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2014年01月14日(火)
『冬眠する熊に添い寝してごらん』

『冬眠する熊に添い寝してごらん』@シアターコクーン

おも、おも、面白かった…くま、ロシア、寿司って好きなもんばっかり出てくるし情報量多いしもう発狂しそうでした(笑)リピートしたいよ!

古川日出男の作品は数冊しか読んだことがなく演劇作品は初めてでしたが、清水邦夫を連想するモチーフや言葉が散見されました。これは普段からそうなのか、演出が蜷川幸雄と言うことで意識したものなのか気になるところ。大挙する老婆、還ってきたジュリエットたち、そして鳥ではなく昭和を代表する歌手ひばり。対して演出。蜷川幸雄全部のせみたいなとこがありつつ、実は全然全部じゃないってところがまた面白い。かつて採用された演出がクロニクルのように飛び交い、過去の記憶が掘り起こされる。各作品は独立して観られるものではあれど、蜷川幸雄の演出史として観ることも出来、非常に興味深い。中越司の美術をはじめ、スピーディな転換が次の場へと滑らかに連動していくスタッフワークも素晴らしい。そして役者。これだけのボリュームの外枠に拮抗しうる強い座組です。以下ネタバレあります。

個人的には「好きに書いた、これを舞台に載せられるか」と言う作家と、「おう、載せたるわい全部」と言う演出家のバトルを観に行くと言う思いが強かったので、そういう意味では大満足です。日本の失われて行く自然、エネルギー史、戦史と、情報は多い。イメージモチーフも多い。いぬで!大仏で!ドーン!とか、こういうのが観られる舞台ってホント大好きなんですよ…何気にちっちゃい子とか客席にいたんですが、あの犬仏が夢に出てうなされるとよい。反動で演劇こわいだいきらいってなっちゃう子もいるかも知れないけどね…ヴィジュアル的にもそうだけど、こういう、日常でお目にかかることはない(あったら怖いわ)頭おかしいんじゃねえのと言うイメージの洪水をコクーン規模で観られるってのはやはり嬉しいことです。

転換は基本人海戦術。複数の役をこなす役者とスタッフの人力で、物量そのものを凌駕する。しかもそれが美しい。所謂編集の妙でもあるのだが、テクニカルな面としては序盤、バックドロップの白い幕に映し出された般若心経のテキスト映像がスライドし、港湾の風景になる鮮やかさ。そして回転寿司店の巨大ベルトコンベアを担いだスタッフが、入れ替わりでステージに登場する老婆や人夫たちと交差し、石油村の労働風景へと滑らかに紛れて行く撤収手法。この機動力。

歴史の裏で、打ち捨てられた人物たち。冬眠は社会的に葬り去られ、民衆から忘れられて行くことの暗喩だろうか。母親ではないのでこどもは生めない。しかし、超えた時空の先には彼らの子孫がいた…と言うことは。死んではいない、仮死状態でもない。穴蔵のなかで新しい命を育む、そして春を待つ。神話を感じさせ、現代へ鐘を鳴らす、美しい物語。

勝村さんと井上さんの二本柱は強靭でした。こういう役回り(ストーリー上と言うより、座組として)がふたりいると心強いですね。思えば井上さんを初めて観たのは例の『HAMLET』(1回目2回目)で、「いい役者さんだなあ」と思っていたくらいだったのですが、このときめちゃめちゃ苦しんでいたのだと今回のインタヴューで知りました。幸福な再会になってよかったね…また出てほしいなあ。ミュージカルでのファンの方がどう思っているかは判らないが。そして杏ちゃん。鈴を転がすような声で、豪速球を投げてくる。上田くんもよかったです。後半の長い狂乱場面、あの発声でしっかり台詞が聴き取れるところもいい。井上さんと声質が違うので、ふたりの言葉のやりとりが気持ちよく聴けます。そしてキーマン、石井さん。ぞっとするような存在感でした。

存在感と言えばゴールドシアターの女優陣演じるばば友たちも素晴らしかったなー。立石さん(この方の声すっごい好きなんですよー)に率いられ、市井のひとびとの生活をありありと見せつける。やっぱりニナカンはゴールド、ネクスト含めひとつの劇団と考えるのがしっくりくる。

その他。

・すんごいプロポーションのいい、格好いいいぬがいるなあと思ってたんだが…終盤マスクをとったら!新川さんだった!きゃあああ
・もう一匹のいぬはネクストの中西くんでした
・大石さんのキスシーンも観られて満足です(笑)いやん素敵
・あーあの犬仏グッズにして売ってくんないかな。ちょうかわいい
・隣席の女の子は大仏がぐるんと犬仏になったら笑いがとまらなくなり相当苦しそうだった(笑)私もニヤニヤがとまりませんでしたヨ!

・オリンピックへ出場する選手を送り出すと言うヴィジュアルは確かに出征と重なる。『エッグ』でもそうだったけど、'90年代、いや2000年代迄は(あるところには常にあったのだろうが、こういうメジャーどころで)あまり目にすることのなかった、この'10年代のモチーフについていろいろ思うことはある

・パッヘルベルの「カノン」と戸川純「蛹化の女」は有名だけど、「カノン」と「大阪で生まれた女」マッシュアップは初めて聴いた。驚いて調べたら坂本冬美さんだった


・「蛹化の女」も使われてましたね。カーテンコールは「諦念プシガンガ」

・ロビーに回転寿司協力店『すし 台所家』半券割引チラシが置いてあってウケた
・お寿司食べたい……