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2016年12月28日(水)
『暗殺』『男と女』

『暗殺』@新文芸坐

新文芸坐年末企画『シネマカーテンコール 2016』のおかげで間に合いました。や〜観逃さなくてよがっだ(スクリーン逃すと諦めがちなひと)、めっちゃおもじろがっだ…爺や〜!

日本統治下の朝鮮半島激動の時代、ある暗殺作戦のため結成された三人の部隊。彼らをスカウトした韓国独立軍の警務部長(実は日本の密偵)、その警務部長から暗殺団の殺害を依頼された殺し屋。彼らは何に対して忠誠を誓うのか、何に信念を通すのか?

展開が展開を重ね裏切り裏切られいやもともと裏切ってるつもりはなかったのよ? 時代がそうさせたのよ、そういうもんでしょ、いやいやそれでも信念というものがあるのだよ〜! アクション、サスペンス、エンタテイメント。そこへ絶妙のタイミングと塩梅で差し込まれ、山椒のようにピリリときくコメディとロマンス。揃いも揃って痛快極まりない。そう、痛快。苦味はあるが後味がいい。韓国における「恨」とは深い悲しみのことであり、それが映画では徹底した復讐といったかたちで描写されるイメージがありましたが、この『暗殺』はそこからまた一歩モダンな表現に進んだのだという印象。所謂抗日映画だ〜とかいってる場合じゃないぞ。このあたり菊地成孔が興味深いレヴュー書いてたのでリンク張っておきます。

・菊地成孔の『暗殺』評:「日韓併合時代」を舞台にした、しかし政治色皆無の娯楽大作

膨大な情報量を見事に交通整理した脚本と演出、スタイリッシュな衣裳と美術のなかで水を得た魚のように泳ぎまわる役者たちの魅力的なこと。チョン・ジヒョン、イ・ジョンジェ、ハ・ジョンウとスター揃いですがここへチョ・ジヌンにオ・ダルスですよ。たまらんキャスティングです。しかも皆その役にしか見えない。そりゃ序盤はえっジョンジェさんいきなりそんな、とかダルス出てきたー♪とかニヤニヤしましたが途中からそれどころじゃなくなったもんね。ダルスさんはもう爺やとしか……ハワイ・ピストルなんてふざけた名前の殺し屋にずっと寄り添う爺やですよ。そのハワイさんはジョンウさんですけどね。ハワイさんがピンチに陥っても爺やが絶対助けにくる、爺やたよりになる、ハワイさんも爺やにしか見せない顔を見せる。だからも〜その行く末がせつなくてね……。ジヌンさんも素敵だった…ユーモアを忘れなくてさ。のらりくらりとしてそうでいい仕事してさ。ああいうひとほどああいう結末がハマるんだよ、せつない!

それにしてもジヒョンさん素晴らしかった。『ベルリンファイル』でのアクションも印象的でしたが今回のガンアクションも見事。『高地戦』でキム・オクビンが演じた“2秒”といい、女優が演じるスナイパーの魅力、たまりません。双子、ちょっと目が悪い、眼鏡を作りに行った三越(そう、三越がクライマックスの重要な場所!)で……といったストーリーに貢献するキャラクター像もよかったな。たったひとりで暗殺へ赴く強さ、「怖い」といい、涙を流す弱さ。そして最後の最後に見せる、やはり、の強さ。狙撃手アン・オギュン、忘れないよ〜!

ジョンジェさんジョンウさんのステキングっぷりはもう言葉になりません。いーやー格好いいね! あとやっぱり映像の粋を知っているというか、ここぞというときに見せる仕草や表情の出し方を心得ているというか。何度はっとさせられたことか。

出会いはただの偶然か、時代が呼んだ運命か。束の間の同胞は人生の同胞。命をかけ、約束を守り、筋を通す激しい人生をおくる人々がいた。彼らを生き生きと活写した監督はチェ・ドンフン。憶えた!

はあ〜ものすごくおかしな感想になってますが年末故ということで。ギリギリで今年のベストに滑り込みましたよ、面白かった! 面白かった!

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山岸門人と神戸アキコ 二人芝居『男と女』@サラヴァ東京

小劇場の芝居が好きで、いろんな意味で「売れていく」役者を観てきたひとにはグッとくるのでは。笑って笑ってほろ苦く、それでも最後は拍手、拍手。

夏、門人くんとアキコさんがファミレスで相談してる。12月にサラヴァ東京おさえちゃった、芝居をやるぞ、二人芝居。予算ない、チラシもつくれないくらい余裕ない、作家や演出家は呼べない、話からふたりでつくるしかない。さて、どんなものにしよう? ミーティングのやりとりからふたりがやりたいもの、やりたいこと、やれること、が徐々に浮かびあがる。再現という形でそのアイディアが演じられる。

客席にはいかにも関係者といった風情、スーツ姿の年配のひとがぼちぼちいた。公演の企画意図もちらほら見えてくる。どうやらこれはふたりのプレゼンの場でもあるらしい。プロフィールに書いてある特技は必ず盛りこもう、いざその特技を買われてオファーが来たとき、錆び付いていないように特技は常に磨いていないと。アキコさんの特技はフェンシング。そして何げにピアノも上手い。門人くんの特技はバレエと中学生くらいのギターとそれなりの歌。男と女ふたりの芝居だし、恋愛ものにしようか。昨今ヒットしてる映画の要素も取り入れよう。うん、これは成り立つ。理屈も通る……通る? 通るか? かくしてなんとも奇妙な「茶番」が展開されていく。

しかしこの「茶番」を通し、ふたりの魅力が見えてくる。特技を披露したときに起こる「ほおお」といった声と拍手とは違う、思わず身を乗り出してしまいそうになる、あるいは思わずのけぞってしまうほど引き込まれてしまう場面。それはブランド白米の特徴を滑舌よく情熱的に語る門人くんであり、最も売れていない時代の思い出話をする門人くんであり、それを笑って励まし的確な叱咤激励を投げるアキコさんの姿だ。

すぐにGoogle先生に疑問を投げるふたり、webは便利だ。「茶番」という言葉の由来、意味を知って思わず考え込む。将来への不安、焦り、この仕事を続けていくうえでの覚悟のようなもの。売れたい、仕事したい、芝居がしたい。本音と理想を晒け出し、舞台に載せるふたりの役者。その心意気、しかと感じ入りました。

「これが観劇おさめになる方もいらっしゃると思うと…それが茶番とか、申し訳ないっ」なんて終演後のあいさつで門人くん言ってましたがいやいや、いい芝居おさめになりました。自分はやっぱり小劇場の対話劇が好きなんだな。それが「金にならない」のは知ってる。それだけでは役者が食べていけないのも知ってる。公演を打つ方もそれはわかってる。現実は厳しい。それでも、次に繋げるためだけの公演なんてものはなくて、今ここでしかやれない芝居というものがあり、心に灯りつづけるものになったりするのだ。