初日 最新 目次 MAIL HOME


I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
kai
MAIL
HOME

2019年12月06日(金)
高橋徹也 バンドセット・ワンマン『友よ、また会おう 2019』

高橋徹也 バンドセット・ワンマン『友よ、また会おう 2019』@CLUB Que


毎回毎回素晴らしいいうとるが毎回毎回違う面で素晴らしいとこが見つかるんですよ! 歌は勿論今回ギターの低音の歪ませ方にもシビれたな! ああいう音出してるの初めて聴いた気がする。歌も演奏もキレッキレなのに余裕が感じられるという恐ろしさ。

-----
高橋徹也:vo, g、鹿島達也:b、脇山広介:drs、宮下広輔:pedal steel
-----

佐藤さん(key)欠席につきこの四人の編成で、というのはなんでも初めてだとか。そのためいつものバンドセットとはアレンジが違いました。エレピや(シンセで鳴らす)弦のパートを宮下さんが担ってたんだけど、ペダルスティールってフェンダーローズみたいな音も出せるんだなあ。「えっ、今の音誰が出した?」と探すと大概宮下さんだった。そうした妙も楽しめたんですが、これがなんというか、ひとり足りないからという策ではなく、どんな編成でも曲の魅力を引き出せるバンドの自信のようなものを感じたんです。このメンバーで高橋徹也の楽曲を演奏するとすげーぞ! 的な。MCでもいってましたが、鹿島さんとはもう四半世紀のつきあい。高橋さんの作曲や歌の特性を最大限に活かすには、というミッションに挑み続けるメンバーといおうか。「チャイナ・カフェ」では全員のソロまわしがあったりと楽しかった。鹿島さんがアップライトベースを弾いた4曲はもーバンドはいきものだというのがまざまざと感じられました。

しかし特筆すべきはこの日の高橋さんの調子のよさ。めちゃめちゃ声が安定していた。地声とファルセットの切り替え、転調の高音がこんなに綺麗に出るとは……ここちょっと毎回ギャンブルみたいなところがあって、その不安定さが魅力になるときもあるのです。でも今回はそんなスリルなんぞいらんわいという安定感でした。序盤からピッチがすごくしっかりしていたので「今日『新しい世界』やったらすごくうまくいきそうな気がする、やるかな?」と思っていたら存外早く演奏されたので「早! ああそうか、まだ喉に疲れが蓄積していない中盤にやれば高音が出ると考えてのことかな?」と思っていたら、実は結構終盤だったと指摘されて驚いた。そしてその出来映えの素晴らしさ! ヘンな例えですが四回転半跳べた! みたいな感覚でした(スケートシーズンだけに)。身体表現という意味では音楽家とアスリートには通じるものがある。

ご本人がいうには「今年はバンドのライヴが少なくて」、バンドセットばかり観に来ている自分はトリオ編成だった『Long Hot Summer 2019』以来のライヴだったのですが、四ヶ月の間に何があった…いや、もともとすごいライヴをするひとだけどまだ上があったか……と思わずにはいられません。

自分が描く曲のアイディアに自分の身体が追いつかないときってあると思うんです。頭のなかではこんな音が鳴っているのに、それを自分の身体を使って再現出来ないときのもどかしさは本人にしか判らない。リスナーはプレイヤーの身体を通してし聴くことが出来ないのでそれを、期待を抱き乍らものんべんだらりと待っている。自他ともに「怪物」と認める『夜に生きるもの』を呑み込み内に納めた高橋さんが、次に向き合ったのは自身の身体だったのかな。でもMCでの話を聴いていると普段からストイックにトレーニングしているようだし、ライヴ当日をピークパフォーマンスにするためのスケジュールを自らに課しているようです。ソロやデュオ、弦楽四重奏との共演といったさまざまな編成でのライヴもコンスタントに続けている。その積み重ねとコンディショニングがここにきて一気に花開いたのかな? などと思った。

で、体調(便宜上体調と書く)がいいと持っていたアイディアを実践してみる。それが悉くうまくいく。結果聴いたことのない音世界が現れる。ペダルスティールとギターの、聴いたことのない絡みには興奮しましたねー。あの低音フィードバックの使い方、初めて聴いた気がする。これも、「何この音?」と在処を探したらギターからで驚いた。既存の楽曲のレンジが次々と拡大されていく。歌詞がより鋭く届くうえ、もともとの表現力から歌のなかの世界がヴィヴィッドに、そしてスリラーのように迫ってくる。ある域を超えると畏怖すら感じます。客入れのBGMはThe Smiths。ブリティッシュロックへの敬意をベースに、高橋さんにしかつくれない音が風格すら漂わせて響きわたる。

それにしても「犬と老人」は毎回ハッとさせられる。あの歌には世界の全てが入っているかのようだと普段から思っているけど、この日は「残酷な出会い」ってワードに改めてショックを受けた。あの歌詞の流れにそうした言葉を、あの箇所に入れるかね……。

来年リリースの新譜について宮下さんが「あのね、すげえいいですよ」(なんかもー早く聴いてほしくて仕方ないって感じだった)といってフロアが湧いたんだけど、それを受けた高橋さん、「そうでもないよ」っていったんですよね。照れや謙遜もあったのかもしれないけど、まだまだ出来ることがあった、アイディアが溢れて仕方ないけど一枚のアルバムのフォーマットには納めきれなかった、というニュアンスにも受けとれました。新譜のタイトルは『怪物』。自分のなかの怪物に気付き、それを自在に操れるようになってきたという自負の顕われかな。

といいつつMCは通常運転。ジェスチャー込みの「イケメンを俺が隠す」(drsがvoの真後ろなので)発言にはゲラゲラ笑いました。「鼻が出てる気がして不安になって」「そればっか気にしてたんで(アンコールのとき)Tシャツに着替えるの忘れた」。CLUB Queにはデビュー当初から出演していて、当時はローディーがいたんだけど「『いや、いいです、自分でやります、自分そんなんじゃないっすから』なんていってた」。今は自分で搬入してる。「今だったら全部やってもらうのに〜。もっとお金持ちになってる筈だったんだけど、そういうチャンスはあったんだけど。でも自分でけもの道を選んだんで」、という話もよかったなー。頑固に、自分のやりたいことを曲げずに来てよかった。そう本人が思えているのって素晴らしいことだ。

来年は脇山さんはtabacojuice、宮下さんもPHONO TONESを再始動するとのことで楽しみも増えた! はー『怪物』楽しみだな。ライヴでは音源がまだ出ていない曲をいろいろ聴けているけど、そのなかからどれが入るのかなー。よいお年を!

-----

(20191211追記)
高橋さんが当日のセットリストをツイートしています(12)。ホントだ「新しい世界」めちゃめちゃ終盤だわ。いやーそれであの声…鬼に金棒……。鹿島さんがアップライトベースを弾いたのは後半『ベッドタウン』からのナンバーが続いたところですね。
---
01. 怪物
02. ハロウィン・ベイビー
03. チャイナ・カフェ
04. 人の住む場所
05. グッドバイ グッドバイ グッドバイ
06. 鏡の前に立って自分を眺める時は出来るだけ暗い方が都合がいいんだ
07. The Next Song
08. 音のない音楽
09. 曇ったガラス
10. 世界はまわる
11. 悲しみのテーマ
12. かっこいい車
13. 夜明け前のブルース
14. 笑わない男
15. 大統領夫人と棺
16. 新しい世界
17. 醒めない夢
18. Open End
19. 犬と老人
encore
20. 真っ赤な車
21. 友よ、また会おう
---