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2021年01月11日(月) ■ |
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『チャンシルさんには福が多いね』 |
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『チャンシルさんには福が多いね』@ヒューマントラストシネマ渋谷 シアター2
オープニングの画面がスタンダードサイズ、というところも小津監督へのオマージュみたいですね。数々の名作をちゃんと観てきていない観客は、こうやって逆方向から偉人を知るのでした。原題『찬실이는 복도 많지(チャンシルは福が多い)』、英題『Lucky Chan-sil』。2020年、キム・チョヒ監督作品。以下ネタバレあります。
長年コンビを組んできた映画監督が急死し、プロデューサーとしての仕事を失くしてしまったチャンシルさん。収入が途絶えたので、家賃が安い山の上へと引っ越してきます。さて、これからどうしよう? 仕事にしても、人生にしても。
確かにプロデューサーって職業、どういう仕事なの? って訊かれると説明が難しい。本人ですらどう答えていいか迷うんだな(あの社長ヒドい)。目立たなければ目立たない程いい仕事をしているともいえる、とてもだいじな役割なのにね。しかしチャンシルさんをちゃんと見ているひとは見ているのだ。ため息ついたり、はりきったり、泣いたりするチャンシルさんのことを案じているひとは沢山いるのだ!
引っ越しのとき一緒に荷物を運んでくれたのは、彼女を慕う若手スタッフ。家政婦として雇ってくれるのは主演女優。大家さんに構ったり構われたり。短編映画監督との恋の予感(と本人が思い込もうとしている、と第三者は思うのであった。が、そうやって始まる恋もあるものですよね)は打ち砕かれたけど、誠実な彼とは今後もつきあいが続きそう。映画を無心に楽しんでいた頃の象徴、レスリー・チャンと言い張る男(似てないですよ。そこが味ですよ)も現れて、優しい言葉をかけてくれる。
女優は新しい監督との関係やネットの評価に傷付いて生活が荒れてる。大家さんは夫と娘を失くして寂しい。若手スタッフも新しい職場でたいへんだろう……って、そもそも彼ら、仕事はあるのだろうか。短編監督は映画だけでは食べていけないのでフランス語を教えているし、レスリーは悲劇的な最期を迎えた故人だ。それでも彼らは、チャンシルさんの前では明るいし、優しい。レスリーなんて、震えてるのにランニングとトランクス姿のままでいる。幽霊なのに寒いのかとも思うが、おそらくその姿でいれば、チャンシルさんが気づいてくれるからだろう。あれはチャンシルさんが好きだった『欲望の翼』での衣装(?)なのだ。やだ健気。
チャンシルさんはチャンシルさんで、女優を励まし、大家さんにハングルの読み書きを教える。レスリーと大好きな映画のシーンに入り込み、夜道を歩く彼らを「照らす」。お互い福を持ち寄って、少しずつ前に進む。オフビートといおうか、いい感じにすっとぼけたリズムで日々が過ぎる。人生真っ逆さま、はない。人生大逆転、もない。何にも起こらない? いやいや、ここには豊かな時間があるのだ。引きの多い画面は、坂を登り坂を降りるチャンシルさんを遠くから覗き見る。軽やかな足取りの彼女を見て笑顔になり、うなだれて歩く姿を見てハラハラする。レスリーも段々かっこよく見えてくる(マジで)。チャンシルさんが自分のことを認識してからは、服も着るようになる(笑)。幽霊かもしれない、幻かもしれない彼は、チャンシルさんが再び歩き出したとき、消えてしまうのかな? いやいや、彼はいつでも映画のなかにいるのだ。
映画って、なんて素敵なものなんだろう。
チャンシルさんを演じるカン・マルグムがとてもよい。「チャンシルさん」と思わず呼んでしまう、実在する友人のように思わせてくれる。女優を叱咤激励するときも、居酒屋で映画談義をするときも、いい感じに力が抜けている。バスで泣くシーン、名演です。
音楽が即興のときのおおともっちみたいな感じで印象的だったんだけど、チャン・ギハと顔たちのベースだった方なんですね。チョン・ジュンヨプさん。エンディングテーマの歌がこれまたすっとぼけてて最高です。ちゃんと歌詞にも字幕がついててにっこり。宣美もかわいいし、邦題もいいし、日本の制作陣もいい仕事なさる。
ところであの公園の遊具、いいなあ。ジムにあるクロストレーナー(?)を木で作ったみたいなやつ。あれをせっせと漕ぎながらの会話シーンが二度あるんだけど、この脱力感もとてもよかった。ほのぼの。
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・監督のキム・チョヒは、長年ホン・サンス監督作品のプロデューサーを務めていた方。ホン監督お元気だったっけ…というか、ご、ご存命……? と不安になって調べてしまったのは内緒です
・予約したときはいちばん収容人数の多いシアター1だったんだけど、当日「劇場が変更になりました」とシアター2へ案内される。時期が時期だけに苦しいかな。本国では昨年コロナ禍の春に一度ひっそり公開が終わったあと、評価が高まり秋に再公開されたそうです。日本でも評判がひろまるといいな
劇中チャンシルさんのつくるチゲがすごくおいしそうで、すっかりチゲ脳に。道玄坂の兄夫食堂に行こうと歩いている途中でこのお店が目に入り、空腹に負けて入ってしまいました。ここのスンドゥブはニンニクがすごい利いてるタイプでしたよ。あったまった〜
・で、兄夫食堂の様子も見てこようと円山町を歩く。閉店したVUENOS、Glad、LOUNGE NEOの跡地は新しく借り手が見つかる訳でも、取り壊される訳でもなく、建物はそのまま。ただただ傷んでいっている。『冬眠する熊に添い寝してごらん』にも登場した台所家も、昨年5月に閉店したままの状態。埃を被った回転寿司の機械が放置されていた
・他にも閉店、休業してるお店が夥しい数ある。渋谷の、いや、今は世界のあちこちにそんな場所がある。兄夫食堂は開いてホッとする。でも営業短縮しているのだろうな……
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