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2023年04月30日(日)
2023 小林建樹 ワンマンライブ “ふるえて眠れ”(神戸配信)

2023 小林建樹 ワンマンライブ “ふるえて眠れ”@神戸 Always(配信)


今回は自宅から配信を鑑賞。二週連続でライヴが開催されることも、それがどちらも配信されることも、一年前には予想も出来なかった。しかもこの日の会場は小林さんの地元である神戸。メジャー時代それなりにツアーはあったと思うが、地元でのワンマンライヴは初めてとのこと。

ほぼ同じセットリスト。衣装も(1st、2ndセットでジャケット下のTシャツを着替えていて、それも)同じ。段取りやMCもほぼ同じ流れ。事前に何を話すか決めて練習している、と以前話していたことを思い出すようなMCは、憶えた台詞を喋っているような導入から、会場の雰囲気によって枝葉を拡げていく。例えば『中央線のプレスリー』のくだり。東京会場では、駅の並びやカルチャーといった中央線の背景はある程度了解されている、という前提で話していた。神戸会場ではどの辺りを通っているかや駅名等も細かく説明。主演にはオセロケッツの森山公一くんを〜というところ、東京では「ああ!」といった感じの笑い声が起こっていたんだけど、神戸ではそんなに反応がなかったように感じた。というかこの映画の話、客席がシーンとしていたように見えて「ウケて…ます……?」と不安になったのだが実際はどうだったのだろう。配信では静まり返っていたように感じた(笑)。

そういえば、以前はMCで実演解説をすることが多かったが(その昔一度ギターで演奏した楽曲を、ピアノに移ってから解説を交えつつまた順番に演奏したライヴは一部で語り草になっている)、本人いうところの“ライヴ再開”後はそれが減った。YouTubeラジオを始めたことで、アナライズの場を確保出来たからだろうか。

神戸に住んでいた高校生くらいのときにつくったという未発表曲「月がふるえた」をワンコーラス演奏したり(これフルで音源だしてほしいなあ)、特別な選曲も。「今日は新幹線が30分遅れて、その前にはマンションのエレベーターに閉じ込められた」そうで、「長く住んでるところなんですけど、こんなこと初めて。来れなくなるかと思った」「恐る恐るやってます」。

地元でのワンマンは初めてで緊張している、といっていたけれど、演奏も歌も東京よりヌケが良かったようにも感じた。本番を一度通しでやっていることもあり、身体が慣れたのかもしれない。しかしさらっている様子は皆無で、リフやコードに細やかな変化がある。複雑なフレーズを毎回増やしており、そのことによるつっかかりがあってもリカバリがめちゃくちゃ早い。「それは愛ではありません」を終えたところで「建樹サイコー」という男性の声と笑い声が上がり、そこから随分客席の空気が柔らかくなった印象。ご家族や旧友も沢山来場されていたそうで、「知り合いが来てるんでかなり緊張してるんですよ」といっていたが、ここ以降会場の空気ともに少しリラックスしたように感じた。

インターミッション後のピアノパートで教授のことを話すときも、東京のときより幾分落ち着いた様子だった。音楽面だけでなく、生き方や社会に対するスタンスにも大きな影響を受けた人物がいなくなって「ぐらついている状態」。しっくりくる言葉だった。「勇気をもらった」とも。

そういえば、以前はよく「いい曲でしょう♪」「いい曲なんですよ〜♪」と楽曲を披露していたが、最近は「オーディションにひっかかった」「まともな曲が書けないことに気付いた」「プロになれないかもしれないと思っていた」といった、自信を持てない日々のことを話すようになった。いい曲を書いているのは事実だし、このひとの自画自賛は嫌味にならない(むしろチャームになる)のだが、今は自分の弱いところを観客と分かち合ってみよう、という変化が生じている。そもそも昨年からライヴを再開したのも「あまりにも世の中が酷いことになっている」と感じたことからのようだし、音楽をシェアすることにある種の使命を感じているのだろう。

