初日 最新 目次 MAIL HOME


I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
kai
MAIL
HOME

2017年03月18日(土)
『死の舞踏』

シス・カンパニー『死の舞踏』@シアターコクーン

出演予定だった平幹二朗急逝のため、池田成志を迎えての公演。シアターコクーン場内に特設小劇場をつくる、というアイディアは蜷川幸雄がさいたま芸術劇場内につくった「インサイド・シアター」で主に知られているのではないだろうか。今回購入した席は丁度本来のステージ側にあたる位置で、普段はスタッフしか使わない通路から入場する。その際普段は見られない舞台機構もちらっと見られる、というバックヤードツアーのような楽しさもあった。舞台上の華やかさとは裏腹な、無機的な機材とひんやりとしたコンクリート。芝居のマジックを改めて感じさせられる。

アウグスト・ストランドベリの作品を、小川絵梨子の翻訳と演出で。本読みの段階から出演者と膝を突き合わせ、徹底したテキレジを行うことでよく知られている演出家。自分もそのことについて何度か書いた憶えもある。そして毎回同じことを思う。「これ、他の翻訳家、演出家が手掛けたらどうなるだろう? それを見たい」。作品を執拗に読み込み、読み解く。演者ともディスカッションを重ね、内容に反映させていく。その行為は素晴らしいと思うし、誠実さも感じる。しかし、なのだ。

なぜか逆に、「この作品、もうひとつ奥があるのではないか」と思わせられてしまう。それがテキストの外にあるものなのか、海外戯曲を日本語で、日本で演じることから生じる「まだまだ知らない外国の文化」への過剰な期待なのか。今ひとつ自分のなかでハッキリしていない。このあたりのことは『コペンハーゲン』の感想に書いた。疑問はいつか解消するだろうか? それは自分の成長に起因するものなのか? それを確かめたくて、また観てしまう。2018/2019シーズンから新国立劇場の芸術監督に就任することが決まっている小川さんだが、新国立に通うことになるのだろうか。

さて座組。そろって愛嬌があり、よいバランスの三人。威圧的な夫、挑発的な妻、その妻に密かに恋している従弟は罵りあい、ささやきあい、激しくぶつかりあう。あれだけの語彙を駆使してなお、言葉だけでは全然たりない。皆が腹に一物抱えている。息が詰まるような応酬のなか、笑いを誘うマヌケっぷりを絶妙なタイミングで投げ込んでくる緩急のリズム感。神野さんは声の魅力も大きい。幼女のようにも老婆のようにも響く声。妖艶で、甘やかで、毒がある。音尾さんはときに幼く見える喜怒哀楽の表現がかわいらしい。従姉にこどものように扱われるのが悔しい、反面このポジションにいてこその役得も知ってる。クルトという人物の複雑さがあぶりだされるよう。

成志さんはあの食えない感じの言いまわしが夫の不遜さをよく表しておりちょーイライラした(笑)んだけど、憎めないんだなこれが。ほんと食えない……余談ですが先日『ボクらの時代』八嶋智人×勝村政信×池田成志の回で、勝村さんがやった成志さんのものまね(トロフィー落として「すいっませんっでしたあっ!」)そっくりでした(笑)。あの感じな! そーいうとこと、そーいうとこは実は愛情の裏返しでしたってのを見せるとこと、そーいうとこも「見せた」ってテイで見せるとこが絶妙です毎回。しかもそれが色気になるんだもんなあ。無類の役者ですよ……。

両面を客席に挟まれた舞台は、夫妻がくらす閉鎖的な孤島を象徴するかのよう。そして緊密ともいえる距離感。青山円形劇場を連想する空間で、それこそ後ろを向いても前を向いても自分を見ているひとがいるわけで、役者にとっては「逃げ場がない」過酷な舞台だ。観客と演者が親密になれる、ということでもある。親密になればなるだけ、自分の内を晒けだせる。見せることが出来る。感じていると伝えることも出来る。そんな色気のある舞台。

それにしてもこの話、なんか既視感があるなあ。壊れかけの夫婦がそれでもお互いを必要としていて、周囲のひとたちを鎹として巻き込んでいく話。巻き込まれた方はたまったもんじゃないのだが、演じた成志さんと神野さんの愛嬌がそれを許すというか(いやそれでも当事者にはなりたくないが)、チャーミングな空気に満ちた舞台だった。幕切れは決して明るいものではないのに、安堵もするような不思議なくちあたり。なんとも惹かれる作品だった。

観ている間、平さんのことは何度も思い出した。ああ、この夫、平さんが演じたらさぞ愛らしかっただろう、さぞ憎たらしかったろう。そして涙しただろう。この役で平さんにオファーがあったのも頷ける。観たかった。かなりのプレッシャーがあったと思われるなか、その役をひきうけた成志さんと、平さんが違う作品で再び同じ舞台に立つところを観たかった。

-----

よだん。




音尾さんと神野さんの濡れ場とても艶があってよかったんですよ。で、観たあとこのツイートを読んで、あれは成志さんに仕込まれたのか……と違う意味でも感じ入りました