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2020年02月22日(土)
彩の国シェイクスピア・シリーズ第35弾『ヘンリー八世』

彩の国シェイクスピア・シリーズ第35弾『ヘンリー八世』@彩の国さいたま芸術劇場 大ホール


そうなんです、まず目をひいたのは衣裳(西原梨恵)。ジャケットや礼服が今っぽい。これ迄「時代劇」という意識で観ていたシェイクスピア作品が、グッと身近に感じられた瞬間でした。最初に登場するノーフォーク公爵を演じていた河内大和さんが非常にプロポーションも姿勢も美しい方なので、尚更衣裳がひきたっていましたね。

描かれている世情や政治が、とても現代に近い。枢機卿が税金で私腹を肥やし、王は離婚裁判で揉める。疫病がはやり、政府の対応が遅れているなんて台詞も飛び出したので慄きを通り越してちょっと笑ってしまうくらいだったのですが、シェイクスピアシリーズがようやくこの時代迄きたか、という感慨も覚えました。

時代に寄り添った演出も的確。一幕終盤が白眉。キャサリン(オブ・アラゴン)妃と枢機卿たちのくだりは、セクハラパワハラに立ち向かう女性(が敗れるの)を歯ぎしりする思いで観ました。毅然とした立ち居振る舞いの宮本裕子さんが素晴らしく、観客の誰もが彼女の味方になりたいと思ったのではないでしょうか。男性のふるまいにドン引きする女性たち、という酒宴の描写も、観る側の意識の変化をうまいこと掬い上げているなあと思いました。観客には小旗が配布されており、王の婚礼パレードでその小旗を皆で振る、という参加型演出もあったのですが、その図式にもいろいろ思うところがありました。個人的にはこの手の観客を巻き込む演出が苦手で、入場時小旗を渡されたとき鼻白んだのですが、先導役の役者さんが必要以上に力まない指導で無理なく進んだということと、実際多くの小旗に迎えられ入場した婚礼パレードはヴィジュアル的にも昂揚を呼ぶものになっており、つられてこちらもニコニコして旗を振ってしまいました。うーむ、大衆心理って怖い(笑)。こういうひとなつっこさも吉田鋼太郎演出の特徴かもなあ。憎めないわ……。大団円の影で葬られた三人を成仏(?)させるような幕切れもせつなくてよかったです。

それにしてもこの、ヘンリー八世の人物像。晩餐会で女官に一目惚れ、裁判ではつらい〜今の自分の信仰では離婚出来ない〜と、おまえは何をいってるんだ…傲慢を通り越してバカなのかな……とすら思ってしまった(ヒドい)のですが、そうした事実を描き乍らも「王はこんなに悩んでたんですよ、世継ぎのプレッシャーも強くて困ってたし、キャサリン妃のことも心配してたんですよ。王は悪くないんですよ!」ってなふうに描かれているのです。なんなんだこの、腫れ物に触るような感じ……とモヤモヤしていたのですが、『ヘンリー八世』講座に出ていたジェンヌにヘンリー八世は人気のあったエリザベスの父なので悪く書けないらしく。プロパガンダ的側面もあったのではという説もあると教えられ視界が晴れました。成程ねー! それがわかればすっごい納得するわ、なんかすっごい口を出されたり手を入れられた感じするもんね……シェイクスピアですらそうなのか。劇作家もたいへんですね……。

劇中ウルジーがキャサリン妃とヘンリーにビンタされる演出があるんですが、ヘンリーにビンタしたいと思ったひとは多いのでは(笑)。演じていたのが阿部寛さんじゃなかったら相当不快なキャラクターになっていたかもしれません。阿部さんの姿(体型)、コントギリギリ迄皮肉を効かせた場面でも保たれる威厳。悩み多き王を阿部さんで観られてよかった。内心ツッコみつつも愛すべき人物像にしなきゃならないからたいへんだっただろうなあ(やりがいはあるかも?)。

ウルジーはフォルスタッフにも通じる哀れを誘う愚か者、やるのは楽しかろう役。鋼太郎さん嬉々として演じてらした。河内大知さんにはさい芸シェイクスピアシリーズ残りも出てほしい! そして谷田歩さんがバッキンガム公爵ともう一役やってるんですが、そのもう一役が見ものです(笑)。

ネクスト鈴木彰紀さんはキーとなる(ウルジーが失脚する原因をつくる)クロムウェル役を演じていたのですが、ここちょっと不思議でもあったのです。クロムウェルはウルジーの秘書兼お稚児さんとして描かれているふうだったのですが、何故あんなことをしたのだろう? 告発の意味もあった? でもその後、ウルジーがいなくなったあと他の公爵たちを責めたりしているし……どうにも辻褄が合わないというか、ふるまいが不可解というか。ウルジーとクロムウェルの別れの場面はとてもエモーショナル(というか主に鋼太郎さんがエモい)だったので、ちょっと思いなおしたりしたのかなー、魑魅魍魎が跋扈するこの場で生きていくにはああいうスタンスになるのかなーなんて思ったのですが、これもジェンヌから鋼太郎さんが「ウルジーがそんなミスはしないはず」とちょっと変えたと教えられ膝を打った。見せ場が増えた分矛盾を被っちゃった感じかな。それにしてもあの子(役の方)これからどうすんのかなー、穏やかに暮らせているとよいなーと調べてみたら、処刑されてた(泣)。

ところで彼、エセックス伯でファーストネームがThomasなんですね……。エセックスでThomasといえばSquarepusherじゃないの〜とニヤニヤしました(病)。

音楽と演奏はサミエルさん。ステージに設置されたバルコニーのセンターを陣取り、劇中ずっとそこでオルガン(かな)を演奏していました。テーマ曲すごいよかった! 聴いて以来しょっちゅう脳内再生しています(というか気を抜くと脳内で鳴る)。ただ、大舞台に慣れていない方だったのかめちゃくちゃミスタッチが多くてですね…カーテンコールではミスタッチがミスタッチを呼び焦ったのか相当怪しい演奏になってしまったのでハラハラしてしまった……。次はがんばれ!(次?)

沸騰した水はかさが増したように見えるが実は減っているのだ〜とか私の人生は日没に向かっている〜とか天使ですら罪を犯すんだから天使の似姿である人間はそりゃモーとか耳(読むなら目)においしい台詞は毎回楽しいなー。内容はアレですがやっぱり原作も読んでみようかと思いました。さい芸のこの企画がなかったら、上演機会の少ないこの作品を観ることもなかっただろうし、こんなにシェイクスピア作品を観ることもなかっただろうし、シェイクスピア作品がどうしてこうも長い間世界のあらゆる国で上演され続けているのか、現代演劇に影響を与えているのか考えることもなかったと思います。感謝。次は『ジョン王』だ!

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・ヘンリー八世限定メニュー┃イタリアン『ペペロネ』
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