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2017年09月27日(水)
『パターソン』

『パターソン』@新宿武蔵野館 1

やーやっと観られた、公開してすぐ一度行ったんですが、入館直前になって喘息の発作が出て断念したのでした。発作くるならチケット購入前にきてくれよ……。症状がおちついてきて一本めの映画。うれしいもんですな。

ううう〜好きなやつだった……ルーティンだいすき、日々の穏やかなくりかえしだいすき。くりかえしだけれどちょっとずつ何かが違う。バスを運転し乍ら乗客の会話に耳がいく。座席に座ると足が浮くちいさなこどもたちをミラー越しに見る。微笑んだり、バツのわるい顔になったり、そしてパートナーの夢に出てきたキーワードを思い出したり。行きつけのバーは常連客が殆どだけど、それでもしらないひとが来たり、トラブルが起こったり。家にいるパートナーは、 部屋の飾りつけや、料理や、アートで日々に彩りを与えるが、その色はモノクロだ。カーテンも服も、市場に出すカップケーキも白と黒。しかし家はにぎやかで、カップケーキは売れに売れる。

カーテンや服のペイント、カップケーキに描かれるアイシング。日々のくりかえしは、これらの模様のようにたまに不気味に見えてくる。バーに張られていく殿堂入りの人物たちは、なかなかストレンジなキャラクターの持ち主だ。詩人の主人公は発表するつもりのない詩を日々書き留める。パートナーのアイディアあふれる、口に合わない手料理を水で流し込み、同僚の愚痴を聞き、マイペースにすごす。

それでもときどきペースは乱される。それはふいにやってくる。バスが故障し、バーで騒ぎが起こり、外食やデリバリーのピザに心躍らせる。実は曲者だったいぬに、エラい目に遭わされる。かなしい、かなしい、生きることはひたすらかなしい。でもいぬのおかげでノートをコピーせずに済む。日本人の詩人と出会う。とるにたらない日々を過ごす、とるにたらない街の詩人(偉人)たち。そんな場所が、そんなひとがあちこちにくらす、とるにたらないちいさな星。ナイト・オン・ザ・プラネット(Night on Earth)だ。カメラは静かに彼らをとらえる。アダム・ドライバーが見せる表情が素晴らしい。ときおり輝く瞳、陽光のような微笑み。映像の妙。開巻時から「うわ、好き! 誰?」とクレジットを待ったSQÜRLの音楽もとてもよかった。ソダーバーグ作品におけるクリフ・マルティネスやドゥニ・ヴィルヌーヴ作品のヨハン・ヨハンソンや、ああいう感じで(どういう感じ)うわ〜ジャームッシュこれからもこのひとと組んでよ、と調べてみたらジャームッシュのバンドだった。ビックリ、最高か。

『コーヒー&シガレッツ』のイギー・ポップとトム・ウェイツのパートとか、ジャームッシュの描く気まず〜い空気が大好きです。気づかいがどんどんもつれていっちゃうあの感じ。これもやっぱりかなしい、ほろっとくる。そんなイギーもバーの「殿堂の壁」に登場。そしてアレン・ギンズバーグもパターソン出身なんですね。その土地で起こるささやかな出来事を静謐な映像で、静かに沁み入る音楽とともに。ジム・ジャームッシュ、愛すべき映画監督。

そんなこんなで、誰しもいつかは死ぬので映画を観に行くことも出来なくなるねというとるにたらないことを思い知る。エンドロールに“In Memory of Nellie”の献辞。いぬのマーヴィンを演じたNellieはもうこの世にいない。ひとつひとつの時間と思い出はだいじにしたいものだなあとしみじみした一本でした。そして災難に遭ってもひとの心はリカバリ出来ると信じたい。それでも人生にイエスといおうぜ。

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・『パターソン』キャスティングに込められたジム・ジャームッシュの深謀遠慮|CINEMORE
出演者たちのあれこれ。観てから読むと滋味深い、この作品がより愛しくなる

・フォントファンのためのフォント萌えをするフォント映画。ジム・ジャームッシュ『パターソン』|CINEMORE
ウィリアム・カーロス・ウィリアムズとギンズバーグとの興味深い関係について。そしてフォント、フォント、フォント!



前回、これを買ったあと発作が出たのでそのまま持ってかえってきたのよね。なんとなく切ってみてひいっとなった(笑)



ちなみに『アシュラ』公開時にはこんなの売っておりました。新宿武蔵野館おもろい……