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2021年06月06日(日)
『アメリカン・ユートピア』

『アメリカン・ユートピア』@WHITE CINE QUINTO


泣きすぎて頭が痛い……視界がぼやけて見逃したとこも結構ありそうなのですぐまた観たいよー。バーンの心意気に感動したってのは確かだけどそれは観終わったあとの後付けで、実際のところなんでこんなに泣いてんだろって自分でもわからんかった……。曲がよいとかライヴに行きたいとかマスクとりたいとか声あげたいとか、いろんな要因があったのかもしれないが。まあそうした! 様々な鬱屈が! これを観ている間は霧散していた!

2019年にブロードウェイで上演された『American Utopia』をパッケージ。ニューヨーク・ハドソン劇場での公演を撮影し、映像ならではの演出を加え、一本の作品に仕上げたもののようです。本国ではHBO配信のみの公開だったそうだけど、最初のMCでバーンが「家を出て、劇場に来てくれて有難う」っていうのね。これがまた胸に沁みた。劇場(映画館)で観ることが出来てよかった……GW明けの初日が緊急事態宣言のため延期になり、配信になっちゃうかも? 劇場で観られなくなるかも? とヤキモキしていたのです。


『songs of david byrne and brian eno』ツアーは2009年に来日公演も行われている。手前味噌だがリンクを張ったこの感想、ライヴの雰囲気ごと伝えるいい感想になってると思いますよ。衣裳はホワイトからグレーになり、チュチュは履かなくなった(これはちょっと残念・笑)。バンド編成はほぼ同じだが、よりアクティヴに、よりアグレッシヴに。楽器は全てワイアレス。マーチングバンドのようにフォーメーションを組み、振り付けられたダンスを踊る。思えば「Burning Down the House」のドラムサウンドってマーチング用のマルチタムの音に合ってますよね。アフロビートを叩き出す多彩なパーカッションも魅力的。何もないステージを囲むのはキラキラ光るシルバーチェーン。このステージは安全、この劇場は安全とでもいうように、演者は裸足で自由に動きまわり、観客は歓声をあげ立ち上がって踊る。拍手し、合唱する。

『songs of〜』では「演奏してて楽しいし、お客さんが大喜びしてくれるから」と、イーノと関係ない曲も演奏していた(微笑)バーンですが(ちなみにこのとき「Born Under Punches」は「難しいんだけど練習して出来るようになってきたから今度やってみようと思うんだ〜」といってた。セットリストに入っていてニッコリですよ!)、今作でもそのサービス精神は発揮されています。ステージで演奏されるのは、2018年のソロ作『AMERICAN UTOPIA』からのナンバー、TALKING HEADS時代の曲、ソロやコラボで発表した曲。そしてプロテストソング。上演に際し、『AMERICAN UTOPIA ON BROADWAY (ORIGINAL CAST RECORDING LIVE)』もリリースされています。

曲名を見ただけで物語が聴こえてきそう。ステージに立つ人物はときに間違いを犯し、ダラダラして、テレビを観て、政治のことなど気にかけないでいる。オープンになれない自分、皮肉屋の自分を顧み、変えられないことと変えられることを問う。ひとと会うことはたいへんだけど楽しい。コミュニケーションの必要性を語り、自身のルーツを語り、移民で成り立つアメリカをより理想的なものにするべく投票に行こうと呼びかける(上演された2019年は大統領選挙の前年)。真摯な言葉にはユーモアとエレガンスを。

象徴的な場面はいくつもあるが、特に印象に残ったのは「Everybody's Coming to My House」。この曲を発表したとき、バーンは「望まぬ来訪者が家に居座っており、帰ってほしいなと思っている」ものとして唄っていた。ところが、デトロイト・スクール・オブ・アーツの生徒たちが合唱曲としてこの曲を唄ったヴァージョンを聴いたとき、「彼らは『皆ウチにおいでよ、この家は誰にでも開かれている』と唄っているように感じた」。自分ひとりの考えが及ばないものを他者は見せてくれる。

