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2024年10月19日(土)
『破墓/パミョ』

『破墓/パミョ』@新宿ピカデリー シアター6



(デジタルムビチケの特典が、鑑賞後ランダムに送られてくるキャラクター画像だったのでした)

改葬のために集まった風水師(地官)、葬儀師、巫堂(ムーダン)とその弟子(法師)が、墓から出てきた“ヤバいもの”と闘うというふんわりとした設定しか知らずに観たらまーこれが面白い。そして単純に面白いといいっぱなしにも出来ない。非常に読み解きが必要で余韻が深い。鑑賞者の心根も問われる作品でした。難しいってことではないよ! 祈祷のフェスっぷりがすごいよ! 以下ネタバレあります。

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原題『파묘(破墓)』、英題『Exhuma』。2024年、チャン・ジェヒョン監督作品。本国で今年2月に公開され、動員1200万人の大ヒットを飛ばし、その後133か国で公開されているとのことだが、韓国と日本にしか伝わらないものがあるのは間違いない(実際どうなんだろう、他の国ではヒットしたんだろうか?)。第一声が日本語、日本人に間違われる韓国人、というシーンから始まるこの映画は、日本と韓国以外の国でどのような印象を持つのだろう? この作品の面白さが「わかる」日本人でよかったと思うと同時に、この作品から発せられるメッセージが「わかる」日本人であることに罪悪感と使命感を抱く。岩井志麻子の言葉を思い出す、「良くも悪くも日本と韓国は縁が深い」。“ヤバいもの”とは、日本と韓国の歴史そのものでもあったのだ。

重いテーマだが、監督はそれをある意味爽やかに、スポーティーにすら描いている。今のようにヘイトが表出していない時代(それは逆に、無邪気な差別と排斥があったということでもあるのだが)、スポーツの世界で「日本と韓国は永遠のライバル」といわれていた時代を知っている者からすれば、その優しさに涙が出てしまう。傷は消えない。でも未来のことを考えよう。次世代のために、争いや恨みつらみは自分たちの代で終わりにしよう。そんなあたたかさすら感じた。これに応えなければ、と思わずにはいられない。

後述インタヴューでチェ・ミンシクが話している通り、改葬のため集まる4人はアベンジャーズの趣(本国公開時には「墓ベンジャーズ」と呼ばれてたとか)。いいギャラ出るぜと集まった彼らは、謎を追ううち自国に巨大な影響を及ぼした存在と対峙することになる。依頼者を、仲間を、自分たちの国土を守るため、身を呈して闘う。互いの職務に敬意と信頼をもって行動する。

このプロフェッショナルズがとにかく格好いい。風水師と葬儀師のおじさんチーム、巫堂と法師のMZ世代チームというバディ×2の関係性にもグッとくるし、それぞれの所作に説得力がある。巫堂がコンバースを履いて祈禱したり、法師がインカムマイクを装着していたりと、伝統と機能性のハイブリッドは進化を感じさせる。風水師が森を歩き土地を“見る”ふるまい、死者を送り出す葬儀師のふるまい等、各々の仕事との向き合い方をさりげないシーンで見せるカットもいい。塩の撒き方すら美しい。

風水、シャーマンという土着的な風習を重んじるメンバーのなかに、ひとりクリスチャンである葬儀師がいる。繋がっていく歴史の射程は長い。度重なる侵略の歴史だ。“鬼”の実態はひとつではない。日韓併合の時代から朝鮮出兵、倭寇(おそらく。台詞に「500年前」って出てきて、そんな前? な、なんだっけ? と調べた…)に迄ときは遡る。本当に長い時間だ。鬼と対峙した巫堂が、「ここは私たちの土地だ、戦争は終わった」と告げるシーンには、“鬼”を倒すというより元の場所に帰るのだと諭すような切実な叫びがあった。

日韓の関係だけでなく、韓国内の問題にも眼差しが向けられていることも興味深かった。富豪となりアメリカで暮らしていてもなお、家父長制に縛られ続ける依頼者の家庭。それを解放すべく改葬を引き受ける女性。世代や性別を問わず能力を認め、敬意を払う年長者。巫堂と弟子、妊婦と中学生(くらいかな)の巫堂たちの信頼関係にも胸が熱くなった。彼らは血族を問わず、家族のような間柄になる。

凄絶な闘いの端々にユーモアが散りばめられているところにも、監督の思いが反映されているように感じた。「鶏殺したくないなー」「普段はフライドチキン食べてるくせに」とか、「あ、娘の結婚式どうしよう」とか。全身にお経書いた姿で検問突破するとこもウケた、不審すぎるだろう(笑)。惨事は全部クマのせい、秘密を知っているのはこの4人だけ。という終わり方もよかったな。いやーこれ医者や警察にどう説明すんのよと現実的な心配をしていたので、そんな解決策があったか! と思わずニッコリしちゃった。クマは気の毒だけどな(笑)。

