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2011年04月28日(木)
『Dr.Feelgood -OIL CITY CONFIDENTIAL-』

『Dr.Feelgood -OIL CITY CONFIDENTIAL-』@シアターN シアター1

イギリスエセックス州、キャンヴェイアイランドから生まれた“世界最強のローカルバンド”、ドクター・フィールグッドのドキュメンタリー。パブを次々と満杯にし、契約前からNMEやMMを賑わせ、契約が決まったアルバムはチャートを駆け上がり、アメリカツアーへと出かけていく。同じ街で育った幼なじみがしのぎを削り、やがてバラバラになっていく。

40年前に結成され、オリジナルメンバーでの活動は6年。映像資料があまり残っていないのかも知れない(実際のライヴ映像自体は結構観られます。シビれる格好よさ!)。しかしそれを逆手にとったかのような構成がいい!契約前のフィールグッドは演奏が終わると衣裳のスーツを着替えることなく即バンで帰宅し、そのままの姿で翌朝仕事に出かけていた。その慌ただしい様子から、彼らは銀行強盗の合間にバンド活動をしていると言われていた(笑)。これを受けた粋なイメージ映像が随所に挿入される。ギャングたちが街の地図を前に怪しげな相談をし、パブを攻略し、金をかき集めて逃げるようにバンで帰っていく。

それに加え、フィールグッドのメンバーと歩くキャンヴェイアイランド名所巡り、メンバーの証言、彼らの周囲にいたひとたち、影響を受けたひとたちのインタヴュー映像が短いカットで矢継ぎ早に繰り出される。インタヴューそのものも、多くの証言がマシンガンのごとく続くので、序盤はそれについていくのに心地よい集中力をかなり使いました。パンクムーヴメント前夜、彼らを目撃し衝撃を受け、楽器を持ちバンドを組んだひとたち――ジョー・ストラマー、スティーヴ・ジョーンズ、サッグス、アンディ・ギルらが、バンドへの興奮と、ウィルコ・ジョンソンが脱退してからのバンドへの正直な気持ちを語る。

とにかくテンポがよくて、膨大な要素を一気に見せていく。スターダムに駆け上がるバンドの勢いそのままのようで、意気が上がる。中盤から少しずつスローになっていく。それはバンドの失速をも残酷に照らし出す。

ウィルコ、ジョン・B・スパークス、ビッグ・フィガーはおじいちゃんになって、笑顔で集まって、当時のことを振り返る。リー・ブリローはいない。彼は1994年に亡くなってしまった。リーとウィルコは仲違いしたままだった。リーのお母さまや奥さまのインタヴューもあり、今でもわだかまりが残っている様子が見て取れた。ステージ上でのリーとウィルコはライバルでもあった。でもどちらも、お互いのことが大好きで尊敬しているようだった。「俺はリーの護衛だよ。マシンガンギターでリーを守るんだ」なんてウィルコは言っている。それを証明するような映像もあった。ウィルコはリーの前に立ち、オーディエンスに向かってギターを構え、リーのことをちらと振り返る。最高に美しいバンドの光景だった。

それが少しずつ擦れ違ってきた。勢いがあるときは気にならないことでも、疲労が蓄積してくると、それぞれのライフスタイルの違いからくるステージをおりた後の過ごし方が気に入らなくなったり(それでもツアーなので四六時中一緒にいなければならない)、ソングライターがウィルコほぼひとりと言うバンド間のバランスがとれなくなってくる。気付いたときには修復が難しいところ迄行っている。当時の記事によると「脱退」か「解雇」かでウィルコとバンド間には齟齬があったようだ。分かれたメンバーはそれぞれの活動を続けるが、どちらも困難がつきまとった。

メンバーが育った環境を紹介するシークエンスとしてのキャンヴェイアイランドと言う土地も、独特の魅力を持って描かれていました。精油所で栄える街。洪水で流された街。メンバーは精油所がそびえる街の風景を美しいと言いつつ、観光客向けのポストカードでは、精油所を塗りつぶして綺麗な景色にして売るんだぜと言う。街の経済はその施設に依る部分も多い。TVの討論番組?に参加していた若き日(ロン毛!)のウィルコが「キャンヴェイが経済的に貧しいから精油所を増やすのか?火災の危険があるのに?精油所はもういらない!」と主張し拍手をもらう映像があった。タイムリーな…いや、こういうことは世界各所で繰り返されてるんだなと思う。

