初日 最新 目次 MAIL HOME


I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
kai
MAIL
HOME

2016年09月23日(金)
高橋徹也 20th ANNIVERSARY『夜に生きるもの 2016』

高橋徹也 20th ANNIVERSARY『夜に生きるもの 2016』@Star Pine's Cafe

-----
vo/g:高橋徹也、b:鹿島達也、drs:脇山広介、key:sugarbeans、pedal steel:宮下広輔、tp:尾崎あゆみ、tb:上杉優、ts:高井汐人
-----

いーやー……確認のために音源聴きなおしたいんだけど、ライヴがあまりにも素晴らしかったので上書きする気持ちにまだなれず。上書きつったってそのアルバムの楽曲をやったんでしょうがって話ですけどね。あのアルバムがあったから今回のライヴがあった訳で。しかし『夜に生きるもの 2016』と銘打ったとおり、この夜の音は音源のなかにはない。あのときあの場にしかない。

昨年辺りから高橋さんは「デビュー二十周年に向けていろいろ考えている、ライヴのことも」とことあるごとに話していたが、その内容がアナウンスされたときは少なからず驚いた。二十周年を記念して行なわれるライヴで、デビューアルバムではなく、数字的な区切りがある訳でもない、1997年リリースのセカンドアルバム『夜に生きるもの』からの楽曲を中心にセットを組む?

しかしそれがどういうことなのかは、少し考えれば合点がいく。このアルバムが本人にとってどれだけ重要か(自身も「代表作のひとつ」と言っている)、この作品がどれだけエヴァーグリーンなものかは周知の通り。そこへ可能性が加味される。デビューから二十年を経て、当時より演奏のスキルや表現力に磨きがかかっているという自負はあると思う。自身の新たな感性を発見、獲得することもあっただろう。新しい出会いもあった。ひとつの到達点であるこの作品を今どのように表現出来るか。きっと意義のあるものになるという思いが本人のなかにあったのではないだろうか。機は熟した。

ちなみにこのアルバム、振り返るにつくづくメンツがすごい。個人的には菊地成孔が演奏、ホーンアレンジとかなりドップリ噛んでいるところにも興味と魅力を感じていた。そこへ今回のライヴメンバーが発表になり驚いた。dCprGのメンバー、高井汐人の名がある。えええどういう縁? てことはあれよ、音源では菊地さんが演奏したあれやこれやを高井さんが演奏する訳でしょ、シェー(白目)。この時点で相当盛り上がってまして、自分にしては珍しく予習かってくらい当日迄音源を聴き倒していたのですが、聴けば聴く程25歳でこんな作品をつくった高橋徹也に恐れをなし、寒気が起きること数知れず。納涼。異才には異才が集まってくるのねという言葉だけで片付けていいんだろうかというね……いやもーホントこのアルバムに菊地さん呼んできてくれてありがとー! 誰が呼んできたのかしらね……感謝感謝、スタッフに感謝、キューンに感謝ってなものです。

で、繰り返し「ナイトクラブ」のホーンセクションを聴いていた訳です。いーやー気持ちわるくて気持ちいいわー。真剣に聴いてるとオエーとかなるわ、以前ゴセッキーがUA『la』の菊地さんによるホーンセクションアレンジ聴いてて具合悪くなった(それくらい入り組んでる)話思い出すわ。ひとすじなわではいかないポピュラーミュージック、毒気と妖気のアレンジ。これがライヴで聴けるのか、曲順どうなるのかな、まずはアルバム通りで、それだけだと一時間もないから、あとは何やるんだろ、なんて楽しみにしていた。

