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2019年04月14日(日)
『hymns』

『hymns』@博品館劇場

なんて良質な対話劇。初演への愛情はそのままに、こうやってアップデートされていくのか。青山円形劇場という代替がきかない空間で上演された作品を、プロセニアムの劇場で上演する。経験? 実績? 時間がもたらしたものを呑み込んで、新しいものが生まれる。

鈴木勝秀演出、佐藤アツヒロ主演のシリーズが帰ってきました。初演は2006年、青山円形劇場(初日2千秋楽)。その後2012年に、サラヴァ東京で『LYNX Live Dub Vol.3「HYMNS」』としてリーディング上演されています。今回でver.3。せっかくなのでキャストも書いておきましょ。
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初演:オガワ(画家)=佐藤アツヒロ、クロエ(無職)=小松和重、ナナシ(画商)=みのすけ、ムメイ(友人)=永島克
LIVE DUB:オガワ=山岸門人、クロエ=中村まこと、ナナシ=ヨシダ朝、ムメイ=永島克
再演:オガワ=佐藤アツヒロ、クロエ=新納慎也、ナナシ=中山祐一朗、ムメイ=山岸門人、ナカハラ(鑑賞者)=陰山泰
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「Warped」が聴こえてくる。ステージにはCircle/Line。中央に立つ黒衣の男。「正面」が設定されていることへの安心感と、その「裏」を見たい欲求にだああとなる。それにしても絵になる、この装置、この照明、この役者。そして同時に、「ああ、これはいい作品になる!」という直感。直感だいじね。ヴィジュアルに関しては何の不安もなくなった。好みだから(笑)。鈴木勝秀作品の、こういう画ヅラが見たくて劇場に来ている。しかしそれだけで終わるわけがなかったのでした。

何より驚かされたのは、『hymns』ってこんなに良質な対話劇だったのか、ということ。これについては偉そうだが、書き手と演者の加齢が作用していると思われた。経験といってもいいそれが、作品の精度を上げているように感じる。日常会話ではなかなか使わない言葉群をかなりのスピードで話し、ときには難しいいい方するなと茶々を入れる。それがすいすい聞き手の頭に入る。すごいことだ。もはや書き手の姿が見えない。鈴木勝秀作品で、ですよ。エラいことですよ(笑)。各場面の殆どが、舞台上にいるふたりの対話で進む。滑舌、リズム、テンポは勿論、そのシーンで舞台上にいるふたりの間合いが「稽古」すら感じさせない域に達している。こうなるともう、役が舞台上を勝手に動き回っているようにしか見えない。

初演では「書き手がいいたいことを演者がいっている」感じ、今回は「演者が役の言葉を話している=そのひとがいってるようにしか聴こえない」感じ。そのどちらもいい効果ではあるのだが、説得力を感じたのは今回かな。演出家の手法を知っている演者オンリーの座組みだったことも大きいと思われる。キャスト全員がそう、って公演、近年では珍しいもの。まず中山さんの落語調に大ウケ、あの辺りから「役が勝手に動き出す」ギアが入った。いやもう中山さん最高よな。グッときたのは門人くん。画家へかける言葉の端々に優しさがこもる。かつて画家を演じ、その苦しみにシンクロした経験があるからかななんて思った。

アツヒロさんと新納さんの「相棒(には出来ない、んだけどね)」っぷりも素晴らしかった。阿吽之息とはこのことか。アツヒロさんは四十代という設定かつご本人もその年齢だというのに、どこか浮世離れした印象を受ける稀有な存在。いやあ、スズカツさんのミューズですね(真顔で)。新納さんは地に足のついた風来坊、という矛盾したイメージをまとう。『ハナガタミ』で初めて観て以来いつかまたスズカツさんと組んでほしいなーと思っていたので嬉しかったなあ。こういう身体を得てこそ輝くスズカツさんの舞台言語ってありますよね。

