとても気持ちよくて、ずっと笑ってたなあ。 さて本編ですが、いやはやホントに歌も演奏も巧いわ…ハッタリじゃなく。すごいなこの若さでこの老練っぷり。こういうところもなんというか、若くてビッグマウスでイキッてるイメージだけど、観客に対するMCはとても謙虚で実直だった。いろんな音楽を聴いて吸収して、地道に練習しているのだろうなというのが伝わってくるのも好感度大。音楽と、自分たちの音楽を支持してくれる相手にだけは嘘はつかんという感じ。そしてフロントマンのヨンス、華があるわー。どんな仕草もサマになる。「あと三曲でトドメを刺す!」とかいっても全然いやみにならないよ。むしろそのとおりでしたよ。やられた。 茶目っ気もありつつ、フロアとのやりとりを楽しんでる感じ。東京の観客はシャイなひとが多いのか、ツアー最終地のおちつきっぷりにちょっと困惑していたようでもありました。「SEAWEED」スキャットのシンガロングには指導が入りました(笑)。「タイキング、ヘ〜イ」はタイキングに100点もらう迄がんばりました。しかし「STAY TUNE」はあのヴォーカルを聴きたかった、サビんとこ殆ど唄わずフロアにマイク向けられましてん。実際今シンガロングつったらこれだろってとこではありますが。 それにしても地方はどんだけ盛り上がったんだろう。メンバーも「東京、こんな?」とオロッとなってた感じがしなくもなく…地元に近いのに? みたいな。「地元の歌」といって演奏した「MINT」は沁みました、茅ヶ崎の人間じゃないけど。J.A.Mの「MINT」といい何故このタイトルには名曲が多いのか! 多いって、二曲だけしか知らんが。オーラスの「地元の歌」もよかったなあ。ほろり。地元と仲間をだいじに。今は失うもののことなど考えなくていいんだよ! まぶしい! 今はみるみる目標が達成出来てってるのでしょうが、夢はもっと先にあるからまだまだ、といった地に足のついたふるまいも尊敬出来る。ガーデンホールにはおさまらんといった風情の、あの規模ではあまり使わなかろうなレーザーとかバキバキ使ってたのも勢いあっていい。横浜スタジアムからの〜、「十二球団全部やりたい」んだそうです。十二球団のスタジアム制覇って意味ね。それ、観たいな! しかも新曲がすごくよかったんですよ。未来は明るい。 -----・Suchmos 2017/4/22 恵比寿ザ・ガーデンホール (東京) セットリスト | みんなのセトリ ツアー終了前なのでリンクのみで・なぜSuchmosはブレイクできた?マネージャー・金子悟が語る - インタビュー : CINRA.NET 「ルーティーンを嫌い、カウンターであろうとする」「彼らはアンテナをちゃんと張ってるし、人を見る目があって、誰に対してもいい子ではない」。キャパの増やし方、チケットの売り方も考え抜いてる。 あとBEAMSのブギーバックの企画、「(ボアの)EYEさん出るんだ」ってとこにちょっと笑った。読み応えあります
2017年04月16日(日) ■
『鴉よ、おれたちは弾丸をこめる』
蜷川幸雄一周忌追悼公演 さいたまゴールド・シアター×さいたまネクスト・シアター『鴉よ、おれたちは弾丸をこめる』@彩の国さいたま芸術劇場 大ホール もうすぐ一年なんだなあ。しかしこの作品、かつて蜷川さんの演出で観たどの上演よりも気づきが多いものになった。初めて合点がいったところもあり、初めてストーリーを理解したような気にすらなった。これを皮肉と思うことも出来るが(蜷川さんが存命中に気づけなかった自分に対して)、船長を失ったクルーが、既に新たな航海に出発し、新しい大陸を次々と発見しているようにすら感じた。 まず思ったのは、アドリブが増えたような気がしたこと。それだけ演者たちが台詞を自分のものにしているということでもあるが、滑舌があまりよくない某役者さんに「わからん!」「ちゃんと喋れ!」というヤジがとぶとぶ、ウケるウケる。婆たち容赦ない(笑)。その婆たちが裁判所を占拠するくだりも、あまりにも自然で狐につままれた気分。生活者が公共の施設に入り込む、ということがあたりまえのように受け入れられたのだ。たとえば図書館に一日中いるひとや、病院の待合室で世間話をしているひとたちとかわらないように見える。作者である清水邦夫はここ迄見越して書いていたのだろうか……とすら思う。一月に観たとき には自力で立つこともままならないように見えた重本さんが、裁判長の座にしっかりとした足取りで歩いていく。ソプラノの声は、凛と響きわたる。大ホールでこの作品が上演されたことは初めてだと思うが、劇場のサイズに合った演技だ。鈴木裕美さんの言葉をかりれば「大きなリボン」がかかっている。力まず、構えず、しかし勘所には芯を通す。これが人生経験を積んだもののおおきさか、と思う。嘆く婆たち、成し得なかった革命、託せなかった未来。その無念が、願いが結実し、老人たちは若者の姿へと変態する。だがそれも一瞬、すぐに倒れていく。沈黙が訪れる。失ったものへの悔やみ、そして亡くしたものへの悼み。このシーンをこれほど切実に感じたことはこれ迄なかった。 席は最前列だった。何度観てもわからなかった、この入れ替わりのマジック。今度こそ見破ってやろうなんて思っていた。しかし、やっぱりわからなかった。もうわからなくていいと思った。老人たちはあのとき、確かに若者へと姿をかえたのだ。それ以上何を詮索すればいいのだろう? 出演者たちがカーテンコールに応える。老人と若者が手を繋ぎ、深く礼をする。ふりかえる。いつの間にか、蜷川さんの遺影がステージにあらわれていた。笑顔で拍手をおくるひと、涙を流すひと。重本さんは上演中の姿が嘘のように、若者に身体を支えられて立っている。ひとまわりちいさくなったように見えた。ゆっくりと帰っていく。拍手はつづき、全員が舞台袖に入りきらないうちに再びの登場となるのはこの集団の恒例になっている。笑いがおこるのもいつものこと。こんなに未来が感じられる舞台を、ゴールドの公演で観られたことがうれしい。岩松了による新作の公演も決まっている。楽しみにしている。 ----- ・ネクストの次回作も待っている。今回の配役表で今のメンバーがわかる。退団されたひとも少なからずいる。退団者のこれからも観ていきたい
