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2023年09月21日(木)
SPC 26th Anniversary 高橋徹也27thデビュー記念日『see the light 2023』

SPC 26th Anniversary 高橋徹也27thデビュー記念日『see the light 2023』@Star Pine's Cafe


「声の波紋」のあの声が、一週間経った今も耳にこびりついている。

「約十年振りの再会となった山本隆二さんとのデュオ演奏」(後述ブログより)。10年前を振り返りつつ、そこにあるのは最新型。27周年おめでとうございます。Star Pine's Cafe(SPC)も26周年おめでとう。

私が高橋さんのライヴを初めて観たのは2013年、佐藤友亮(sugarbeans)さんのピアノとのデュオ編成でした。まさに10年前。その時点で、高橋さんはデビューして既に16年半くらい経っていたことになります。2005年に『ある種の熱』をリリース後、長い沈黙期間に入った(らしい)高橋さんが新作『大統領夫人と棺』を携えシーンに復帰(?)したのが2013年。その間断続的にライヴは行われていたようですが、山本さんがレコーディングやライヴで参加していた時期は『Reflections』『ある種の熱』辺りだったそうなので、完全に入れ違いだったんですね。2013年リリースのライヴアルバム『The Royal Ten Dollar Gold Piece Inn and Emporium』でのkeyは上田禎さんだったので、山本さんの演奏をライヴで聴くこと自体が初めてでした。

ちなみに2004年リリースの『Reflections』は現在入手困難、この通り高値が付いております…ってか自分が血眼で探してたときより相場上がってんな。結局手に入れられてない。『REFLECTIONS 2018』で全曲聴けたときはとてもうれしかった。そうそう、この日のエレベーターでの会話、忘れがたい。見ず知らずの人と思わず感想を交わしてしまうくらい素敵な夜だったのです。

このとき「何故再発出来ないか」という話をされていました。リアルタイムで体験していない『Reflections』シーズンと山本さんは、手が届かない憧れの音。それが今夜聴けることになった。「入手困難、再発困難」に閉じ込められている楽曲を、さまざまな企画とともにライヴで披露してくれる高橋さんのアイディアには毎回唸らされます。

ステージ下手側にハモンドオルガン、フロアに向かってNord Piano 2、中央寄りにグランドピアノ。鍵盤に囲まれ、マイクを隅に追いやった(笑・喋る気ないでしょうと高橋さんにツッコまれていた)セッティングは、要塞にもプライベートルームにも見える。簡単には他者を寄せ付けなさそう……という印象とは裏腹に、高橋さんとのやりとりは静かで流麗。青い炎のような熱さと強さも感じました。ピアノをミュートして弾くところもあり、ハンマーが弦を叩く音がカタカタと聴こえて心地よい。Nord PianoはKORGみたいな音がしてかわいい。オルガンの音色も新鮮。「5分前のダンス」で始まり、2曲目にはもう「惑星」。キエー『The Royal〜』で繰り返し聴いてベースラインが染み付いてる(自分比)「惑星」が、ピアノとギターのデュオだとこうなるのかー! と真顔のまま興奮。そもそもオリジナルの音源で弾いているのが山本さんなんですよね。

『Reflections』にしか収録されていない(確か)「憧れモンスター」と「声の波紋」を聴けたのはとてもうれしかった。圧倒されたのは「声の波紋」。世紀末的風景に引きずり込まれる。地声と裏声が微分音で移行していくメロディは、喉のコンディションにも左右される。少しでもズレたらただピッチを外したように聴こえてしまう。この揺らぎこそブルーノートというのだろうが、それに「声の波紋」と名付ける辺り、自身の声をよく知っている。

2004年の楽曲? この日のために用意されたかのようじゃないか。この編成で演奏されるのを待っていたかのよう……というのは5年前の『REFLECTIONS 2018』でも思ったこと。高橋さんの演奏と歌は、常に当時の再現ではなく、いつでも最新型なのだ。「新しい世界」と「ユニバース」を同じ日に聴いたのも個人的には初めてのことで、盆と正月がいっぺんに来たかのような気持ち。納涼のつもりで来た筈なのに(笑)。涼やか乍らもエキサイティングな夜になりました。

うれしかったのは、当時の曲だけでなく、山本さんが離れてからのナンバーも聴けたこと。後述のセットリストに収録アルバム併記してみたけど、初めて一緒に演奏したであろう曲が1/3くらいか? 「The Orchestra」は『a distant sea / 遠い海』でのストリングスアレンジが強く印象に残っていたので、ピアノとギターによるデュオアレンジには新鮮な驚きがありました。高橋さんと山本さんの“今”が結晶した美しさ。

「個人的にいちばん辛い時期に一緒に活動してくれた」「やりたいことがあるのでバンドを辞めたい、といってきたときも感謝しかなかった」「そもそもは鹿島さんが、鹿島さんときどきそういうとこあるんだけど(笑)『高橋、何もいわずこのひとと一緒にやってみてくれないか』と山本さんを連れてきた」「久しぶりに会ったので、リハの方が緊張していた。思い出話をしたりして。本番の方が自然にやれている」。貴重な話も沢山聴けました。「SPCは、南青山MANDALAでよくライヴをやっていたときに、吉祥寺にこんなところがあるんだよと紹介されて出るようになった」。同じMANDALAグループですからね。貴重といえば、「デビュー時に制作のひとがいろいろ考えてくれて、僕のイメージカラーを作ってくれたんです。それが緑だったんですねー」「それでこの色なんです(と『My Favourite Girl』のシングルを見せる)」という話は初めて聴いた。それに因み、この日の衣装は明るいグリーンのサマーセーター。「別に僕緑が好きって訳でもなかったんですけど」「ひとりなのにメンバーカラー(笑)」って自分でウケてました。