バンドの二度と戻らない時間は輝かしく、永遠に続くことはない。それは人生も同じこと。幼なじみでもあったメンバーは、地元キャンヴェイアイランドで「夢を語り合った」。そして叶ったその夢は「夢以上のものだった」。「何をバカなことをやっていたんだろうと言うひともいるかも知れないけど、俺はこの人生でよかったと思っている」。つらく悲しいことがあっても、生きていればいつかは笑って振り返れるときが来るかも知れない。リーにはもうそれが出来ない。このことだけがとても悲しいし残念です。



2011年04月23日(土)
KYLIE MINOGUE『APHRODITE TOUR 2011』

KYLIE MINOGUE『APHRODITE TOUR 2011』@幕張メッセ イベントホール

大丈夫かな、来日出来るのかな、と日々過ごしていて、クリマンから正式に大丈夫、来る!ってアナウンスあったよーと聴いたとき、嬉しく思ったと同時にどうか無事全行程を終えて無事帰国出来ますように、と思いました。無事やってきて、無事帰る。あたりまえのことだけど、今はそうではありません。

この頼りない地盤の上で過ごす、と言うことが地震知らずの国のひとにとってどれだけ恐怖か。加えて原発のこともある。見えないものだけに警戒心が働くのはあたりまえ。実際この日、カイリーと一緒に来日出演する筈だったアノラークはキャンセルになった。本人の意向かは判らないけど周囲が止めてもおかしくないし、まあ仕方ないよね…残念。

そんな中こうやって来日して、プロフェッショナルな仕事を見せてくれるひとたちのことは本当に尊敬するし、こちらも勇気づけられる。

そーなのよカイリーちゃんバリバリどプロフェッショナルでしたわ。あの凛とした美しさ!舌ったらずの魅力的な声!そんでその華奢な体躯で魅せる身のこなし、その声と確かな歌唱力で奏でられる歌。ぎゃー、ぎゃわゆい!美しい!アフロディーテなんて大層なツアータイトル、カイリーならオッケー!カイリーだからこそオッケー!

しかもあれなのよ絶妙な隙があるの。その隙がまたキュートさを増幅させるんですYo!なんだろ包容力膨満感だとおかーさーん!になってしまうし、凛々しさが全面に出ているとちょ、格好いいけどこわい、になるし、ロリロリバービーを意識しまくると大人の女性が何若ぶってんのよキモーい、になっちゃうんだけど、カイリーはそのどれもが適度。若作りと若々しさは異質なのです。カイリーは溌剌とした大人の女性。大人の女性の優しさ、大人の女性の強さ、大人の女性のかわいさ。そのどれもを兼ね備え、なおかつそのブレンドが絶妙!素晴らしい…なんだこのバランス感覚。自分の魅力を解っていて、それを過信も過小評価もせず、しっかり表現し伝える。それが人間味に溢れていて、心打たれる。そして品のある陽性。ゲイカルチャーとディスコミュージックへの敬意と忠誠心とも言える寄り添いにも感動。こういうのって生きざまから滲み出るものだから、一朝一夕で完成するものではないし、装って出来るものでもない。不遇の時代もありそれを乗り越えたひとの強さと明るさがありました。

いんやそれにしても素晴らしかった、歌……。歌とピアノのみで奏でられ、フロアを敬虔な静寂、それに続く割れんばかりの拍手へと導いたプリファブスプラウト「If You Don't Love Me」カヴァーには涙が出た。

ステージ装置は『Aphrodite Les Folies 2011 Tour』の縮小セットっぽく、なおかつ節電も多少意識したのかも知れないものだったけど、そのシンプルさはカイリーの歌とダンス、フロアとのやりとりと言ったステージングを音楽と人間の力として感じさせるのにひと役買っていた。そこに立っているのは他の誰にも替えられない、唯一無二のカイリー・ミノーグ。日本では、日本でしか観られないものが観られるのだ。

やー、ミッキーマウスじゃないけど、カイリーは世界でだたひとりですよ…そのただひとりが今、日本にいるんですよ…単純なことだけどすごく感動した。とても華奢、ちっちゃい。あの細い身体のどこにあんな強さが?とてもしなやかな美しさ。