2017年04月15日(土) ■
『エレクトラ』
『エレクトラ』@世田谷パブリックシアター プロデュースと上演台本は笹部博司、演出は鵜山仁。笹部さんのホンには、古典を現代に上演する意義を見出す膂力の強さを感じることが多い。今回は母と娘の濃密なホームドラマとしても観ることが出来た。登場人物たちはよくしゃべる。しゃべりすぎる。そして納得いかないことが多い(笑)。そのあまりの理不尽さには「家族だからいいじゃん」という不文律があたりまえのこととして含まれているので、笑い乍らも2500年前からこれなんか……と正直おそろしい。そして古代ギリシャの神さまたちもよくしゃべる。しゃべりすぎる。少数の出演者が人間も神も演じることから、その人間くささ(そう、神々も人間くさいのだ)がより濃密になる。 ギリシャ悲劇を必要以上にこねくりまわさず、高尚なものとしてひたすら崇めたてもしない作劇。「殺してやりたい」「もっと苦しめ」「はやく殺して」といった台詞はストレートで平易、それだけ正直ということでもある。嘘がない、という意味では母親がこともだちをどれだけ愛していたかという言葉も同じなのだ。嘘はない。ときとともに変化するだけ。以前はそうだった、でも今は違う。人類は変わらず、ひとは変わるということか? 正直な感情のぶつけあいが、一幕ではあまりにもわかりやすすぎて些かぼんやり観てしまった。ところが二幕、あれだけ激しかった憎しみがジワジワとけてくる。その流れが心地よいほどだった。誤解がとけ、秘密があかされ、ときは戻らない。死んだひとは戻らない。神さまはひとが死んでもどうということはないので「まーあのときはああいうふうにけしかけちゃったけど仕方なかったんだヨー」とかいう。人間は達観するしかないですねという気分にさせられ、清々しい気分で劇場を出ることになりました。ぬぬぬ、してやられたという気持ちもある(笑)。 ギリシャ悲劇とかまえていたであろう観客(自分含)が、あまりに愚行を繰り返す人間と神に笑ってしまう。演者もそこを意識して大仰にふるまう。こういう演技をやらせると、アガメムノンの麿赤兒、クリュタイメストラの白石加代子は最強コンビ。こわいのにオモロい。白石さんが麿さんを「しつこい!」としかりつけるシーンは湧いたなあ。そしてこれほど若いエレクトラを観たのは初めてだったのだが、思えば彼女の年齢について考えたことが今迄なかった。高畑充希のエレクトラは瑞々しく、未来への希望を感じさせる人物像。唄う場面もありました。村上虹郎を舞台で観るのは二度目、堂々たるオレステス。この姉弟は観ていてヒヤヒヤさせられるが、それは役柄上のこと。なんとか彼らが幸せになってくれないかと、つい心がよってしまうこどもたち。そう、こどもたち、という意味でも、高畑さんと村上さんのキャスティングはよかった。ふたりがいつの日かクリュタイメストラとアガメムノンを演じるのを観たいなあと思った。 高畑さんと村上さんの前に、今回イピゲネイアを演じた中嶋朋子がクリュタイメストラを、アイギストスを演じた横田栄司がアガメムノンを演じる日がくるかもしれない。そういった意味では、役柄を継承して一生演じられる作品でもあるなあ。 スタッフワークが素晴らしく、演出、美術(乘峯雅寛)、照明(古宮俊昭)、音響(清水麻理子)と贅沢の極み。特に音響がすばらしく、劇場のいたるところから音が沸きあがるようだった。生演奏と効果音の移行にも違和感が全くなかった。あれはどうやっていたんだろう。その生演奏と音楽(作曲)は芳垣安洋、高良久美子。ドラマー/パーカッショニストとして近年劇伴も多くやっているコンビですが、今回は出色だったと思う。ステージ上で演奏しているのだけど、手もと迄はちゃんと見えず「どうやって音を出しているんだろう?」と思っていたプリペアドピアノの種明かしがツイートされていました。 演劇以外の現場でも聴く機会が多いふたりなので、プレイヤーとしても勝手に親しみを感じています。今回も聴けてよかったな。
2017年04月14日(金) ■
『堕ちる』
『堕ちる』@シネマート新宿 スクリーン1 猫のホテルの中村まことが主演、ということで観てきました。短編ということもあり、これ迄映画祭やイヴェントでの上映が主だったので、なかなか観る機会が得られなかった。しかし口コミの効果か制作の尽力か、映画館での公開が決まりました。最終日に行ってきたのですが、スクリーン1(大きい方)での上映でした。レイトにもかかわらずなかなかの客入り。すごい! 監督は村山和也。 よかったですねえ。 群馬県桐生市が舞台。美しい街の風景や、粋をこらした伝統工芸品の紹介作品としても楽しめます。主人公がみるみる“堕ち”ていくスピードとは裏腹に、時間の流れがゆったりと感じられる。濃厚な32分。何かにハマったことのあるひと、誰かを応援したいという気持ちを持ったことがあるひとにはグッサリ刺さると思います。そして「これでよかったのか?」「これでいいのか?」と考えさせられることも多かった。どこに線を引くか、どこからアウトか、ということを考えてしまう。 主人公はローカルアイドルの虜になり、ライヴに通いつめ、応援するべくあることを思いつく。それは職人としての自分の腕を活かしたもので、おろそかだった仕事に熱心になる。 ここ迄で、もういくつも「うわーいいのかいいのか」という思いが次から次へと浮かんでくる。どこ迄意図的なんだろう。そもそものきっかけは通っている理容店の娘の脚だった。短いスカートからすらりとのびた健康的な脚。つい見てしまう。コンサート会場へ出かけると、ジャンプしたアイドルのパンツが見える。仕事には熱心になったが、それは会社の備品と就業中の時間をまるまる使ったもので(これは後にある意味還元されるのだが)、ルーティンだった暮らしに変化は出たが、ひとつのことに夢中になるあまり生活自体は荒れてしまう。 なにかを好きになるときの高揚感と、なにかを好きになるとひとが生きていくうえでのバランスを失ってしまう怖さ。