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2020年02月15日(土)
『ねじまき鳥クロニクル』、DÉ DÉ MOUSE “Nulife”Release Tour

『ねじまき鳥クロニクル』@東京芸術劇場 プレイハウス


真夜中、何をするでもなく(原稿待ちですわ)他人と長時間一緒にいる空気。夜食を買い出しに行って、見上げたビルにひとつだけ明かりがついているフロア。車も人通りも殆どない夜道を歩くとき、肌にあたる冷たい空気。決して嫌ではないのだ。むしろそれが楽しかったりもして。ただ、頭上に蓋があるような感じがしていた。そんな感覚がフラッシュバックする。

インバル・ピントの描く、村上春樹の世界へようこそ。ピントの作品を観るのは『100万回生きたねこ』以来。このときはアブシャロム・ポラックが演出パートナーでした。今回のパートナーはアミール・クリガーと藤田貴大。ピントは演出、振付、美術を、クリガーと藤田さんは脚本と演出(クリガーはドラマターグも)を手掛ける。音楽と演奏は大友良英。

村上作品の熱心な読者ではないけれど、舞台化されたものを観るのはかなり好きなのです。『ねじまき鳥クロニクル』を最初に舞台で観たのは1993年、ニナガワカンパニー。オムニバス上演の一編として、ピーマンと牛肉の炒めもののシーンが演じられました。今回そこはなかったな。チョイスされていたのはトイレットペーパーとティッシュペーパーのくだり。このどちらかがあることで、トオルとクミコのわかりあえなさが伝わる。あの長編を三時間にまとめる場合、どの部分を選べば舞台が成り立つかを考える構成もだいじになる。藤田貴大の苦心と工夫が窺える。

台詞劇と歌による語り、そしてダンス。そして機動力あふれる装置。ミュージシャンは大友さんとイトケン、江川良子。たった三人でいくつもの楽器を使い分け、楽曲と劇伴を演奏する。インプロ的な部分も多い。舞台上の情報量がとても多いので、集中力がいる。歌への切り替えには疑問符がついた(台詞と身体表現でもはや不足はないと思われた)が、シーンを単独で考えると、成河と渡辺大知の歌はやはり心に響くものがあった。成河さんはミュージカルで培われた「物語る歌」、渡辺さんはバンドで唄ってきたからこその「投げかける歌」。この対比は楽しめた。ふたりがまぐわうようなダンスも滑らかで美しい。身長差のあるふたりが絡み合うことで、二体いる岡田トオルという人物が溶けてひとつに混ざり合い、現実世界と異次元(といっていいのだろうか)を往復するモノとなっていくさまが視覚化された。大貫勇輔と徳永えりによって演じられる、綿谷ノボルと加納クレタの性的かつ暴力的なシーンも素晴らしい。大貫さんのダンスをまた観られた、といううれしさがあった分、もっと観ていたくもあったが。『喜びの歌』で知ったんだけど、気になる表現者です。

目の前にいる人物がぬらぬらと闇に絡めとられていく様子が、ダンスによって表現される。不可解なできごとの象徴のようでもある。圧巻は吹越満による間宮中尉の告白のシーン。戦時中、人間の嗜虐性が露になる瞬間を淡々と語る。アンサンブルのダンサーたちに抱え上げられ、重力に逆らった体勢を続け、自身の体重を自身で支え乍ら語る。頭に血が降り(昇り?)額がみるみる赤くなっていく。演者の身体にかかっている負荷が、間宮中尉の受けた苦痛となり表現される。しかし声のトーンは全く変わらない。語り手の間宮中尉からすれば、この出来事は過去のことだからだ。声のトーンと語られる内容のギャップ、視界を限定するほのかな灯り。見えない暗闇と歴史の暗部が繋がる瞬間。直視するしかない。息を殺して見入る。というか観ている、ということを忘れるくらい、目の前で起こっていることに没頭していた。間宮が退出し、ふと我に返る。吹越さん、すげーーーーーーー長ゼリじゃねえの。怖い!!!!! すごいな!!!!!