女神を迎えるフロアも笑顔笑顔。入場したときから熱気がすごかった。こんなときに来てくれたし、盛り上げなきゃ!いやそうでなくともライヴは20年振り、盛り上がるし!と言った高揚感と緊張感。ドラァグもマッチョも、姐さん方は気合い充分。精一杯おめかしして、ティアラ着けて、手作りのうちわを持って(このアリーナにいた集団すごくキュートだった!五人組で、それぞれ片面「K」「Y」「L」「I」「E」、もう片面は「I」「♡」「Y」「O」「U」ってうちわを掲げて踊りっぱなし。当方スタンドだったので個人の顔やいでたちは判りませんでしたが、動きがとにかくかわいらしかった)。ノンケも負けられないわ(笑)。存分に楽しむよ!来日してくれた感謝の気持ちを返すよ!と全員が思っていたかは判らないけど、そう感じさせる雰囲気に溢れていた。オープニングから数曲唄ったカイリーが、フロアを見渡して「KA WA I I !!!」と言ってくれて嬉しかったなー。いやいやその言葉そっくり返しますよ…カイリーとてもキュートでした。素敵。

オーラスの「All The Lovers」、暗転から浮かび上がるラヴァーズダンサーとカイリー。単色の美しい照明と金色のグリッター。大団円、そしてエンディング。涙で視界がぼやける。夢のような光景。「アイシテル、ニッポン!」カイリーはそう言ってステージをあとにした。

いやー骨抜きにされたあげく喝を入れられた感じです。私負けないわ、前を向くわ。ラヴ&ピースを有難う、カイリー!

セットリストはこちら→・setlist.fm『Kylie Minogue Concert at Makuhari Events Hall, Chiba, Japan Setlist on April 23, 2011』

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・よだん
開演前のアナウンスが印象的でした。震度について具体的な数字を出し、3〜4程度なら続行、5なら中止。耐震構造のホールなので無闇に外に飛び出さないようにとパニックに予防線を張り、中での待機を勧める。そして係員が誘導しますと落ち着かせる。実際に起こってほしくないことだけど、こうやってしっかり説明があると心強いし心構えが出来る。頻繁に余震があるのでなんとなく体感で震度が判るようになってきたしね。
しかし正味な話、震度3〜4くらいだと気付かなかったと思う…踊りくるっておったのでな……。最近では家の中でも立ってたら3くらいでは気付かなかったりするし、外を歩いてたら4でもわかんなかったりするよ。これはこれで問題かも知れないのう。しかしまあこちらがいくら怖がってもあっちはおかまいなしだろうから、この際慣れた方がいいのだろう



2011年04月16日(土)
『欲望という名の電車』

『欲望という名の電車』@PARCO劇場

こわれゆく女を描かせればピカイチの松尾スズキさんが満を持して、と言った感のある『欲望という名の電車』初演出。これまで何度も、いろんな解釈のこの作品を観てきたひとに是非観てほしいし、これが作品初見のひとは是非他の演出版も観てほしいものに仕上がっています。

松尾さんは今回翻案、潤色といったことはやっておらず、つまり書くことは翻訳者にまかせ(今回の訳は小田島恒志さん。2002年蜷川幸雄演出版から改訂したものだそうです)演出に専念。真っ向からこの戯曲に挑んでいます。しかし松尾さんならではのノイズは各所に仕込まれており、その描写が興味深いものになっています。

戯曲自体はちょこちょこカットされている部分もありましたね。オウムの話が途中迄、とか。

いちばん驚いたのは、これ迄戯曲のト書きで読んで頭に入れておき乍ら、実際に舞台で観るとパチっとはまらなかった部分が違和感なく感じられたこと、登場人物たちの言動への理解が多く感じられたこと。猫背さん演じるユーニスに顕著でしたが、例えばブランチを精神病院にぶち込むときが来たとき、「やれやれ、やっと厄介払いが出来る」と言った態度が前面に出ているのです。そしてこれに妙に納得させられてしまう。他にもブランチのことを「うわー面倒な女が来たぞ」と言う感じで扱う空気が濃厚。これはこの街の空気を如実に表しているようにも思えました。貧困、暴力がごくごく普通。酒とギャンブルが娯楽。男は横暴で女はそれを受け流す。殴って暴れて後片付けして仲直りする。ここは“そういう”街なのだ。土地に根ざしたそれは変わることなく自然にそこにあり、外からやってきた者には厳しい顔を見せる。それが残酷な滑稽さとして描写される。

