I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
kai
MAIL
HOME
|
|
2014年05月15日(木) ■ |
|
菊地成孔とペペ・トルメント・アスカラール TOUR 2014『戦前と戦後』 |
|
菊地成孔とペペ・トルメント・アスカラール TOUR 2014『戦前と戦後』@EX THEATER ROPPONGI
菊地成孔(voc、mc、cond、ss、as、ts)、林正樹(pf)、鳥越啓介(b)、早川純(bdn)、堀米綾(hp)、田中倫明(perc)、大儀見元(perc)のセプテットが現在のメンバー。今回大儀見さんのトラに山北健一。 --- 梶谷裕子(1st vn)、高橋暁(2nd vn)、三木章子(va)、森田香織(vc)のストリングスカルテットはサポートメンバー。梶谷さんは一昨年『具象の時代』に参加していた方ですね。 --- ゲストにOMSB、DyyPRIDE(rap)、林正子(sop)、I.C.I(rap、voc)、塚越慎子(mar)、エマ・デュペロン(voc、narration)のトラでマイカ・ルブテ。曲毎に呼び込み、紹介MC。 --- あとアナウンスはなかったけど、米田直之さんはライヴでもマニピュレーターとして参加されてるのかな?この日のエフェクト部分をどなたが手掛けていたかは不明。
と言う訳で、第三期PTAってことになるかな(追記:ん?四期か?二期後、2009年の『New York Hell Sonic Ballet』前後大化けしたところを三期とするかどうか…)。リリースパーティと言うことで『戦前と戦後』を再現、てなふりしてこの夜しか聴けないライヴ、てところは菊地さんのライヴではいつものことです。いやそもそもライヴとはそういうものではないか。公言されている通り、おなおしバリバリよ!な『戦前と戦後』をライヴでやるなら注視どころは菊地さんのヴォーカルってことになるのですが、その揺らぎはオルケスタの演奏も同様です。そこに心を掴まれる。実際アレンジは変わっているしインプロ部分も多いし、特にそれぞれのソロパートはプレイヤーや楽器のコンディションによっても変わる。
『戦前と戦後』−一曲(「エロス+虐殺」)+『戦前と戦後』以外から一曲(「私が土の下に横たわる時」)。曲順もほぼ一緒。林正子さんゲストのパートは続けてやったので、「カラヴァッジョ」のあとに「私が土の下に横たわる時」〜「ヴードゥー/フルーツ&シャークス」となりました。それと「たゞひとゝき」の前に「4分33秒」のカヴァーがあった(これはノーカウントで・笑)。
普段はほぼMCを挟まず本編を走りますが、今回は楽曲毎にゲストを招き入れるためその都度お話が入る『成孔の部屋』構成。こういう客人をもてなすときの菊地さんの慇懃ジェントルぶりは見ていて気持ちのいい面と、いやこのひと同じ温度でむちゃくちゃ言い出すからマジ怖いってヒヤヒヤな面がある。特に女性に対してはね(微笑)。ハンラハンのリリック日本語訳ナレーションと、その前口上は色っぽくてよかったですねえ。と言いつつ「これがホントのビッチェズブリュー」なんてオヤジギャグにもにっこりですよ!
どの楽曲もよかったが、「カラヴァッジョ」、「ヴードゥー/フルーツ&シャークス」(「行列」的な興奮!)、「スーパー・リッチ・キッズ」のリズムが鳥肌モノでした。林正樹さんと鳥越さん、鳥越さんと田中さん、山北さんのやりとりがめちゃめちゃスリリング。リズムとライム、リズムとヴォーカルの噛み具合、その訛り。促音と破裂音、字余りが前に行くか後ろに行くか。
スピーカーに近い席だったんですが、序盤は無音部分でノイズ(サンドストームみたいなシャーっての)がやたら聴こえて戸惑った。途中からは聴こえなくなってホッとした。ハープやチェロが刻むリズムがハッキリ聴こえたのにはおおっとなった。あとベースの音量と音圧がかなりキました。ベースが起点になり他のパートを牽引する場面も多いので、音の輪郭がクッキリ聴こえたのはよかったなー。まああとヘンな話ですが、ここんとこPTAは前方中央の席になることが多く、菊地さんのほぼ真正面にいる鳥越さんが全く見えないことが続いてたんですね。どーしても見たい場合、身体を椅子に沈ませて菊地さんの股越しに見るしかなかった(笑)。今回上手寄りだったので、普通の姿勢でちゃんと鳥越さんが見えるって嬉しさが……(笑)。
終始笑顔が多いステージ上だった。皆よく笑う。笑顔を交わし乍らお互いの間合いを取る。MCの無茶振りに笑う。本編最後「たゞひとゝき」の前、不測の事態に関して菊地さんがぽろっと言ったこと。その後照れ隠しのように歌詞カードを忘れたと舞台袖へ引っ込んだこと。早川さんのインプロ導入、フィンガースナップでリズムをとり始める林正樹さん。フロアから自然に起こる手拍子。その後眼前に拡がったのは、夢のような光景だった。
菊地さんは歌詞カードを持たず、ゲストをひきつれて現れた。フィンガースナップを鳴らす彼らのパレードとダンス。この夜ここで見たものは、ベジャールの『M』終幕、「J'attendrai(待ちましょう)」の風景のようだった。何を待っているのか。四番打者の帰還でもいいし、いつかまた会いたいひとでもいい。もう二度と会えないひとでもいい。
I.C.Iへの「バイバーイ」のトーン。明日会えるひとにも二度と会えないひとにもあのトーンでバイバイって言えたらいい。あとになって「ああ、あれが最後だったんだなあ」と思う。「喋らない設定」のI.C.Iが思わず帰り際「バイバイ」と応えてしまった(これもライヴならではだ)、あの「バイバーイ」。あの世のことは知らないし、あの世の風景を見たこともない。それでもあんな風景があるなら、そこで先に行っていたひとに会えるなら。こんな素敵なことはない。「共にいきましょう」は「行きましょう」でも「生きましょう」でもあるのだろう。この夜目の前で起こった出来事を死ぬ前に思い出せたらいいな、と言う気持ちになる。歌が招いた夜会だ。
歌のコンサートのつもりで来たので、アルバムコンセプト押しで通すかな、このまま終わってもいいな、と思った。するとアンコール、「このまま終わるのか?とお思いの方もいらっしゃるでしょうから」「アルト持ってるからもうお判りでしょうが…」と「Killing Time」を演奏。これ、ストリングスパートのポテンシャルを示すバロメータにもなる楽曲なので正直わわっとなりました。アレンジも変わっていて、弦に早川さんが併走してリズムを増強していた。ストレンジ感が加味されている。編成やアレンジを変えてコンスタントに演奏される、楽曲のクロニクルを目撃する思い。今後が楽しみになる。
それにしてもEXシアターのあのギラギラっぷりは入るときなんか恥ずかしいわー。田舎者ってバレる!て挙動不審になる。
|
|