初日 最新 目次 MAIL HOME


I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
kai
MAIL
HOME

2019年03月18日(月)
『Touch that Sound!』-Day 4 / 中野雅之(BOOM BOOM SATELLITES)トークイベント

『Touch that Sound!』-Day 4 / 中野雅之(BOOM BOOM SATELLITES)トークイベント@御茶ノ水 Rittor Base


vet.ではなくver.ですわね……。

・中野雅之(BOOM BOOM SATELLITES)「untitled #01 -SSVR mix-」
・Cornelius「あなたがいるなら -SSVR mix-」
・evala「See / Sea / She -SSVR mix-」
・Hello, Wendy! + zAk「Katyusha -SSVR mix-」
・清水靖晃「コントラプンクトゥス I -SSVR mix-」 J.S. バッハ「フーガの技法」より


作品5分程なので、30分あれば全作品を体験出来ます。

中野さんのトークイヴェント前に、まずは通しで5作品。暗幕が張られた部屋に入場、中央に丸椅子が何脚かあったかな。それに座って体験してもいいってことだったのだろうが、イヴェント用のものなのか判断つかなかった+イヴェント参加込みで入場してきたひとが多かったためフロアは大混雑、座るどころではなかった。まあ仕方ない。入場順に隊列を組むような形で並び待っていると、暗転して開演。暗闇のなかで聴くので集中出来る。

各作品に入る前、挨拶と解説ナレーションが日英中三言語で流れます。日本語はアーティスト本人による音声。横並びになっている128ch分のスピーカーに各言語が割り振られているので、立ち位置によっては一言語しか聴こえない。最初の中野さんの挨拶、声小さいなあ何か加工してるのかなと思ったんだけど、それは自分が中国語が日本語より大きく聴こえるところに立っていたからでした。仕組みに気付いたひとたちが、パラパラ移動し始める。

VRという特性をよく表していたのは清水さん、システムの可能性を感じたのが中野さんの作品でした。清水さんはSONY社屋のエレベーターホールでSax演奏を録音したものが基になっているのですが、その空間が丸ごと感じられた。会場のはるか上空に天井が感じられ、残響が上へ抜けるように遠ざかる。まさに「何も装着しないVR体験」。一方、中野さんの作品はひとつの楽曲で、BOOM BOOM SATELLITESの新作といえる仕上がり(クレジットは「performed by BOOM BOOM SATELLITES」となっていた!)。Drum'n Bass調のブレイクビーツ、アンビエント調のウワモノの音像がシャープで、ダンストラックとしても楽しめるうえ、このサウンドシステムがクラブやライヴハウスで体験出来たらさぞや……という期待もわく。音が「ここにいる」という感覚が味わえる。ただ、事前に発表されていた「川島道行の声」の効果はあまり感じられず。ああ、今聴こえたかな? ちょっと控えめだな、と思ったのだが……これに関しては後述します。

ツイートした「5.1chの進化形」はCornelius。「サウンド・インスタレーション」という本展の主旨からすると、evalaかな。Hello, Wendy! + zAkは音楽の心地よさが音響で拡張される感覚が楽しめました。

-----

という訳でトークイヴェントのおぼえがき。記憶で起こしているのでそのままではありません。便宜上話の順序が違う箇所もありますのでご了承ください。明らかな間違い等ありましたらお知らせくださると助かります。取材のカメラも入ってたのでどこかで公開されるといいなー、というかサンレコに載るんじゃないかな? 載るといいなー。

・登壇者(敬称略)
國崎晋:本展のキュレーター。長年サウンド&レコーディング・マガジンの編集長を務められ……つまりこれを出した方ですよ!

ブンブンがアルバム出る度表紙特集組んでくれてた方ですよ!
光藤祐基:ソニーR&Dセンター、Sonic Surf VR(SSVR)開発者
中野雅之:言わずと知れた。来月リリースの自社製品を着ておいででした