実際、ブランチと天国=エリージャン・フィールドの者たちとのズレた会話には笑えるところが多い。これは他の演出でも自然に表れているものでしたが、その笑いの底に流れる残酷さの根拠が松尾演出ではしっかりと像を結んでいる。これは無理だ、この土地でブランチは生きていける訳がない。そう自然に思わされる。松尾さんだからこそ、松尾さんでなければなかなか出せるものではない演出だったと思います。これはすごい収穫。ブランチの心が崩壊していくさまを具体的に視覚化・聴覚化した場面も流石でした。かなり細かく仕込んでいますが、それが“画”として舞台にたちあがったさまはかなりすごかった。ああひとはこうやって狂っていくんだ、と思いつつ、それが妙にあたたかみを感じさせるもので、悲しく身震いがするものでした。ああなったら誰も助けてあげられない。

反面、どうしても入れずにはいられないのか(笑)戯曲に書かれていない部分での笑いの要素は、笑いつつも疑問が…いやそこも松尾さんだからこそでしたけどね。ミッチがブランチの顔に灯を当てて年齢を確かめるところとか、武闘派看護師とかはえーとそこ迄やるか?とは思いました…。そういえばミッチがつれてた鳩、顔田さんの手品用のものかしら。

秋山さんのブランチは期待通り。美しく哀れでかわいく妖艶で、おぞましいブランチ。ときどき少女のような表情を見せ、タマーリ売りをからかったりする。腺病質な感じと繊細さが紙一重のあやうさが見事でした。池内くんのスタンリーもよかった。粗暴だけどちいさなことに拘りを見せ、プライドが高いがかわいい一面もある。彼とブランチが衝突するのは避けられないと自然に思わせられる魅力溢れるスタンリーでした。てか過去自分が観たスタンリーで、屁をするスタンリーは初めて観た(笑)。しかしこれ真面目な話結構効果的でした。ひとまえで平気で屁をする男、ってそれでもう解るでしょ、いろいろと。この情報量はすごい(笑)。

個人的にステラとミッチは大好きなキャラクター。砂羽さんのステラはホントかわいかった。そのかわいさが次女らしいノホホンさと頓着のなさとして表れており、家を守り続けて敗れた長女ブランチとの対比として効果的でした。あとやっぱりすごいセクシーなんだよね、『人形の家』のノラ的な身体と言おうか。あの声もぴったり。そしてオクイさんのミッチ、すごいよかったー!後半ブランチの正体を知り「夏にやらせてもらえなかったことを」しようとやって来ますが、そのときの態度がとても不器用で悲しい。最後のポーカーのシーンも。ミッチのキャラクターって極端にマザコンにしたり、態度が豹変したとき極端に男の身勝手さを出す演出も多いけど、今回のミッチはどこ迄もひととうまくコミュニケーションがとれない人物として描かれていたことに好感を持ちました。こういうところって、オクイさんの演技もそうですが、どんなしょうもない人物をもあたたかく見詰め冷静に観察する松尾さんの手腕が光っていたように思います。

登場人物皆が愛すべきキャラクター。しかし日々を生きるひとたちは常に残酷な現実と向き合っている。「欲望という名の電車に乗って、墓場という電車に乗り換えて」、ブランチは天国にやってきた。エリージャン・フィールドは、彼女が死ぬにふさわしい場所と言うことだ。天国の住人たちは彼女に引導を渡す役目を果たす。彼女を葬り、街はまた元の平穏を取り戻す。全てを呑み込み流し去り、多くの命が生まれ消えていく海のように。

12月には青年座が鳴海四郎訳、鵜山仁演出で上演します。ブランチは高畑淳子さん(!)。こちらも楽しみ。

(追記:東京千秋楽リピートしました。そちらの感想にもちっとつっこんだこと書きます、印象が変わった箇所もあります。リピートしてよかった!)



2011年04月09日(土)
『トップ・ガールズ』

『トップ・ガールズ』@シアターコクーン

この作品を裕美さんが演出であのキャスト、面白くないわけがない。タイトル通りトップガールたちの競演です。二幕の寺島しのぶさんと麻実れいさんのガチンコ勝負はすごいぜ!