映像制作にあたり、バーンの前にもうひとりの「他者」が現れる。スパイク・リーのカメラ(撮影監督はエレン・クラス)は、観客の目が届かない場所を捉える。プレイヤーが目の前にいるかのような視点、客席からは決して見られない天上からの視点。多様性を謳う出演陣にはエイジアンが不在だが、カメラは客席にその姿を見る。「Hell You Talmbout」ではレイシズムの犠牲となったひとびとの肖像を新たに加え、強いメッセージをレイアウトする。2019年から2020年、この一年で次々表面化した問題と、更新されていくことの多さ、早さに光明を見た気持ちになる。パーカッションがバシバシ通るサウンドプロダクションも素晴らしかったです。爆音上映でも観たいよ〜(スケジュールがなかなか合わない)。

他者を拒絶せず、その言葉に耳を傾け、コミュニケーションを諦めない。ユートピアへの道は遠い。それでもマーチングバンドはパレードを続ける。ステージから客席へ降り、劇場を出て自転車に乗り、街へ出る。ひとと出会おう。一生に一度の、どこへでも行ける道を走ろう。ユートピアはあなたから、私たちから始まるのだ。

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SET LIST

01. Here (from American Utopia)
02. I Know Sometimes a Man Is Wrong (from Rei Momo)
03. Don't Worry About the Government (from Talking Heads: 77)
04. Lazy (from Muzikizum by X-Press 2)
05. This Must Be the Place (Naive Melody) (from Speaking in Tongues)
06. I Zimbra (from Fear of Music)
07. Slippery People (from Speaking in Tongues)
08. I Should Watch TV (from Love This Giant)
09. Everybody's Coming to My House (from American Utopia)
10. Once in a Lifetime (from Remain in Light)
11. Glass, Concrete & Stone (from Grown Backwards)
12. Toe Jam (from I Think We're Gonna Need a Bigger Boat by The Brighton Port Authority)
13. Born Under Punches (The Heat Goes On) (from Remain in Light)
14. I Dance Like This (from American Utopia)
15. Bullet (from American Utopia)
16. Every Day Is a Miracle (from American Utopia)
17. Blind (from Naked)
18. Burning Down the House (from Speaking in Tongues)
19. Hell You Talmbout (from The Electric Lady by Janelle Monáe)
20. One Fine Day (from Everything That Happens Will Happen Today)
21. Road to Nowhere (from Little Creatures)
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22. Everybody's Coming to My House: Detroit (End Credits)

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それにしても、昨日の野田さんも今日のバーンも「かつての自分の言動を振り返り、検証し、責任を持つ。過去を変えることは出来ないが、意識を変えることは出来る」と若い世代に伝えようとしている。自分たちの世代だけが逃げ切れればいいと思っていない大人がいることで若者は希望が持てる。字幕監修はピーター・バラカンでした。

余談ですがワタシのメルアドってTALKING HEADS(とパール兄弟)が由来なのでした。ずっと憧れの大人です。こういう年長さんがいると自分たちもへたっていられない、まだ大丈夫だと思える。いいときにいいものを観られた。観ることが出来てよかった。

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・『アメリカン・ユートピア』予告編(日本語版)


・David Byrne's American Utopia (2020): Official Trailer


・See Detroit Teens Perform David Byrne Song in New Video┃Rolling Stone
デトロイト・スクール・オブ・アーツの生徒たちが唄ったヴァージョンの動画が観られます

・デイヴィッド・バーンが語る『アメリカン・ユートピア』、トーキング・ヘッズと人生哲学┃Rolling Stone Japan
「よし、ならこいつは自分で引っ張り出してやることにしよう。大袈裟にするつもりはないが、でも自分から口に出すことで、自分の問題として受け止めるんだ。そしてみんなにも、僕が成長し、変わったことがわかってもらえるはずだと願おう」