やるならやらねばの風水師ミンシク先生(貫禄なのにかわいい!)、穏健なオプティミスト葬儀師ユ・へジン(愛嬌ある言動と誠実な仕事ぶりのギャップ!)、ちょーかっこいい巫堂キム・ゴウン(祈祷シーンのトランスっぷり!)とちょーかっこかわいい弟子イ・ドヒョン(声もいい。台詞の7割くらいがお経と日本語だったかと……「クソババア」の発音めちゃめちゃよかった・笑)。揃って愛すべきキャラクター。ドヒョンさんはこれが映画デビュー作だそうで驚いた。ドラマでは活躍していたそうだが……現在兵役中だそうで、しばらく新作を観られそうにないのが残念。今後映画でも観られる機会が増えそうってか増えてほしい。

音響も抜群。あらゆるところで鳴っている音の配置が効果的で、鶏声や心電図モニター等、小さな音が的確に耳に飛び込んでくる。スリラー映画にありがちな、大きな音で驚かせるハッタリがないところにも好感。観られる方は是非劇場で。

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・破墓 パミョ┃輝国山人の韓国映画
いつもお世話になっております。そうそう1シーンだけ花札のシーンありましたね。韓国のクリスチャンが花札やるっての、『渇き』で覚えた(笑)

・パミョ┃ナムウィキ
解説いろいろ。墓ベンジャーズ4人の名前は朝鮮独立運動の闘士からとられているとのこと。ヌレオンナは本編ではちゃんと見えなくて「蛇?」くらいに思ってたので、画像を見てヒィッとなった

・ 「シュリ」「オールド・ボーイ」チェ・ミンシクが新作『破墓/パミョ』で来日!彼が日本でいつも楽しみにしていることは?┃Kstyle
誰かのために、家族のために、幸せと無事を祈る切実な心。韓国の土俗信仰は、本来は、そういうものだと考えています
これはいいインタヴュー! ミンシク先生の演技に対する向き合い方から好きな食べもの、日本での思い出(『シュリ』のとき温泉連れてってくれた「日本の配給会社の社長さん」って、 シネカノンの李鳳宇さんだよね?)、そして映画館で映画を観ることについて。信仰についての話も興味深い。食べてた土がお菓子で出来ているとわかって安心もした(笑)

・「私たち俳優はインテリア業者」…韓国の名優チェ・ミンシクが語る新作「破墓/パミョ」と映画に臨む思い、そして大杉漣の一言┃読売新聞
日本のみなさんでしたら、きっと映画として愛してくださるでしょうし、『これは映画だ、これは一つの題材なんだ』というふうに思って見てくださると信じています
(『隻眼の虎』で共演した大杉漣に)「この役を演じることにプレッシャーはないですか、負担は感じませんか」と質問を投げかけたところ、大杉さんの答えは明快でした。「これは映画ですよ」と。私は、「はい」とお返事しつつ、やはり、俳優さんだな、とその時思いました。大杉漣さんは、本当にすてきな俳優さんでした
漣さんのことを憶えていてくれて有難う(泣)
思えば韓国、『哭声』で(國)ムラジュンが大人気になった国であった

・破墓 パミョ インタビュー: チェ・ミンシク、気鋭監督の挑戦を後押し「大切なのは、自分がこう撮りたいと考えた表現を貫くこと」┃映画.com
脚本を読んで、ひとつの作品に2つの物語があるような印象を受けたんです
ミンシク先生、今は事務所に所属せず直接オファーを受けひとり現場に出かけていく樹木希林方式だそうで、若い監督とのコラボレーションも積極的に楽しんでいるようです。『オールド・ボーイ』撮影時のエピソードもすごい。業界の環境が改善されていく変遷を体験しているベテランですね

・ファリムとボンギルの情報ずらずら┃0takuinkorea
ツイート拝借。ファリムとボンギル、師弟巫堂についてのあれこれ。解像度上がる! 有難い! 「元野球選手で全身に太乙保身経のタトゥーを入れた巫堂」が実際にいたことにも驚いた


ツイート拝借。いい話だ……

・前述の「車のナンバー」について。その並びを見たらピンとくる数字があらゆるところに散りばめられていたのです。「0815」とか「38」とかね。見逃したところもありそうなので、これはリピートのしがいがあるわ

・個人的には和田慎二の『超少女明日香』シリーズを思い出したりしました。わかるひとにだけ伝われ〜