一幕の同時多発会話(ホン指定)はおんなの井戸端会議そのもので、皆自分の言いたいことを言うのが最優先。ひとの話を殆ど聴かない、もしくはひとの話を自分の話題に無理矢理結びつける(笑)。マーリーンの脳内会話でもあるので、全てを把握しているのはマーリーンだけです。世界各地を旅したイザベラ、男にいいようにされているがそれを自覚していない二条、主婦軍団として侵略者に立ち向かうフリート、女性でこどもを産み落としたことが判明した途端リンチによって殺され、歴代の記録から抹消された法王ヨハンナ、夫への絶対服従を疑うことがなかったグリゼルダ。彼女たちの足跡を現代に生きるマーリーンが辿り、悩み、迷い、しかし前へ進む。

彼女たちはマーリーンの悲しみに寄り添う。私たちはこうやって生きてきた。私たちが切り開いて来た苦難の道を、あなたは歩いていき、そして後世の女性たちのためにまた新たな道を開くのだ。

しかし実際のところ、彼女たちもマーリーンも、後世の女性たちのために!と言った志を持って行動している訳ではない。上昇志向が強いだけだ。非難されるものではない。しかし「女性だと」それは蔑みの眼差しを向けられることが少なくない。

専務へと上り詰めたマーリーンの失ってきたものが二幕で露になる。親に頼らず、自分の力で生きていくと故郷を出て行ったマーリーンと、家に残った姉ジョイスの言い争いは、愛情が根底にある分遠慮がなく、いつ迄も平行線だ。

92年のメジャーリーグ版も観た。本国での初演は82年、サッチャーが英国初の女性首相になった三年後に書かれた、キャリル・チャーチルの代表作だ。社会の状況が変わっていないどころか逆行(というかひとまわりして戻った?)しているようにも感じられたのはつらかった。

女だからと言う理由で、仕事や普段の生活でイヤな思いをしたことが全くないとは言わないし、あー結局こういうときって女は泣き寝入りするしかないんだなーと思わされたこともある。この作品を観て「だから女が社会に進出したらこんなになるんだ、おとなしく家にいて男の言いなりになっていればいいのに」と思う男性がいなくなることは決してないように思う。

そして「この子ちょっと足りないのよ。何かが欠けてるの。……この子はものにならないでしょうね」と評価されるマーリーンの姪(実は娘)アンジーのような弱者たちはどうすればいいのだろうと思う。アンジーには隠れた芸術的才能があることが示されるだけに、それを活かせるような社会に出ていけないまま一生を終えるのだろうかと思うとつらい。

しかしそれでも、こうと決めた登場人物たちの生き方には感銘を受けるし、心強い。キッツい話ですが人生の節目節目に観たい作品です、今観られたのはいいタイミングだった。

寺島さん、麻実さんがすごくよかった。二幕の寺島さん演じるマーリーンと麻実さん演じるジョイスの言い争い、同時に喋るシーンが多いのですが、寺島さんの声(高め)と麻実さんの声(低め)のコントラストがハッキリしているので、どちらの台詞も聴き取り易く胸に刺さる。こういった台詞のパワープレイは裕美さん得意とするところ。「内容に関わらず、声が大きいものの方に耳が行く」との考えのもと仕掛けられるラウドなやりとりが以前は多かったのですが、ここ数年でそれだけではない、音量に関わらず台詞のだいじなところをグッサリ届かせる手法が現れ、それがとても芳醇なものに感じられます。それは演者ふたりの力も大きい。

マーリーンの周りにいる、自分のことを「ちょっとトップだと思ってるガールズ」の解釈も裕美さんならではだったなー。痛烈で、しかしコント的に描く面白さ。トップレベルの仕事を観るのはやはりエキサイティングで楽しい。



2011年04月08日(金)
『極東最前線 〜人という字は尻にも見える〜』

『極東最前線 〜人という字は尻にも見える〜』@Shibuya CLUB QUATTRO

二日続けて渋谷。おいひといっぱいおるで…なんだよ昨日のひとの少なさは単に週末前だったからかYo!前日の夜にまた地震あったんで人出減るだろうなと思っていれば。てな訳で激混みセンター街のひとをかきわけクアトロへ。

