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2014年03月01日(土)
『アルトナの幽閉者』『ASYMMETRIA』

『アルトナの幽閉者』@新国立劇場 小劇場

うわー面白かった!!『国民の映画』の翌週観たことで考えることも増えた感じ。あとカミュとサルトルの同時代性とか、『カリギュラ』観たあとだったので入りやすかった。翻訳も同じ岩切正一郎さんでした。

1959年のドイツ。造船業で財を成した一家の主が余命を知り、後継者に次男を指名する。家から出て行くことを許さない父に次男の妻が反発し、その執着の謎を辿ると、死んだことになっていた長男の存在が浮かび上がる。心の傷を負い、戦後十三年屋敷の部屋に狂気とともにひきこもっていた長男を訪問した次男の妻は、対話を通して秘められた一家と戦争の記憶を知る……。

サルトルなもので難解ではありますが、演者の翻訳(解釈)を経て発せられる台詞には説得力があり、ああこれこそ演劇の力!と思いました。戯曲で読んでたらこれ程腑に落ちてこなかったと思う、個人的には。詩的な言葉は数多くあれど、それらが登場人物の血肉となって伝わるのです。岡本健一さんすごかったなー、喉にキツそうな発声で叫ぶシーンも多いんだけどしっかりコントロールされてる。その岡本さんをはじめ全員声の力が強いのですが、皆ちゃんとキャラクターとしての声になっていると感じられたことが大きかった。吉本菜穂子さんはもともとの声も特徴あるけど、普段こんなに癇に障らないもん(笑)レニの声になっていたなーと思った。どの人物の声も刺さる。長男が蟹へと繰り返す「えっ? 何?」の声がずっと脳内に残っている。

戦争責任と血脈は決して断ち切ることが出来ない。民族と国は分ち難い。「ドイツが戦争に負けたのは恵みだ」と言う父、戦地での悪夢に囚われる長男。謎を暴く次男の妻、それを傍観しつつ長男と妻の関係に嫉妬する次男が得たものは決して自由ではなかった。家に、国に縛り付けられる者たちへのレクイエムを聴く思いがしました。三時間半がテンポよくあっと言う間。こういう作品に出会うと、長いのは悪みたいに言われる風潮に疑問が湧きます。

額縁のなかで起こる出来事のように一家の没落と敗戦国の行く末を見せるセットが効果的。転換が多くその時間も長いのですが、幕を引き暗転した後に少しだけ暗めの照明を灯し、音楽とともにその静寂を見せる演出もよかったです。登場人物たちの視線を観客の反対側から捉えて見せる大きな鏡も存在感がありました。

ああそれから、蟹と天上(天井)からの女の声って清水邦夫作品にも出てくるんだけど今思うとこれがモチーフだったのかな?今NINとAICと新しき世界で頭がパンパンなので調べる気力が…だれかおしえて……(他力本願)。

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六本木へ移動、新世界って自由劇場跡なんだっけ…?と探しつつ歩いていたらなんかギラギラした建物に差し掛かる。EX THEATERであった。ここに今すずかつさんの舞台がかかってるのね…となんだか感慨深い気分に(笑)。

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横町慶子×山川冬樹 Live Performance『ASYMMETRIA』@音楽実験室 新世界

新世界には初めて行きました。急な階段を降りると、本来はステージであろうエリアに、雛壇状の客席が設置されているのが見えてきた。PAブースにいる山川さんとバチッと目が合う。機材や楽器も置いてあったので、山川さんはここで演奏するのかな?と思う。満員立ち見も出る盛況、オーケストラピットのようになっているPAブースの縁にも座布団が敷かれ、そこに座るひとは深〜い掘りごたつに入っているような感じで足がブラブラ。早く入場したひとはもう終演迄出られないくらいぎゅうぎゅう。なんだか天井桟敷にいるような気分になってちょっとワクワクする。舞台上には大きな鏡。下手側にちいさなテーブル、その上に電話と紙が何枚か。

骨伝導マイクを装着した山川さんがステージに上がり、口上で開演。「こんにちは、やまかわふゆきで」「す」、と同時に頭を一撃。増幅された衝撃音がスピーカーから大音響で鳴る。頭を一度叩くと300万個の脳細胞が失われます。これで300万個、これで600万個……頭をリズミカルに叩いていく。背後のバーカウンターのワインボトルを掴み、ひとの脳みそはだいたいこれと同じくらいの重さですと言い、今度はそのボトルで頭を打つ。ゴツゴツと音が響く。側頭部や後頭部を叩いているのに、みるみる額が紅くなっていく。総数から計算すると、200回も叩けば僕の脳細胞は全て壊れ、廃人になってしまう訳ですが……しかし、これは都市伝説です。脳細胞は日々新しく作られていくので、とニコリ。三公演目なので、たんこぶが沢山出来てしまって痛いのですが…の言葉で若干緊張がほぐれる。