……ここ迄前置きですよ。長いわ! いつもか! やっと当日きた! 平日吉祥寺19時開演はハードルが高く、19時10分頃ようやく会場へ辿り着く。なんとまだ開演前ぽい、演奏の音が聴こえない。やったあああとドリンクオーダーもうわのそらで入場したと同時に、あの「ナイトクラブ」のホーンが聴こえてきた。実はこれ、opのSEだったのだが、生音との区別がつかない程舞い上がってしまった。ええっ一曲目「ナイトクラブ」?! ここで一階に降りてたら(SPCは二階が受付)その間観逃す聴き逃す、そーれーはーいやー! と二階で観ることにする。慌てて駆け込みステージに目をやる、メンバーが出て来たところだけどブラスセクションがいない。あれ? あれ? 高井さんは? ここでやっとSEだと気付く。やーこれを出囃子に持ってくるとは……しょっぱなからもってかれた。そしてカウント、一曲目は「真っ赤な車」でした。次第に落ちつき、周囲が見えてくる。おお、一階のフロアスタンディングじゃないの、盛況! SPCでスタンディングって初めて見た。

四曲目迄はアルバムの曲順通り、当然二曲目は「ナイトクラブ」。なんでもホーンを加えてのライヴ演奏は初めてだったとのこと。この、ホーンセクションが加わった編成というのは今回の大きな特質で、「大統領夫人と棺」や「夜明けのフリーウェイ」に新たに施されたホーンアレンジには大きな驚嘆と感嘆があった。これらのアレンジはsugarbeansこと佐藤友亮によるもの。ストリングスライヴのアレンジといい、このひとが高橋さんと出会ったことはとても大きい。菊地さんによる「ナイトクラブ」、佐藤さんによる「大統領夫人と棺」「夜明けのフリーウェイ」。不思議と整合性がある。複雑なリズム、屈折したハーモニー。不穏さを含み、背徳的な快感がある。

こうなると村上良成による「新しい世界」のホーンアレンジが異彩を放ってくるのだが、そもそもこの、ド直球に多幸感溢れる楽曲が『夜に生きるもの』に収められていることこそ高橋徹也というアーティストの真骨頂なのかなとも思う。「女ごころ」「夕食の後」の情景描写、この子はホントに車が好きねえと思わず笑みが漏れる「車」歌の数々、そうしていると死の淵に立っているような男性が現れ、老人が犬をつれ散歩する。自分の知らないところで、同じときを生きている誰かが生活している地球の不思議、それらを上空から俯瞰する視点。生きづらさを抱えているひとのエネルギーが逆噴射を起こした末に発見したような、狂気じみた多幸感とささやかな安らぎ。その詩世界、ストーリーテラーたる歌声。夜を生きるクリーチャーだ。

『夜に生きるもの』からやらなかったのは「いつだってさよなら」のみ。新旧代表曲を織り交ぜライヴは進む。ゴリゴリのポピュラーミュージックにゴリゴリのアレンジを加え、ゴリゴリ手練なプレイヤーが自在に演奏する。あまりの凄まじさに笑いが漏れる。「大統領夫人と棺」〜「夜明けのフリーウェイ」の流れは所謂「ゾーンに入った」状態。これ高橋さんのライヴでしょっちゅう言ってて、ゾーンに入るなんてそうそうないだろと言われそうだが実際入るんだよ……そうとしか言いようがない。そこへ音響の妙(「大統領夫人と棺」のドラムがドンカマみたいな底から響く音になってた、ギターが一本なのにディレイでなく複数聴こえる←ここは佐藤さんがサンプリング鳴らしてたのかな、等)が加わるのだからたまらない。音楽という名の怪物が姿を現したと感じるほどの場面が続く。演奏を繰り返し場数を踏んできた、エンジンのデカいバンドの為せる業だ。鹿島“KID”達也があれだけ暴走出来る(いーやーすごかった。恐ろしい。思わず御大! と心のなかで手を合わせた)のも、プレイヤーが“会話”出来ているからだろう。『The Endless Summer』から参加の宮下さんの功績も大きい。最初からペダルスティールが入っていたかのように、楽曲の肌ざわりを変えている。

