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2014年09月14日(日)
『風の吹く夢』

THE SHAMPOO HAT『風の吹く夢』@ザ・スズナリ

冷蔵庫を手に入れるために、男たちは旅をする。シャンプーハット流儀の、たった半日の町内ロードプレイ。食堂、車内、元妻の家、廃棄場のような空き地、部下の家、スナック、同僚の家、そして再び元妻の家。登場人物たちの光と影が映し出される。それぞれ問題を抱え、悩みを抱え、幸せを抱えている。繰り返しの毎日には、一陣の風が吹いている。

美しい言葉が語られる。モノローグのようでいて、語り手の前には聴き手がいる。それはダイアローグなのだ。言葉が返ってこなかったとしても、語り手は聴き手の反応を待っている。何かが返ってくるのを待っている。やがて聴き手は美しい言葉に耽溺することなく、「宗教の勧誘ですか?」と警戒心を含んだ反応を返す。スピリチュアルで、宗教的な言葉の美しさを知っている。その美しさを否定することなく、自分はそれに溺れることは出来ないと返す。無言とともにかたまる顔、身体、その間。相手は、言葉をちゃんと聴いている。

近作の『葛城事件』『殺風景』から、赤堀雅秋は陰惨なものを書く作家と言うイメージは強くなったかも知れないが、最後の最後に光を残す作風がまた戻って来た。ほっとする反面、その光は諦観によるものか希望によるものか? と立ちすくむ。『アメリカ』『雨が来る』が好きで、近作はもうキツい、と思っていたひとは観に行ってみるといいと思う。

一周まわって帰ってきたとも言えるが、元の場所に戻ってきたのではないし、元の場所にはもう戻らないだろう。『その夜の侍』『立川ドライブ』『沼袋十人斬り』が書かれたからこその今、と感じた。この三作品が、個人的には赤堀さんの大きな転機だと思っている。一場で時間が飛ばず、徹底的な具象の美術と膨大な対話により、その「リアルな」場所に不在の人物を浮かび上がらせ、「リアルに」いる人物たちの心中を無言のうちに描く。観ている限りでは『津田沼』迄はそうだった。

劇作家としての赤堀さんは、実はかなりの手練と言うか技巧派だと思っている。細心を払い選ばれた美しい言葉。ふとしたタイミングで挿入される単語の意味が後に明かされる、さりげない構成。説明を説明と気付かせない対話。そしてなにより、言葉を駆使しているのに、言葉にしていない部分の情景や心情を描写するのがとても巧い。劇団公演の場合は、脚本を書いた本人が演出も施すので、ある種のシリーズのようなものが出来る。

その巧さは手癖になる怖さがあるが、技巧を越えて衝き動かされるものを描こうとしたのが『その夜の侍』だったと思う。劇作家としての赤堀さんが、演出家としての赤堀さんに新境地を拓かせた。どうしてもこの物語を書かねばならない、この物語にはこれ迄の演出手法が使えない。抽象的な美術と転換が導入された。主人公は部屋を出て、町を彷徨い、切望していた対話へと辿り着く。「移動」が生まれる。

続いての公演は、実在の事件を題材にした『立川ドライブ』。加害者、被害者の心理を偏執的な迄に追い潜るラインは『砂町の王』『葛城事件』、『殺風景』へと続いた。演出は抽象と具象、転換の多少が混在している。『立川ドライブ』と『砂町の王』の間に『沼袋十人斬り』。落語、歌舞伎とロードムービーならぬロードプレイが生まれる。股旅ものと言ってもいいかも知れない。具体的な装置はほぼなくなり、転換手法が駆使される。

『砂町の王』と『沼袋十人斬り』の間にあった『葡萄』(個人的にとても好きな作品で、再演してほしいとずっと思っている)には、(旅の果てに)帰ってきたやっかい者とそれを迎える者たちの衝突、やっかい者がやっかい者たる所以を知らないよそ者との交感が描かれた。一度は別れたものの、繋がりを断てずグズグズになった関係と、そこへ新しい風を吹き込む「当時」を知らない者。

こうやってみると必ず前後作との繋がりがある。勿論独立して観ても構わない作品ばかりだが、それでもこの劇作家の作品は続けて観ていきたいと思わせる。次はどんな新しいことがあるのか、次は旧作のどんなところが姿を変えて生き返るのか。

当日パンフレットにいつも記載されている次回公演のお知らせはなかった。「次回」はいつも、一年近く先のことだったりした。ひとまず劇場をおさえるのをやめたのだろう。『公演の挨拶』に、「もしかしたらこれが劇団の最後の公演かもしれない」と赤堀さんは書いていた。思わせぶりな言葉だ。それを読んでから本編を観たので、出演者全員にプレゼントのような、はなむけのような台詞があるように思えた。劇団員も客演もバランスよく成り立つ出来映えで、そのうえで劇団員の新しい面も見ることが出来た。今回出演していない、そして降板した劇団員もいる。休んでみるのか、そのまま終わるか。こちらはただただ待つばかりだ。

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よだん。ダブルアンコールだったんだけど、スズナリって楽屋が離れなのかな?随分時間経って赤堀さんが出て来たんだけど、続いて誰も出て来なくておろっとしてて、そこで初めて素の赤堀さんだったのでホッとした。照れているようないい笑顔だった

よだん(じゃない)。なんか赤堀さんのことばっか書いてますが演者が皆さん素晴らしかったんです! 気のいい役の野中さん久々に観た、やだ素敵! 児玉さんダメ人間なのにふとしたことですんごい格好いい人物がもー本人の資質なのか演技なのか判らなくて素晴らしい! 日比さんはもう天使、なんていい子なの! 滝沢さん大トリの存在感、持ってかれた! のびのびした遠藤さんを観られて嬉しかった! 駒木根さん初めて観た方ですがすごい存在感でビビッた! 勢古さん一場だけの出演だったけど何あの子の行く末すごく気になる……。
黒沢さんは『南部高速道路』のとき赤堀さんが「黒沢あすかに啖呵切られて傷つく」とか言ってたの思い出してニヤニヤした。赤堀さん罵られたかったのね…いいもの観られた(ほろり←?)。成志さん、『はたらくおとこ』をちょっと思い出した。一歩ひいてるようでいて、何かを背負ってる感じ。男前。
そして銀粉蝶さん、今作のタイトルが含まれたあの台詞を彼女の声で、詠うような語りで聴くことが出来てよかった。