Movin'on without you
mako



 招待状

前のバイト先の上司から
結婚式の招待状がきた。

あたしが妙にかまわれていたそのひとは、
いかせんの奥さんに昔惚れてた。


彼がいた部署は、
正社員がたったふたりしかいない部署で
あとは全員バイトの学生で
いかせんの奥さんと、彼とふたり。
残業も打ち合わせも全部ふたりきり。

気が強くて美人の「彼女」に
惚れるまでに時間はかからない・・よね。


でも、そこに現れたのはいかせん。
彼女といかせんが付き合い始めるのは、
その後、すぐ。

そう。あたしが
いかせんに大切にしてる女性がいると知って
泣きに泣いた、18の皐月のころ。



その頃の彼はきっと、
いかせんに見事に好きだったひとを持っていかれて
毎日一緒に帰っていく姿を見なくちゃいけなくて

辛かったんだろうなーと思う。


そんな彼の辛い気持ちなんて、
正直どうでもよかったんだけど。

同情すらしないくらいに、
どうでもよかったんだけど。



あたしが彼と仲良くしていた理由はひとつだけ。
彼と仲良くしていることで
いかせんの奥さんに、ちょっとでも近づきたかった。
近づいて何かを壊そうとするほど
身の程知らずでも大人でもなかったけれど
ただ、目の届く範囲にいつもいたくて、

ただ怖くて多分に憎くて。


同情はしないけれど、
奪ってくれたらってどれだけ思っただろう。
彼が、いかせんの彼女であるあの人を
奪ってさらってくれたら、ってそんなことだけは考えた。




いかせんの奥さんが、帰った頃を見計らって
彼のいる部署に遊びに行った。

いかせんの奥さんの席にわざと座って
卓上のカレンダー、さりげなくめくって
彼の誕生日にわざとらしくついてるハートマークを
見ながら、それを心の中で笑ったりした。

会社のカレンダーにハートなんてつける彼女を嘲笑することで
あたしはなんとか気持ちを保っていたのかもしれない。

なんでも知ってるんだよ、って言ってやりたかった。

18歳にしては子供すぎたけど、
好きすぎて何もわからない子供だった。認めてる。




結婚式の招待状を送ってくるほどに
そのひとはあたしのことをかわいがっていた。
人生で初めて出来た女友達だ、と言われたこともあるし
妹みたいに思ってる、と言われたこともある。

でも、そのひとが思っているほどに
あたしは彼のことを慕っているわけでもなく
ただ目的はひとつだけで、
あなたに会いたかったわけでは当然無く、
あなたのすぐそばにいた、
あなたが昔好きだった、
でも思いが叶わなかった、
今では一人の妻として母として幸せな人生を送っている

いかせんの彼女を、監視していたかっただけ。



招待状にあった幸せそうに笑う写真を見ながら
あたしが思い出すことは、いかせんのことだけ。



招待状には
「欠席」にマルをうった。



結婚式に行って
いかせんに会えるのなら
迷うことも無く、行くのだけれど。






2004年10月11日(月)
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