音が増幅されているとは言え、実際かなり強く頭を殴っている。山川さんの身体を使ったパフォーマンスはいつもある種の緊張感がある。それは飴屋さんの作品とも共通する。ちょっとした事故で命を落とすのではないかと言う緊張感。勿論ケアはしているし、どの程度迄追求したらどうなる、と言うしっかりしたフィードバックを経ているものなのだが、実際に自らの身体を攻撃するそれは呑気に観られるものではない。そのギリギリのラインを歩くさまを見ると言う行為は、スリルを味わうためではなく、身体がどう反応するかをひたすら知るためのものだ。好奇心ともちょっと違う。

山川さんがプリントアウトされた紙を取り出す。ある人物の脳のMRI画像です。綺麗な頭ですね。ここに、この頭の持ち主の名前が書いてあります。ヨ・コ・マ・チ・ケ・イ・コ。これから上演するのは、この彼女の脳から生まれた物語です。暗転、山川さんはPAブースに戻り、ステージに横町さんが現われる。

電話のベルが鳴る。受話器をとる音、はい、と言う声。同時に電話が切れる。誰?誰なの?言葉のリフレインと、電話のコール音で構成された音楽が演奏される。まずその声が聴けたことが嬉しかった。横町さんの声、大好きなんだ。私は横町慶子です。ロマンチカと言うグループで踊っていました。左右非対称の人間です。語りがやがて歌になる。この辺りはインプロの要素もあった印象。山川さんはブースでPCを操作、シンバル等のパーカッションも演奏し、横町さんの動きへ音楽をつける。

鏡の後ろに横町さんが立つ。鏡はマジックミラーになっていて、点滅する照明により、横町さんの右半身と左半身が交互に浮かび上がる。白いドレス、白い肌。長い髪。ちょっと緊張している感じの顔。ああ、横町さんだ!

半分を失くしてしまった、その行方を探している。ひとりごとのように話し乍ら、横町さんは右手で手紙を書く。紙を折る。紙飛行機を飛ばす。上手からマシンがゆっくり歩み寄る。この機械、見覚えがある。ピューリタンベネット7200Aだ。あいトリ2010『Pneumonia』以来の再会!公演前、山川さんが「ピューちゃんが出る」と仰ってたのでピュ〜ぴるさんのこと?と思っていた。そうだった、ピューちゃんと言えば彼だったね。何故かピューちゃんのことは彼だと思ってしまうなー。彼女かも知れないね。

私の名前はピューリタンベネット7200A、ひとの呼吸を助ける仕事をしていました。名古屋の病院で働いていました。自己紹介をしたピューちゃんに横町さんは話しかけるが、なかなか会話にならない。ピューちゃんのボディを通して山川さんが唄う。いや、やっぱりピューちゃんの歌になるのかな。デイジー、デイジー(HAL?)。僕の頭は半分壊れてる。僕の身体も半分壊れてる。ピューちゃんと横町さんの会話、デイジーの歌、壊れた半分を探している横町さん。ピューちゃんに手を繋ごうと語りかける横町さん。手を繋ぐふたり。やがてピューちゃんは去っていく。

暗闇に白熱灯の灯りが浮かび上がる。心臓の鼓動の音とシンクロしている。山川さんが再びステージに上がり、ギターのフィードバック音とともにホーメイを唱える。いたい、いたい、と横町さんが繰り返す。「痛い」だと思われたそれは、やがて「ここに」が加わることで意味が変わる。こことはステージのことでもあるのだろう。しかしそれは観客が、パフォーマーである横町さんに抱いたイメージだ。踊ることを、演じることを離れていた彼女のことを思う。こうして再びステージに立つ迄、「痛い」が「ここにいたい」へと辿り着く迄、彼女にどれ程のことがあったか、どれ程のことを思ったか。きっと私の想像等及ばない。だがしかし、それを経て差し出された作品を観て、そこから想像を拡げることは出来る。『4.48サイコシス』を観たときに感じた、生きていることの意義や意味を追うものではない、ただただ生命と言うものの圧倒的な力がここにあった。今回スタッフに小駒豪さんらサイコシスのメンバーが参加していたことにも得心。

暗転。暗闇のなかから山川さんが語りかける。あなたの左手はどこにありますか。その居場所は地図に載っていますか。私はここにいます。終演。

いなくなった半分はどこにいるのか。それが示された地図はどこにあるのか。地図を探す旅は続く。その歌声とダンスは、息を呑む程美しかった。

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『アルトナの幽閉者』にも『ASYMMETRIA』にも大きな鏡が出て来た。ひとの姿を、内面を、過去と未来を映し出す鏡。