広田レオナさんのツイートによると長台詞は17分。身体表現を含めると20分以上はあったように思う。戦争の実体験を語る人間はそろそろいなくなる。頭脳と身体を駆使して作家は書き、役者は言葉と肉体で語る。吹越さんのような、役者という生き物(©筧利夫)がいれば、過去はいつでも甦り、歴史は忘れ去られることがない。安心と敬意、そして感謝。

門脇麦は笠原メイの若々しい身体と、電話の女の老熟な声の両極を演じる。声の方は最初門脇さんとわからなかったくらいの迫力。銀粉蝶は身のこなしそのものがダンス、そして唄う台詞。素晴らしい。村上春樹の作品で、必ずといっていい程描かれる性と暴力の描写。読み手の感覚を鋭敏にするテキストを舞台で表現することの難しさ。その嫌悪と歓喜をカンパニーは届けてくれた。好みは分かれるかもしれませんが、私は大好きな作品でした。

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・成河&渡辺大知、村上春樹作品の美を表現「ねじまき鳥クロニクル」開幕┃ステージナタリー

・成河が語る、村上春樹×インバル・ピント×藤田貴大『ねじまき鳥クロニクル』┃SPICE
吹越さんと成河さんの共演が観られたのはうれしかった、成河さんもうれしかったそうです(ニッコリ)。ふたりはかつてサイモン・マクバーニーの演出を受けている。そして吹越さんが出たマクバーニー作品は、村上春樹の『エレファント・バニッシュ(象の消滅)』だった(初演再演

・カーテンコールでステージセンターに立ってニコニコとお辞儀をするおおともっちが見られます(微笑)

・オカダトオルというとどうしてもMOONRIDERSの岡田徹さんを連想してしまう

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DÉ DÉ MOUSE “Nulife”Release Tour@WWW X


渋谷駅の改札を出て再びうへぇトム〜となった(参照)あとのことですからウハーとなりますよね。デデくんといえばトムですよ(?)、\DJ!/

ハシゴ。観音さん引退につきトリオ編成となったバンドセット、どうなるかな? と思っていたのですが、シンセドラムやマラカス等の小物を駆使してリズムを強化、『Nulife』のラテンサウンドがまあハッピーなこと。ハッピーなんだけどKeyによるリフには哀愁があるってとこがまたよくて。今作は別れや悔い、あやまちを認める強さといった痛みが表現されたものが多いので、泣き笑いにもなります。なんてせつないダンスミュージック。

MCで「前回のツアーはディスコってコンセプトがあったからノンストップで演奏したけどわかりづらかったみたいで! 『be yourself』(前作)の曲ばっかでつまんなかったとかいわれて! SNSとかで!」「『Journey to freedom』とか『Dancing Horse in My Notes』とか聴きたいんでしょ!」「こんなの(『Nulife』)ばっかつくってないで『A journey to freedom』みたいなの作れよと思ってるんでしょ! 知ってる!」と毒づきながらも(それで場がイヤな感じにならないところ、このひとのキャラクターと話術ですよねえ)、「でもそれもわかるの。刷り込み現象っていうの? 最初に聴いたのが『A journey to freedom』だったらそれはそうなりますよ。それは超えられないよ。でも『Nulife』が誰かの最初に、刷り込みになるかも知れないじゃん! だから僕は挑戦を続けるんです!」みたいなことをいってて、これには自然と拍手贈りましたよ。

そして今となっては思い出せない、私にとってのデデくんって何の曲が最初だったか。ライヴだったんですけど。菊地成孔との対バンだったんですけど。これがあまりにも衝撃だったので音源探し始めたんですけど。しかし思えばこれも刷り込みだなあ、ライヴがすげえ! とその後通いつめることになったのだし。

閑話休題。そういいつつもアンコールで「Journey to freedom」やってくれるとこがこのひとの度量ですわ。過去と今は繋がっているなー。それにしても『Nulife』のナンバーのライヴ映えすることよ。そして熱量の高さよ。このセット、夏のフェスとかでまた観たいな。新型コロナウイルスの影響で、ツアーファイナルの台湾公演が延期になってしまったのは残念。事態がはやく落ちつくといい。