レコーディングが進んでいる新作への意欲も。いつも難航する歌詞をChatGPTに書いてもらおう! と試してみた話をして笑わせつつ、「いやAIにはこんなん書けんやろって歌詞を書いているので」と自負もちらり。ここで高橋徹也のことを思い出す。少し前「AIのべりすと」に高橋徹也の歌詞は書けるかと実験してる方がいて、「60年代までの英米文学をメインに機械学習すれば可能」、だがしかし……と結論づけられていた。

ボカロもそうだが、そもそも機械学習には集合知と手間が必要だ。そして、先週のライヴでの言葉を借りると、脳には在処が判らない領域がある。半世紀以上かけてつくられたひとりの人間の“再現”はまだまだ先のことだろう。

それは今回の「記憶の話」にも繋がる。自覚している/いないにも関わらず手に入れていた/入れていなかったものがある。それを知っているのは自身の脳だけなのだが、その記憶はいったい脳のどの領域に刻まれているのか? 音楽は、それを探す旅なのかもしれない。

「Prelude」は、ライヴで聴くとアッコちゃん(矢野顕子)みがあることに気付く。スタッカートの使い方と、物語るような唄い方。意識的か、無意識か。これも半世紀生きた人間の蓄積だ。パーカッシヴなヴォーカルと暴れるようなペダルワークの「B.B.B」に、人間の底の知れなさと、音楽の持つ力を感じる。

教授と同じ左利きの音楽家に、私も勇気をもらっている。

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setlist

Ag:
01. Nervous Colors(『曖昧な引力』)
02. Sound Glider(『Golden Best』)
03. 満月(『曖昧な引力』)
04. 月が震えた(*)〜Boo Doo Loo〜Bad Feeling〜Boo Doo Loo(新曲)(『曖昧な引力』)
05. ふるえて眠れ(新曲)
06. それは愛ではありません(『Music Man』)
07. Say Once More(『Shadow』)
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Pf:
08. 青空(『Rare』)
09. Diary(『Window』)
10. The Fight(Ryuichi Sakamoto『Coda』)
11. 目の前(『Rare』)
12. Spider(『Emotion』)
13. Song Writer〜ヘキサムーン〜Song Writer(『流れ星トラックス』)(『Music Man』)
14. 祈り(『Rare』)
15. Prelude(『Mystery』)
encore
16. おうし座(『何座ですか?』)
17. イノセント(**)(『Music Man』)
18. B.B.B(『Rope』)

*  神戸オンリー
** 東京ではIt’s OK

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■配信で観て/聴いていて面白かった箇所

・今回画質音質ともにめちゃめちゃクリアだった。ピアノの上からのアングルがあっていい。ライン出力の音は勿論だが、ピアノのペダルを踏む音もガッツリ拾っていて(「Spider」「B.B.B」が顕著)映像に映っていないのに足元が暴れているのが伝わる。どうマイキングしていたのか

・画と音がちょーーーーーっとだけズレてるというか、画から音が浮いてる感じはした

・映像が綺麗で、表情のアップも多い。ちょっとメイクしてるようにも見えた。アイシャドウは入れてたんじゃないかな? 入れてなかったらそれはそれですごいが……リハ画像はいつもほんにゃりした感じなので、人前に出るときはやはり気を遣っているのだなあと感心もする

・入退場時、ステージ袖のドアを自分で開閉して出入りしているのがなんか面白かった。お部屋に帰っていくみたいで(笑)

■よだん

・「東京は割とやってるんですよライヴ」。……んん?

・そ、そうですね、特にこの二年は。有難いことです。無理ないペースでコンスタントに続いてほしいものです

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(20230507追記)
・2023春、東京、神戸ワンマンの感想┃小林建樹オフィシャルサイト
手応えがあったようで何より。これからのことを考えられる、と思うだけでこちらもうれしい