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2013年11月17日(日)
イキウメ『片鱗』

イキウメ『片鱗』@青山円形劇場

ネタバレあります。

円形劇場にはあと何度行けるかなあ…と思いつつ入場するとこのセット。もはやイキウメと言えば、の土岐研一さんの美術です。この公演、ツアーがあって円形以外での劇場でも上演されるんだけど、随分印象が違いそうだなあ。どう見せて行くのかな。均質な四つの正方形が、均等に配置されている。建売住宅のイメージが浮かぶ。四つの家庭の間にある空間は道路。通りを挟んだご近所さんが四世帯。

ホラーとの事前情報だったので、もう円形でそんな、しかもイキウメで、怖い、どうしようと思っていたらいちばん近くのブロックの床下から手塚さんが這い出てきてここでもうビビッたわ!ひいって言いそうになったわ!“あの”手塚さんの身体の線と身のこなし。そして芝居が進むにつれ、あれ、ひょっとして…と思い始める。そして幕、暗転のなかで唸る。なんと、彼にはひとことの台詞もなかった。呻き声、笑い声、そして表情と身体能力。これであの存在感!

冒頭にはビビりましたが、あとは終始抑制されたシーンづくり。驚かせるていの演出はありませんでした。しかし居心地の悪い緊張感がずっと続く。あれは何なんだ?何故そうなるんだ?その得体の知れなさがキープされる。その気持ちは終演後も続き、今も続いている。

人間の想像力がいちばんホラーだよと言う話でした。台詞に悪魔と言う単語が出てきましたが、その悪魔は実際のところあの男でもなく、あの父、娘でもなく、人間のやましい心とそれを疑う心だなあと思った、しみじみ。このあたりをじわじわと見せる描写が巧い。知っていると思っていた人物の変化に直面したときの反応の見せ方も巧い。

その想像力は、信じる力を内包している。あの父と娘は、彼を信じて(見込んで)選んだようにも映る。それは無意識か、本能からくるものかは判らない。悪意があったとも思えない。娘は彼と出会うことによって「自由」になるが、それは結果的には彼を信じ、利用したからにほかならない。そしてこれも結果的には、だが、彼女の「自由」は彼と一緒にいることではない。父と娘は彼の何を信じたのか。娘を愛する心か、良心か。それとも新しい命を受け入れ、育てていく決意か。どちらにしろ娘にかかった「呪い」は、他者を信じることによってしか解けないものだ。父親が彼を説得する場面を「彼は父にうまく言いくるめられた」と受け取ることも出来るが、その言葉は濁りがなく、心を動かされるものだった。まさに説得力の塊だった。

新しい娘を放棄した場合どうなるかを想像する。得体の知れない恐ろしさがまた生まれる。ひとを、何かを信じるとはどういうことか。この「信じてみる」姿勢は、前川さんの作品にいつもある。信じると決めた者が失うものは、どれだけ計り知れないものか。それを考えることになる。理詰めの視点を配置しているところも特徴的。浜田さん演じるこの人物、ヤな感じではあるものの、父親をいちばん理解しようとしていたように思う。そんな人物の存在も、「信じてみる」。

興味深かったのは、睦み合う娘と彼を見守る父親の表情を、半分の観客しか目に出来ないところ。父親が背中を向けているブロックから、それは見えない。娘と彼が被ったシーツを、父親はとても幸せそうに微笑んで眺めていた。個人的にはこの表情が、父娘に悪意はないのだと信じる根拠になった。

そして十字路で悪魔に遭っちゃうと契約してもしなくてもろくなことがないと言う話でした(違うよ)。ロバート・ジョンソンか。

劇団として見ると、あの声、あの童顔故にこどもの役が多い大窪くんの幅を拡げようとしている印象も。いやーよかったわー、かわいいカップルだったわー。大窪くん今度ブス会でゲスをやるっぽいのですごい気になってる(笑)。