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2023年04月22日(土) ■ |
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2023 小林建樹 ワンマンライブ “ふるえて眠れ” |
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2023 小林建樹 ワンマンライブ “ふるえて眠れ”@Com.Cafe 音倉
彼らの音楽が原点だった。ずっと、本当にずっとこどもの頃から彼らの音楽を聴いてきた。彼らがいなければ今の自分はないといっていい。そんなだいじなひとたちが、今年に入り、まるで申し合わせたかのように眠りについた。あるひとは急に、あるひとは何年もの闘いを終えて。近いうちにこういうことが起こるということは覚悟していた。しかしいくら身構えていても別れの知らせは突然で、ダメージも大きい。あまりに立て続けに起こるので、感情が無に近い状態になる。あらゆることに鈍感になる。
この日のライヴは、そんなガサガサになった心に恵みの雨が降ってきたかのようだった。
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最初の挨拶から、軽やか乍ら重めのトーン。矛盾しているようだが、それが同居するのがこのひとだ。来場者と配信を観ているひとたちへの感謝を口にするも、その声音にもちょっと陰がある。「楽しんでってくださーい、とはいえないです。楽しいかはね、わからないから」。文字にするとギョッとしてしまうが、あの声でいわれると、悪い印象にはならない。
いつものようにギターパートから。いつもの、といえること自体が貴重だ。「去年からライヴを再開して」とご本人もいっていたが、ひとりでのステージの演奏や構成が固まってきた。前半はギター、インターミッションを入れて、後半はピアノ。
ギターは2本セッティングされている。どちらもグレッチ。メインはGブランド入りのGretsch 6022 Rancher。もう1本を使ったのは、“ライヴを再開”してから今のところ見たことがない。アクシデントが起こった際のスペアだろうか。一気呵成にという表現がぴったりくるような演奏と歌には、チューニング以外の動作は邪魔なのだろう。いや、チューニングすらもどかしい筈だ。そのうえMCをし乍ら。聴き手のことをとても考えてライヴを進めていることは、「(収録した)映像をあとで見るとすごい早口になってるなと。なのでゆっくり喋ろうと思います」という言葉からも窺える。
円滑にライヴを進め、観客へ配慮し、自分の理想の演奏を追求する。それには手に馴染みのある楽器がいい。何しろこのギター、初期から──デビュー時をリアルタイムで知らないので、自分が見た限りでは『Rare』のときにはもう──ずっと使っている。自分の頭のなかで鳴るものに出来るだけ近い音が鳴らせる楽器なのかもしれない。鍵盤がグランドピアノだというところも同様で、“再開”後はグランドピアノがあるライヴハウスでの演奏が続いている。自分の演奏を理想的に聴かせられるペースと環境を選ぶ。これは会社に所属しているとなかなか出来ないことだ。以前はツアーやキャンペーン中、よく身体を壊していた。今のペースは理想的なのかもしれない。聴き手としてもとてもうれしい。
とはいえ、ライブは所謂“均質”ではない。小林さんの場合、そのムラが魅力でもある。定番曲の演奏にも必ず毎回違うフレーズが入る。その試みが一般的にいうミスタッチだったり、フレーズの繰り返しだったり、喰い気味に入る、あるいはコンマ何秒遅れるズレで現れることもあるが、脳内クリック/グリッドにリズムとハーモニーを置いていく手法が確立されているので、演奏が滞るということがない。もう達人の域だ。これこそソロライヴの醍醐味なのだが、一方で今他者と、ましてやバンド編成で演奏したらこのひとはどうなるのだろうと思ったりもする。1月の高橋徹也さんとのセッションでも、スリリングな場面が多々あった。余程じゃないと(相手が)合わせられないだろう。今の小林さんの演奏にジャストで合わせられるひとは…瞬時の判断で、あのグリッドに音を載せられるひとは……かつてトリオで凄まじい演奏を展開した千ヶ崎学さんなら、宮川剛さんなら? 聴いてみたい思いはある。ラジオで話していたことを思い出す。「咄嗟のことなのになんで合わせられるの? そんなんある!?」「キース・ジャレットのトリオやったらあるやろ」。