そこへ高橋さんの唯一無二の声が乗る。まさに水を得た魚。『夜に生きるもの』というアルバムの地力、高橋さんの地力を思い知る夜になった。

演奏と歌に集中力を注いでいるからか、MCはいつにも増して支離滅裂。ときどき我に返って「急に黙り込んでチューニングはじめると戸惑われる、すみません」みたいなことを言っていたのには笑った。仕様だから承知してますよ! そうなるの判る、と言いたくなる程の入り込みっぷりですもんね……。数曲でジャケットを脱ぎ、汗だくのシャツを指して「これ、『新しい世界』のジャケット撮影をしたときに着ていたシャツなんです」。フロアがどよめいた。マグミなみにものもちいいな! 体型の変わらなさもマグミなみだわねそういえば。すごいなー、み、見習いたい……(拝む)。ちなみにその撮影、「走ったり、ジャンプしたり、いろんなポーズを撮ったんだけど、出来上がったのを見たら顔のアップだった」(フロア爆笑)。アートディレクション/デザインは今でもつきあいが続いている木村豊さん、ここにも歴史。

「新しい世界」のあとにメンバー紹介をしようとして言葉につまる。「こんなときに、」とタオルで顔を覆う。ホーンセクションのメンバーの名前をど忘れしたようにも見えたし(よくある・苦笑)、ハイテンションが緩んで茫然自失になったようにも見えた。そして、感極まっているようにも。フロアが静まり返る。やがて拍手と、「がんばれー」なんて声が飛ぶ。苦笑している。その後復調、和気藹々としたMCへ。宮下さんのことを「新しい風を吹かせてくれた」、脇山さんを「旧新しい風」、佐藤さんを「ぬるい風」と紹介してました(爆笑)。それぞれ高橋さんにとってエポックになったプレイヤー。そして鹿島さん。御大もちょっと感極まってたかな、噛み締めてる感じ。「おめでと、」とひとこと。遠藤さんのことを思い出す。

オーラス、デビュー曲である「My Favourite Girl」。演奏する側も、フロアにいる側もあたたかな空気。ミラーボールの光がまばゆい。終わってしまうさびしい時間、終わりがあるからこその幸福な時間。

メジャーからインディーへと活動の場を移し、思うように動けなかった時期や苦しい時期もあったように窺われるので、そのとき聴き続け支え続けたファン/リスナーの方々からするともう感慨深いなんてもんじゃないだろうなと思い、そうなるとそのひとたちにも感謝してしまう。余談だが某カレー屋さんの店長から周年記念のプレゼントもらったとき「食い支えてくれた皆様のおかげです」ってメッセージが添えてあったんだけどそういうのだいじ! ほんとだいじ! 普段からの支えってだいじ!!! 支えなんて思いはなくて、ただただ高橋さんの音楽に魅せられて、というひとも多いのだろうけど。ホント有難い……なんかもうありがたいばっかり言ってる。

終演後の物販には山田稔明さんの姿が。そばにいたのでその瞬間を見ていたのだが、「やるよ」とおおくぼひでたかさん(だったらしい)に声をかけ、するりとブースに入ってきた。あっというまに接客モード、Tシャツの梱包をときサイズの説明を始める。そして「(おおくぼさんを指して)こちらでも対応してます」と客をフォーク並びにさせる(笑)。迅速! そしてスマート! いやー感心した。「タカテツの記念日なら手伝うよ!」って軽やかさにジーン。山田さんとの出会いも大きかっただろうなあ、高橋さん。

二十周年おめでとうございます。あの場にいることが出来てよかった、あの場であの音を聴けてよかった。有難う、有難う。

-----

セットリスト(高橋さんのツイートより。12

Opening SE:Night Creatures
01. 真っ赤な車
02. ナイトクラブ
03. 鏡の前に立って自分を眺める時は出来るだけくらい方が都合がいいんだ
04. 人の住む場所
05. 悲しみのテーマ
06. シーラカンス
07. かっこいい車
08. 最高の笑顔
09. 女ごころ
10. 夕食の後
11. 笑わない男
12. 赤いカーテン
13. チャイナ・カフェ
14. 大統領夫人と棺
15. 夜明けのフリーウェイ
16. 夜に生きるもの
encore
17. 新しい世界
18. 犬と老人
19. My Favourite Girl

-----

・夜明けのフリーウェイに立って|夕暮れ 坂道 島国 惑星地球
ご本人のブログ。セットリストも完全版が載っており、これによるとopのSEには「Night Creatures」というタイトルがついていたようです。ということはSE用に新たにつくったか再構成したか……。ストリングスが入っていたという話も見たので、私が入場直後に聴いた「ナイトクラブ」のホーンはそのあとのもの(所謂出囃子)だったのかな

