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2014年03月08日(土) ■ |
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『空ヲ刻ム者 ―若き仏師の物語』 |
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スーパー歌舞伎II『空ヲ刻ム者 ―若き仏師の物語』@新橋演舞場
SFと言う枠組みを外した(霊験はあったが)前川さんの、作家としての根幹がストレートに感じられてとてもよかったなあ。静かな会話のシーンが多く一見地味、しかし最後はバシッと魅せるし胸に持ち帰れるものがとても多い。
この「一見地味」で、すききらいは分かれそうです。派手な仕掛けでスペクタクルな演出を期待して観たひとには、一、二幕…いや、三幕中盤迄は退屈に思えるかも知れない。こっから見せるよー!と展開が始まってからのあれやこれやはとても見応えがありますが、え、これだけ?と物足りなく思うひともいるかも知れないです。序盤の仏教批判、偶像崇拝批判もおいこれ年配のひとはどう思うんだとヒヤヒヤもしました。個人的にはこの、前川さんの信仰に対するスタンスには大いに共感しているので、主人公がこれら批判を経て普遍的な命題に気付くと言う成長物語として観られたことに感謝したい。
それにしても、これら思想を感じる台詞が猿之助さんの声(このひと口跡も美しいし台詞回しもすごいが声そのものが明瞭だよなあ)だとすいすい沁みる。宗教を人文と捉えるとまた考えることが増える。浅野さんが「説明ばっかりだよ!」と自らを茶化す台詞があったが確かにそういう面はあり、しかしこれは前川さんの作品にはつきものなので、そこは笑って楽しめました。浅野さんは口上でのふるまいも、本編での狂言回しとしての役割もかなりおいしい。ご本人もそこを楽しんでらっしゃるように思いました。座組にこういうひとがひとりいると安心、それを承知した上で演じている感じ。猿弥さんと浅野さんのやりとりも見ものです。どこ迄がアドリブなのか(笑)リピートするので確認するのが楽しみ。
蔵之介さん、隈取りすごい似合うー!葛藤の多い役で、猿之助さんの役柄同様迷い乍ら成長していく人物。不思議なものでアメリカの戦争映画に出てきそうな雰囲気もありました。大義のためなら庶民など…みたいな(何その例え)。その葛藤を振り切る迄の流れが唐突にも感じられるところがあり(これはホンの問題かな)、それを表現するのは難しそう。今後変わっていくかも知れません。それにしても格好いいですわ。福士くんは素直なとてもいいい役で、亀治郎の会から馴染みがあり愛されてる感じでした。そしてこのふたり、大柄でもあるので歌舞伎座組に入るとなんか…スケールが狂うと言うか……(笑)衣裳を着ての動きがとても優雅でダイナミック、舞台映えします。
右近さんの見せ場がすごいよー!あれを思い出すよね!なんか観客が「小○○子……」と思っているふきだしが新橋演舞場に浮かんでいる幻覚を見そうになりました(笑)。宙乗りはもう皆待ってる感ありありで、まだかーまだなのかーとジリジリしてた感じがしました。三階席正面下手寄りだったので、宙乗りの終点エリアからゴトゴト音がし始めると「おっ、スタンバイ?」とドキドキしたりしていた。蔵之介さんの笑顔がちょっとカタかったように見えたのはこちらの邪推か。やっぱ怖いよね……。三階席下手側袖側の席に5〜6人のグループで来ていた若いお嬢さんたちがいたのですが、宙乗りのふたりが近付いてきたとききゃあああああってなってるのが見えて微笑ましかった。いいサービスになってた!よかったね!あの席花道が全く見えない(私もあの席で何度か観たことあるけど、モニターで見るの寂しいよね…)けど宙乗りのときはめっちゃ特等席だよね!
戸板倒し等のアクロバティックな演出は、歌舞伎でもともとある手法とは言え、やはりひいいとなる。いちばん湧いたのもここだった。失敗は許されない、十割打者でなくてはいけない。一歩間違えば大事故だ。こういう出来てあたりまえが前提なところ、芝居の醍醐味でもある。無事千秋楽を迎えられますように。
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