空虚。
しずく。



 夢。

私が見る夢には、いつもかならずあるものがある。

血液と、死体。

時にそれは、大量だったりもする。
けれど、必ずその中には"あなた"がいる。

子供の頃に見た、誰かに追われる怖い夢。
泣きながら走って、捕まった所で目が覚める。
だけど、時には覚めることなく、続きを見る事がある。
良かったことなんて一度だってない。
喰われる、殺される、犯される。
その、どれかだった。

けれど。
それが、ある日逆転した。
追われる者から、追う者へ。
殺される者から、殺す者へ。

夢の中の私はジェノサイダー。
ただ、周りの人間を殺していく。
そこに"在たから"という理由だけで。

家族、友人、他人。
そして、あなたでさえも。

死体の山の中、見渡す限りの紅。
私は歌を口ずさみながら、ただ、佇む。

笑うでもなく、泣くでもなく。
すぐ側の、動かないあなたを見つめながら。


目が覚めても、残っている感触。
あなたの冷たい手。ぬめりを帯びた身体。
抱きしめた時の、少しだけの恍惚感。

「(ほんとは、ずっとこうしたかった?)」

手に残った血の匂いを、
思いと共に振り払って、カッターを取り出す。
その刃を軽く滑らせるだけで流れるのは、夢と同じ、紅。

だけど、自分じゃ、ダメ。
やっぱり、あなたなんだ。

殺せば、解かるかな?
あのすごく不思議な、気持ち。

行き着く思考は、いつもそれ。
このままじゃ、本当に・・・まずい。

******************

殺せば、もう誰も見ないよね。
ずっと抱きしめててもいいんだよね。
ああ、ちょっとぞくぞくする。
きっとすごく綺麗なんだろうな。
殺したいな。あ、でも殺す前にもう一回抱きたいな。
だって、死んじゃったら喘いでくれないでしょ?

ただの、モノでいいから。
喋らないけど、笑わないけど。
それでもいい。もう、それでいい。
私しか見る人いないもの。
私しか触れる人いないもの。
ずっと欲しかった、生きてるあなた。
だけどもう、真っ赤に染まった"モノ"でいい。

手に入らないんだったら、奪わなきゃ。
ね、もう何もわがまま言わないから。
最後に、一番欲しいものちょうだい。

もう、笑ってなんて言わないから。
もう、抱きたいなんて言わないから。

死んで。

ただ、それだけ。

******************

2001年12月12日(水)
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