ただの献身に利益が生まれたときの罪悪感も描かれる。後述の記事にもあるが、監督はこの作品の結末を主人公の「『上がり』だと思って作った」そうだが、アイドルファンである観客から「あれは『堕ちた』」んだと指摘されたとのこと。好きになるってなんだろう? 応援するってなんだろう? どこ迄「純粋」なのか、どこからがおせっかいなのか、どこからストーカーになるのか、そしてどこからがアイドルを性的対象として見ていることになるのか? 観終わって、時間が経てば経つほど疑問がわいてくる。この作品について思い続ける。 そういう意味でも「映画」を観た! と思わせられる作品でした。映画館で観られてよかった。 まことさん格好よかった…そしてあの美声があのひとことだけに使われる贅沢さよ。沈黙の表情、輝く目と濁る目、ものいわぬ雄弁っぷり。ラストシーンはご愛嬌と捉えました。あの板についてない服な。格好よかったけどな(笑)。アイドルめめたんを演じた錦織めぐみは、Luce Twinkle Wink☆というグループのひとだそうです。容姿もかわいいが声がとてもかわいかった。彼女もどんどん表舞台に出ていくのかな。そのとき彼女のファンたちはどんな思いを抱えるのだろう。 -----・映画「堕ちる」公式サイト ・「堕ちる」結末にアイドルファンだけが恐怖する - エキレビ! ・無口な織物職人が地下アイドルにハマっていく問題作・映画『堕ちる』が衝撃的|IRORIO
2017年04月12日(水) ■
SHOBALEADER ONE@TSUTAYA O-EAST
SHOBALEADER ONE@TSUTAYA O-EAST ふたたびのEAST、Squarepusherの楽曲を人力で演奏する(!)Shobaleader Oneの初来日公演でございます。それだけでもギャーとなろうもんですが、いろいろコンセプトがありまして。バンドの編成とプロフィールはこんな。 ----- B:Squarepusher G:Arg Nution Key:Strobe Nazard Dr:Company Laser・Squarepusherが始動させた、Shobaleader Oneとは一体? : CINRA.NET ----- もうこの時点でニヤニヤしてしますよね……。スクエアプッシャーことトム・ジェンキンソン以外は地球外生命体なんで姿を晒せないらしく、とかいったら地球人のトムがなんで三人につきあって同じ格好してるのかとかツッコミたくもなりますが、まあそれはおいといて、とにかくおそろいの装束があるんですよ。Daft PunkかSunn O)))か、マスク(ていうかヘルメットとかサンバイザーみたいな……)にローブ姿。しかもマスクには電光掲示板がついていて、LEDで模様とか文字とか出る。リズムに合わせて点滅とかする。もう、アホかと。最高ですやんと。 ちょっと説明しとくと、スクエアプッシャーの初期のライヴは、シーケンサー/リズムボックス(DAT使ってた時期もあるとか)を走らせてそれに生ベースをのせていくというものでした。VIDEO (20170424追記:アーカイヴがSquarepusher公式チャンネルにあがってたんでこっちも。『AMP』! 山口珠美! 当時のテクノシーンを伝えてくれるよい番組だった〜! インタヴュー中たまみの脚をちらちら見てるトムくん若いな!)VIDEO 1997年の初来日公演はこんな感じ。わーあどけないねー、このとき22歳。そうそうこれ、第一回フジの前夜祭とかだよ。中止になった二日目に出る予定だったので、結局やったライヴはこの一本だけで……ちなみにトム自身は一日目、エイフェックスツインのくまの中のひととして ダンサーとしてフジに出るには出た(笑)。 (20170428追記:おおっとくまの中のひとじゃなかったすみません! まんまの姿で出てたとのこと、下の記事参照。てかこれ読んだ憶えあるぞ…何故忘れている……。くまの中に入っていたのは弟のアンディくん(Ceephax Acid Crewね)とWarp創始者ロブ・ミッチェルだったそうです) このライヴ形式、近年はアンコールとかでちょっとやるくらいでした。もともとプレイヤー志向のひとでもあり、凄腕なのは周知のところ。今回は全編でそのベースプレイを聴けるわけで、そりゃもう狂喜乱舞ですよ。しかしここで一抹の不安。ベースはともかく、ドラムは……? あのドラムンベースを通り越してドリルンベースとか呼ばれてたあのリズムを生演奏で叩けるのか? フロアはなんだか異様な空気、まだかまだかと待っている。開演がちょっと遅れたんだけど、待ちきれなくなった客が「はよやれやー!」といったヤジをとばしたり、「デッデーン♪」(「Coopers World」冒頭のベースフレーズ)と唄いだして笑いが起こったり。メンバーが出てきたら大歓声とどよめきと、そして笑いが起こります。だって…おもろい……あの格好……ポジションについて、楽器をかまえるとペカーとLEDが点灯します。大ウケです。で、一曲目がまさにの「Coopers World」でやんの。もういきなり沸点です。フロア阿鼻叫喚。 ちなみにわたくし低身長故、EASTでのライヴは大概二階席にいくんです。この日も二階席から観てたんですが、一階席の盛り上がりっぷりと二階席の食い入りっぷり(もーとにかく演奏を凝視、一音も聴き逃すまいってな集中力)の違いも興味深かった。90年代ノットデッド派、スクエアプッシャー初期から聴いてましたってひと、ジャズ、プログレ好きと思われる年配のひと、あとどっから聞きつけてきたか結構若いひと、と客層も混沌としてました。よいことですな。ちなみに「はよやれやー!」のヤジは「もっとやれやー!」になりました。客も威勢がよくて面白かったな……。 で、本編。いやー…叩けるんですな……。人力で演奏出来るんだー! セットリストを見て驚け、あの曲をあの曲を人力で、あの格好で! ベースはともかくドラムのカンパニーレーザーって何者だよ! ……といってもあの扮装ですから、ベースもトムじゃなかったからどうするという懸念もあります(笑)。