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2019年05月26日(日)
オフシアター歌舞伎『女殺油地獄』

オフシアター歌舞伎『女殺油地獄』@歌舞伎町・新宿FACE


FACE行ったのスズカツさんのヘドウィグ以来。あの魔の階段は使えなくなり、綺麗なトイレが増設されてるんですよ。今回は歌舞伎関連のおみやげ売店も設置されており、そのミスフィッツぶりも楽しかった。 上記宣美や開演前の音響、映像はモダンでエッジーなものでしたが、幕が上がってみれば装束も演出もしっかりとした歌舞伎の拵え、これがよかった。

各プレイガイドのアラートに赤堀雅秋の名を登録しているというのに、この公演を知ったのは五月に入ってから、新聞広告で。なんでだ! この新聞広告も、公式サイトもチケット取扱に松竹しか載っていない。ええー配送か銀座迄買いに行くしかないの? そんな、まさか。とe+をチェックしてみたら普通にありますがな。松竹ェ……。という訳で寺田倉庫は逃しFACEで観ました。夜には人気もなく、助けも呼べなさそうな倉庫街というイメージの天王洲で観るのも乙だったでしょうなあ。

思えば赤堀さんはエセ歌舞伎と称した作品を何本か書いている。『沼袋十人斬り』しかり、『大逆走』しかり。その後コクーン歌舞伎の『四谷怪談』に演出助手としてついていたので、いつかコクーンで歌舞伎の演出するのかなあと思っていた。そこへこのオフシアター、「場」としては申し分なし。既存の綺麗な劇場よりも、その泥臭さが合っている。幕開けの第一声からして「ケツの穴がかゆい」ときたもんだ。義太夫、歌舞伎役者の力を信じて書かれた赤堀さんの詞の強さ。下世話な言葉が強烈に響く、人間の化けの皮を剥ぐ。歌舞伎のなかでも人気の演目、『女殺油地獄』の醍醐味はどこにある? 役者の色香に酔う? 陰惨な殺人場面をエンタメとして観る? 実録物(今作は実話だったかどうか諸説ありますが)として、ワイドショーとしての伝統芸能……あれっ、当時の伝統芸能と呼ばれていない頃の歌舞伎ってこうだったんじゃないか。かくしてひとの営みの普遍が浮き彫りになる。

夜遅く集金に出かけるという夫を気遣い軽食を出そうとする妻、急ぐからいいよという夫。喜んでお茶を運ぶ娘。疲れているでしょう、肩を揉みましょうかという妻、じゃあお願いしようかなという夫。そこには互いを思っての行為だけが描かれる。見栄を張り、放蕩をやめられず、弱者に手をかけるどうしようもない人物の末路を淡々と描く。見てきたように描かれる殺人の描写、その記憶を持たない者でも胸を衝かれる「ちいさな幸せ」の描写。親の視線と子の視線。赤堀さん、そういうところを見逃さない。リングのようなセンターステージ、役者たちは客席のすぐ近くの闇から現れ闇に消える。江戸時代の夜の冥さがすぐ傍に迫る。すぐとなりに彼らがいるような感覚。油やふのりを使わずして描かれる殺人の場は、秘め事のような細い声が闇に響く。この官能と恐怖。

個人的にはこの作品、与兵衛のことがホント憎らしくて嫌いなので捕縛の場があって溜飲が下がりました(笑)。逮夜の場は『四谷怪談』同様ねずみがいい仕事をするのでねずみが好きになるわ〜。中村獅童の与兵衛は愛嬌があるだけに憎みきれずに困るな〜と思ってたけど、豊嶋屋の場で愛想も尽きたわい! ホントムカつくバーカバーカ!(ほめてる)中村壱太郎はお吉と小菊の二役、与兵衛の人生を狂わせるっていうか与兵衛が勝手に狂ったんであってこのふたりのせいにすんなよバーカバーカというのがよくわかる、媚びない女性たちでした。見事。

そして七左衛門/白稲荷法印役、荒川良々がいい仕事してました。赤堀さんもいい役に充てたなー、笑いと情をしっかりと表現、前半の愛嬌、中盤の優しさ、終盤の悲嘆。帰り道「あのひと面白かったわねえ、どこかの劇団のひとよね」「ほら、松尾スズキの……」とかご年配の方がお話されてました。おお、しっかり知られている。うれしいな。お吉の娘・お光/禿の二役を演じた浅沼みうも素晴らしかった。グロテスクな大人の世界を目撃したこどもと、そんな大人たちをからかうこども。彼女たちの未来に幸せが待っている、それをほん少しでも信じられるように逮夜の場が上演された、と思いたい現在。

赤堀さんの歌舞伎演出、今後も続けてほしいな。はやくも次が観たい!