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2022年11月07日(月)
after FdF ft.billy woods & Sam Wilkes Quintet featuring Chris Fishman, Craig Weinrib, Dylan Day, & Thom Gill

after FdF ft.billy woods & Sam Wilkes Quintet featuring Chris Fishman, Craig Weinrib, Dylan Day, & Thom Gill@Shibuya WWW


皆さんフラッと現れて、ステージ上にリュック置いたりフーディーとかマフラーとか演奏途中にごそごそ脱ぎ着する自然体。音楽と日常が直結していて、お互いが出すどんな音をも聴き逃さず、ふわりと相手の演奏と握手し、ハグしていくようでした。

6月のFESTIVAL FRUEZINHOに続き、一年で二度もサム・ウィルクスを観られるとは!FESTIVAL de FRUEのヘッドライナーとしての来日、都内での公演はないかな〜と指を咥えて様子を窺っていたら、願ったり叶ったりでアフターパーティーが決まりました。しかもWWW。段差がある! 観やすい! 蓋を開けてみればクインテットは全員座奏だったので、WWW Xだったら全然見えなかったに違いない(低身長)。よかった……。

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先手はお初のビリー・ウッズ。リュックとラップトップを持ってぱっと現れ、トラックを次々にかけてキレキレのラップをかます。リハからそんな感じだったので、どこから開演? と戸惑いつつも、なんていうんでしょう、ストリートと地続きのようなその振る舞いにシビれる。

トラックもエクスペリメンタルといおうかアンビエントといおうか、とても個性的で美しい音。ビートは強いけど優しさも感じる。ラップ=語りたいことがまずあって、それにトラックを充てていくという感じで、ループの途中でもブツブツ切って次のトラックに行くこともしばしば。即興だったのかな。

ささっと自分で配線を片付け、ラップトップとリュックを抱えて帰って行った。格好よかった!


ロビーにはこんな張り紙が。日本に到着したときから「撮ってもいいけどアップするなら顔を隠してね」とアナウンスされていた。他者を信じるこういうスタンス、いいなーと思いました。

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さて、Sam Wilkes Quintet featuring Chris Fishman, Craig Weinrib, Dylan Day, & Thom Gill。長い。全員の名前を表記するところサムの人柄というか、共演者に対しての誠実さが顕れていていいですね。ルイス・コールやサンダーキャットもそうだけど、featuringをしっかり表記する。このあたりのLAシーンの繋がりを感じさせて好感が持てます。この編成は今回がお初とのこと、サムがバンドリーダーを勤めるのも初めてかな。

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Sam Wilkes(ba)
Chris Fishman (key)
Craig Weinrib (dr)
Dylan Day (gt)
Thom Gill (key+gt)
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不勉強乍ら知っているメンバーは、『One Theme & Subsequent Improvisation』やルイスの最新作『Quality Over Opinion』に参加していたクリス・フィッシュマンのみ。そのクリス、今回moogを現地レンタルするというドキドキハラハラな一件がありSNSで見守っていたのですが、その際パット・メセニーのバンドに参加しているひとだと知る。


これね。見つかってよかった!

という訳で、皆さん家から来ましたみたいな格好+佇まいで登場です。ドラムのクレイグはリュックからスティック等ごそごそと取り出し、上着を脱ぐとタンクトップ。おっ、いい筋肉。ロン毛だしメタラーのようないでたちです。真顔でセットやフロアをスマホ撮影してました。パワーヒッターかと思いきや、演奏を始めるとこれがまあ繊細なこと。ブラシとスティックを駆使して撫でるようにゴーストノートを鳴らし、いい塩梅でジャストなビートをかます。

クリスは賢者のような演奏。ソロとソロの数小節のあいだ両手を膝に置いて俯いてて、次の手を黙考する棋士みたい。もうひとりの鍵盤トムは声もギターもシームレスに演奏、全方位に目が利き全員に寄り添った音を鳴らす。ディランはスライドギターで西海岸の風を吹かせつつ、ブルーズの渋さも(これがアメリカーナ?)。皆オレがオレがというエゴがなく、今演奏されている曲に献身的ともいえる美しいフレーズを加えていく。そうすると、彼らにしか鳴らせない音が上空に立ち上がる。

そんな彼らと演奏するサムは、いつものごとくとても楽しそう。静かな曲でも激しい(のはそんなにないけど)曲でも豊かな表情で、美しいコードとメロディをベースでじわりふわりと浮かび上がらせる。そう、ベースで、アルペジオやハーモニーを演奏する。先日観たスクエアプッシャーの優しい部分、そう、「Iambic 9 Poetry」的な部分を凝縮して聴いているような気持ちになる。両者に接点はない筈だけど、ジャズというキーワードでは繋がっているのかもと思わせる、ベースの音の美しさ。

ペダルを駆使して音をフェイドイン/アウトさせ、その場でボイパをルーパーに仕込み、指パッチンでカウントを出し、足首だけでなく膝を上げ下げ、ドカンドカンとテンポを刻む。終始慌ただしく演奏しているのだけど、そうして鳴らされる音は淡い色彩の水彩画のように柔らかい。知っている曲は『WILKES』と『One Theme & Subsequent Improvisation』からの数曲で、それも聴き憶えがある……くらいの断片。セットリストはあったけど、ほぼインプロだったんだろうなあ。皆さん寡黙で静か、ときどき微笑み合う。トムはキャラクターも愛らしく、笑ってサムをどついたりしてたけどあれは何を話してたんだ?(笑)

リラックスしているように見えたけど緊張感は相当なものだったのか、本編終了後サムとクレイグはガッシとハグしていた。手応えがあったのでしょう、いや〜ほんと素晴らしい演奏でした……! FRUE大好き有難うと繰り返し、日本語のMCも。「こんにちは」「有難うございます」だけでなく、「メンバーを紹介します」のアクセントはフロアからどよめきが起こるくらい綺麗な発音でした。

最後にはFRUEの方(?)をステージに呼び込んで、見て見てこのひとたちが呼んでくれたんだよ〜! 一緒に感謝の気持ちを伝えよう〜! みたく拍手を贈ったんだけど、そのときサム、自分の機材の方に行ってカーペンターズの確か「We've Only Just Begun」(邦題「愛のプレリュード」!)を流したの。感動的なシーンだったんだけど、ふとこの曲はこのために仕込んでたのか、演奏用の素材としてもともと持っていたものなのかどっちなんだ? と思う。この曲名(とかいって違う曲だったらどうしよう・おぼろ)からして、やっぱり最後のために用意したのかなあ。だとしたらサム、なんていい子……! そう、FRUEとの関係はまだ始まったばかり。これからも末長く宜しくね。また来てね〜!!!

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・アートとラップ、アート・ラップの再検討(Earl Sweatshirtとbilly woodsを例に)┃久世┃note
ビリー・ウッズについて、リリックの背景について。「いいたいことがある」という気迫をすごく感じたので、ラップを聴きとりきれず申し訳ない気持ちにもなりました。ちゃんとリリック読もう

・月見ル君想フのタカハシコーキさんによるとクリスは来月のルイスコールでまた来日するそう。楽しみ!

・それにしても今日出演の皆さん、揃ってステージに私物を持ち込むの微笑ましく見てたけど、ふと楽屋が狭いのか? とも思った(笑)