Desert Beyond
ひさ



 夏はつとめて

クラスメートの家で男だけで飲み語って、
明け方に帰ってきた。
薄闇の街を自転車でゆっくりと抜けてくる。
途中のお堂で
お参りした早起きおじいさんが自転車にまたがった。
お堂の隣の花壇の隅に、白黒の猫が座っていた。
僕が止まって「にゃあ」と言うと、
じっとこちらを見たけど動かなかった。
あまり人がにゃあと言うのは珍しくないみたいだった。

四階のアパート、東向き。
カーテンを開けて椅子に座って東を見た。
高いところにある夏雲の上端だけは朝日に照らされ桃色だった。
山はまだ深緑で、上に建つ幾つかの鉄塔は存在感のない黒色。
そう思っているとすぐ傍の中空を
二羽の燕が鋭く弧を描いて一瞬で視界から消えた。
高く薄い雲はさざ波のように波をうっていて
薄いところと濃いところが遠くの山の向こうまで続いている。
僕のベランダのバスタオルはさざ波を受けて少し揺れた。



2006年07月29日(土)



 真夏の紫陽花

26日に九州と四国は梅雨明けした。
確かに雨は降らないで
夕方には見回すと方々で夕日に照らされた
入道雲がもくもくと浮かんでいた。
とうとう夏がやってきた。
昼間は太陽がカンカンに照り付けてとても暑い。
それでも半ズボンで自転車をこいで学校へ。
途中、川沿いの家の日の当たらない裏庭で
ひっそりと紫陽花が咲いているのを見た。
嗚呼、綺麗だなぁ。

僕は8月の10日くらいから10日間ほど実家へ帰る。
飛行機はやっぱり高いし
バスはたこ詰めにされるのにそこそこお金かかるので
青春18切符でごとごとと、電車で帰ることにした。
時間的に余裕を作って
明石で明石焼きでも食べてこようか知らん、と思う。

先日、黒澤明の「七人の侍」を見た。
三船敏郎があまりにも若くて驚いた。
はじめ本人じゃないのかと思ったほどだ。
前編がはじまって30分ほどでじーん、ときた。
戦国・江戸の人々の旅を思ったら
電車で旅して野宿するっていっても大したことないな、と思う。
大人になればなるほど贅沢になってきて
それがあたかも当たり前のようになっている自分に気づくと
ぬるいな、と思う。

コーヒー&シガレットという映画を見た。
10分ちょっとくらいの短編がたくさん入っていて
有名な俳優などがたくさん出てくる。
すべて珈琲と煙草が出てくる。
人間模様も。
僕は煙草は吸わないので残念だが
珈琲と人の良さがよおくわかる。

僕は家にネットを引いていない。
それに慣れてしまって、
一週間に1度ほどしかメールをチェックしない。
ジャンクメールがたくさん入っていた。
題名:
「貴方の家にバニーガールがやってきます」

やれやれ....

2006年07月28日(金)



 釣り、9時間半

ゆうべの0時から友達とつりに行ってきた。
雨が降ったり止んだりしてる毎日で
昨日はちょっと曇りがちが多い雨模様の日。
論文提出が昨日で、終わった開放感から
僕らはつりにでも行こうじゃないか、という話に。

広島行きのフェリーの出るその漁港は
夜はひっそりしていた。
漁港に向かうようにして建っている家々の中には
たいていめし屋があるもので
僕はその佇まいと空気が好きだ。
夜、そのあたりの人々は静かな寝息をたてているのだろう。
僕らは小さい灯台の元で釣り
桟橋に移動してもやい掛けの上に座って釣り
結果は散々なものでハオコゼくらいしか釣れなかった。
夜明けが近づいてくるとおじさんが独り釣りに来た。
早起きさん。「おはようございます。」
おじさんが竿を出して3分ほどで
僕らの一晩の釣った魚の記録を抜かれた...。
「場所、移そうか...」
あまり本気の漁師の漁船がおいてない漁港へ。
夜は明けた。
そこではあいなめやら何やら少しは釣れた。
愛媛の海には島がたくさん浮いていて朝ぼらけ。
ぼんやりと竿をだしていると
僕らのいる防波堤の先へ
ひょこひょことおばあさんが歩いてきた。
なかなか良さそうな竿と大きめのクーラーボックス。
にっこり笑って「おはようございます」
おばあさんが竿を出して1分で
僕らが朝まで釣った魚の記録を抜かされた。
「.........。」
港の近くに友達は住んでいるので
仕掛けをかえてやりたい、と。もう朝だのに。
僕のぶんまで仕掛けを持ってきてくれた。
すると小さめのアジやメジナがたくさんつれた。
帰りにアジはおばあさんにあげたよ。

2006年07月25日(火)



 独りでの食事

外でひとりで食事するとき手持ち無沙汰になる。「食べる」ということは当然必要不可欠であると同時に、ある種卑しい行為でもあると僕は心の奥底で思ってしまっている、と思う。武士は食わねど…、という言葉の中にもそんな認識も隠されていると思う。イスラム圏の料理がそこまで美味しくない理由は、食へのこだわりは禁欲と相反するからではないのかと思う…。こうした事はさておき、結果として僕は食べている所を見られるのは恥ずかしい。広いスペースで一人で食べていると軽く周りの目を意識してしまう。誰も見ていないのに…。手持ち無沙汰なのが余計そうさせる。ただ純粋に一人ぼっちだからというのがあると思うけど、どうしても雑誌や本を見ながら食べようとしてしまう。僕の場合、そんな時に無理して読もうとしても全く読めていない。そもそも本を横目に食べるというような器用な事ができないのだ。無理にしようとすると、箸はピタリと止まってしまい、食事を前に本だけ読んでいた、というような事になる。あったかいご飯が冷めてしまうのも嫌な
ので、大抵は本は閉じてご飯だけ食べる事になって落ち着く。そんな頃には周りの目なんて大して気にならなくなっているものだ。



