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2024年05月18日(土) ■ |
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『ソイレント・グリーン デジタル・リマスター版』 |
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『ソイレント・グリーン デジタル・リマスター版』@シネマート新宿 スクリーン1
やっと観られた、というか、観られるとは! 1973年作品。1974年の日本初公開から半世紀を記念して(?)デジタル・リマスター版が公開です。以下ネタバレあります。ネタバレっていうか、ねえ……。
“ソイレント・グリーン”を知ったのは2006年。ドイツの劇作家兼演出家であるルネ・ポレシュが来日し、tptで『皆に伝えよ!ソイレントグリーンは人肉だと』を上演したことからです。木内みどりさんや長谷川博己さんが出ていましたね。そこから『ソイレント・グリーン』という映画があることを知り、あらすじを読んだら「合成食品ソイレント・グリーンとは…? ある殺人事件をきっかけに、刑事はその秘密を追う!」とか書いてあって……ええ〜。『皆に伝えよ!〜』って、もうタイトルがネタバレじゃん。悪意あるよねこれー! ヒドいよ!!!
とはいうものの、今回SNSでひとの感想とか読んでみると、当時もバレバレだったそうで。この方のスレッドによると、ネタバレそのものが宣伝として使われていたみたいですね。もはやエンタメとして楽しんでしまおうという姿勢が見える。欧米では「なんてこと!」という拒否反応がかなり大きかったようです。嫌悪の度合いは倫理観というよりは宗教観の違いかなあ。土葬と火葬の違いというか。いや、こちらでもそりゃタブーだとは思いますが。
という訳で、秘密はもう判明しているので、人口が増えすぎて食糧難となった人類がどう生活しているか? というディテールを楽しむ(?)映画として観ました。50年前に描かれた2022年、つまり一昨年はどんな世界なのか。
人が多いので、食料だけでなく住居も足りていない。道端にも教会にもひとが溢れている。温暖化で気温は常に30度を超えている。富裕層は豊かな暮らしをしている。快適に暮らせる空間を持ち、勿論食べものにも困らない。人工食ではなく本物の野菜や肉を食べることが出来る。一方庶民は……この辺りはディストピアものとしてよくある風景です。「本物の野菜や肉はこんなに美しく、芳しく、美味しいんだ」「グレープフルーツの実物を見たことないくせに」「熱いシャワーを使えるのか」「石鹸で顔を洗えるなんて」(そう、作中の2022年でこれらは超高級品なのです)といった場面は、役者の演技の確かさで感動的でもある。レトロフューチャーは過去か未来か? 懐かしさを感じつつ、現実の未来を想像して身震いする。
ほほう、と興味深く感じたのは、「Book」と呼ばれる老人と、「Furniture」と呼ばれる女性が一定数いること。老人は知識としての「本」とわかりやすいんですが、女性が「家具」とは。最初台詞を聞いたときは「うわっ(エグい)」となったんですが、ストーリーが進むにつれ、これはこれでアリなのではなんて考えも浮かんできてしまう。
「家具」は文字通り家にいて、住人を待っている。賃貸なんですね。作品中の「家具」たちは、優しい主人たちからだいじにされている。石鹸も清潔な水も自由に使え、綺麗な服、綺麗な調度品に囲まれ暮らす。人工物ではない、新鮮な食材も用意出来る。しかし「家具」は、自分の意志で家から出ることは叶わない。入居希望者がいない場合は「空き家」となる。寂しくて部屋にともだちの「家具」を呼ぶと管理人に酷く叱られ、殴られることもある。
「家具」たちのお茶会にはアンニュイな心地よさがあった。彼女たちには外の恐ろしさを知らないまま暮らしていってほしいなんて願ってしまう。「あなたたちは自由を知らない」なんて、誰が彼女たちを責められようか。知らんけど優しいおっさんに賃貸されて何不自由なく暮らすのと、自由に動けるけど衣食住が圧倒的に不足した不衛生な場所で暮らす生活と、どっちがいい? でも、作中描かれてなかったけど、この「家具」たちもやがて歳をとるわけじゃん。そしたらどうなるの……「本」になれるの? その「本」だって「ホーム」へ行きたいとか思うようになるし! そもそも自由って? 裕福って? 豊かさって? 幸せって何ーー!!! 刑事が「家具」に“Just Live.”という場面が沁みました。ただ生きる、この世界でそれがどれだけ困難なことか。
刑事役は往年のスター、チャールトン・ヘストン。モテモテ。女性と老人にやさしく、正義の人。かと思えば捜査に入った豪邸からいろいろとちょろまかして帰っちゃう茶目っ気もあり。それも自分ちにいる「本」へのお土産だもんね。てか父子という訳でもないのに同居しているこの「本」のことを、仕事上の必要もあれど上司から「そろそろ新しい本にしろ」っていわれてんのに拒否する辺りも人情派。こりゃモテる。その「本」を演じたエドワード・G・ロビンソンは今作が遺作。自ら「ホーム」へ向かい、ベートーベンの交響曲第6番『田園』が流れるなか、かつての美しい地球を眺め乍ら眠りにつく。胸を打つ臨終の場面でした。これはスクリーンで観られてよかった。
原作はハリイ・ハリスンの『人間がいっぱい』というSF小説とのこと。ハヤカワ文庫で邦訳が出ていたそうなんだけど絶版。読んでみたいけど結構なプレミアがついています。これを機に復刊しないかなー。ちなみに「皆に伝えよ!ソイレントグリーンは人肉だと」は、刑事の最後の台詞だったのでした。20年近く経ってやっと知る。
50年前にもうダメだー! と思われていた世界は、ヨタヨタしつつも人間が生きていける環境ではある。地球の寿命は宇宙の摂理なれど、それ迄この星の美しさは維持していきたいものですよ……。
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こまごまメモ。
・溢れる人、人、人。人とゴミの山、美しい自然と破壊される自然などのコラージュによるオープニング。これらは実際の映像で、日本の満員電車に押し込まれる乗客の様子もありました。当時から名物(?)だったんですね
・丁度一年前にKAATで上演された、タニノクロウ演出作品『虹む街の果て』に「これ、ソイレント・グリーンがモチーフだよなあ」と思うものが出てきてたんですよね。ずっと気になってた。今回答え合わせが出来た感じ
それにしてもこの映画、宣伝がうまかった。
こんなん気になるやん!
コメント依頼の人選もよい……面白いツイートばっかなんで是非アカウントから直に見るのをお勧めします。
しかも上映館はシネマート。もともとその傾向はあったけど、コロナ禍の頃から「映画館に来てほしい」と館内装飾にものっそ力入れるようになったところです。オリジナルのグッズにフード、ドリンクといつもすごく凝ってる。
クラフト魂。行った日はお客さんから「すごいねえ、これ何で出来てるの?」と訊かれて「ベニヤ板です!」と素直に答えていた。そこは「い、いえません!」といっとかんと。
行ったの公開二日目だったんですが、「初日には間に合わなかったベルトコンベアーが入りましたー!」って呼び込みしてた(笑)。
おいしかったでーす!
ヘストンは公民権運動家でもあったんですよね。『ソイレント・グリーン〜』は白人も黒人もアジア系も出演している。このバランス、当時の精一杯だったのかなと思いつつ、なかなか頑張った配慮なのではないかと思います。その辺ヘストンも噛んでたのかもなと思ったりもし、人間とは多面体なものよのうとしみじみ。 マッドボンバーことチャック・コナーズは過去シネマートで『マッドボンバー』をリバイバル上映した後、何故かずっとトイレにいるんです……。
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