いやでもあの身長は…ゴッツい6弦ベースを軽々弾く手のデカさは……あの格好で曲間手をふったりぴょこっとお辞儀するもんだからフロアは総じてニコニコですよ。あっ、この愛嬌はトムだわね。かわいいねー。 ベースがギターの音域もバリバリ弾くんでギターはちょっと分が悪いか? と思いきや、「Squarepusher Theme」のイントロとか一発でわかるあのコードはギターが弾くわけでさ。フュージョンぽくもなるんだけど、全体的に音が重く厚いんでメタルっぽくもある。このミクスチャーっぷり、わけわからん。ずっとゲラゲラ笑ってた。そして特筆すべきは美しいメロディ。「Tetra-Sync」からの〜「A Journey to Reedham」なんてもう笑い乍ら泣いてましたよ。「Iambic 5 Poetry」〜「Squarepusher Theme」の流れにもほろりときたよ。 そしてキーボードがなにげにすごかった。もともとはプログラミングで作られた高速リズムとリフを全部手弾きしてるってとこでもうおかしいんだけど、それがとてもパーカッシヴなところが人力の情緒です。トムのスラップベースと相まって、とにかくリズムが太い! メロディもベースとキーボードが手分けしていて、ベースだと思っていたらキーボード、キーボードだと思っていたらベースだったりと「何故これをそっちが弾く!」というこんがらがりっぷり。しかしそのうち、いやこの割りふりがベストなんだわと思えてくる。要は全員すごかった。 再現してみましたすごいでしょーって技術自慢ってのとはまた違う気がする。もともとは機械の特性を活かして作ってみたらお気に入りの曲が出来て、披露して、何年も経ってみたら「あれ、これ人力でも出来るんじゃね?」と思い立って、創意工夫を重ねてみたらめちゃエキサイティングなものが出来た、みたいな。これを演奏してみせる、という熱意と鍛錬も感じました。この二十年が必要な時間だったと思える。聴けてうれしかったよよよ。マスクだけでなく照明もLEDでリズムとシンクロ、綺麗だったなー。 この夏のソニマニ出演が発表されており、盛り上がりは必至。しかし夜中とはいえ真夏にあの格好で大丈夫なのか。熱中症になるんじゃないか。ダフトパンクから換気術を習うといいんじゃないかなと思いました。 OAはにせんねんもんだいでした。ブレイクビーツの鬼本編の前、という環境のなか、ちょーーーミニマルで攻めた。この対比、よかった! ----- ・セットリスト(setlist.fm より) 01. Coopers World 02. Hello Meow 03. Don't Go Plastic 04. Iambic 5 Poetry 05. Squarepusher Theme 06. E8 Boogie 07. Deep Fried Pizza 08. Delta-V 09. Tensor in Green 10. Anstromm-Feck 4 11. Tetra-Sync 12. A Journey to Reedham encore 13. Megazine ----- 後日談とかその他いろいろ。::: BEATINK Official Website / Warp Records / Shobaleader One - Elektrac ::: 公式ライヴレポートだぞー。・Shobaleader One / にせんねんもんだい 東京公演 2017 - Togetterまとめ 読み返してニヤニヤ出来ます。で、ここで指摘されてるんですが、・Adam Betts|Bandcamp ドラムのカンパニーレーザーの正体は、どうやらThree Trapped Tigersのアダム・ベッツらしい。本人のBandcampに書いてあるっつうね……ワキが甘いな地球外生命体(笑)。 しかしTTTといえば、昨年春にmouse on the keysが欧州ツアーしたときの対バン相手じゃないですか。川さんが「ブライアン・イーノお墨付きの」って紹介してたよ。意外なとこで繋がったな……。 日本を楽しんでおられる(笑)。画像は全部で四枚、右側の矢印をクリックするとスライドします。や、ちょっとホッとした。 というのも、ショバリーダーワンが大阪公演を行った日、イアン・マッカロクが東京でのライヴをドタキャンして帰国してしまったのです。 アメリカと北朝鮮が武力衝突の可能性、というニュースを受けてとのことでしたが(日本にいると危ないと思ったのか)、サポートメンバーをおいてけぼりにして(!)帰ってしまったのはかなり酷い。なんでそうなったかの真偽が明らかになっていないので詳細はここでは書かないでおく。でもこのニュースを知ったとき、二日前に観たばかりの彼らのことがまず頭をよぎりました。 このツイートを読んでちょっとなごんだ。 帰っていかれました。無事ツアー終わってよかった、なにごともなく帰れたようでよかった。ツアーを最後迄やってくれて有難う、またきてね(単独でも) ! ・おまけ『Squarepusher Live @ Liquid Room Tokyo 1997』VIDEO こっそり(でもないが)おいとく。音のみです。togetterまとめにも載っている「初来日の時は客に帰れとか出てけとか暴言吐いて嫌そうにやってた」ってツイートに違うよー! といっておきたい。 この和気藹々っぷりを聴いてよ、終始フレンドリーな雰囲気だよ。確かにトム、失踪したりおかしな時期もあったけど、それは初来日のときじゃないよ。 前述のフジ前夜祭のものです。アンコールで「フジもがんばれー」と言われてるのはそのため。日本語の呼びかけにいちいち「yeah」って応えてるトムかわいい。ああかわいい。かわいいで終わる。
2017年04月10日(月) ■
『After Hours '17』その2