國崎さんが司会進行。最初に光藤さんよりシステムの仕組みについての解説がありました。

國崎:このシステムを使ってアーティストの作品展が出来ないか、という企画を立てたとき、まず依頼しようと思ったのは中野さんなんです。お話聞いてどうでしたか?
中野:ものすごく…忙しいときだったので……(場内笑)
國崎:すみません……個人的に僕がBOOM BOOM SATELLITESのファンだということもありまして。ブンブンとしての活動を終了され、現在他のアーティストへの楽曲提供やプロデュースを主にされている中野さん自身の、純粋な新作が聴きたいな、と
中野:システムを見せてもらって興味もわきましたし、これを使って自分がやれること、というなら音楽だなと。僕は音楽家なので。最初はインスタレーション的なものをやろうと思ったんですけど……
國崎:川島さんの声を使おうと思ったのは?
中野:ここで川島道行の声がこう鳴ったらいいな、こう鳴ってほしい、と思ったので
國崎:他の方は既存の曲の新しいミックスですとか、アンビエント面からくるとかなんとなく想像がつきまして、実際そうだったんですけど。中野さんがどんなものを作ってくるか、いちばん予想がつかなかったんです。聴いて驚きました。新曲じゃん! って。頼んだ甲斐がありました。中野さんの新曲が聴きたくて……皆さんも聴きたかったでしょう?(場内拍手)よかった、褒めて!(笑)

(以降國崎さん、だんだんブンブン大好きっぷりが表出してきます(笑)。音楽とリスニング環境のよい関係を紹介していきたいという思いに溢れている、という印象でした。こんな方が誌面を作ってくれていたのだなあと嬉しい気持ちに)

國崎:皆さん品川にあるSONYのラボで作り込んでもらって、いざ会場に持ってきたら鳴りが全然違って。中野さん、「ぜんっぜん違う……」ってガクーッとなって、「Corneliusの聴かせてもらえますか」って。で、聴いてまたガクーッとなって
光藤:すみません……空間に合わせて調整しなおすことになってしまいました
中野:そっから苦行でしたね。自分ちのスタジオに戻って、最初っから作りなおしくらいの
國崎:Corneliusも会場入ってからなおしたんです。というか、皆さん調整に苦しんでいましたね。全くなおさなかったのは清水さんだけでしたね。「あ、いいですねえ」といって帰っていった(笑)(会場どよめき)
中野:それはもう流石というか、今迄の経験、蓄積ですよね……
國崎:品川のSONYのラボと、会場の広さが全然違って。弊社としても努力したのですが、この(会場の)広さが精一杯で。最初から会場に持ち込んでつくって貰えばよかったなと反省しています。こうした企画を続けていきたいので、今後の課題です。今苦行と仰られてましたが、創作に苦しむ様子を中野さんって見せないじゃないですか
中野:見せない、ですねえ
國崎:中野さんがご自宅でつくりなおしたものを持ってきて、会場で調整している間僕もずっと一緒にいたのですが……一度会議があって数時間抜けたんですけど、帰ってきたら出来ていましたね。中野さんが会場で作業を続けるなら僕らも一緒に残らないと、とRitto Musicの面々は戦々恐々だったのですが、自宅に帰って作業して、翌日のスタート時間もそう遅らせずいらっしゃって。でもうーんってなってる姿を垣間見れたのは、個人的には嬉しかったです。そうして出来上がったものを聴いたら、川島さんの声が頭を突き抜けていくようなところがあって……これには本当に感動しました

中野:このシステムがこれからどういうふうに使われていくのかわからないので。空間設計によってアトラクションにも、シアター、クラブにも使える。勿論サウンドインスタレーションにも、環境的なものにも。でも僕は音楽をつくることに情熱を傾けて生きているので、音楽が出来ることは、というのを考えたんです。しかもロック、パンクというルーツがあり、バンドをやっていたこともあって、そういう立場から出来ることを考えました
國崎:中野さんのプライベートスタジオで鳴っている音を、そのままリスナーが聴けるというのが理想ですよね
中野:そう、ですねえ……
國崎:今回参加してくださったアーティストの方には、僕監修のコンピレーションアルバムを作る気持ちで声をかけたんです。SSVRのデモンストレーターということではなく。アーティストに、システムのデモになるようなものをつくってくださいとは絶対いわないことを心掛けました
中野:音楽家はソフトウェアを作るのが仕事なので、ハード面については……このシステムを今後どういうことに使っていくかの可能性も考え乍ら、自分の頭の中で鳴っている音を外に出すために必要な機能が欲しいというだけで
國崎:そうですね。今回参加して頂いた方、皆さん「この機能があるから使ってみよう」ではなく、自分のつくりたいものに必要ない、足りない機能は「あ、これいらない」とどんどん捨てていました