今回の上演に際し、ホンがリライトされている。画家の年齢が四十代になったことで、職業としてのアート、社会人としての立ち位置、経済的困窮、体力につられる気力の衰えといった要素がより真実味を帯びてくる。そして初演になかった役がひとり。散歩する鑑賞者だ。

配役表を見ないまま舞台を観ていたので、陰山さんが登場した途端「わあ、中原中也〜♡」とにっこりしたんですけど(当方湯田温泉の記念館に行き、ゆかりの宿に泊まったくらいには中原好きです)まさか役名もナカハラとは笑いがとまらん。それはともかく、彼の言葉のひとつひとつが沁みた。演出が変わる、演者が変わる。そして劇場が変わる。それにいちばん影響を受けるのは観客で、作り手(出演者、スタッフ)にとってそれらはさほど重要ではないのだ。舞台は現在のアートだからだ。勿論立ち位置が、とか発声の塩梅といった意識の持ちかたは違うだろうが、彼らは今ここでしか出来ないことに向き合っている。それを受けとる観客も、その感想も千差万別。この作品は私のものだ。あなたがそう思えば、そうなのだ。黒い絵も、白紙も。この作品の新しい住人は、そうして観客に微笑んでいる。まさにこれはhymns=賛美歌だ。

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余談で思い出話。初演のとき、同時進行していた『HEDWIG AND THE ANGRY INCH』にアクシデントがあり、『HYMNS』の千秋楽にスズカツさんが来れなかったんですよね。で、カーテンコールで出演者がいろいろお話してるうちに「本当は今日スズカツさんも来れればよかったんだけど……」とみのすけさんがいいだして、皆してスズカツさんをいじる会(笑)になったんでした。「ザズゥシアターを天に返すんだってー」「ザズゥ出たことないんでよくわかんないけど」とかいってたような。すっかりくだけた空気になって皆笑って、最後にアツヒロさんが「これでひと段落だけど、スズカツさんとはまたやりたい」といってくれた。2015年に閉場した青山円形劇場は、あらゆる方の尽力で再利用されることが決まった。以前と同じ用途で使われるかはまだ分からない。でも、一度もうダメだといわれていたことが覆った。

鈴木勝秀作品が、佐藤アツヒロ主演で、再び青山円形劇場で上演されるのを待っている。それが叶ったとききっと、ライヴ/アートスペースで上演された『HYMNS』、プロセニアムの劇場で上演された『hymns』のことを思い出し、「あの日、あの場でしか起こりえなかったこと」を目撃出来たことに感謝するだろう。そこには“hymns”が鳴り響いている筈だ。

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・鈴木勝秀「hymns」幕開け、佐藤アツヒロ「僕の原点のような作品」┃ステージナタリー
・佐藤アツヒロ、10年ぶりのスズカツ作品出演に喜び「スゴく幸せ」┃クランクイン!
・舞台『hymns(ヒムス)』11年ぶりの開演! 脚本・演出の鈴木勝秀「佐藤アツヒロはピンとくる役者なんです」┃SPICE

・パンフレットにex.青山円形劇場の制作・大島尚子さんのインタヴューが載っているのに感涙ですよ。スズカツさんのサラヴァシリーズにもずっとついててくれた方ですよ! もうね、劇場で見かけると拝みますよね(こわい)

・音響がめちゃいい。いつもいいけど。ホワイトノイズにまたいろいろ入ってる。井上正弘さんの意向かな?
・で、上演される度に忘れてまた思い出してヒイッとなるんだけど、オープニングに爆音で聴けるRED HOT CHILI PEPPERS「Warped」最高よな!!! ナヴァ郎のギター最高よな!!! あ〜あの時期のRHCPにナヴァ郎がいてくれてよかった〜!!!
・根に持つタイプなので何度でもいうが、フルシアンテが復帰した途端掌返して『One Hot Minute』を駄作評価した連中のことは忘れないからなキーッ