・高橋徹也 20周年記念ライブ 『夜に生きるもの 2016』 感想まとめ - Togetterまとめ
高橋徹也と言えば! のchinacafeさんによるまとめ。有難い…何度も読み返してしまう。高橋さんのすごいライヴを観ると終演後必ず「ちゃ、ちゃいなかふぇさんちゃいなかふぇさん!」とツイート見に行きます毎回。いやまじで

・monoblog:高橋徹也を観て、わからなくなってきました
もはや盟友、山田さんのブログ

・サックス奏者の気まぐれ写真日記 - 汐んちゅのブログ
高井さんのブログ。これの「楽譜と音源を予習してたら異様なサックスソロの後に管楽器セクションによる妙な3連頭抜きフレーズがあり、もしやと思ったらどうやら菊地さんのようでした。聴いて誰だか判るというのは素敵な事ですね。」に大ウケしたんですが、知らんかったんかい。じゃあ何が縁で……こんなことってあるんですねえ
(20161004追記:・サックス奏者の楽屋談義 - 汐んちゅのブログ
ライヴの翌週更新されてた。高橋さん直筆の曲順表から左利きつながりの菊地さんがらみのエピソードから以前話題になった千住くんの耳栓の話も書いてあり貴重)

・菊地成孔の選ぶ菊地成孔の失われた53枚|46. 高橋徹也「夜に生きるもの」
おまけ、ログ残ってた〜。「この人も異能の天才で、ホーンアレンジもかなりやりましたが、サックスソロも吹いてるしライブもやったし、果てはヴィデオクリップにまで出てしまいました。でも、ホーンアレンジが一番好きかな。ギル・エヴァンス的な、ダークで低音寄りのセクションがはいってます。」



2016年09月11日(日)
『O.L.H.のだいじょうぶかぁ!?』

WWW X Opening Series『O.L.H.のだいじょうぶかぁ!?』@Shibuya WWW X

-----
Only Love Hurts(a.k.a. 面影ラッキーホール)
Opening Guest:漢 a.k.a. GAMI/D.O、畑中葉子
DJ:田代まさし(Doo-wop set)
-----

久々面影ラッキーホール(言い張る)。ゲストがフリースタイルダンジョンのモンスター漢 a.k.a. GAMIと、リハビリ中のマーシーだというのも楽しみにしていたのですが、いつのまにやらマーシーがキャンセル(ポンチさんに聞かなかったら知らないまま会場行ってた……)、そのうえ開演時間を間違えて、フロアに入ったら漢さんがステージを去るところでした。ぐだぐだ。

そんなこんなでいつ以来だっけか。「おみそしるあっためてのみなね」で“あなた いまごろ いいともなんか みながら”って歌詞聴いて「あああ!」と思うくらいです。前回観たときはまだいいともやってなかったか? 隔世の感が……。しかしエヴァーグリーンの楽曲はいつ聴いても真摯に迫り真摯に笑え真摯に蒼白になりますわ。で、エヴァーグリーンな楽曲を演奏する側は当然歳をとっており、聴く側も同様なのでした。今月はじめにテクマ!さんが亡くなったんだけど、そのことをMCで話したアッキーが「実は俺も救急車で運ばれて〜」とか話しだしてシャレにならない。いや、出てきたとき「なんか痩せたな〜」と思ったんだけどそんなねえ…まあもともと不摂生ぽい感じですもんね……。

というわけでニトログリセリンをステージに置き唄うアッキーであった。唄い方もちょっと力抜いてる感じで、無理に高音絞り出したりせずシャウトも軽めで。さぼってる訳ではなし、こういう表現も出来ますよって懐の深さを感じました。もはや芸の域だがあれですよ、このひとたちはなんだかんだで命懸けで笑いをとりにいき、命懸けで芸ごとやってますよね……実はそういうとこ、すごく尊敬している。いやホント「次にしよう〜」とか思わないように! ただでさえ大所帯でメンバーあちこちに散らばってるのでなかなか集まれないし! なんか今回も編成若干変わってませんでしたか、コーラスひとり増えてなかったか。そういうアナウンスはないのであった。真摯に楽しゅうございました。