いやすごかった…いつもすごいけど、こういうときの気迫ってビリビリに伝わるものだ。MCもいつもより少ない。その少ない言葉ひとつひとつはこれ迄とは違って響き、しかし本質的なことは変わらない。ひとの根っこの部分が露になるのはこういうときだ。このバンドはいつもその根っこをてらいもなく見せてくれていたし、この日もそうだった。

災害が、原発がどうこうなんて話は一切しない。ここぞとばかりのステートメントも発さない。自分たちがどうやって立っているかは演奏と歌で伝える。それが全てだ、それが答えだ。

曲間を殆ど空けない。夜明けの歌、沸点36°C、荒野に針路を取れ、一切合切太陽みたいに輝く。このザマを見てくれ、何の役にもたたない。こんなに役にたたないってことを思い知らされるとは、それでもやるんだ、しょんぼりしてたら進む話も進まない、裸足で行かざるを得ない。男子畢生危機一髪、青すぎる空、素晴らしい世界、矯正視力〇.六、敗者復活の歌。街はなくなっても、全てがなくなっても、身体が、身体ひとつ残れば。いいやつばかりじゃない、足踏んだり、電車キセルしたり…なんでこうマイナスなことばっかり出てくるんだろうな(笑)そんな知らないやつ同士が集まって、ちょっとずつ膨らんでいって、ギラッと生きて、街になって、ふるさとになる。街はふるさと。……このセットリストが全てを語る。音の力はすごい。すごい!

三人の音がひとつの塊になって疾走するようでした。そうなりゃこちらも必死で走りますがな。なんだろ普段の音のひねりと滑らかさ(ニノさんのベースに特に感じる)もいいけれど、この日は明らかに剥き身。ギミックなし、とにかく前に進む。そんな音だった。

あとどの辺りだったかな、歌でみんなに元気をぅ!なんて言うけどさ、実は俺の方があんたらから少しずつ元気を吸い取ってる(笑)なんて言ってた吉野さん。返してーとフロアから声がとんだら、おもちで返しますだって。それ歓迎。そしてニノさんコーナーが定番になりつつある…が、今回は大喜利もなく(笑)言うこと準備してなかったようであたふたしておりました。

アンコールは夏の日の午後、砂塵の彼方へ。客出しの音楽が流れ出しても拍手は止まず、再び出て来て今TVに必要なのはコロッケだな!一瞬もの?ひと?と判断迷ったフロアはざわざわ…早回しの野口五郎がって言ったところで納得の笑い(笑)、それでまず俺から救ってほしい。ちょっとシンとしそうになったところ、眠れない夜には俺を呼べ!1、2、3、4、Don Quijote!!!とりはだ。

吉野さんは痩せっぱなし。それであんなたてつづけに進めるもんだからドキドキしたが快調そうでもあった。その汗はドロドロ汗でなくサラサラ汗?みたいな。そう思いたい!やつれて痩せたたんじゃなくて内臓脂肪がとれてスッキリしたんだと思いたい!吉野さん身体ひとつ残ればって言ったじゃーん!身体はだいじだ!命はだいじだ!また会おう!

対バンのオシリペンペンズも面白かったです。ヘンないきものがおるで!三日だけでもつきあって〜とかダメならせめて二日!とか絶叫してますねん。しかしバッキングはめちゃシブのヒッピーみたいなギターだった……ヴォーカルの子はヤジが飛ぶとキョドッたりする小動物みたいな子であった。極東の対バンて毎回面白いけど、どうやって見付けてくるのかね(笑)。



2011年04月07日(木)
WILKO JOHNSON

WILKO JOHNSON@Shibuya CLUB QUATTRO

・wilkojohnson.org『A PERSONAL MESSAGE TO JAPAN』

3.11から数日後、ウィルコはこんなメッセージをくれた。そして、本当に来てくれた。8年振りの単独公演。

3.11以降の平日夜に渋谷に行ったのは初めて。翌日(12日土曜日)に行ってはいたけれど、帰り道暗かった記憶がない。これは動転して街の様子に気が回らなかったのではなく、その日観た『国民の映画』について考え乍ら歩いていたからだと思う。

