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2015年09月21日(月)
カタルシツ『語る室』

カタルシツ『語る室』@東京芸術劇場 シアターイースト

うわーイキウメでこうもせつない気持ちになるとは。思えば今回はカタルシツ名義、カタルシツと言えば『地下室の手記』で、こちらもせつない作品であった。オカルトとも言える現象を理詰めで検証するイキウメ、カタルシツではその追究の果てに顔を出すひとの思いが描かれた。

モノローグは事件を巡る証言でもあり、対象者に言いたくても言えない言葉でもあり、宙に浮いた思いを吐露するものでもある。対して舞台上で実際に相手に放たれる言葉は容赦がない。耳を塞ぎたくなるような差別的感情も露わになる。しかし前川知大は、落ち着いてその感情の在り処を探し、そして示す。疑心暗鬼になった根拠、防衛本能から起こる攻撃性。それらを責めることはしない。「絶対に許さない」人物は存在するが、それは当事者である立場から逃げた者だ。理不尽なことは起こる。どうしようもないことは起こる。それに対して何も出来ない。傷つき混乱する人物たちには時間が必要だ。そして時間が経ったとしても、傷は決して癒えない。その傷と生きていくしかない。その経過を丁寧に描く。

舞台中央には大きな木が一本。しかしよく見ると、その枝は幹と切り離され宙に浮いている。あのひとはモノローグで語られたあの子だ。この子は彼が話していたあの子だ。証言とともに枝と幹が繋がっていく。この場所から姿を消したひとの足首を掴むような予感が、時間を行き来して実感となったとき、心に沸き起こる暖かい思い。登場人物が知らないことを知っているのは観客だけで、「あの子はここにいるよ」「あのひとはここに来たよ」と言う思いは舞台には届かない。そのせつなさ。ストーリーの発端となるこんな事件は決して起こってほしくないが、事後も生きていかねばならないひとたちの関係がこんなふうになればいいのに、と言う希望を残す。

別れ別れになった登場人物たちは、本人の知らないところで出会い、少しの間ともに過ごす。彼らは二度と会うことがないだろう。しかし、いつかどこかで会えるといいな、会えますように、と祈る。その祈りはどこへ届くのだろう。これは私の「語る室」になるのかもしれない。

許しの人物を盛隆二が好演。板垣雄亮演じる霊媒師のキャラクターはホンによるものか本人の造形によるものか気になるところ。とても魅力的だった。ストーリーテラーとも言える安井順平は、起こったできごとを客観的に眺める公人と、家族を案じる私人の心境を語ると同時に、登場人物と観客との橋渡しの役割を果たす。中嶋朋子の混乱に満ちた怒りは恐ろしく、同時に痛い。時間と空間の迷子となった大窪人衛のサヴァイヴァル術は笑いを呼び、迷子の子孫とも言えるきょうだいを浜田信也と木下あかりが悲観的にならず演じる。いい座組みでした。