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2015年02月27日(金)
小田朋美×ハラサオリ×山川冬樹『d / a / d』

新世界 Presents Special Live Performance vol.2 小田朋美×ハラサオリ×山川冬樹『d / a / d』@音楽実験室 新世界

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d/a/d、それは鍵盤と鍵盤、声帯と声帯とが、完全協和音程として響きあう至上の物理現象。
d/a/d、それは血の記憶がデコードされ、遺伝子情報がコード化された”私”の原点。
d/a/d、それは重力にまかせて未来へと墜落し、今という瞬間を求めては離陸する、命の鼓動のオノマトペ。
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『ASYMMETRIA』に続いての、『Special Live Performance vol.2』とのこと。思い返せば『ASYMMETRIA』を観に行ったとき、小田さんとハラさんの『Pとレ (これからかみさまのはなしを、するなら聴く?)』のフライヤーをもらったのだった。残念乍ら『Pとレ』には行けなかったのだが、今回山川さんを加えてのパフォーマンスがあると言う。音楽? ダンス? 身体表現? この三人から想像することは膨大にある。想像出来ないことも沢山ある。とにかく予想がつかない、何が起こるか判らない、(あらゆる意味での)事故が起こるかも知れない。不安と期待を胸に、初日を予約。

果たしてタイトルから想像出来るあらゆることと、タイトルからは想像もつかないあらゆることが、時間と場所を駆けて現在にふわりと着地する迄の一時間だった。

開場が遅れ、入場順が混乱している。開演前にスタッフからお詫びの挨拶。入場者数が多い+会場全体をパフォーマンスエリアにするので客席エリアに使えない場所があるようで、様子を見乍ら少しずつ客を入れていたようだ。初日以降はここらへん改善されたのかな。選んだ席は視界が遮られてしまう箇所が少なくなかった。うっかり座ってしまうより、後方で立ち見すればよかったと後悔。まあそれは仕方がない。見えないところは想像で補おう!(泣笑)

ステージ下手側にブラウンのアップライトピアノ。その上にはグレーの人形(これにも見えた)、フォトフレームに入った小さいモノクロ写真、そして本。モノクロ写真には男性の姿、本のカヴァーには『山川千秋の「キャスター自画像」』とある。一月下旬、山川さんがtwitterに転載していたものだ。隣のひとが「あの本、なんだろう? キャスターって?」と話している。余談だが同じく開演前、後ろのひとが上田現の話を始めて(何故!)いろいろと心が掻き乱される(笑)。

d/a/d、デー、アー、デー。で? ああ、で? 登場した三人が口々に発声する。フライヤーにも書かれていた冒頭の言葉を山川さんが述べ、あとのふたりがで? ああ、で? と応える。ときには追及するように、ときには上の空で。リズムが生まれていく。 aはラ、dはレ。音階の話。そしてdad、父親。ここ迄は開幕前に想像が出来た。言葉の受け答えとしての、で? ああ、で? aとdで構成された楽曲。そして出演者たちのパーソナルなルーツに腕を突っ込むであろう、父親の話。

ピアノの上に置かれていた人形は小田さんが作った父親の顔、ハラさんの父親の写真、山川さんの父親の著書だと言及される。小田さんがピアノの歴史を語り始める。ピアノそのものの歴史、ステージ上にあるこのピアノの歴史。ピアノのメーカーはショパンが愛したと言われるプレイエル(PLEYEL)。そしてバッハを父と慕ったショパンの話。バッハの数学的作曲法。それら楽曲に隠されたトラップ。プリペアドピアノの歴史と、試験でプリペアド奏法を披露したら、以降この奏法が大学で禁止になったと言う自分の話(笑・楽器が傷みますからねえ)も。ピアノを奏でたり「ちょっとすみませんね」とシャツをパンツにぐいぐい入れ始めたり(…?)し乍ら話し続ける。その間山川さんは「で? で? ああ〜」と相の手を入れ、小田さんは「で、で、」と話を繋ぐ。ハラさんはピアノの上に座ったり、足指で鍵盤を弾いたりしている。脚のラインが美しく映える。

小田さんの話は学術的な面も含め、極めてロジカルだ。そして極めて冷静だ。山川さんに足を繋がれ(?!)、それに繋いだロープで吊り上げられ(!?!)ても「お? おお?」と言いつつ話を淡々と続ける。そのうち完全に逆さ吊りにされてしまった。さっきシャツをパンツに入れていたのはこのためだったのか(めくれあがっちゃうからね)と笑いつつも、これから何が起こるのか混乱したまま観続ける。続いて山川さんも自ら逆さ吊りに。ピーター・マーフィー(後述)かよ! あ、そういえばハラさんってバウハウスに留学していたんだよね、なんてことも連想。まるで凌辱されるようにピアノが解体されていく様子にはスガダイロー×飴屋法水の『瞬か』を思い出していた。逆さ吊りのまま小田さんが、奏でるピアノはゴルトベルグ変奏曲のアリア。どよめきと笑い声が起こる。