今回はレアというか、ライヴでやるのは珍しい曲、久しぶりの曲も多かった。印象的というか衝撃的だったのは「Boo Doo Loo」。『曖昧な引力』に収録されているトラックは、分厚いサウンドプロダクションで(今作のプロデューサーであるホッピー神山ならではの)サイケデリックな印象すらある。この曲をギター一本で、弾き語り!? 果たしてそれが音源を凌駕する強力な演奏だったのだ。
「“ああ、夢じゃない”という歌詞は、オーディションに引っかかってデビューが決まって、夢かな? と思っていて。でも事務所から電話がかかってくる。その度に“ああ、夢じゃない”と思っていたんです」。これは初耳。本当に歌詞に使う言葉が強いというか、そのときの心情をまっすぐ歌詞に反映させるのだなと改めて思う。何度も書いてる気がするが、当初歌詞の先生として窪田晴男が呼ばれたという話は今でもなんでや……と思うのだが(笑)、窪田さんは歌詞の書き方や言葉選びではなく、そのストレートで強い言葉をどう音楽に落とし込み、ドキュメントとフィクションの間(あわい)に謎を見出すか、ということを教えたのかもしれない。「ソングライター」の“トルネード”も、恐らく野茂英雄(の投球フォーム)からだろう。ピンとくる世代は限られている。それでも今この曲を聴くと、その言葉のチョイスに唸る。
閑話休題。「Boo Doo Loo」では「今90年代くらいの日本の曲を聴き返していて、間奏で好きだったバンドのある曲を入れてみます。難しいので自分が弾けるように変えています。わかるかな? わからなくてもいいんですよ」といっていた。何だろうと身構えて聴く。間奏に入る……なんとBOØWYの「Bad Feeling」のリフがブッ込まれた。キエー、カッティングの権化! 布袋寅泰さんのリフってホント強い。またこの抽出+アレンジが無茶苦茶格好よかった。アコギで弾くと音がジャラッとしてまたいい。
それにしてもこのチョイス。ビックリしたしニッコリした。先日YouTubeラジオでThe Street Slidersの曲をカヴァーしていて驚かされたのだが(小林建樹・ムーンシャインキャッチャー”R" 第23回 ”Boys Jump The Midnight" ”Angel Duster")、80〜90年代を再検証中のようだ。意外なのを聴いているなあ、とも、同世代だなあ、とも思う。いつも新鮮な驚きがある。
毎回違う演奏で、既存の楽曲の新しい一面を見せてくれる。一方で、「Sound Glider」の口笛はきっちり再現する。こういうのってうれしいものです。
そうそう、ギターパートで面白かったのは、かつて高円寺に住んでいたとき『中央線のプレスリー』って映画を構想していたという話。主演のミュージシャンにはオセロケッツの森山公一くん、その彼女には松崎ナオちゃんがいいなと思ってたそうです。デビュー出来たはいいが、自分がやりたいものとは違う曲が大ヒットしてしまった。葛藤のなか、影響力のある音楽番組に出演することになり、さて、主人公はそのヒット曲を演奏するのか、自分の本当にやりたい曲を演奏するのか……イントロの直前で映画は終わり、エンドロールが流れるんです。どちらを演奏したのかは、わからなくていいんです。だって。ここにもドキュメントとフィクションの間。
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ピアノに座り、マイクの位置を何度も調整する。真剣な表情に、これからの何かを予感する。数曲のあと、やはり坂本龍一さんのことを話し始めた。今回のライヴのチケットが発売されたあとに届いた訃報。これを受け、構成を変えたのだろうと思われる。「本当に大好きだったんです、どれだけ影響を受けたか」「交流もなく会ったこともない。縁もゆかりもないけれど」「あのね、全部弾けるんですよ(笑)」「追悼、なんておこがましいけれど」「これから演奏するのは『戦場のメリークリスマス』のサントラから“The Fight”という曲です。本当に衝撃を受けて、学校の教室で写譜してた。授業中に。友だちに気持ち悪いなっていわれながらも。なんだこの、楽譜はと。ガリガリ写譜して」。話しているうちに気持ちが昂ぶってきたのか、早口になりうわずった声になる。不思議なことに、そのうわずった声というのが高音ではなくドスの効いた低音になる。低いトーンで、教授の曲から受けた興奮を矢継ぎ早に話す。