國崎:ところで、各chがフォロー出来る周波数等の説明を受けたとき「ビートのある音楽(だったかな)は難しいでしょうね」といっていたのに、Drum'n Bass調の曲があがってきて驚きました。どうしてこのアレンジにしようと?
中野:サブウーファーがふたつあると聞いてから(ニヤ〜)。D'n'B、そのルーツであるラガマフィン〜ジャングルといった、下で細かいビート、ウワモノはゆったり、というアレンジはいけると思いました。
國崎:システムが活かせる楽曲を作ってきたということですね
中野:この配置だとハウスは無理。というか僕はハウスつくりませんけどぉ(笑)。他のひとはこういうサウンドでくるだろうと考えて、じゃあ僕はそうじゃないものをと。バランスを考えて
國崎:イヴェント全体のことも考えて頂いて。中野さん、そういうバランスよく考えますよね
中野:バランス人間なんです(笑)
國崎:面白かったのは、期間中の土日曜日になると家族づれの方がいらっしゃって。こどもは正直で、アンビエント調のトラックが鳴っているときはすぐ寝る。中野さんの曲がかかると踊り出すんです
中野:へええ
國崎:これは予想外の出来事でした

國崎:システムのアプリケーション的にはどうでしたか?
中野:開発途上ということもあって操作性が……この音をちょっとだけこっちにずらしたいと思っても、ショートカットもないので。このくらいかな? とカンで、マウスで波形を描いていくしかない。undoもないので……(場内ザワザワ)
光藤:ですよね……今後の普及のために、やっていかなければいかないことはまだまだ沢山あります
中野:自分が描いた波形なんてもう、グチャグチャで。他の方のも見せてもらったんですが、性格が出ますね。Corneliusの波形なんて、まー綺麗で
國崎:あんまり綺麗だったんで、Corneliusのトークの日にはスクリーンに映して皆さんに波形見てもらいました(笑)
光藤:チャンネル数によっても変わりますしね。evalaさんがSxSWで作品を発表したときは、576ch使って通路の両側にスピーカーを置いて音の回廊をつくりました

中野:は〜
國崎:今回山口のYCAMや、NYからも見学の方がいらっしゃって。ここに来ないと聴けないもの、から、この環境をどこにでも持っていけるようになるか、ということ迄、SSVRの可能性が期待されていることがわかります

國崎:今後の予定などお聞かせください
中野:今、僕は人様のお手伝いという立場が主なので、言えないことも多いんですが……あ、劇伴はやると思います
國崎:ご自分の作品はどうですか? 僕もですがここにいらっしゃる皆さん待っていると思います
中野:……自分の作品を〜、つ く り ましょう!(おおおと拍手)
國崎:これはうれしい! 本日はどうも有難うございました!

---

中野さん退場後に國崎さんからお話。

・川島さんの声が抜けていく様子を聴くなら会場の中心にいると良いです
・先日ブンブンのファンだろうなあという方がいらしてて。いや、分かるもんなんですよ、中野さんの曲を聴きにきたんだろうなあってひと。終わったあと「川島さんの声、わかりました?」と声をかけたらきょとんとしてるので、ここ、この位置でもう一度聴いてみてください! といって聴きなおしてもらったら、そのひと、あああ! って顔真っ赤にされて出てきました
・フロアに人数が少なければ少ない程効果を実感出来ます、理想は多くても10人くらいなんですけど、今日は40人いらっしゃいますからね……一度といわず二度三度、是非聴きにきてください
・お近くの方はお昼休みとかにでも、ね(にっこり)。30分で一巡ですから、入口で今誰ですかって訊いて、ああじゃあ何分後くらいに来ればってわかりますから

---

確かにトークイヴェント後、ひとが減ってから空間ほぼ中央で聴くとヒイッとなりました。聴き手の身長によるかもしれないけど、頭(耳)のど真ん中を川島さんの声が通る瞬間がある。声がここにいる、と感じられました。貴重な体験だったな……出来ればひとりっきりで聴いてみたいけど、それは難しいかな。

中野さん、新曲を有難う。そして國崎さんにめちゃめちゃ感謝、感謝です。

-----

・Touch that Sound! ─Sonic Surf VRによるサウンド・インスタレーション展┃Rittor Music
公式サイト

・ソニーの空間音響技術「Sonic Surf VR」を使った作品展「Touch that Sound!」が開催中。BOOM BOOM SATELLITESなど,5組の作品が上演┃4Gamer.net
記者会見レポート

・ソニー「Sonic Surf VR」で音が自在に動く不思議体験。仕組みを聞いた┃AV Watch:藤本健のDigital Audio Laboratory
解説記事と、光藤さんのインタヴュー

・小山田圭吾×大野由美子対談 「音に触れる」空間音響がすごい『Touch that Sound!』┃CINRA.NET