えらい長くなったので分割、その2です。■LITE(O-WEST) 気づけば関係者スペースに川さんがいますよ。さっきの挙動からしてシラフじゃないかも…なんて話してて、出番も終わったことだし狼藉をはたらくのかなーなんて思っていたら、とってもおとなし〜く観てらっしゃいました。すまんかった。いや、ソウルセットにおける荒川良々みたいなのを見てるとね……あいつはホントにヒドい(笑)。 リハもサクッと終わり、時間があまるほど。手馴れてる感じです。こういうとこ優等生。そんな彼らが演奏をはじめるとああなるのが面白い。 「Ef」からスタート、一気にフロアがアガる。こういうときのセットリストの組み方もわかってる! という感じです。音もハードでいい。ベースモニターに貼ってあるセットリストが、ビートとともにはねまくる。このバンドも、技術と正確さが問われる楽曲をアグレッシヴに演奏するワザに長けている。トバすなー。頭を振りまくって演奏する井澤さんの髪が膨らんで、毛の逆立ったどうぶつみたいになってる(笑)。てかなんであんな弾き方しててビシビシ決まるの…わけわからん……すごいなー。この日何度「すげー!」といったか。そして笑ったか。演奏してないときはほわーとした感じのひとたちなのにね。 先日、LITEってキャリアは十年こえてるけど学生時代からのバンドがそのまま続いてるので年齢は若いんだよね、なんて話していた。このフェスの出演者のなかでも、年齢からすると若手です。あとこのあたりってイカツイ兄さんって感じのひとが多いので、そういうなかに彼らがいるのも面白い。弟みたいにかわいがられてる感じでしょうか。この日のMCでも、武田さんが「錚々たるメンツのフェスに出られてうれしいです。前夜祭みたいなイヴェント(『Basement Tea Party』 )にも参加させてもらったんですけど、envy、MONO、Boris、downyのメンバーといった巨匠たちのまえでワークショップすることになって。口では『じゃあ君、弾いてみて』なんていってやってたんですけど、いざ弾きなれた『Bond』を弾こうとしたら(緊張で)手が震えて(笑)」。後半に「Bond」やったときは笑ってしまった。 楠本さんのフィギュアスケート選手のような煽り(腕を静かにすっとあげるとフロアがわあっとなる)にキャ〜となり、山本さんの全体重をかけた(椅子の上から飛びおりて叩く)ブレイクにギャーとなり、ビシビシ決まるユニゾンにシビれまくる。「100 Million Rainbow」で〆。最高か。 件の「手が震え」たときの動画。や、震えてるってわからないよ! 大丈夫! そしてバックステージはこんなだったようです。「やっと撮れた」って……見たとき変な声出ましたよ、有難いー! 絵になりますね……。 さてラストスパートです、EASTヘ。二階(ロビーじゃなくてフロア内ですよ)にリラクゼーションスペース出来てた。爆音のなかマッサージ受けてるひとがいた(笑)。downyのときもあったのかな、あのときはひとがすごくて見えなくて……というわけで多少余裕がある今のうちに見やすい場所を探しておこうと一階に降りてみる。サブステージのそばがいい感じに空いていた。ここならサブもメインもよく見える。■UHNELLYS(O-EAST 2nd Stage) 観たのいつ以来か思い出せなくて、帰宅後自分の日記を検索する始末です…十年ぶり でした。そして当時はBとDrの編成だったよなというのも勘違いじゃなかった。BとDrだからウーネリーズかーと思ったんだ。6年前くらいにベースからバリトンギター(っていうのか!)に持ち替えたそうです(参照:いつまでも危うい2人 uhnellysインタビュー|CINRA.NET )。 コルネットをバリバリ吹いて、その場でループつくってリズムとヴォーカルのせていく技は変わらずすごかった。日本語に拘った歌詞も刺さる、midiさんのドラムもヌケがよくてちょーかっこいい! 続々とひとは集まり、いよいよ大トリです。下(duo MUSIC EXCHANGE)のeastern youthと丸かぶりなのは痛い、痛いヨー。しかし前々日、こちらのブログ記事を読んで「グッドバイ」の動画を観たのが決定打でした。 このブログ、このあたりの散らばり/流れがちな情報を読み応えある記事にまとめて紹介してくれてて、いつも有難く読んでます。濃くてよいよー! eyちゃんごめん、次の極東最前線には行くよー!■toe(O-EAST) セッティング〜リハ後、山㟢さん以外は皆ひっこむ。「やるよー」と山㟢さんが皆を呼び出して、フロアから笑い声。この時点でもうハッピーな空気があふれていた。toeの演奏がはじまる、ということだけではなく、このフェスが無事に楽しく終えられることへの達成感、いよいよ終わってしまうさびしさ、といった空気も含んでいたように思います。穏やかな熱さ、優しい激しさ。toeの音楽そのもの。 ほんとに観てよかった、「グッドバイ」聴けてよかった。実はやらないまま本編終えたのでガーンとなってたんですが(笑)アンコールであのイントロが鳴った途端泣きましたよね。そして今思い出ししたら反射で涙出ましたよね(こわい)。シークレットゲスト土岐麻子さんが登場したときの怒涛の悲鳴と歓声、そして土岐さんが第一声を発したときの大喝采。一瞬息ができなくなったくらい。うまくきこえないんだ、またつぎのふあんか、そのさきはないんだ。 そだね、「I have hardcore attitude」。ほろり。 ----- その他。 入口に傘置きスペースがあってこれは…と思ったんだけど、いい話だな! FFが幕張でやったとき傘がなくならなかった ときのうれしさを思い出した。こういうのの積みかさねだなー、そしてそれに甘えちゃならない。いうなればこれもハードコアアティテュードだと思うの。徹底した個人主義、でも助けあう大切さも知っている。 あと外国人客が多かったのも印象的でした。海外ツアーに出ているバンドも多いからね。インストが多いってところも関係あるのかな。 ----- 終わってみれば空き時間なんてありませんでしたな……むしろタイムテーブル被りまくりっぷりに泣いた。約8時間の開催時間であんだけ好きなバンドが揃えば、そりゃ被るわね……。このままフェスが育って動員が増えれば、この会場では足りなくなるだろうな。うれしい悲鳴とはこのことです。そして揃ったメンツがアレなので、みなさんおかしなテンションになっててなんかもーすごかったです。それこそ犬ぞり大会、横の繋がりがある分「ウチがいちばん」「どこよりもいいライヴしちゃる」ってライバル心も燃えあがるというもの。いやもういいもん見せてもらいました、感謝しかないヨー。だいじな場所だと思えた。このだいじな場所が続けばいい、育てばいい、そのためにも自分の思うハードコアアティテュードは持ち続けたいですと静かに熱意を語って終わる。
