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2019年05月04日(土)
『良い子はみんなご褒美がもらえる』

『良い子はみんなご褒美がもらえる』@赤坂ACTシアター

トム・ストッパード作品ということで襟を正して行きましたが、オーケストラの演奏は美しく、ダンサーたちのフォーメーションも美しく、トライアングルの扱いに苦笑し乍らも(吹奏楽部パーカッションパートだったものでな……)楽しく観ました。いや、こないだ関ジャムでも「シンバルとトランペット同じギャラなの?」とか笑われてたもんでな……。それはさておき、「俳優とオーケストラのための戯曲」という副題のとおり、いちばん楽しんでいるのは役者とオーケストラかもしれませんね。これはやり甲斐あるだろうなあ。ちなみにオーケストラも出演者なので、オケピではなくステージ上で演奏していました。

ストッパード作品なのでやはり哲学的といおうか、内容を理解出来たかというと怪しいことこの上ない。自分のなかで組み立てたのは、ひとは誰でも自分のオーケストラを持っており、自由に音楽を奏でられるのだということ。窮屈で互いを監視するような社会のなかで、あるパートが行方不明になったり、失われたりする。そんなときプレイヤーを、楽器を取り戻すことは出来るのか? ということ。興味を惹かれたのは今作の作曲家、アンドレ・プレヴィン。今年の二月に亡くなったばかりの方ですが、ユダヤ系ドイツ人で、ナチスの迫害を逃れアメリカへと渡った人物です。社会情勢の混乱のなか出生証明が失われ、実のところ年齢がハッキリしないとのこと。そうした人物が、自由なふりをした不自由な世界で鳴らしたい音楽を描いた、と思うとまた違った聴き方も出来る。

自分のオーケストラを万全の状態で演奏させたいひとりと、オーケストラを持っていることにも気づかないひとり。監獄は病院と呼ばれ、罪人は病人と呼ばれる。病気か健康かは、ときの指導者によってくるくると変わる。堤真一も橋本良亮もめちゃめちゃ身体がキレるひとですが、今作ではそれを封じています。『39 刑法第三十九条』での堤さんを強烈に憶えている者としては、うれしい気持ちになったりも。橋本さんはもっと動きたいんじゃないかなあ(というか自分がそういう橋本さんを観たかったというのもある)とも思いましたが、ダンサーたちと対峙するシーンはやはりキレッキレで瞠目しました。どちらが「病人」なのか観客に問うと同時に、その観客に「病人」は自分なのでは? という気づきを喚起させる役割もある。タフな仕事をブレずにやっている印象でした。すごいなあ。

ブラックユーモアもたっぷりなストーリー運びのなか、嫌みでない笑いを生んでくれたのは小手伸也。外山誠二はまさにトライアングルやシンバル、失敗したら台なしで、成功するのがあたりまえというようなプレッシャーの大きい役。その昔、とあるバレーボール選手がセッターというポジションについて「勝っても目立たない、負けるとワタシのせい。納得してやってるからいいんだ」と仰ってましたがそれを思い出しましたよね…すごいだいじな役まわりなんだってば、わかってくださいよ……。斉藤由貴は要所をキリリと締めてくれました。その名演が記憶に新しい『母と惑星について、および自転する女たちの記録』の再演に出演しなかったのは、この舞台でスケジュールがうまっていたからかな?

父親の帰りを待つ息子役にはシム・ウンギョン。キャスティングが発表になったとき、あのシム・ウンギョン? と驚きました。大好きな映画『怪しい彼女』のあの子、ヘプバーンオマージュの衣装がとっても似合っていた、かわいらしいあの子! 今回は犯罪者(扱い)の息子役ということで服装は地味めでしたが、少年役の扮装がやっぱりかわいらしい。綺麗な日本語発音には驚かされました。ほんのりあるなまりがこどもという役柄にとても合っていて効果的。日本のマネジメント会社に所属しているとのことで、これから日本での活動も増えていくのかも。また舞台で観たいなあ。

フルオーケストラを舞台にあげる作品なので、それなりに大きな劇場が必要になります。本国ではそんなことないのだろうけど、日本だと観客とのバランスをとるのが難しかったのかな。空席がぼちぼちあって、そこはちょっと残念でした。