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2024年07月14日(日)
『逃奔政走 嘘つきは政治家のはじまり?』

『逃奔政走 嘘つきは政治家のはじまり?』@三越劇場


もともとこっちが先に入ってたんだけど、急遽『密輸1970』の舞台挨拶が入ったもんだからハシゴになりました。という訳で観たのは13日。

「クリーンな政治」を掲げ、とある県の知事に就任した女性。ところがしがらみと大義のもと、なんだかんだと公約が濁っていきます。予算調整で知事室にシャワールーム設置、施工業者を談合で決定、厳しい若手議員が「YesかNoかでお答えください!」と追及、老議員から頭ぽんぽん、その議員と懇意の業者のパワハラを黙認、公邸で娘が未成年と飲酒パーティしてSNSにアップ、ウルトラマリンブルーのスーツを着た知事がドリルで証拠隠滅……いやー出るわ出るわ、このエピソード全部創作じゃないってところに笑うわ。いや笑えないわ。いややっぱ笑うわ。こうしてコメディになってしまう程、この国の政治は現実離れしているんですね。というかこれが現実なんですね。気が滅入るわー。

しかしこの作品の魅力は、そのドタバタをただ笑って済ませるだけの道具にしないところ。「そうなってしまう」過程を説得力をもって描いているところ。清廉潔白、弱者を助けたいという志をもった知事が、清濁併せ吞むことになるなりゆきに納得せざるを得ない。本当は納得したくないけど、あーそういわれちゃこう返すしかないわな、そしたらこうなっちゃうよなー。というところ迄追い込まれちゃう。囲い込まれるといった方がいいのか。で、「そんなことやる!?」と一般人なら思うことをやっちゃう訳です。ドリルとか。でもそこで、工事に入ってた業者に「ドリルはそういうことに使うためのものじゃないですよ」みたいなこといわれちゃう。これが効く。観客は大笑いし乍ら「そ、そうだよね!」と我に返る。

何かを隠すと裏目に出る。それを隠すともっと裏目に出る。やめられなくなっちゃう。でもこの知事は、やめることにした。ホッと胸をなでおろす。はー、現実でもそうあってほしいですね! 市民も「仕方ないよねー」と思っちゃいけないですね!

東京都知事選の結果が出てほぼ一週間後。頭ぽんぽんとかは選挙後の話なので、初日以降加えられたエピソードは結構あるようです。B作さんのアドリブだったのかもしれないけど、流れは自然だったし、演出側もゴーを出していると思われる。つまり現実の政治家の言動について「そこに引っかかる」「それっておかしい」という共通認識が出来ているのでしょう。あの場にいた観客の何割かは、県知事と同じように「おかしい、腹立たしい」と思っている。しかし老議員のように「そういうもんでしょ」と思っている観客も、きっと一定数いる。

だからこそ、最後の知事の台詞に胸を衝かれる。幕開けと幕切れはシームレスという演出が効果的。マイクを持って「どうも〜」と入ってくる鈴木保奈美が知事になる。知事を辞した鈴木保奈美が「諦めないで」「監視し続けて」と訴える。終始笑いで湧いていた客席が、しんと静まりかえりました。

脚本・演出は、アガリスクエンターテイメントの冨坂友。シチュエーションコメディを得意とする方だそうで、その構成に唸りました。彼の作品に出演したいという7年越しの夢を実現させた鈴木さん、近年は演劇のワークショップを主催する等舞台に意欲的。舞台での彼女を観るのは初めてだったのですが(『レイディマクベス』はチケットとれなかったんだよー)、いやはやめちゃくちゃいいですね。立ち姿の美しさ、通る声、リズム感の良さ。コメディエンヌの才を全部持っている。2時間超、ほぼ出ずっぱりの役でしたがその印象が崩れることがありませんでした。これからも舞台で観たいなー。KERAさんの作品で観たい!

「YesかNoか」の議員は寺西拓人、キツいものいいのなかに理想を感じさせる人物像で好印象。あのひともそうあってほしいもんですけどねー。副知事に相島一之。台詞まわしの巧さで無茶苦茶なトラブル回避、終始笑いを呼ぶ。食えない老議員に佐藤B作。いや〜なおじいちゃんをねっとり演じて気持ち悪かった。ほんといいとこひとつもなかったな(ほめてる)! コメディの舞台で佐藤さんと相島さんがいるととても安心。

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・三越劇場
関東大震災で大きな被害を受けた日本橋三越本店の再建にあたり「建物だけでなく、文化的な復興を」という想いから劇場が作られました。
冒頭ツイートにも書きましたが、三越劇場には初めて行きました。1927年開場、国の重要文化財。歴史の刻まれた内装が素敵だったなー。劇場見学会もやっているくらいだものね。
終演が三越閉店後なので、店じまいした館内を見られたのも楽しゅうございました