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2014年07月23日(水)
『怪しい彼女』

『怪しい彼女』@新宿武蔵野館 1

原題は『수상한 그녀』、英題は『Miss Granny』。2014年作品。

立ち見も出る盛況、知らない同士が集まって声出して笑ったりグスンと鼻をすすったり。映画館で観られてよかった!『ダンシング・クィーン』もそうだったけど、音楽劇のフォーマットを通して観客を巻き込む空間を作り上げる。上質のエンタテイメントコメディでした。そしてエンタメを通じて人生について考える。映画は人生を見せてくれる。

若くして夫に先立たれ、女手ひとつで息子を立派に育て上げたオ・マルスンばーちゃん。バイタリティ溢れエネルギッシュな彼女は、がんばって生き抜いてきた自負もあってか周囲にも厳しくちょう毒舌。シルバーカフェではトラブルを起こし、家では追いつめられた嫁がストレスのあまり倒れてしまう。施設に行ってもらおうかと相談する家族の話を聞いてしまいショックを受けたばーちゃんは、通りかかった“青春写真館”で遺影を撮ってもらうことにする。「五十歳若くしてあげますよ」と言う店主に撮影してもらい店を出ると……彼女はハタチの姿を取り戻していた! オードリー・ヘップバーンに憧れていた彼女は名をオ・ドゥリと変え、孫のバンドで唄うことにするのだが……。

姿はハタチ、中身は七十歳のオ・ドゥリを演じたシム・ウンギョンがすごいの! 実際に二十歳だそうなんですが(撮影時は十代?)、それでこのババア演技…仕草といい、口調といい、いやどんだけなまってるか私は理解出来ませんが、くっちゃべってるときの表情がすごいんですよ。鼻の穴を膨らませて唇をとがらせて歯を剥き出して、ホントいじわるばあさんのそれなの! バイタリティ溢れるその姿はマルスンばーちゃん生き写し。彼女の一挙手一投足から目が離せない、なんて魅力的! 少しでも自分をかわいく綺麗に見せたいと言う変な女優の自意識が全く感じられないところがすごいわー。なのにかわいいと言う…これはもう、生命力のチャームですね。

しっかしこれで二十歳って、北島マヤか。子役からのキャリアだそうです。吹き替えなしの歌も素晴らしい!70年代の歌謡曲を、それこそプロデューサー言うところの「ソウル」で唄い上げます。すごいなー(すごいばっかり言ってる)。

若返った直後は髪型も服装もマルスンのままだから「ブロッコリー」の頭にモンペっぽいパンツでそのギャップが衝撃的ですらある。かわいらしい服を買って着替えてもなんかガニ股で…もうおかしい! おかしい! なのにかわいい! そうそう衣裳がすごく素敵だったー。オードリーからイメージしたフィフテイーズなファッション、クラシカルなのにモダン。ワンピとかすごいかわいい…実際はこういう格好で今出歩いたら悪目立ちすると思うのね。映画ならではの素敵演出です。堪能。

しかしばーちゃんがばーちゃんのときの服もかわいかったよ…シャツと言うよりブラウスな感じとか。ばーちゃんになったらあんな服が着たーい。ブロッコリ頭にするのは微妙だけど(笑)。

それにしてもホンが面白かった〜。女性をボールに例えたオープニング、整形や若返り、パラサイトシングルへの皮肉、社会の先輩としての老人が受けている仕打ちを厳しく描きます。このあたり、前作が『トガニ 幼き瞳の告発』で韓国の司法を動かしたファン・ドンヒョク監督(脚色も手掛けています)の鋭さか。先日観た『おとこたち』を思い出しました。人間は必ず老いて死ぬのに、若いときは彼らを自分の未来として見ることが出来ない。とは言え、歳下だからとあしらわれたり、認めてもらえなかったりと、若いときには若いときの辛さやもどかしさがあるものだ。マルスンをずっと「お嬢さん」と慕い続けるパク氏の存在は、歳をとるってわるくないと思わせてくれる。そうやって、全ての人生に肯定を探していく。

マルスンも、やがて彼女を送ることになるであろう家族も、残り少ない時間(嫁が言うとおり、案外多いかも?)を笑顔で過ごすことが出来そうだ。その場面を見せてくれた監督に、人間への愛情を感じました。観ることが出来てよかった。そうそう、青春写真館は最後の最後にもう一度粋なことをしてくれます。この幕切れも素晴らしかった!

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よだん。

・大ヒット記念とのことで、本編上映前に孫役の子(多分有名な子なんだと思う…B1A4のジニョンくん)の御礼メッセージ映像が流れました。めでたい

・マルスンばーちゃんを演じたのは『ユア・マイ・サンシャイン』で息子ファン・ジョンミン(男優の方)に嫁が来て喜ぶ優しい姑役だったナ・ムニ。そんな彼女が今作では超毒舌姑になって嫁ファン・ジョンミン(女優の方)をいびり倒すと言う、本編とは関係ないところにもニヤニヤした(笑)

・しかしムニさん、お年寄りったってお肌すごい綺麗だったで。ツヤツヤのサラサラ。秘訣を伺いたい……

・そして『新しき世界』のアニョアニョ理事が魔法使いだったよ…! あのたぬきおやじが! ちゃんといいひとに見える!(笑)

・それにしてもヤクザどころかおばあちゃん迄ケーセッキとか言ってるの観ると「本国で普通に使われてるんじゃね…?」と勘違いしそうになる。絶対言ったらアカン

・プロデューサーの所属がちゃんとCJエンタテイメントってとこにウケた(今作の提供)。メタルバンドの描き方が容赦なくてオモロかった…いいとこついてる……

・それにしても、こういうコメディでも交通事故シーンはちょうリアルでおっかない迫力であった。韓国映画の特徴として憶えてしまうわ……

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メモ。

・ファン・ドンヒョク監督 インタビュー
・韓国映画特集『2014年上半期の韓国映画シーンと制作現場のウラ事情!社会学的に切り込む』-ORICON STYLE
ファン・ドンヒョク監督のインタヴュー頁含む韓国映画特集。とても読み応えがありました。新世界沼のことも書いてあってひいっとなった(ホントに「沼」と紹介されている)