ロープを解いたふたりは再び自分の足でステージに立つ。暗闇と光が激しく移り変わる。地明かりもないので、照明が消えると本当に真っ暗になる。懐中電灯を手に踊るハラさんの身体。肌を光が透過する。山川さんの心臓の鼓動とシンクロして明滅する白熱灯。メトロノームが刻むリズムに、ハラさんが眼球の動きを合わせていく。瞬くことなく、左右へ反復を繰り返す眼球。音声が流れてくる。どうやらハラさんとお父さまの会話のようだ。お父さまはかなり高齢の様子。60年代にNYに行った話などをしている。当時の様子をいきいきとした声が話している。それに応え、労わるように声をかけるハラさん(らしき)声。「またくるね」。聴覚で辿る彼女のルーツ、視覚で辿る彼女の個人史。この身体が成り立つ迄の時間を思う。このシーンは特別な瞬間に感じられた。

小田さんが『d / a / d』のテーマ曲を奏でる。山川さんが叫ぶ。「今日は3月27日で、(あれ?)」「ここは東京都港区、西麻布1-8-4で、」「これはハラさんが買ってもらった(あれれ?)ピアノで、」「ここは新世界の階段で!」「ここは新世界の入口のドアで!」。言葉のとおり山川さんは階段を駆け上がり、エントランスのドアを開け放ち叫ぶ。ステージ上方からブランコが降りてくる。ハラさんが軽やかに座り、漕ぎ始める。弧は徐々に大きくなる。戻ってきた山川さんの最後の言葉とともに暗転。眼の奥に、正面に立つ山川さん、ステージに背中を向けピアノを弾く小田さん、ブランコを漕ぎ続けるハラさんの残像が焼きつく。誰が欠けても成り立たない、この日この場所でだけの『d / a / d』。

山川さんが入口のドアをバーンと開けたとき、新世界の前歩いてたひとはビックリしただろうなあ…いきなり開いたドアから上半身裸の男が出てきて叫ぶんだもの。昼間の上演だとまた様子が変わりそう、通報とかされないといい(笑)……。現在にフィクションが入り込んだのは、山川さんのエモ故か。二月が三月になったのは、ピアノがハラさんのものになったのは意図的か勘違いか?

それにしても山川さんの身体表現にはいつもハラハラさせられる。頭を殴る、受身もとらず(そう見える)身体をフロアに打ち付ける。前述の心臓の鼓動も、自分でコントロールしているのだ(停めることもある)。昨年“故障”したのも頷けてしまう。年齢もそんなに変わらないので、回復の度合いもなんとなく想像できる。長く続けられるものではないと思うが、今しか出来ないものでもある。あの激しさはなんだろうといつも思う。そうせずにはいられない、ただただ、それだけなのだろうか? だから目が離せなくなる。

DCPRGと、ソロでの活動でしか知らなかった小田さん。彼女のルーツには、所謂肉体的な父親を感じなかった。ガードが堅いのか、本来の資質か。山川さんとハラさんの表現方法とは違うコントラスト。謎とも言えるそれに、興味を覚えた。ハラさんは初見。フライヤーでしか見たことのなかったその美しい容姿から発せられる声に惹かれ、その動きに惹かれた。四月からはドイツが拠点になるとのこと、また観られる機会はあるだろうか。待ちたい。

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・『d / a / d (デーアーデー)』 新世界 Presents Special Live Performance vol.2

予告動画

・THEATER|小田朋美、ハラサオリ、山川冬樹が紡ぎ出す世界 | Web Magazine OPENERS

・新世界 Presents Special Live Performance vol.2 『d / a / d (デーアーデー)』 - イベント告知 - webDICE

・『山川千秋の「キャスター自画像」』 - Togetterまとめ
山川さんが転載していた分のツイートをまとめました。作品中で著書の内容には触れていませんでしたが、何故この本を山川さんが舞台上に置いたのか、紹介したのか、なんらかの参考になれば

・Nine Inch Nails - Reptile w/ Peter Murphy hanging upside down -Terminal 5 8/26/09

ピーター・マーフィー逆さ吊り(笑)。こちらの記事ではlike a batて書かれてます