デビュー当時の話、「辛かった」時期の話、そして今。「今日は自然に話せた感じがします」「この身が果てる迄音楽を続けていきたい」「ずっと聴いてくれている方も、途中乗車の方も、分け隔てなく感謝しています」とポツリ。根拠不明の明るさを振りまくことをせず、静かに自らのキャリアを展望する。青い炎は高橋さんのなかにもあるのだと感じました。

「ピアノが入るとやっぱりいいですね」「僕の曲ってピアノが合うと思うんですよね」。確かに。このところsugarbeansさんが多忙を極めていることもあるのか、バンドセットでもピアノがないことが増えている。勿論G、B、Drsのトリオ編成ではロック、ジャズのスリリングで骨太のグルーヴを体感出来るところがたまらないのですが、どちらも聴きたいと思ってしまうところはありますね。ご本人もソロ、デュオ、バンドと、ライヴのカレンダーのバランスを考えているのかもしれません。

本編ラストの丸腰(っていうな)「八月の疾走」にも驚いた。以前も一度観たことあるような? でもそのときより開放感があったというか、照れてんじゃねーぞという決意が感じられました(笑)。スタンドマイクで、長い腕を振りまわして唄う。これも最新型の高橋徹也。かつて川島道行が初めてスタンドマイクで唄ったとき「丸腰!」「丸腰だ!」と騒いだものですが(ヒドい)、ギターが身体の一部になっているような印象のひとが楽器を手離して唄うと驚きますよね……いやいや格好よかったです。

昨年は「世界で3枚しかない」『怪物』テストプレス盤をじゃんけん大会でプレゼントしていましたが、今年は件のデビューシングル3枚(だったかな)を、「もらってってください!」と最前列のテーブルにピャーっと置いて帰って行かれました。ラブレターを渡す女子高生か。ちなみにこの日のタイトル“see the light”は、新曲「夢に生きて」の一節なのだとか。タイトルにしといて演奏しないというね(笑)。ソロで1回、バンドで1回しか披露されおらず、まだ聴けていません。いつ聴けるかな、憧れが新たにひとつ増えました。そういえば高橋さん、次回山本さんと共演するのはオリンピックの年にでも……といってたけど、これって4年に一回くらいという意味だったのかそれとも来年のことなのか。来年でも全然いいわよ〜! またの機会を待っています。

ところで「新しい世界」、1月の『高橋徹也 × 小林建樹』でもギターとピアノのデュオで演奏されましたよね。なんだか道場めいてきて面白いな……これからもいろんなひとのピアノで聴いてみたいです。

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"see the light 2023" setlist(高橋徹也 official Blogより)

01. 5分前のダンス(『ある種の熱』)
02. 惑星(『ある種の熱』)
03. 怪物(『怪物』)
04. 憧れモンスター(『Reflections』)
05. The Orchestra(『The Endless Summer』)
06. La Fiesta(『ある種の熱』)
07. 声の波紋(『Reflections』)
08. 新しい世界(『夜に生きるもの』)
09. Praha(『Style』)
10. My Favourite Girl(『POPULAR MUSIC ALBUM』)
11. 真夜中のドライブイン(『POPULAR MUSIC ALBUM』)
12. 夜のとばりで会いましょう(『ある種の熱』)
13. ユニバース(『NIGHT & DAY, DAY & NIGHT』)
14. 星空ギター(『NIGHT & DAY, DAY & NIGHT』)
15. スタイル(『Style』)
16. 八月の疾走(『Style』)
encore
17. 夜明けのフリーウェイ(『The Endless Summer』)

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・27年目のメンバーカラー┃夕暮れ 坂道 島国 惑星地球
自分にとって作曲することとは、生きた記録のようなもの
どんなことがあっても作曲、そして音楽を続けて行けたら
「どんなことがあっても」という言葉に覚悟。こちらも聴き続けたい。ここでいうのもなんだが、インボイスとか愚政の極みよな〜!
「この身が果てる迄」という」発言は、山田稔明さんが体調を崩された影響もちょっとあったかも知れない。入院したの、高橋さんのライヴ当日だったんだよね……。フリーランスは身体が資本。ライヴハウスのキャンセルや諸々の事務処理もたいへんだし、何より心のダメージが大きい。少しでも不安が軽減される環境があるといいのだが……

・夏祭りの思い出もよかったですね、粉もん大好きな話(笑)


昨年のリクエストライヴでは、あまりの映像喚起力にエドワード・ホッパーの『ナイトホークス』は吉祥寺にあったのかなんて思っていたのだが、一年経ってある種の回答が出た。てか『ベンジャミン・バトン』の表紙って『ナイトホークス』だったのか! という訳でこれを機に購入


おまけ。かわいい