ところでマーシーの代打は畑中葉子さんだったのですが、名前だけでピンとこなくて「後から前から〜♪」を聴いてようやくああこのひとかー! と合点。急遽参加故? カラオケだったんですが、「後から前から」は通常ヴァージョンとヤン富田ヴァージョン(格好いい!)両方のトラックで唄ってくれて盛り上がった。そして面影のアンコールに登場して、アッキーとのデュエットで「カナダからの手紙」!!! 同じひとだったのか!!! と再び驚く。繋がってなかったわ〜……。貴重なものが聴けた、いやもう感激! このときだけ「平尾昌晃先生を意識して」とっくり(タートルネックとは絶対言わない)を着たアッキーであった。

そういえば畑中さん、今後のライヴの予定で岩下の新生姜ミュージアムでのイヴェントのこと話してたんだけど、ここいろいろと話題ですよね(笑)展示やグッズが面白いことは伝わってきてたんだけど、館長さんがここらへんの音楽好きなんだなあきっとと思ってtwitter見てみればこんな感じですもの、さもありなん。アッキー曰く「以前はライヴによくきてくれてたんだけど、『ゴムまり』出して以降来てくれなくなった」そうです。畑中さんが「(嫌われたなんて)そんなことありませんよう」とフォローしてくれてたけど、まあ、なんとも言えませんね……。

今回のライヴはWWW X杮落としシリーズ。シネマライズの2Fだったとこですが、動線がかなりおかしなことになってました。ライズの階段から上がるんだろうと思っていれば、なんか裏口みたいなところに誘導され4F迄階段をのぼらされ、そこからまた2F迄おりるという。オープンしたてで表が出来てないのか、それともずっとこうなのか。WWW同様、元映画館の段差を活かしてるのかなと思えばフロアはフラット。しかしステージ高いので見やすかった。そしてそのスクリーンでドタキャンマーシーのおわびメッセージを観るというね…ある意味貴重ね……。マーシーはまあ、元気そうでした。メッセージも楽しいオチがありましたし。「リハビリを優先しないといけないということで」と言ってました。そうですね。しかしここで気になるのは、確かにリハビリ優先てのはわかる。納得出来る。が、まあその、ライヴハウスなんて不良の行くとこです! そんなとこ行ったらまた悪い仲間に! と止められたのかしらと。なんとも複雑な気分ですね……。

いやその、以前酒井法子がつかまったときにクラブで楽しそうにしてる映像をいかにも悪みたいな風潮でメディアに流されたのがなんかねー、いまだにモヤモヤしてるもんで。それはともかく、今回のタイトル「だいじょうぶかぁ!?」はマーシーに「だいじょうぶだぁ」と言わせたいってのもあったようなので(漢 a.k.a. GAMI/D.Oもその流れで呼ばれたのでしょうし)アッキーは残念そうでしたよ。そして悪態つきつつも、マーシーの音楽的功績について話すアッキーであった。こういうとこなんだかんだ気遣いのひと。いやしかし、ほんとクリーンになって戻って来るとよい。ものすごくたいへんだろうが。だってもったいないじゃない、音楽への造詣と愛情とアイディア溢れるひとがこの先ずっとこんななんてさ。助けてくれるひとがいるのだから、望みは持っていいじゃない。

閑話休題。WWW X、ミラーボールがいい感じだったので新dCprGのお披露目はここもいいんではないでしょか。ちょっとせまいか? いいハコでした、また行きたい。



2016年09月10日(土)
『CRESSIDA クレシダ』

『CRESSIDA クレシダ』@シアタートラム

めっちゃよかった……思い入れと、観たいものが観られたといううれしさと、こんなものが観られるとはという驚きと。芸能の継承、滅びる肉体、繋がっていく魂。性別、世代、才能の価格。現時点での今年のベストワン。ニコラス・ライト作、森新太郎演出、芦沢みどり翻訳。

