ふたりがステージネームを名乗っていないところに一抹の寂しさ。2018年にバイオグラフィー『Beastie Boys Book』を出版したマイクDとアドロックがトークライヴツアーを開催。その後構成を変え、スパイク・ジョーンズがディレクションしたツアーが行われた。そのときのNY会場の模様が映像作品になった。本国では劇場公開もあったとのこと。
「A 2 person 1 man show about 3 kids who started a band together.」。TED形式で映像を見せ乍ら、マイクDとアドロックがスピーチする。映像収録はNYの2公演とも行われたようだが、その両方をミックスして再編集したのか(それはそれで彼ららしくもあるが)、1公演のみをパッケージしたのかは判らない。ふたりの服はずっと同じだったかな。最初から作品にしようというプランがあったのかは判らないが、スパイク・ジョーンズが撮るには「残し」「発表する」意識があったのだろう。プロンプターや映像出しのキューが遅れる等のハプニングもあり、壇上のふたりとジョーンズがやりあうシーンも楽しい。
終始和やかな雰囲気だが、タフなシーンの渦中にいたことが端々に感じられる。パーティピーポーを揶揄するつもりで書いた「(You Gotta) Fight For Your Right (To Party)」のヒットにより、自分たちがパーティピーポーになってしまった話はほろ苦い。珍しい「白人のラッパーグループ」を戦略的に売り出したDef Jamとは一時期軋轢もあったようだ。今では関係は良好のようだが、リック・ルービンとラッセル・シモンズとはいろいろあったみたいですね。それにしても、『Paul’s Boutique』のいわれよう……(苦笑)いいアルバムじゃんねえ。本人たちは気に入っているというところがよかった。周囲に惑わされない力を身につけた。彼らは大人になった。ああ、生きていればこうして振り返れるし、後悔はせずとも反省は出来る。時間は巻き戻せないけれど、過ちを繰り返すことはない。
ビースティは周囲にガチのファンがいたり、90年代のオルタナシーンを追っていれば必ず耳に入ってくる存在だった。クラブに行けばかかっているし、実はアルバムもほぼ聴いている。しかしなんだかんだで縁がなく、一度もライヴを観ることがなかった。8月21〜23日に、今年は休みとなったFUJI ROCK FESTIVALが過去のライヴを配信した。ビースティが2007年にヘッドライナーを務めたときの映像もあった。結果的にこれが日本最後のライヴになった。映像のなかのひとたちは誰もそれを知らない。幸福な時間。長年とろ火だった熱が一気に強火になった。遅すぎた。この映画は渡りに船だった。
Book. Movie. Music. Beastie Boys Music is coming out on October 23. It’s a newly revised collection featuring 20 of the band’s classics from their 30+ year career.