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2020年12月26日(土)
『てにあまる』

『てにあまる』@東京芸術劇場 プレイハウス


あと芸劇つながりでそろそろまたNODA・MAPでも観たいな、『オイル』と『ロープ』の藤原さん大好きだったから。この二作はシアターコクーンでの上演で、プレイハウスでのNODA・MAPに藤原さんまだ出てないから。

「学級会」ではわからない家族のしくみ、人間のしくみ。絶対ああなるものかと憎み続けた父親とそっくりそのままの自分に気づく息子。カウンセラーは役立たず。事故と事件は紙一重。それでも連鎖は断ち切りたい。じゃあどうしよう? 案外AIが解決してくれるかもよ。「それは間違っている」という非難は、アプリの音声でこそ聞き入れられる。

松井さんの作品は人類という種の継続をとうに諦めていて(まあそれは至極当然のことなのだ)、絶滅迄にはもうちょっと時間がありそうなので出来ることはなんとかしようや、というのんびりさがある。確かにそうなのだ、ありとあらゆる生物が、永遠に繁栄する筈がない。まさに「てにあまる」それを、焦らずのんびり観察してみよう。そこで消える命があっても、人類という種のくくりから見ればちいさいちいさい。

で、ちょっとしたことで光明が見えたりする。ただ、その過程で失われてしまったものを取り戻すことは出来ない。当事者からすればたまったもんではないが、観察者はどうすることも出来ない。当然観客も居心地が悪い。ただ、いつか自分もその当事者になるのだろうと腹が据わる。それがいつしかこの困った世の中を生きぬく心構えになる、かもしれない。

演出は柄本明。オープニングのセット(美術:土岐研一)には「す、スズナリ……」とニヤニヤさせられたが、その後はプレイハウスの広さならでは。息子のマンション一場でもやりきれた内容だと思うが、最初の四畳半的なセットは絶対やりたかったのだろうなと思わせられる。息子と父親の居住環境と支配欲、その後の歩みを予感させるいい対比。

父親や妻に冷静な態度をとろうとする反面、部下(別居する前の妻と娘にもそうだったのだろう)に対しては激昂する。人生の中間管理職を務めようと揺れ、壊れていく人物を藤原さんの見事に演じる。膨大な台詞量を、相手が生身の人間だろうがアプリの音声だろうが兄の亡霊だろうが「会話」として成立させてしまう。

エモい演技が揶揄されることもあるけど、激昂しても呻いていても、俯いていてもひっくり返っても、どれだけ早口でも言葉が的確に伝わる。藤原さんの凄さを改めて実感しました。身のこなしも美しい。だいじなことは二回いう、舞台の藤原竜也はやっぱりいいなあ。

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・今回の「Sky presents」ってどこ製作? ホリプロじゃないの? と思っていたんだけど、帰り道でやっと気がついた。これかあ!



・パンフレットが電子書籍でも販売されるの、今年に入ってからぼちぼち増えてきた。来場出来ないひとが接触/タイムラグなしに即入手出来るのはいいですよね