・デヴィッド・バーンが歌い、踊り、語る 『アメリカン・ユートピア』┃CINRA.NET
「撮影中、スパイクは観客席で天を仰いでジョナサン(・デミ)に『うまくいってるかな? どう思う?』って問いかけてた」

・スチャダラパーが語る「アメリカン・ユートピア」、デイヴィッド・バーン&スパイク・リーという2人の鬼才が作り上げた劇的ライブ映画┃音楽ナタリー
変わり種で面白かった記事。共通言語がわんさか出てくる(笑)
当方マーチングバンド(パーカッション)経験者ですが、ここでも語られてる「バミリがない」のは確かにすごい。上からのショットでもフォーメーション崩れてなかったもんね。そしてあの重いシンバルを軽々扱う女性プレイヤーもすごい。景気いい音!
あとドラムにしてもキーボードにしても、あれを装着したまま動きまわるのすごいたいへんだと思います。チームメイトは骨盤傷めて腰痛になってたもんなあ……。今では身体への負担が少ないホルダーがあるのかもしれないが
(20210626追記:リピートで確認。端的にいうとバミリはあったのだが逆に「これだけ!?」という少なさだったのでやっぱりすごいな……肩についているセンサーは、動きまわるプレイヤーを照明が追えるようにするためのものとのこと。パンフレットにピーター・バラカンが書いていました)

・それにしても前日ほぼ満員の劇場、本日50%入場の映画館。どうして映画館は100%入れちゃダメなのか全くわからん

(20210628追記)
・映画『アメリカン・ユートピア』──デイヴィッド・バーン×スパイク・リー! 分断と差別の時代に「見えないつながり」を問いかける大傑作┃GQ Japan
「そこには、この街で見かける人々や生活用品、木々や動物などが散りばめられている。まるで『生活する』ことと、社会的、政治的な意見を持つことは矛盾しないと伝えているようだ」
頷きまくるレヴューをご紹介。そうだったー(というかリピートする迄忘れていた。やっぱり泣きすぎていろんな箇所を取りこぼしている)、舞台幕の絵の作者はマイラ・カルマンだ。振り返ってみると、あの幕に描かれる世界は本当に美しく、舞台の、世界の理想を伝えるものだった

・そうそう、リピートして気づいたことがひとつ。ひとりだけフットカバーをしているひとがいる。実はそういうところにも好感を持った。足に怪我をしているのかもしれないし、演奏にあたっての滑り止め(踏ん張らないと安定しないとか)なのかもしれない。「全員裸足というコンセプト」は、決して強制されていない。隊列を組み行進するプレイヤーたちは、振付を与えられたうえで、自分の意志のもとに動いているのだ

(20210730追記)
・(ブロードウェイの)オーディエンスは実際、どれくらい盛り上がった? あの「冒頭のイラスト」は一体なに? 映画だけでは伝わらないあれやこれ┃HILLS LIFE
デイヴィッド・バーンとマイラ・カルマンの長年のコラボレーションについてはこちら。この記事ブロードウェイ上演時の様子も詳しく書いてあっていいなー


で、デイヴィッド・バーンとマイラ・カルマンによる書籍が出ていると知り、取り寄せました。絵本体裁、シンプルなテキスト。マイラは『Remain in Light』や『Naked』のアートワークを手がけたティボール・カルマンのパートナー。バーンとは長年の盟友でもあります

・で、今になって知ったのですが、ワタシが長年愛用して既に三代目のMoMAのスカイアンブレラ、ティボール・カルマンの作品だったのね! ってかTibor Kalmanって見ても同一人物とは思いもしなかった(なんでや)……ウヒーなんか繋がった感じで感動している…今更だけど……

折り畳み傘の紹介文にだけ「トーキング・ヘッズのアルバムカバー」って書いてある。何故