2017年04月09日(日) ■
『After Hours '17』その1
やーすっごく楽しかった! LOSTAGE五味兄の「オルタナだね〜、オルタナにもほどがあるね〜」、toe山㟢さんの「みなさん疲れたでしょう、バンドの圧がすごくて」というMCがフェスのカラーを如実に表していたと思います。オルタナティヴ、ポストロック、サブカルチャーといろいろ呼び名がつけられているけど、自分にとってはここが好みど真ん中。こういうフェスはあってほしいし根付いてほしい、続いてほしいな。 KAIKOOもそうだったけどインディベースのフェスで、これだけのアテンドは見事だったと思います。盛況、入場制限の発生、雨天といろいろたいへんな状況のなか、素晴らしい運営でした。おつかれさまでした、そして有難うございました! えーといろいろ説明が長いですが、記録に残しておいた方がいいかなと思うのでそれ含め書いときます。どうにも忘れるんでな……。まずはこのフェスの説明から。 -----・After Hours | Music Festival | Tokyo, Japan 渋谷O-GROUPの四店舗で開催された屋内フェス、といえばいいかな。 昨年は『SYNCHRONICITY』内のイヴェント扱い だったので、今回がフェスとして実質的なスタートになります。 英国発祥のオルタナフェス『ALL TOMORROW’S PARTIES』がモデル。ATPについてはドキュメンタリーフィルム が制作されており、DVD にもなっています。とてもよい内容なので気になる方は是非。 あーこうやって見ると、今回のAfter Hoursのフライヤーはこのドキュメンタリーのアートワークからインスパイアされたのかな。レイアウトとか色味とか、通じるところがありますね。・〈After Hours〉開催記念!! MONO × envy × downy、主催3組による特別対談を掲載!! - OTOTOY ・MONO×envy×downy×toe×Borisが闘争『After Hours』を熱論 - インタビュー : CINRA.NET 主催バンドの座談会。読み応えあります。ATPの話もしてます。 この手のフェスはPOP GROUP の『KAIKOO』 がめちゃめちゃ充実していたのですが、2012年を最後に開催されなくなっていました。ほんといいフェスだったんだよねえ。・同じくPOP GROUP制作の『neutralnation 2011』 ・『KAIKOO POPWAVE FESTIVAL '12』 というわけでAfter Hours。リスナーとしてはまず会場が渋谷ということに惹かれ(フェスなのに重装備しなくていい! 合羽とか非常食とか用意しなくていい! 気軽に出かけられる!)、良心的なチケット価格に惹かれ(こんなに観られるのにこの値段?!)、ATPがモデルと知って胸が躍り(いや、あこがれでな……)、そして何より出演ラインナップに惹かれ(なんじゃこりゃー!!!)、当日を楽しみに待っていた。やがてタイムテーブルが発表になり(mouse on the keysもLITEもWEST? せ、狭いんじゃ……?)、ソールドアウトがアナウンスされ(うわ混みそう、入場規制ありそう)、そうして迎えた当日は雨(こりゃ余裕持って動かないと厳しいかも)……ワクワクとハラハラを抱えて出発。 前日のSYNCHRONICITYにも行っていたポンチさんと待ちあわせ。まずは腹ごしらえをしつつ会場の様子を訊く。受付でチケットとリストバンドを交換、そのあとは出入り自由なので、時間が空いたら近くのお店で休憩やお茶も出来るし(街なかフェス快適〜)、会場にはちいさな屋台も出ている。長丁場でも飲食はなんとかなりそう。入場規制もあるので、心配ならひとつ前のバンドがやってるときに入っておくのも手。さて、行きましょか。 -----■downy(O-EAST) 最後の三曲。えーと、見てはいない。というか、見えなかった…入場制限がかかっていて、数人出たら数人入れる、という状態で二階席に通されたんだけど、そこがみっちみちでしてね……。じんねりとひとの背中を見て過ごしました。やー、曲も演奏もめっちゃかっこよかったので立ち去り難くてな! 機会を見つけてちゃんと聴きたい観たいです。 ずっとこんなんだったらどうしよう…と不安になったが、まわりのひとの話をなんとなく聞いていたら「一階の前は比較的余裕があった」「フロアにはスタッフがいて、こっちが空いてますよとか教えてくれる」とのこと。演奏が始まっちゃうと声を出しての案内は出来なくなるから、安全を考慮して慎重になりますよね。それならこっちが自主的に先を読んで動くのがベストだ、承知した! 転換中、EASTの物販や屋台をうろっと見る。何故かWESTでやるmotkのグッズがこっちで売っている。そしてLITEが見つからない。物販用の机に「toe様」「downy様」とか名前が貼ってある。コミケのスペース番号を思い出す(笑)。出演バンドがみんな物販を出せるスペースはあるのかな、出演時間と対応して交代したりするんだろうかなどと思う。物販だいじですからねえ。エフェクター試演ブースも盛況。考えてみれば今回のメンツ、エフェクター必携のバンドが多いし、お客にもプレイヤーが多いんだろうな。マグロ丼やアジフライを出す屋台に心踊る。EASTはロビーに余裕あっていいよねえ。 余裕を持って行っとこう、と移動。WEST前のスペースにも物販コーナーが出来ていました。あったあった「LITE様」、ライヴ会場限定のCD/DVDを買いたいんですよ。