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2014年09月19日(金) ■ |
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『サバイブ!』 |
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自転車キンクリートSTORE『サバイブ!』@SPACE雑遊
前回公演『ボクのおばさん』では自転キン演劇部名義でしたが、自転車キンクリートSTOREに戻っていました。規模や制作方針は同じように感じたので(むしろ前回より今回の方が宣伝展開等が狭く遅く、老婆心乍ら「勿体ない…」とハラハラしていた)どう区別をつけているのかな…とヘンなところが気になるも、非常にクオリティの高い作品だったので「部活動」と言うのは…となったのかなと思いました。質の高い舞台と言うのは前回公演も同様。やっている側にも手応えがあるのではないか。
前回に引き続き、作・演出はサスペンデッズの早船聡さん。鈴木裕美さんがtwitterで「ガラスの動物園」の変奏曲と評していたが、成程確かに『ガラスの動物園』だった。『ボクのおばさん』にもあったモチーフだ。
そこには演者と作者が細部迄とことんやりあったのではないかなと感じる「じてキンの芝居」があった。自分が思う「じてキンの芝居」とは、「問題は複雑で深刻、そんなに甘くない」「でも自分の人生は絶対に他人のものではなく自分のもの」「どこかに解決策はある筈。なくてもお互いが憎しみ合わずに生き延びる方法がある筈」と言う思いを見せてくれるところだ。これは脚本が飯島早苗さんでなくても、演出が裕美さんでなくてもにじみ出る「劇団力」なのだな、と思った。劇団名義の公演はもう随分打っていない(そして今後劇団公演があるとも思えない)のにも関わらず、だ。
「毒親」「アダルトチルドレン」「共依存」「ダブルバインド母娘」と名付けられている関係についての話だ。じてキンはそれらに名前をつけることで安心せず、分類することで片付けることはしない。互いを敵と見做すのではなく、「捨てる」「殺す」ことなく、お互いを自立させる道を探る。しかしストーリー上ひとりの命が犠牲(と言ってもいいだろう)になる。衝撃的な、「酷い」とも思える展開だが、イージーな作劇ではない。この母娘が離れるためにはそれだけのエネルギーが必要だったのだと納得出来た。それ程この問題は根深い。あのまま関係が続いていたら、娘が母親を殺してしまう展開になってもなんら不思議はない。故意でも過失でも、ちょっとした心の動きでひとは簡単に死んでしまうものだ。そうさせなかった、そこがじてキンでもあり、早船さんの「優しさ」なのだろうとも思った。
「キャリアウーマンにはなれなかった」とコンプレックスを持っているが、休日に会社から電話がかかってくるくらいには頼りにされている主人公。葬儀の翌日に旅立つ息子のひとこと、それを聴く主人公の母親。嫌っていた知人の悲しみと、それを凌駕するおおらかさに衝かれる思いの母親。ちょっとしたことを丁寧に描く脚本、演出にも優しさを感じた。
母、娘、孫の三世代の対比とバランス、彼らを見守る周囲のひとたち。演者は流石に皆巧い。「女性だけによる徹底した集団創作=青い鳥方式」を生み出した青い鳥の天光眞弓さんと、「躍進するお嬢さん芸」と自ら称したじてキンの歌川椎子さんがそれぞれ歳を重ね、それぞれの立場から向き合うキャスティングは、単なる演技だけでは片付けられない重みと、それぞれの世代ならではの軽やかさがあった。歌川さんが以前インタヴューで語った「ラッキーの世代」と言う言葉を思い出した。久松信美さんは当て書きとしか思えない優柔不断で強い人物。そうだったわー私久松さんみたいな人間になりたかったんだわー、じてキン作品の久松さん観る度に思ってたわ。菊地さんにも通じるところがある…これはこれで壮絶にたいへんなのよ、矛盾してるのよ(笑)。
母親に反発し、自分はそうならないと育てた娘を結局同じように追いつめる次女役の弘中麻紀さん、母親とおともだちになっていくかも知れない女性を演じた松坂早苗さん。そして親との関係に苦しみ、巣立とうと前を向く世代の仲井真徹さん、大村沙亜子さん。いい座組でした。
自分のことを振り返る。母親が今も生きていたらどうだろう? 自分と母親はこの芝居の登場人物のような関係ではなかった。しかし母親には信仰があり、それは幼い頃の自分にとって矛盾そのものだった。信仰には強さもあり弱さもあった。社会的に許されないこともあった。彼女のあの歳に、自分は同じ考えを持てただろうか? 同じように強い選択が出来ただろうか? そんな思いは常にある。数年で受け取ったものは、共感も拒絶も含め、今でも自分の生き方の指針になっている。あと五年で母親の年齢を追い越す歳になるが、そのときホッとするような気すらしている。
よだん。帰りの新宿駅でAPAホテルのおっきな看板見てもうニヤニヤがとまりませんでしたよね…こういう細部も旨いわー。坂本遼さんの舞台美術も丁寧でとてもよかった。
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