2006年07月22日(土)



 まだまだ続く

大学の四階にある実験室で、僕はひたすらビーカーに入った火山灰を超音波洗浄器にかける。ジィー、と人の聴きうる限りの高い音が部屋に響く。ここのところずっと雨続きで、今日も降ったり止んだりしている。窓際の椅子にかけて外を見ると低い山々に細長い雲がたなびいていて、それは山に沿ってゆっくりと動いていた。

僕は古本屋で別々の著者による四冊のエッセイを買って、夜が更けた頃順繰りに読んでいった。ある程度満足するまで読んだら次の本へ。

僕は電車で横須賀まで行った事がなかった。最近は京急がらみの話を読んだり聴いたりすることが多い。くるりのあの曲にしたってそうだ。キリンジにしたって唄っているわけで、京急には独特の味があるんだろうなと思う今日この頃。赤い電車に乗って三崎へ....。


2006年07月21日(金)



 梅雨は続く

雨が軒を終わりなく叩く
梅雨はもう明けたと思ったのに
飽きることなく天からの水は
地上を伝って海に流れてゆく
きっと海は普段より薄味
僕が横になっているこのベッドの
何十mも下には
誰も知らない地下の川が
とうとうと流れているかもしれない
その川には名前がない
僕の意識の中にだけ存在する川


2006年07月19日(水)



 温室の蜂

今学期は何度も何度も松山の南方へ足を伸ばし
ハンマーをもって完全防備で山を登って谷を抜けた。
データのまとめと発表準備もがんばって行ったので
僕らは最優秀賞の栄誉に輝いた。
がんばった甲斐があったというもの。

ラスト・ワルツという小説を一気に読んだ。
少しだけ村上春樹と似ているけれど
読んでいて不安になって非常にもどかしかった。
読み終わった後もそのもどかしさは僕の心を捉えて
複雑で中途半端な気分にさせられた。
良いところもあったけど
個人的には読まない方が良かったのかもしれない。

今日は以前手伝っていたシダ植物の温室内に
直射日光を防ぐ黒い網を張る作業を手伝った。
張るにあたってそこまで広くない温室内に
あしなが蜂の巣がそこここに5つもあることがわかって
蜂用殺虫剤で殺してしまうことになった。

子供の頃、蜂の巣を水と棒でなんとかしようと
孤軍奮闘で退治していて
蜂の巣が壊滅状態になったとき
ふと見るとコンクリートの上に息絶え絶えの蜂がいた。
僕はなぜか、土の上で死ねない蜂に同情して
その蜂をすぐそばの土の上に置いてやろうと思った。
羽を持って動かすそのときに蜂のお尻から針がでて
小さい僕は蜂に刺された。

一生懸命温室に巣を作っていた蜂たちは
みんな死んでしまった。
ずいぶんとむごい話だな、と思った。
あのまま作業したら確実に刺されていただろうけど。

図書館は独特のにおいがする。
古い紙のにおい。
ずいぶんと落ち着く。
パソコンのキーボードを打つぱたぱたぱたという音と
本の頁をめくる音だけが聴こえる。

2006年07月11日(火)



 それぞれのヒステリックナイト

今日もまたあまり風のない蒸し暑い夜。
家に帰ってくるとき、
近所から女の人がヒステリックに怒りまくってる声が聴こえた。
夕食に食べたレトルトのタイカレーは
予想以上の美味しさと量で大満足だった。
ベッドの上で寝転がってじっとしていると、
今度は他の方向から女の人
の怒り続ける声が聴こえてきた。
皆さん大変だ。



2006年07月03日(月)



 真夜中のシルキーヴォイス

一日中ごろごろとしていたので、
瞼が重くなってきてもなんだか素直に寝る気にならない。
あまり煩くないボーカルものを
小さめの音で流して短篇小説を一編読んだ。

高校生の頃、国語教師が
「男子が宮本輝などが好きだと言うと
文学好きの間ではちょっと疑われちゃう」
と言うような事を言っていた。
宮本輝の文章は柔らかい。
ハードな文学男子には軟弱なように取られる、
と言う意味合いだったと思う。

僕は宮本輝の文章は好きだ。
正当派で静かな風で、
柔らかい文章は登場人物が男でも女でも
全く違和感なしに自然に読ませてくれる。

ソウルを聴きたくなっても
大抵はレコードで実家に所有しているので聴けない。
どうしてもアイズレー・ブラザーズが聴きたくなって、
メロウな曲ばかり集めた企画もののコンピを借りた。
梅雨の暗い曇りの日、たまに冷蔵庫の音が聴こえる。
部屋はアイズレーのシルキーヴォイスで満たされた。

アリゾナの午後の乾いた空気。
ぼろアパートのまるで加湿送風機かのようなスワンプクーラー。
大音量で流れてくるアイズレーの"FOR THE LOVE OF YOU"。

カラスはおばあさんが大事にしているスープのスプーンをさらって行ってしまう。カラスは木のウロか何かに隠したけれど、後で自分がスプーンをどこに隠したか忘れてしまう。



2006年07月02日(日)
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