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2015年09月22日(火)
『NINAGAWA マクベス』

『NINAGAWA マクベス』@シアターコクーン

この演出で観るのは初めて。蜷川幸雄が過去の焼き直しはしたくない、でも今回は「市村(正親)たっての希望」で…なんて仰ってましたが、そのあとに続く「一人の俳優が人生の経験をかけてマクベスのセリフを言いたいと思うのなら、友情として俺も抱えようということ」にいたく感じ入る。この記事は一月のもの。観られる日を待っていた。劇場に足を踏み入れた瞬間視界いっぱいに拡がる、妹尾河童美術によるあの“仏壇”に圧倒される。それを浮かび上がらせる暗くも柔らかな照明は吉井澄雄によるもの。老婆がふたり、ゆっくりと入場してきて扉を開ける。ゴールドシアターの田村律子と百元夏繪だ。

この光景が観られただけで、もう満足だった。そういえばゴールドのひとたちは「シェイクスピアとか古典をやりたいのに、蜷川さんは現代作家ものばかり持ってくる」と言っていたな(笑)。キャストが発表される以前から、あの老婆たちを演じるのはゴールドの面々だろうと思っていたので、その点にも、ネクストシアターの面々が参加していることにも感じ入る。感じ入ってばかりだ。

市村さんは「消えろ、消えろ、つかのまの蝋燭! 人のいのちは歩き回る影法師、哀れな役者にすぎぬ。 精一杯出番を勤めるが、それが終われば、なにも残らぬ。」を、よく通る声で囁くように発した。マクベスの焦燥、諦念、あらゆる感情がこもった言葉だ。これが「人生の経験をかけた」台詞なのだと心して聴く。台詞を全て言い尽くしたマクベスは、胎児のような姿で骸になる。まさに人生ひとまわり。

吉田鋼太郎演じるマクダフ、ノリにノッている役者が戯曲中最もおいしい役をやる。最近バラエティ番組で「声張り芸」のように舞台での発声を披露している吉田さんが、水を得た魚のように舞台上でその声を使う。それを実際に舞台で聴けることも嬉しい。橋本さとし演じるバンクォーの、欲を交えた人間味あふれる声。魔女のひとり、中村京蔵の声は立ち居振る舞いともども抜群の存在感。そしてマクベス夫人の田中裕子、表裏一体の二面性を持つ声。柳楽優弥演じるマルカムの、力強くまっすぐな声。

美術と声。個人的にはこれに尽きた。

『マクベス』と言うストーリーを追うことに関しては、まず最初に「新演出」で観ておいてよかった。勿論リアルタイムで今回の演出を観ていれば、それは深く心に刻まれるものになっていたと思う。しかし刷り込みがこちらだとインパクトが強過ぎ、蜷川さんの戯曲を読み解く力の深遠さに気付くのが遅くなったかもしれない。舞台両袖に座する老婆の目を自分の目に重ねるときが今だったことに感謝したいし、その機会をつくってくれた市村さん、蜷川さんに感謝したい。

内田健司演じる小シーワードの衣裳がダースベイダーに見えてちょっとニヤニヤした。やはりひと味違う。