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2014年06月07日(土)
『海辺のカフカ』

『海辺のカフカ』@彩の国さいたま芸術劇場 大ホール

初演の評判がよかったので今回行ってみることに。あああ、初演を逃したのが悔やまれる。

原作は未読なのですが、過去村上春樹作品を舞台化したサイモン・マクバーニー演出『エレファント・バニッシュ』(初演再演)との共通点と相違点を見出して興味深く観ました。蛍光灯使いの照明、水槽(ガラスケース)と言ったモチーフは近年の蜷川演出作品にはよく出てくるものですが、『エレファント〜』にも出てきていた。人間の営みをピンで留め、標本のように提出する。「外国から見た日本」として受け取っていたが、今回は「村上春樹が描く日本」として受け取ることが出来る。

舞台転換はガラスケースの移動で行われる。機動力のある転換は機能的でもある。東京から高松へ、バスやトラック、都会の家の一室と森の中。この転換のめまぐるしさも『エレファント〜』と共通していた。蛍光灯の青白い光は、登場人物たちの表情にさまざまな憶測を呼ぶ陰影を浮かび上がらせる。美しさと不気味さ、どちらにも陰がある。殺人事件を追うサスペンス、過去の出来事で受けた傷を巡るクロニクル、“入り口”を探すファンタジー。めくるめくイメージが次々と差し出され、物語の大海原に溺れる三時間四十五分。心地よい。

興味深かったのはテキストの扱い方で、蜷川さんが一月に演出した『冬眠する熊に添い寝してごらん』では多用していた字幕は一切なし。ト書きを説明することもない。この辺り、小説を戯曲化したものと、小説家(と言っても古川日出男さんは演劇に造詣の深い方ですが)の書いた戯曲との相違を考えたりもしました。流れで言えば『〜カフカ』初演、『冬眠〜』、『〜カフカ』再演で、今回は海外公演が前提としてあるので改訂された箇所も多いようですが、蜷川演出のアーカイヴと言った視点からするとこの変化はとても気になります。あー初演逃したのが(繰り返す)。

ちなみに『エレファント〜』はテキストを映像で見せていました。マクバーニーはその後演出した『春琴』でもテキスト中の漢字の部首に迄拘っていたそうですし、ヴィジュアルとしての効果にも着眼していたのだと思います。『エレファント〜』も『春琴』もワークショップの積み重ねでテキストを舞台に立ち上げて行くものだったし、村上春樹と谷崎潤一郎は日本文学と言うくくりにするには時代もフィールドも違うので(あ、でも谷崎潤一郎賞受賞されてるのですねと今調べて知る)、これらを括ってしまうのは些か乱暴だとは思いますが、いろいろと考えさせられました。

舞台に登場する図書館のように、蜷川さん演出のライブラリを観るような感覚を噛み締める。歓楽街のネオン、怪しい公衆便所。そこに暮らす人々。風に揺れる紗幕と雨。森のシルエットを舞台背景に浮かび上がらせる照明。それは過去観たものであり、現在初めて観るものでもある。朝倉摂→中越司、吉井澄雄/沢田祐二→原田保→服部基の“継承”について感じるところも多かったです。

初舞台の古畑くんは台詞が届きにくい等の難はあれど、その初々しさをタフになろうと旅に出る少年の姿に重ねて観ることが出来ました。そして木場勝己さんがよかったなー。ナカタの波瀾万丈に満ちた旅にこちらもお供した気分。彼の人生が安らぎで終わったことに感謝を覚える。ネクストの面々の仕事人っぷりも見事。『火刑』のときも感心したけど、周本さんは実年齢より上の人物を演じるのホント巧いな!ネクストを退団した土井睦月子さんが初演から続けて出演されていたのもなんとなく嬉しかったです。円満退社?だったんだな、と思って。

よだん:原作未読故ねこの受難にはホントびっくりした……うえええん。冷蔵庫が出てきたときまさかまさかいやいやいやいやってなって下手なホラーよりひいいいってなったよね!これから行かれる方ご注意を。って、行くならもうどうにもならんか……。しかし新川さん演じるジョニー・ウォーカーは格好よかったな!