初日 最新 目次 MAIL HOME


I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
kai
MAIL
HOME

2013年04月21日(日)
『矢野顕子、忌野清志郎を歌う ツアー2013』

『矢野顕子、忌野清志郎を歌う ツアー2013』@日比谷公会堂

トリビュートアルバムではなくカヴァーアルバム、のツアーです。ゲストはMATOKKU。あの音がライヴで聴けるというところも目玉でした。

風船や星形の切り抜きで飾られたカラフルなステージ上にはスクリーン。徐々に暗くなっていくと、いつのライヴだろう、やのさんとキヨシローさんの共演の様子が浮かび上がる。「キヨシロー!」と声がとび、拍手が起こった。「ひとつだけ」を唄いはじめるふたりの映像がフェイドアウト、やのさん登場。まずは「誇り高く生きよう」。ピアノ弾き語りでアルバム収録曲を紡いでいく。キヨシローさんの曲がすっかりやのさんのものになっている。と同時に、キヨシローさんが書いた詞に込められた普遍的なメッセージ、違う角度から光を当てたことで発見する楽曲の新しい魅力が次々と転がり出る。ライヴ初演のナンバーも多く、アレンジもアルバムとは変化しているところがあり、これは相当リハを積んだのではないかな…と思わせられる緊張感。演奏はよりアグレッシヴ、リズムの高揚に足を激しく踏みならすやのさん。うお、格好いい!ブルッと身震い。

MATOKKUは松本淳一さん(Pf)、トリ音さん(Theremin)、久保智美さん(Ondes Martenot)のトリオ。松本さんはMacでリズムトラック等も操作していました。最近ではレディオヘッドのジョニーが使ってるので有名な、オンドマルトノの生音が聴けたのも嬉しかった。微弱音、サイン波で奏でられる「500マイル」「多摩蘭坂」はインプロ要素も盛り沢山。スタンドマイクでヴォーカル+ヴォーカリゼーションに専念するやのさん、メロディを発し乍らもリズムをも歌にする。テルミンやマルトノはピアノより微分音が出せるので、その揺らぎと声の波が非常に心地よくしかし激しく厳しく響く。まるで鳥のような声、獣のような咆哮。やのさんは綺麗なソプラノを持っているけれど、こんな生命力漲るワイルドな叫びも持っている。まさしく“荒野の呼び声”。いやあ、このセッションはすごかった。

すごかったと言えば毎度の「いもむしごろごろ」、今回は「いい日旅立ち」との人力マッシュアップ。ものまねでしか「いもむしごろごろ」を知らないひとは、ホントライヴでこれ聴いてほしい。やのさんのピアノはすごいんだよ!清水さんやエハラさんのものまね好きだけど(笑)あんまりすごいものを聴くと笑っちゃうが、その笑いの向こう側がまだあったんだ!と思わせられる凄まじさは是非ライヴで聴いてほしいです。

アルバム収録曲は殆どやったかな…やらなかったのは「毎日がブランニューデイ」だけかな。以前からカヴァーしていた『Home Girl Journey』収録の「海辺のワインディング・ロード」もやりました。キヨシローさんの曲ではないものも、そして新曲も披露されました。

いつものやのさんのコンサートのようでしたが、やはりところどころシン、とした空気が張りつめる。MCでもぽつりぽろり。「私の好きになるひとたちは、皆早く死んじゃうんですよね」「困る!」。ここ数年のことを思い返し、そして『LOVE IS HERE』の時期を思い出す。おおきなおおきな悲しみ。「震災で傷付いたひとたちへ…と作ったら、こういう曲になっちゃいました」と紹介された新曲「海のものとも山のものとも」の、“明日に希望が持てなくても 明日は来る”と言うフレーズ。愛するひとがこの世からいなくなっても、時間がそこで止まることはない。自分が死んだときも同様だ、時間は止まらない。「いくつもこの曲での共演の申し込みを頂いてるんですが、これはキヨちゃんとの曲なんだ。キヨちゃんと唄うんだ」と、本編最後は「ひとつだけ」。キヨシローさんのパートもやのさんが唄う。ああ、キヨシローさんはもういないんだな、彼がいなくても明日は来るんだ。と改めて思う。

最後に演奏された曲はMATOKKUとの「Prayer」。テルミンのほわりとしたサイン波とやのさんの澄んだ声が会場に満ちていく。感謝し、祈り、聴き入りました。静かな静かな、いい時間。「これからも、忌野清志郎の曲を聴いて下さい」と言って、やのさんはステージを去っていきました。