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2015年02月07日(土)
『いやおうなしに』

歌謡ファンク喜劇『いやおうなしに』@PARCO劇場

やー、やー、素晴らしい。福原さんの構成力、河原さんの演出圧の高さ、抜けのよい演者。自分にとっての『マンマ・ミーア!』ですわ。面影ラッキーホール(とやはり言ってしまう)の数多の楽曲をこう構成したかと言うのがもう…「ゴムまり」と「パチンコやってる間に産まれて間もない娘を車の中で死なせた…夏」がああ繋がるか! 「俺のせいで甲子園に行けなかった」がああ展開するか! フィリピンパブからの〜アイリーンが実体を伴って目の前に現れたこの衝撃と嬉しさ! そのアイリーンが実は…と言うスリルとサスペンス! てんこもりか!

面影ラッキーホール改O.L.H.(Only Love Hurts)の楽曲群は、徹底的なリサーチのもとに磨き込まれた詞世界を、手練のどファンク演奏にのせてブリブリに繰り広げる歌謡の悲哀が魅力。それだけに言葉と演奏だけでお腹いっぱいになるんですよね。あまりにも徹底した描写なので、aCKyが唄えばもう目の前に男女のあれこれが拡がるので充分と言うか隙がないと言うか。それにどうやってストーリーを付加し、新たにヴィジュアルを起こすのかと言うところが今回個人的な見どころではありました。それがまー、福原さんすごいな! この手があったかと。数々の歌の世界の住人は、別々の世界の住人だと捉えていた自分の目から鱗がぽろりぽろりと落ちました。自分のなかでは別々の場所で別々に暮らし、別々の夜に別々にひとり涙を流す登場人物たちが、目の前に地続きで現れた訳です。だって、あの暮らしを、あの事件を、ひとりやひとくみひとつの家族、ひとつの町で抱え込むにはあまりにもヘヴィーですやん……そのあれこれをひとつのストーリーに結びつけ、そのブリッジにはしっかり福原節を入れてきているこの構成の妙!

歌の情景描写を歌謡ショウとして見せたのは流石の河原さん。ただでさえ職人的とも言える手腕を持ち、適所に適材を持ってくるこれまたこの方も手練の演出家ですが、そこに面影愛が加わるとこうなるか。回想と現在、妄想と現実、そこに現れる複数の人物を出演者が掛け持ちで演じると言う、一座が旅公演でやって参りました的な外枠も効果的。登場人物が唄い出す唐突さも歌謡ショウなら違和感なし、と言うかこれしかないとも言えるものになっている。ライヴでもやる振付がちゃんとショウに織り込まれているところにも面影好きは震えましたね。このコミット! そして後になって気付いたが、「北関東の訛りも消えて」辺りでさりげなく山中さんがやってた振付、あれは牛久の大仏ではないか。ニクい。

そして早替え衣装替え。旦那上等金上等性上等の衣装を着てハンドマイクを握りガッツガツに本気と書いてマジな顔で唄い踊るキョンキョン! 聖子さん! 充希ちゃん! いやまじで顔がマジでな…舞台上と裏でやること多過ぎで、テンションと体力の限界に挑むマジさでな……裏では酸素ボンベ吸ってんじゃないかと思ってしまう鬼の形相でな………。大人の本気と書いてマジを思い知りました。ショウビズなめんじゃねえと言う小泉パイセンの心の声が聴こえるようでした。

それにしても常日頃から、河原さんの「劇場のサイズに解像度を合わせてくる」腕には唸るばかりなのですが、それって「場が余っていると見せない空間認識能力の高さ」と「用意された空間に詰めるだけ詰める圧の高さ」があって、今回は後者が際立ちまくっていた。ハイレゾかよと言う…それでいて死角がないの。端から端までひとがいていろんなことをやってるんだけどちゃんと視界に入るし、そのカオスのなかでどこがキモかってのはちゃんと照明なり音なりでガイドがあるの。ちゃんと情報が届く。今回ツアーあったから他会場だとどうだったのかなあ。PARCO劇場ではそこらへんが的確も的確だった。

さて抜けのよいキャストですが、このキャストでこのスタッフと発表された時点であまり心配もしていなかったのですが、古田さんはあのスーツを着こなしている宣美を見た時点でもう安泰、というくらいだった。あのスーツが似合うのなんてこの世にaCKyしかいないと思ってた…これぞ役者・古田力。ゴムまり再現の幼児を古田さんにしたキャスティングも素晴らしかったな……。トモロヲさんも面影の世界のひとなので無問題。大人になりました(笑)。魑魅魍魎が跋扈する芸能界を泳ぎ続ける小泉さん、それこそ子供の頃からこの世界で生きてきている高畑さんの矜恃すら感じる仕事っぷりも見事でした。山中さんには静謐で透明感がある人物、という印象があるので、この興行ではどうなるの? と不安半分期待半分でしたら、いちばん身体張ってた(笑)脱ぎっぷりもよくてね…あれですね、童顔とのギャップが大きい綺麗な身体付きですね。見せるための筋肉も自意識も、具体的にも抽象的にも贅肉が一切ついていない身体。肌も綺麗、プロポーションも綺麗。眼福でございました。タカシですの捨て身っぷりも素晴らしかったですネ!

アイリーンを演じた高山さんは木ノ下歌舞伎の『東海道四谷怪談』で宅税女房お色と小塩田又之丞の男女両役演じたひと。あの声、あの顔、あの身体。当て書きか! と言いたくなるようなハマりっぷり。世界の住人来た! と感動。世界の住人と言えば高田さん、彼女こそザ・女優だと思いました。ここにも矜恃。政岡さん駒木根さん三浦さんのガヤっぷりもザ・仕事人。面影歴代コーラス陣も参加、なんて豪華。

三宅さんは確かに面影のライヴ会場でよくお見掛けしておりましたので今回出演出来てよかったねえと思った…ちなみに三宅さんはDCPRGのライヴ会場でも一時期よく見掛けてた。関島さん(Tu)のこと「立奏ってすごいね!」と言ってた(笑)。

面影ありきで行った客なもので、彼らの楽曲に初めて触れる方がどう思ったかは判りませんが、非常に優れたエンタテイメントになっていたと思います。個人的には幸せしかない舞台だった。段取りめちゃ多いんで皆さん千秋楽迄ご無事で!