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2013年11月16日(土)
KAAT×劇団唐ゼミ☆『唐版 滝の白糸』

KAAT×劇団唐ゼミ☆『唐版 滝の白糸』@KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオ

蜷川演出版と両方観られて良かったな。それにしても「手首を切って水芸、流しが宙を舞う」って演出家泣かせのホンですよね…字面だけ読んだらむちゃくちゃだ(笑)最高です。

と言う訳で唐ゼミ☆版。直系だぜ!ってなイキのいい役者さんが揃っておりました。前口上があるのがまたいいですね。終演後、この口上をなさった学ラン姿の方が演出の中野敦之さんだったと知りました。

会場である大スタジオには、KAAT一階の広いロビーからエスカレーターを乗り継いで入場するのですが、その途中に何台かカメラが置いてありました。舞台上手に設置されたスクリーンに、KAATに入ってくるアリダを銀メガネが尾行している様子が映し出される。ふたりはエスカレーターに乗り、大スタジオに入ってくる…と言うオープニング。この辺り、口上と併せ現実から劇世界へと連れて行くぞと言う心意気が感じられてわくわく。

銀メガネのモデルと言われる大久保さん。かなりすっとぼけた感じで、台詞のつんのめりといい、口跡のあやしさといい、序盤はん?ん?何言ってる?と聞き取るのにかなり難儀する。大丈夫なのか…と思わせられる箇所もありました。しかしあのうさんくささ…ちっちゃい子を誘拐していたずらして実刑くらってようやくムショから出てきた感じ!ホントに!近付いちゃダメ何されるかわかんない!って空気のまといっぷり甚だしく、そういう役者がこんなキレイなホールで芝居をしていること自体に違和感が…テント芝居で観たらコワさ倍増であっただろうなあと思ったり。このへんは難しいところです。しかしKAATは面白いプログラム組むなあ。宮本亜門さんが芸術監督を退任されたあとはどうなるだろう。

それにしてもあの脱臼したようなリズムで進むアリダと銀メガネの会話が、聞き取りづらくともすらすら頭に入って来たのは面白かった。先月蜷川版を観たばかりだったからと言うのもあるだろうけど。あと小人さんがちゃんと七人いたのもよかったな。伸びる影法師を見せるあのシーンは、舞台を斜めに使ってうまいこと見せてました。

終盤、水芸を見物するため大久保さんが客席に入って来た。私の斜め前に座った。メガネをひょいと下げ、上目遣いで振り向いた大久保さんとバチッと目が合った。瞬間思った、刺される。しかし当然そんなことは起こらず、一瞬の間を置いてふたりともぶはっと吹き出した。

もうこれだけで充分だった。台詞があやしいとか、ききとりづらいとかどうでもいいや。これが怪優の今の姿なのだ、と思った。

アリダの西村知泰さんは若くしていろいろ抱え込んでしまった鬱屈をあっけらかんと演じていて、そのカラッとした空気がなんとも魅力。銀メガネと戯れる無邪気な表情もかわいらしかった。お甲の禿恵さんはむちゃ気っ風がよい!台詞まわしもキレがよくすっごく格好よかった!羊水屋の安達俊信さんも存在感があり、役回りを明確にしてくれていた。警備員役でさいたまゴールドシアターの北澤雅章さんが出演していました。キャストチェックしてなかったのでおおっとなりました。

屋台崩しも楽しく観られた。そして流しが宙を舞うあれ、やっぱりクレーン!なんかもー重機来る重機来るって変なテンションになりますわ、観てる方も(笑)。端から見ると、そして文字にするとなんじゃそりゃって感じですが、実際その場にいるとこみ上げるものがある。劇場は、そんな不思議な空間です。