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2018年06月23日(土)
シス・カンパニー『お蘭、登場』

シス・カンパニー『お蘭、登場』@シアタートラム

北村想の書きおろしシリーズ『日本文学シアター』、Vol.5の今回は江戸川乱歩。演出は寺十吾。江戸川乱歩マナーに倣い、他人の犯罪を自分のものにしていく女盗賊「お蘭」。しかしその手法には必ずどこかに穴がある。警察の気をひくため、故意にそうしているようなフシもある。乱歩といいつつ横溝正史からの引用もとびだして……? 美女・お蘭に翻弄されっぱなしの名探偵と警部は、それを楽しんでいるようなそぶりさえ見せる。はてさて、愉快な追いかけっこはどんな結末を迎える?

いやあ、初演だというのになつかしささえ感じるこのつくり。脱線、楽屋落ちの多いこと。小泉今日子のアイドル的な歌披露、華やかな衣装替え(コスプレ)。目も耳も楽しい。舞台と観客が地続きで、ちょっとした矛盾は笑いで消化。それでいて作者の持つ膨大な知識がしっかり作品に反映されている。90年代にはこんな舞台が沢山あった。第三舞台が新作を発表する度、「おいていかれないために」とあらゆるサブカルチャーと世相を予習していた知人がいたなあなんて思い出す。

こうしたギリギリ内輪ウケのやりとりを見世物にするという作風は、演者に力がないと鼻白む。手練れの男優陣は作品世界へ観客を誘いつつ、自分たちも楽しんでいる様子。シス・カンパニーの総帥・北村明子プロデューサーがいじり倒されていたが、これも来場者が北村さんの人物像を知っているから通じるエピソードだ。観客を信用しているともいえる。観客と共犯関係を持ちたいという欲求を感じる。今ではその「暗黙の了解」を息苦しく感じるひともいるかもしれないな。

で、当日パンフレットの隅々を熟読するような深読み上等な観客は、こんな作品を見せられると「カッツミーが捨て身で明子をいじってる……シス辞めちゃうのかな、ザズウに移籍するのかな」と迄考えるわけです(笑)。1時間15分という上演時間と、盛り沢山のサービスの按配も○、いやはや楽しいひとときでした。