駅から出ると、暗い!外国人観光客が「『ブレードランナー』の世界だ!」と記念撮影をする、駅前のきらびやかなヴィジョンが全部消えている。TVの天気予報の背景映像で見てはいたけど、実際出掛けてみると「くらっ!」て思うわ。センター街に入ると多少明るかったけど、ひと通りもちょっと少なくて歩きやすかった。呑み屋さんの呼び込みのひとが沢山いた。

しかしクアトロは満杯でした!見るひと見るひと高揚した表情、ワクワクした雰囲気に溢れてる。開演30分前から『ドクター・フィールグッド ―オイル・シティ・コンフィデンシャル―』のダイジェスト上映。フロア上手にスクリーンを張ってプロジェクターで映したんですが、暗転後なかなか始まらない。んん?どうやらサインが届かなかったようで、リモコンを持ったスタッフの方がフロアに降りてきてプロジェクターに向かいボタンを何度も押すと言う腰砕けの展開に(笑)。どこからか「家のTVと一緒じゃねえか〜」と声がとんで大ウケ。ようやく始まってみれば準備映像のカウントダウンから流れ出し、それにもウケる。途中から「8、7、6〜」と唱和が自然発生、本編が始まると拍手と言う妙な盛り上がり。

スクリーンのなかのウィルコは髪の毛があって(笑)、ビックリ顔が標準で、ヘンな顔で、ヘンな動きでステージからマシンガンギターを撃ちまくる。ヘン…ヘン過ぎる……それが突き抜けて格好いい。映画は観に行く予定なのでこまかい感想はそのときに。

ベースはイアン・デューリー&ザ・ブロックヘッズからの盟友ノーマン・ワット・ロイ。ドラムは2009年から参加のディラン・ハウ。このひとスティーヴ・ハウの息子さんなんですねー、後になって知りました。このディラン、ウィルコやノーマンとは20くらい歳が違い、参加してまだ2年足らずのせいか?ふたりの阿吽の呼吸を掴みきれずところどころあわわってなってるようなところもありました。てかウィルコとノーマンのリズム感覚がすごく独特なんですわ…曲自体もリフ一発でぐいぐい進めるものなのに実はリズムやテンポが複雑だったりする。これは難しかろー。ウィルコと噛み合ったと思えばノーマンと離れ、ノーマンとガチっと合ったと思ったらウィルコがもう遠くに行っている、みたいな(苦笑)。しかしなんつうかそういうのもライヴの醍醐味で、聴いててなんだか嬉しくなってしまうのよ。終盤になるにつれだんだん合ってきたりするともうね、ああこのひとたち音で会話しているんだなあ、コミュニケーションをこうやってとっていくんだなあなんて思って。それぞれのソロもゴキゲンで、終始笑顔で観ていた。シンプルなトリオバンド。それぞれの音が素直に伝わり、音と音の間も意識出来るので立体的に聴こえる。それが身体に沁みわたる。

『オイル・シティ・コンフィデンシャル』の映像からの流れで観たウィルコは確かにおじいちゃんになっていた。ジャンプも減った。前回の単独公演(2003年)の翌年、奥さまのアイリーンを亡くした。「Paradise」で“I'll love you still Irene Irene”と唄った。でもあの愛嬌のある表情は変わらず、ギターの音はやはり最高に格好よく、リフの最初の一音が鳴ればもう全てがオーライとさえ思える。歌なんて前より上手くなってたような気もした(笑)。今のウィルコを観られたことがとても嬉しかった。

アンコールに出て来たメンバーに歓声が飛んだが、すぐにフロアはしんと静まり返った。ウィルコが「今回日本に起こった出来事は…」と話し始めたからだ。殆ど聴き取れなかったが、最後に彼はハッキリと「I Love JAPAN!」と言った。拍手と大歓声。「Bye Bye Johnny」は大合唱になった。ステージに向かって振られる沢山の手。ウィルコが手を振る。来てくれて本当に有難う、音楽を聴かせてくれて有難う。

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セットリスト

01. All Right
02. Barbed Wire Blues
03. The More I Give
04. Dr. Dupree
05. The Western Plains
06. Roxette
07. Sneaking Suspicion
08. When The Night Goes By
09. When I'm Gone
10. The Beautiful Madrilena
11. Paradise
12. Don't Let Your Daddy Know
13. Back In The Night
14. She Does It Right
ENCORE
15. Bye Bye Johnny

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