1630年代。劇団が男優のみによって構成され、女性役は少年が演じていた時代のロンドン。声変わりをし、体格が成人男性に近づいたかつての少年たちはセカンドキャリアへの道を歩む。大人の男性役、演技指導者、スタッフ、制作者。観客の喝采を思い出に、いくばくかの苦さを抱えて。一方、現役で舞台に立つ少年俳優たちは不安を感じている。近い将来、少年らしさを失ったら、どうすればいいのだろう? そこへひとりの少年がやってくる。美しい男性に憧れ、女性の仕草や声色、身にまとうものが自分にぴったりだと確信している少年が。

実在した登場人物たちがバックステージでどうすごしていたか。どんな思いを抱え舞台に立っていたか、あるいは舞台を降りたか。劇作家は想像力の羽根を拡げ、彼らの光と影をすくいとる。宣美や作品紹介から、観る前は徹頭徹尾シリアスなものだと思っていた。ところが舞台に載ったそれは、滑稽で少し物哀しい、人生賛歌ともいえるものだった。そして、演劇への圧倒的な愛情と敬意。

少年俳優たちは時代とともに忘れ去られていく。名前が残る者はごくわずか。その功績も後世にはあまり伝わらない。しかし彼らの力量は相当のものであった筈だ。シェイクスピア作品に登場する女性たち――抑圧された環境で過ごし、機知に富んだ言葉を吐露し、激しい感情をもって行動する。それらを表現し、観客を魅了する。年端のいかない少年たちがどれ程の訓練を受けていたかは想像に難くない。そのうえ彼らは親に捨てられたり、売られてきたような境遇だ。居場所を失わないために、食いっぱぐれることなく生きるために、彼らは懸命になる。その努力の方法はさまざまだ。発声を学ぶ。表現力を磨く。パトロンを探す。そうして彼らには“値段”がつく。“見せ物”として。

かつて“見せ物”だった指導者、衣装係、劇場の支配人は少年たちの未来を拓くべく尽力する。その方法もまたさまざまだ。“見せ物”しての価値をあげるべく芸を伝承する。見映えをよくするために飾り立てる。それはつまるところ、よりよい環境へと少年たちを売り飛ばすということだ。借金を返すため、劇場の懐を潤すため。目的は他にあったはずなのに、やがて彼らは演劇の熱にとりつかれていく。舞台の魔力を目撃する思い。

演技論、女形論の側面もある。ドラァグについても。シャンクは少年が女性を演じる価値をチャームだと信じている。女性の役なのにガニ股で歩いたり、端々に男の子らしさがはみ出してしまうところを観客はかわいらしいと思う、観客はそれを求めているのだと。一方ハマートンは完璧に女性を演じるという新しい表現に挑戦する。ふたりは衝突するが、そのどちらの表現にも観客は歓喜するのだ。かつての少年俳優たちはもう二度と見られない。しかし先人たちの気配、痕跡を持つ新しい世代の俳優たちがいる。そして新しい可能性を見せてくれる俳優が生まれる。そうしてバトンが渡される。見ることの叶わなかった過去が、未来へと繋がっていく。演劇の真髄だ。

想像力をかたっぱしから刺激する脚本には多くの引用がある。タイトルからも判るようにシェイクスピア作品が主で、ハイライトは『トロイラスとクレシダ』だ。ロンドンの初演は2000年、日本の上演は今回が初めてだそうだが、個人的にはこれが好都合だった。日本で上演の機会が少ない『トロイラスとクレシダ』を、2012年に蜷川幸雄演出山の手事情社の上演で観たあとだったからだ。作品の面白さが変わることはないが、ロンドン初演後すぐにこの作品を観ていたら、果たして自分はここ迄感じ入っただろうか? 少年俳優たちが経験を積み、多様な生き方を見いだしていくように、自分も蓄積した時間から、先人から学んできた。