しかし売り子もおらず、品物も置いてありません。これもコミケっぽい…まだ製本が終わってないのかな……(笑)。あとでもう一度来てみよう。■Wang Wen(O-WEST) 二階席から。全くの初見で、バンドについても知りませんでした。インスト、ユーフォニアム等の管楽器も。ギターを弓で弾いたり、ドライバーのようなもので叩いて音を出したりして幻想的な音像。MCが全部英語で、ここで初めて日本のバンドじゃないのか、と気づく。エイジアンと白人の編成だったのでわからなかった。あとになって中国のポストロックバンドだったと知る。■mouse on the keys(O-WEST) 二階席でいいポジションを探す。上手側はしっこに全景を見渡せる場所があったのでそこで待機。清田さんと新留さんの手元もよく見える、嬉しい! セッティング〜リハがまるごと見られる、楽しい! この時点でフロアはパンパンだったんだけど、「まだまだひときます、つめてください〜」とスタッフの方がいってる。や、やっぱWEST狭いよね……二階もすっかりパンパンです。はしっこだったのですぐとなりが関係者スペースだったんだけど、そこもパンパンです。皆がまだかまだかと待っている、期待感がフロアに充満してる。リハのラフ演奏に野太い歓声があがる。今日は久々に客もハードコアよりだね、川さんもちょー気合い入ってます。リハ終わりからひっこまず、そのままはじめました(笑)。「いぐぞーーー!!!」「い爐爐臭燹次次次次次!!!!」しょっぱなからデス声です。応えてフロアも大歓声。「Ouroboros」からの〜「Spectres De Mouse」で一気にもってった。 いつもそうとはいえ、む、むっちゃぶっ叩いてる……ど、ドラムセットが動いてる…だんだんずれてってる……曲終わりでビシッと音をとめるときなんて、シンバルに飛びかからんばかりの勢いで前のめりです。楽器ごとズターンて前に倒れるんじゃないかと思った。そして笑った。いやもうほんとすごいな、おもろいな。正にソリをひく犬のようであった、シーザー……。ポンチさんの「(今日のフェスは)大規模な犬ぞり大会だから」が言い得て妙すぎて大ウケ。そりゃはりきるよね。MCはいつにもまして支離滅裂でした。清田さんも新留さんも笑顔が見えた。精密さが必要な楽曲を、これだけ破壊的に演奏してみせる(そして破綻しない)ワザもすごいです。サポートはケンジーくん、「Reflexion」等音源だとtpが印象に残るホーンパートをすっかりsxのものにしてる。 motkと縁も深いRyo Iwamotoさんが動画撮ってたのでシェア。ケンジーくんのインプロからの〜、「Leviathan」! や〜盛り上がった〜! 本日の目玉のひとつでございました。 そのまましばし居座る。WESTの二階、うまいことスペース確保出来たら快適でした。トイレも全然並ばないで入れるし…多分ここにトイレがあるって知ってるひとがそんなにいなかったんだと思う……。おやつ食べたりドリンク飲んだり、ちょっと遠足ぽくなってきた。合間に一度下におり、「LITE様」の物販スペースを見にいったらいましたいました、ドキュメンタリー でもおなじみマネジャーの山崎さん。このひとがあんなことやこんなことを……一方的に知ってるからなんだかニヤニヤしてしまった。■LOSTAGE(O-WEST) 骨太ー! 格好いい! 噂はかねがね、でもちゃんと観たの初めて。こういうのもフェスの醍醐味ですね。真上に唾をとばし乍ら唄う五味兄、パンクで格好いい。トモロヲさんがこういうスタイルだったねーと思い出すとしよりです。それにしてもベース弾き乍ら唄えるひとってホント尊敬する。 五味兄のMCも面白かった、客とのやりとりが喧嘩腰で(笑)関西のおっちゃんや。「レコーディングがやっと終わって、もうすぐ新しいアルバムをリリース出来ます、今日はそのなかから新曲ばっかりやります。って事前にいってたのね。そしたらさっき物販で『昔のもやってください』って…そういうのに弱いんですよ。そりゃそうだよ、俺だって好きなバンドのライヴ行って知らない曲ばっかりだったらねえ。というわけで『手紙』を……」といったところでフロアからリクエストがとぶとぶ。「準備がいるんや、出来る曲と出来ない曲があるんや!」「次のライヴにこい!」とかいってました(笑)。 出演者がそのへんをウロウロしてる、物販スペースに行くとメンバーがいたりして直接交流出来る。五味兄は五味アイコン でもよく知られている絵描きでもあって、グッズ製作もDIY。FUGAZIに代表されるUSハードコアの精神が受け継がれてるよ。 このツイートに大きく頷く。
2017年04月08日(土) ■
『Defiled −ディファイルド』
『Defiled −ディファイルド』@DDD 青山クロスシアター 大好きな作品、観られてよかった。この話を観客全てが「理解できなく」なったとき、初めて世界が平和になるのかもしれないなあ。それはつまり世界中の人々がわかりあえるとき、ということになる。そんなときはくるのだろうか? 13年前に観たときと、今と、どちらがそこへ近づいているだろう? うっすら気付いているけれど、それを認めるのもなんだかさびしい。 日本での初演は2001年、9.11の直後。映画監督の相米慎二が、はじめて舞台演出を手がける予定だった。彼の急逝でそれはかなわなった。そして2004年、鈴木勝秀による演出でこの作品を初めて観た。ハリーは大沢たかお、ブライアンは長塚京三。そのときの感想はこちら↓・初日 ・2回目 ・3回目 ・4回目 ・楽日 五回も観に行ってたかい…当時はtwitterなんぞなかったので、こんな感じでおぼえがき書いてたな……って、今もそんなに変わらんか(笑)。 前回はアラファト議長が亡くなった直後に観た。今回はシリア空爆が行われた直後に観た。作品に対する印象は変わらない。つまり、いつ上演されても変わらない強さがこの作品にはあり、いつ上演されても変わらない弱さがこの世界にはある。変わらないのだ、かなしいことに。