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2026年09月05日(土)
『アメリカン・ドリーム』

『アメリカン・ドリーム』@PARCO劇場

『情熱大陸』の小日向さん回を観てしまっていたのであの台詞ははまっさらの状態で聴きたかった〜! と悶えはしたもののもはやそれもどうでもいいと思える程怒涛の名台詞の応酬、それを語る役者の声、その声が消えたときの余韻。いや、もう、こういうのが観られるから観劇はやめられない 『アメリカン・ドリーム』

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— kai (@flower-lens.bsky.social) 22:01 · Sep 5, 2026

ぬ、これだとその台詞がどうでもよかったみたいにとれるな。『情熱大陸』でネタバレ見ちゃったことがもうどうでもいという意味です! よい役者がよい声でよいホンを語る、よい姿でよい舞台に立つ。全てが揃うのってなかなかないことです。三谷幸喜が手掛ける作品にはその確率が非常に高い。たったひとつ残念だったのは、後ろのオヤジ(開演前の会話からして関係者)がいびきかいて寝てたことだな。おまえ絶許、寝るならいびきかくな。

1940年代後半に吹き荒れた「赤狩り」の話です。特にハリウッドでは見せしめとして、多くの才能が「コミュニスト/共産主義者」と断罪され映画界を追放されました。仲間を売ったエリア・カザンにアカデミー賞名誉賞が与えられたとき、授賞式会場の反応が真っ二つに分かれた異様な雰囲気は今でもよく憶えています。あの件で初めて「赤狩り」とは何だったのかを意識したのでした。

今作は、その聴聞会が舞台。非米活動委員会から呼び出された4人の映画人たち──大きな仕事に恵まれない女優(関谷春子)、何がなんでも映画を撮り続けたい監督(浅野和之)、ファシズム吹き荒れるドイツから亡命してきた脚本家(山崎一)、共産党員である(あった)ことを隠さない売れっ子の脚本家(小日向文世)──は、映画に全く興味のない委員(浅野雅博)と、映画が大好きで俳優を目指していたこともある委員(中川大志)から究極の選択を迫られます。密告するか、仕事を失うか。緊迫感に満ちた会話が続きます。

4人の映画人には、それぞれ説得力のある言い分があります。関谷さん演じる女優の必死さとある種の楽観、浅野(和)さん演じる監督の自信と喰えなさも見事でしたが、尋問をのらりくらりと躱す山崎さん演じる亡命脚本家が圧巻でした。タイトルの“アメリカン・ドリーム”は、移民である彼の口から語られます。ファシズムの次はコミュニズムか。何がアメリカン・ドリームだ……笑わせるだけ笑わせといたあとにストンと落とされた凄みに、客席がしんと静まり返りました。前述のオヤジもこのときは静かで助かった。

聴聞会の最後に登場するのが小日向さん。演じるのは、実在の脚本家であるダルトン・トランボがモデルの人物です。議会侮辱罪に問われ投獄された「ハリウッド・テン」のひとり。『スパルタカス』『栄光への脱出』といった大作の脚本家として知られていますが、『ローマの休日』の脚本等は“有罪判決”後、偽名で活動していた時期の作品です(その後正式にクレジット)。『ジョニーは戦場へ行った』を書き、その後自身の手で映画化したことでも知られています。私が書くのは弱者に寄り添った作品だ。共産主義に依るものかどうかは関係ない。その正鵠を射た主張に、委員のふたりはぐうの音も出ません。

弱者に寄り添うことはコミュニズムになるのか?(この質問自体がおかしいとわかってるんじゃないか?)まだ観ていない映画を観たような気分にさせてしまう情報とは?(噂や雰囲気に左右されていないか?)……台詞はさまざまなレイヤーを持つ。そのニュアンスを、演者が持てる技術を駆使して語ります。声の微妙なトーン、リズムの変化で、書き手の狙いを的確に、或いはそれをも超えた気付きをも観客に伝えてくれる。ダルトンには小日向さんの声と姿が必要だった、と思わせられるものでした。小日向さんだけではない、よくぞそんな役者を揃えてくれた。あの女優には関谷さんの意気が、監督には浅野(和)さんの軽妙さが、亡命脚本家には山崎さんの手に負えなさ(笑)が必要だった。そして中川さんの迷い、浅野(雅)さんの揺れ。そしてこんな演者を揃えられるのは、三谷さんの作品だからだ。こういうのが観たくて舞台に通うのだ。客席にいる幸運を噛み締めました。

ホテルの別室、隠しカメラを通した映像、奥行きのある舞台使い。台詞の層を視覚化したような舞台美術(松井るみ)にも、場面転換ごとに息を呑みました。その境界を物理的に超えた山崎さんのシーンには大きなどよめきと笑いが起こりました。演技というものを信じる、三谷さんの映画と舞台への矜持が感じられる演出でした。

ホテルの一室にひとりずつ呼び出され尋問されていく4場+聴聞会が終了したあとの1場で計5場かな。尋問はひとり30分前後。委員側は出ずっぱりです。クセつよの4人を相手に、怒り、惑い、やがて「自分たちがやってることは正しいことなのか? 愛国心とは?」と疑問に思い始める過程も見せていく。いやーこれ、中川さんと浅野(雅)さんたいへんねー! 素晴らしかったです!

三谷さんの作品には、未熟者が一歩成長するという裏テーマがどの作品にも隠されていますが(?)、今作も映画好きの青年の葛藤と気付きを描いています。ハリウッドを追われても別名義で脚本を書き続けると暗に示唆した脚本家と、それを聴いた彼の対話でこの作品が終わっても充分なカタルシスがあった。しかし三谷さんはそうしなかった。今回唸ったのは、査問会終了後のシーンでした。持たざる者である女優への視線。そしてその女優の持つポジティヴな強さ。映画好きの若者の目を通して、三谷さんが“弱者”とその逞しさを描いたことが、今作の大きな余韻になりました。