作品解釈的なこと以外にも思い入れがあった。平幹二朗と盒桐里龍Ρ蕕魎僂襪海箸叶った。蜷川演出のシェイクスピア作品で、自らの人生を照射したかのような演技を見せてくれたふたりだ。ふたりきりのシーンが二度あった。ひとたらしのシャンクを愛嬌たっぷりに演じる平さん、硬質で捩れた感情を鋭く投げつけるディッキー、盒兇気鵝E櫃譴織轡礇鵐を抱きとめ、人払いをし、遺言をひとことも聴きもらすまいと彼の顔を切迫した表情(蜷川作品で何度も見たあの顔、だ!)で見つめるディッキーのシーンは、かつての名優とかつての名少年俳優といった役柄の向こう側をも見せてくれたように感じた。期間限定の職業、期間限定の人生。やっぱり蜷川さんを思い出してしまう。演出家(演劇)への大きな憎悪と愛情。それを共有する、ふたりだけの約束。甚だ思い込みだろうが、そう見えてしまう。強い感慨があった。そして子役出身の浅利陽介、ベテラン花王おさむ、「若手」を卒業しつつある碓井将大、藤木修、橋本淳。今、この舞台に立っている俳優たちの思いが、鏡に映るかのよう。演劇は世界を見せてくれる。

シャンクは死の間際、未来を想像する。女性が舞台に立つ劇場を、女性が女性を演じる演劇を。彼はその可能性に大きな喜びと希望を語りかけ、人生を終える。その表情は幸福に満ちている。カズレーザーの名言思い出したわ……「人間どうせ幸せになるのよ」。

演出、翻訳が演劇集団円所属。劇団の地力を感じました。てか森さん、網羅は出来ていないけど近年手掛けたものは悉く好きだなあ。個人的には『東海道四谷怪談』に再挑戦してほしいのねー。あの空間使いをまた観たい。一座の公演が行われるグローブ座の舞台裏でもありシャンクが向かう天界のようでもある、美術(堀尾幸男)と照明(原田保)も素晴らしかったです。



2016年09月09日(金)
nine days wonder classic lineup reunion show

catune presents nine days wonder classic lineup reunion show@FEVER

mouse on the keysとの出会いはタワレコの試聴機、全く予備知識なく一聴で虜になった。いまどき珍しいというか貴重な出会いだったなあと思う。その後「どういうひとたちなんだ? どこのシーンから出てきたんだ?」と調べていくと、その情報には必ずと言っていいほど「“あの”nine days wonderのメンバーだった川崎昭と清田敦が」と書かれている。件の試聴機にもそう書かれたPOPが貼られていた記憶がある。その“あの”を、今回観ることが叶った。オリジナルメンバーなので、清田さんが在籍していないときの編成だ。齋藤健介(G, Vo/9dw)、羽田剛(B/OSRUM)、川崎昭(Dr/mouse on the keys)。齋藤さんはZ、羽田さんはNAHTの印象の方が強い。この辺りのポストハードコアシーンに興味を持ちはじめたのはそれこそNAHTからで、そのとき羽田さんは既にndwを離れNAHTに在籍していた。

というわけで完全に後追いなのでどれほどの“あの”だったのか判らなかったのだが、再結成ライヴが告知されたとき「FEVER(のキャパ)じゃ狭すぎる!」「チケットとれるのか?」といったツイートや、尋常でなく感極まっているひとのツイートを多く目にした。これは早いうちにチケットとっておかないと危ないかも、と不安になりプレオーダーにエントリー。案の定外れ真っ青。当選したポンチさんのおかげで入れました、有難うございます……。その後一般売りも即完、当日FEVERのツイートはこのとおり。わざわざクロークのこというの…(他の日では言ってない)それほどギュウギュウってことかね……。

会場の熱気にまず驚く。ロビーはぎゅうぎゅう、物販も大混雑で品薄。急遽ヘルプに入ったらしい(客できていたらしい)ひとがあたふたと、しかし嬉しそうに対応している。客層は自分と同世代あるいはちょっと上、決して若いとはいえない沢山のひとたちが頰を上気させ、少年少女のような笑顔で談笑している。若い子もちらほら、メンバーの今の活動から遡ってきたのかな。フロアはみるみるうちに満杯、開演時間には身動きがとれなくなっていた。それでもまだひとが入ってきて、PA卓の真後ろにもひとがみしっといる。いやー、こんなの久しぶり。エアコン効かせてくれて助かった。