「The Fight」を『Coda』(つまり本家)以外の演奏で聴くのは初めてだった。同じ左利きで、ピアノを弾く。よりによって、このアルバムから……。『Coda』は私が初めて買った、思い入れの深いアルバムなのだ。戦メリのOSTをピアノソロの演奏で聴きたくて、お小遣いとお年玉を貯めて。大好きな大好きなアルバム。ぽろっと涙が出て、自分でも驚いた。教授の訃報が届いた日以来、久しぶりに心が動いた感覚があった。
メンターを失った怒りも悲しみも戸惑いも、全部演奏に入っていた。「晩年は、音楽活動の他にも社会活動も結構されていて、ガンの闘病生活もあったんで大変だったと思うんですね。今はゆっくりと休んで頂きたいなと心から思っております」。素直に頷くことが出来た。
肉体的苦痛から解放される。死は祝福でもある。ふとニューオーリンズのジャズ葬が思い浮かんだ。ファーストラインとセカンドライン。小林さんの音楽には苦痛が、歓喜が、祝福がある。ひとりでブラスバンドを担うように、しめやかに、そして明るく死者を送り出す。ライヴの前日に読んだインタヴュー(エヴリシング・バット・ザ・ガール、24年ぶりのヴィヴィッドな新作┃TURN)の、印象的な言葉を思い出す。「僕たちの音楽にはメランコリーもあればユーフォリアもある」。
その前に話していた、無意識とトラウマの領域が脳にはなく、AIに移植出来ない(つまり脳を他所に再現したからといって、その人格を完全にはコピーしたことにはならない)という話題。教授も昔同じようなことを話していた。脳の全ての機能を他者にコピー(移植)出来たとして、それは自分といえるのか……。皆とか我々とか、簡単にまとめて括るのも括られるのも好きではない。何より教授そのひとが徹底した個人主義を貫いたひとだった。だが、今回ばかりはいわせてほしい。本当に私たちは、教授に多大な影響を受けていた。訃報が届いたあの日以降初めて、教授の音楽を分かち合う場を用意してくれたのが小林さんだったことに感謝している。
いつもと違うイントロから始まった「祈り」は少しタフなリズム。「いつも歌詞を書くときは、同世代のひとに向けたものになるんですけど」と、新曲の「It's OK」は若い世代に向けた曲。頼りにしていたひと、指針にしていたひとが亡くなっていき、不安で心細い。それでも、大丈夫といってほしい若い世代に、大丈夫といえる大人でいたい。「歳ヲとること」にも繋がるようなこの曲は、新しいアルバムに収録されるとのこと。本編最後の曲へのブリッジは、その「歳ヲとること」と同じコード展開。しかし演奏されたのは「Prelude」だった。この構成も見事だった。残された者は前に進むのだ、という決意にも感じられた。
アンコール、オーラスはピアノver.の「B.B.B」。うれしかった。夜道、少し泣き乍ら帰った。
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setlist
Ag: 01. Nervous Colors(『曖昧な引力』) 02. Sound Glider(『Golden Best』) 03. 満月(『曖昧な引力』) 04. Boo Doo Loo〜Bad Feeling〜Boo Doo Loo(『曖昧な引力』) 05. ふるえて眠れ(新曲) 06. それは愛ではありません(『Music Man』) 07. Say Once More(『Shadow』) --- Pf: 08. 青空(『Rare』) 09. Diary(『Window』) 10. The Fight(Ryuichi Sakamoto『Coda』) 11. 目の前(『Rare』) 12. Spider(『Emotion』) 13. Song Writer〜ヘキサムーン〜Song Writer(『流れ星トラックス』)(『Music Man』) 14. 祈り(『Rare』) 15. Prelude(『Mystery』) encore 16. おうし座(『何座ですか?』) 17. It's OK(新曲) 18. B.B.B(『Rope』)
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(過去ログをすぐ探せるtwilog、本当に便利だった…) 一年前にこのやりとりがあったので、ピアノの「B.B.B」が聴けたのは本当にうれしかったのです。誰かに向けて書いた訳でもなかった文字通りのつぶやきを拾ってもらえたのには本当に驚いたし恐縮した。今回はライン録りしているかな? 音源、残ってほしいです
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