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2013年05月14日(火)
『あかいくらやみ〜天狗党幻譚〜』

『あかいくらやみ〜天狗党幻譚〜』@シアターコクーン

『レミング』同様段差がない前方席(A列)すみっこでして、奥で何かやられたり演者が床に座っているシーンは全然見えないありさまでした…つらい……。あたりまえと言えばあたりまえだが、正面真ん中から見た画をすごく意識しているような演者配置とかがあったので(冒頭、終幕の天狗ふたりのシンメトリーとか)あーしまったと思いました。まあこれも運。あとこれは完全にこっちの都合なんですが、山田風太郎原作てことはエグい筈!エロい筈!笑える筈!とすごい変な方向への期待度が高くなっておりまして…そうだよね、コクーンだしね、そして長塚くんだったね……と思いました。殊に帰国後の長塚くん。

と言う訳で葛河梨池先生が登場して天狗党の行く末と未来を箱庭の外側から取材…の筈がいつの間にか担当編集くんとともに現場に迷い込んで、そこには……と言うつくり。そうそう、長塚くんが葛河先生ではなくこの担当編集くんを演じていると言うところにもひとひねりあって面白かったです。葛河先生は古舘寛治さん!

古舘さんやまことさん(いやー持ってくわー)、小松さんと横田さん、小野さん、大鷹さんが同じ舞台に立っている編成も個人的にはとても楽しかったなー。あとやっぱ伊達くんの殺陣はキマる、眼福。時空を行き来するので天狗党のメンバーが老人になったり十七歳になったりするんですが、衣裳等は全く変えずに演技でそれを表現するところが楽しめました。白石さんと小日向さんの声色の使い分けがやっぱすごい。白石さんと言えばおゆんの役が文楽的で(ク・ナウカ的とも言おうか)、若い頃のおゆんの動作は口に封をした後藤海春さんが雛形(土人形)として演じ、それとシンクロさせる語りは白石さんが担う仕掛けも面白かった。最小限のセットでほぼ裸舞台、黒子(あるいは役者)が襖を持ち走ることで移動を表現する等、機動力で場を表現しようとする意欲には感心しました。

しかし…これだけのメンツをもってしても(これだけのメンツだからこそ?)散漫に見えてしまうのが惜しい。ワークショップなつくりがそのまま載っちゃったかなと思える部分も正直ありました。あと個人的に気になったのは進軍ラッパ。最後のシーンだけ音響で鳴らすんですが、その前は役者本人が吹くんですよね。で、あまり上手くないので笑いのシーンになる。最後にも役者が吹いて尚かつビシッとキメられたらすごくシーンとして締まったのになあ…なんて意地悪な見方をしてしまいました。嘘のつき方にもいろいろあって、意識的な演出がやむを得ずの回避策に見えてしまうとなかなかつらいです。とは言えここは、観る側の解釈に依るところが大きく、「幻のラッパだからこそ美しく響く」ともとれますね。

未来へ希望を託そうとする願い…と言うか祈りが静かに沁み入る舞台でした。

そうそう、写真が撮れない!と言うひとに「撮らなくても憶えておけばいい」と応える台詞、『南部高速道路』にもあったなあ。個人的にはすごく好きな台詞です。台詞と言うか、そういう考え方。