視界は殆どない。そのなかでは羽田さんがいちばん見えたかな。齋藤さんは最初ちらっと見えたときメガネかけてたのに、次に見えたときはなくなってた(笑)。座奏の川崎さんが見えたのはトータルで2分くらいかな……しかしまー演奏が凄まじかった。見えるに越したことはないが、ホントにすごい演奏だったので満足です。そして無性にNAHTを聴きたくなったし、ライヴを観たくなった。似てるってんじゃないんだ、90年代後半〜のエモ/ハードコアシーン・リバイバルに思いを馳せたというか。そこには勿論USオルタナの気配があって、あーデイヴ・グロールがウィルにはまかせられんって差し替えで録音した「My Hero」のドラムフレーズ思い出すとか、eastern youthといいホントこのあたりのベーシストは凄腕揃いだなとか、bloodthirsty butchers吉村さんを筆頭にホントこのあたりのバンドには唯一無二のギター弾くひとばっかだなとか。

実際、フロアにはあのシーンをつくりあげたひとたちが数多いたようだ。本当にすごい混雑っぷりだったので気付かなかったが、帰宅後twitter検索してみれば出るわ出るわ。toeの山㟢さん(そういやFEVERの内装デザイン、山㟢さんが手掛けたんだよね)は来てるだろうなとは思っていたけど、あのひともあのひともいたんだなあ。そしてセイキさんの(現時点では)最後のツイートを思い出したりもしたのでした。セイキさんは昨年、(吉村秀樹会を除けば)五年ぶりにステージに立った。

とまあ多大に感傷的になり、時の流れにしみじみしたりも(スティーヴ・アオキの話も出たしね・笑)しましたが、このシーンの音は今でも格好いい。スリーピースとは思えない音の層には感嘆したなー。そして川崎さんが8ビート叩くの貴重だなあと思っていれば途中からめちゃくちゃ複雑なリズムになって、それがまたテクニカルなのにパワフルという。motkの萌芽はここにあったかと興奮しましたわ。終盤はエモプログレみたいな展開もあり、これまたクリムゾンみたいであった。最近クリムゾンづいてるなあ、個人的リバイバルなのか? などと思う。

活動は継続していく(!)とのことで嬉しい。次回は11/19、同じFEVERでフロアライヴ(!!!)だそうです。「土曜日だし、今回入れなかったお客さんも多かったので、そのひとたちに来てほしい」とMCで言っていたので救済措置の面もあるようですが、すみませんまた観たいのでまた行くと思います。チケットとれますように。後述の『I Drink Milk』で、今後中期の五人編成のライヴも「できるかも」と話しているので、そうなると清田さんが加わったライヴも観られるかも。楽しみに待っていようと思います。

そうそうFEVER、こども用の防音イヤーマフ準備しているとこがいいですね。実際役に立ってました。家族で来れるライヴハウス。お店側もお客さんも、年を経ていろいろなかたちを見いだし、場を作りだしてる。うれしいことだし、たのもしい。

-----

・nine days wonder 2016 trailer


・nine days wonder 2016 trailer pt.2


・15年ぶりに伝説のラインナップ復活!? NINE DAYS WONDER reunion show!!! - LIVEAGE
書き手の思いが伝わる詳細なレポート、セットリストも。
視界がほぼなかったので、フロアにぼちぼちいるプロ仕様カメラマンが撮った写真がどっかの記事になることを祈ってた。有難い!
記事中にあるフリーペーパー『I Drink Milk』には独占インタヴューが掲載されていました。webに出てこないところで動いているシーンの面白さも再確認。ちなみに『I Drink Milk』、休刊してる間にZINEという言葉が出来てた、ZINEの定義は綴じてあることだそうなのでウチのはフリーペーパーだ〜とか後記に書かれていたのにウケた

・77ROMANCE ― nine days wonderのこと|我が親父、健介さん。あまりにも最高!
こちらも思い入れある素敵なテキスト。読めてよかった