どちらにもアメリカが大きく関わっており、アメリカがいる世界といない世界のことを考える。アメリカってやつはよお……苦笑はいつ迄苦笑でいられるだろう。作品中に携帯電話は出てこない。PCの外観は古びていても、最先端のOSが入っているかもしれない。今の時代「本を読まない」ひとに「フィジカルな本を読まない」ひとという項目が加わったとしても、それを台詞に加える必要はない。システム化され、ひとの思いがひとの手に渡りづらくなることは何を「便利」にし、何を「不便」にしたか? ハリーの主張は時代を超えて伝わる。ここにもこの作品の強さを感じる。 前回の上演時間は二時間、今回は一時間四十分。台詞のやりとりのスピードは変わらないように感じたので(というか、前回の方がより早口だった印象)、ちょっと短縮されている。上演台本にも編集はあったのかな。テキストとして残っていないので確認出来ない。そして前回と今回では劇場のサイズが大きく違う。シアターコクーンは二階席迄ある約700席、DDDは可動式で約200席のキャパだ。セットの大きさ、天井の高さ、間口の広さ。ステージのサイズが違うと、単純に「図書館の(一室の)隅から隅まで歩く」という動作にも時間差が出る。演者同士の距離も、演者と観客の距離も違う。今回は小劇場でのロングラン。緊密な個人のやりとりに、より焦点が合う。ハリーを演じる戸塚祥太、ブライアンを演じる勝村政信の見応えあるふたり芝居を存分に浴びることが出来る。真っ白だった図書館は濃いグレーになり(美術:原田愛)、照明(原田保)は温かみのあるものへ。反射する光より、吸収されていく光として脳裏に刻まれる。 「歴史的建造物を爆破する」という大それた計画を実行にうつした孤独なハリーは、「街を守る、命を守る」という職務を背負った、愛ある家族とくらすブライアンと相容れない。わかりあえないふたりの心は、それでもときどき近づきあう。ブライアンは『クマのプーさん』の原作を知らない。ちいさいころ、親に本を読んでもらったことなんてない。父親が子供たちを寝かしつけるためにベルトで殴る環境を「最高だった」という。ハリーは『クマのプーさん』の決まり文句をしらないひとがいることが信じられない。親に本を読んでもらうのがあたりまえの環境で育った。 暴力という手荒なしつけを受けてもなお「最高だった」と強調するブライアン。そういう手段でしかこどもたちを育てられない親から、それでも受けとったものが沢山あるのだろう。そうした体験を経た彼はハリーにいう。「結婚しろ、家族を持て、子供を育てろ」「それが現実だ」。しかしこれらの台詞はこう続く。「子供に本を読んであげろ」。自分が育った環境は「不便」か「便利」か?「不幸」か「幸福」か? ブライアンは「不便」だったかもしれないが、そこから「幸福」を発掘している。ハリーは「便利」だったかもしれないが、そこに「不幸」ばかりを見出してしまう。どちらにも使命感はある。しかしその使命とやらを、どこ迄相手にわかってもらえるか? 実のところ、わかってもらえなくてもいいのだ。受け入れてもらえれば。ハリーもブライアンも理解しようとしてる。それでも、受け入れられない。冒頭に書いた「理解できなく」なるということは、受け入れることが出来たということでもある。 観客は登場人物と全く同じ一時間四十分を過ごす。ハリーとメリンダの対話はトランシーバーからのものなので観客にも聴こえる。ハリーとその姉、ハリーとブライアンの「カミさん」の対話は観客には聴こえない。逃げ遅れた図書館の片隅で、ハリーとブライアンのやりとりを、固唾を呑んで見守っているような気分になる。そして考える。ハリーの過去を考える。彼は何故こうなってしまったのだろう? ブライアンの未来を考える。彼はあれからどうなっただろう? その逆も考える。ハリーの飼っている「不便な」いぬはどうなるだろう? ブライアンがもし警察官ではなく野球選手になっていたら? 時間が跳ばず、その場で聴こえることしか聴こえず、その場で見えるものしか見えない舞台から、多くのものを受けとって観客たちは帰っていく。 舞台の勝村さんを観たのは久しぶり。やはり居ずまいが強力。そしてチャーミング。このひとのくえなさ、皮肉屋さんっぷりは池田成志と張ると思っているんですが、そういうひとが舞台に立ったとき見せる真摯な姿。そこに魅せられる。いつの間にか五十代。かつての童顔の青年が、悩める現代の青年の命を守ろうと父親の顔を見せる。舞台はつくりもので、舞台には嘘しか載らないのに、そこに真実が宿る瞬間を見せてくる役者さん。戸塚さんはとても引きがある。ねこのように身が軽くしなやか。ジャンプしても着地の音がしない。舞台に現れた瞬間から、さびしげな佇まいが謎を呼び、その謎が興味を呼ぶ。ハリーとはどんな人物なんだろう? すぐに役へと入り込ませてくれた。大沢さんが演じたときにも感じたけど、ハリーはねこみたいでいぬみたいなんだよね。 非常に見応えある舞台でした。リピートしたいけどチケットもうとれないだろうな、一度観られただけでも幸運でした。 ----- その他。 ・中村まことさんと佐藤真弓さんが声で出演してるぞー! ・舞台観たあとコーヒー飲みたくなります。帰り羽當でコーヒー飲んで帰りました、スタバを横目にね(笑) ・昔はコーヒーはコーヒーしかなかった、ってセリフ聞くと、『ガラスの仮面』で亜弓さんがオレンジペコーを飲んでるの見て「オレンジペコーて? 紅茶は紅茶だろ?」と言った知人の話を思い出すわ…… ・いつかスズカツさん演出の『負傷者16人』 を観たいな〜とも思いました。希望は声に出しとこう、ことだまことだま ・そしてスズカツさん、パンフレットで初めて演出したのは2006年と言ってるけど2004年ですよ……おたく故重箱のすみつついてすみませんね…… -----・舞台「Defiled -ディファイルド-」オフィシャルサイト ・戸塚祥太&勝村政信「Defiled」開幕、緊迫した状況下で心理戦繰り広げる - ステージナタリー ・観劇予報 : 戸塚祥太・勝村政信が挑む2人芝居『Defiled-ディファイルド-』が開幕! フォトコール&囲み取材レポート