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2013年04月06日(土) ■ |
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『西瓜割の棒、あなたたちの春に、桜の下ではじめる準備を』 |
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シティボーイズミックス PRESENTS『西瓜割の棒、あなたたちの春に、桜の下ではじめる準備を』@世田谷パブリックシアター
ラジカル・ガジベリビンバ・システムには間に合わなかった世代です。と言うか、当時田舎で宝島に載ってる記事を読んで憧れていた世代です。私が上京して芝居を観始めたとき、シティボーイズは三木さんと組んでいて、宮沢さんは遊園地再生事業団を旗揚げしていました。
宮沢さんが書いた所謂“コント”は映像、あるいはテキストでしか知らない。しかし遊園地再生事業団や他の演出作品を実際に観るようになり、イメージ連鎖を喚起し笑いと恐怖を自在に行き来する台詞、洗練された情景が立ち上がる舞台空間に魅了されていきました。『スチャダラ2010』のラストシーンは今でも鮮烈に憶えています。劇中SDPの三人が野球をする。束ねられたかるたを投げる、打つ、かるたが散らばる、途端にかるた大会が始まる。同じ行為がラストシーンで繰り返される。ボールに誂えられたものを投げる、打つ、……それはかるたではなく花弁の塊で、打ったと同時に目の醒めるような赤がぱっと散る。間髪入れずに暗転、暗闇の視界に赤い花弁の残像が焼き付く。涙があふれる。かつて大笑いした光景は、かるたを花弁に変換し繰り返すことで予想外の感情を沸き起こしました。同じ行為が繰り返される間に、死者や、精神を病んで遠くへ行ってしまった者たちとの対話のシーンが挿入され、世界に横たわる寂しさと対峙し乍らどう遊び続けるか、と言う意識を掘り起こされると言う前兆があってのことでした。こんなふうに感情を揺さぶられるとは。
(追記:今気付いたが『スチャダラ2010』はコントだったか。でもこれ、宮沢さんは構成演出で作家陣は他にいたんですよね。クレジットはなくともアイディアを出したところはあるのでしょうが…ラストシーンがあまりにも印象的で、コントだと言うことを忘れていた)
ほぼ四半世紀を経て、シティボーイズと宮沢さんが組むと言う。あの笑いと寂しさが紙一重の、美しい世界が観られるだろうか。楽しみ過ぎて前夜は夢に宮沢さんが出てきました(笑)何故まことじゃないのだ…と思いましたが……普段からここを読んでくださっている方はご存知でしょうが、わたくしシティボーイズのライヴ行くときは気合い入れ過ぎたメイクが戦化粧のようになってしまうくらいまことが好き過ぎるのです。何故まことのこととなると中高生マインドをこじらせたような「好き!」になってしまうのか未だに自分でも謎です。
どんどん話が逸れていく。爆弾低気圧に怯え乍ら三軒茶屋へ向かいました。
席は三階最前どセンター。着席してすぐ、目の前に拡がる光景に見入る。思えば宮沢さんの演出作品をSePT規模で観るのは初めてですし、SePTの独特な劇場空間をどう使うのかにも興味と期待がありました。果たして「美しい世界」が、劇場サイズとキャパシティに最適な状態で用意されていました(となると他の劇場でも観てみたくなる訳ですが)。林巻子さんの美術、高橋啓祐さんの映像、高田漣さんの音楽により、確固とした美意識をまとった舞台空間。高い天井から降ろされた巨大な白い布はステージの四分の一程の幅だろうか。ぴんと張られたものでなく、舞台上へとドレープを描いている。布がない空間から見える舞台のその奥は、照明により顔色を変える。布はスクリーンとしても使われる。映像は近年の恒例だったエピソード毎の転換用スケッチとは違い、あく迄劇中の美術として扱われる。幕のサイズ感にヤラれ、その幕と幕からはみ出し増殖していく映像の拡がりにヤラれる。壁面、幕面、その幕に載る映像。二層にも三層にもなる舞台。そこへに出演者たちがノイズを加えていき、またその層が増殖する。
興味深かったのは、これらがまるでダンスカンパニーの作品のように感じられる要素を持っていたことです。美術と衣裳、演者の動き。各々のシーンが、観ている者の記憶と想像力をフルスロットルで叩き起こす。舞台上に五人の男が現れる。揃いの黒いスーツ。一瞬喪服かと思うが、ネクタイに柄がある。手にはやはり揃いの黒いキャリーバッグ。限りなくダンスに近い、キャリーをひく五人の歩行。このシーンだけでも、砂漠監視隊(観ていないのに!想像力を喚起させる言葉の力)、砂丘、植田正治、青山演劇フェスティバル、トランス、鴻上尚史、ハッシャ・バイ、パレード旅団、フィリップ・ジャンティと言うイメージが数珠繋ぎに拡大される。公的なこと、私的なこと、さまざまなイメージだ。
ブルーシート、荒れる上司、何度も並べ替えられる大量の椅子。支離滅裂であり乍ら整然とした状況の変化と、迅速に右往左往する者たちから想像されるものは何か?宣美の写真にもある、花見が行われていた場所はどこだ?春に、桜の下で、私たちは何をはじめるのだ?それは言葉も同様で、「門が閉まる」「時間切れだ」(ここからのシークエンスにはシビれた)と言った台詞からは“狭き門より入れ”、聖書(これは実際にモチーフとして出てくる)、反復、前川知大、概念、略奪、と言ったイメージが次々に浮かぶ。ときには自分の脳の処理速度が追いつかず苛立つことすらあった。そして実際「オフト」が出て来なかった(笑)。オチかこれは。くやしい!「オ」てきたら「オシム」から遡れなかった!(笑)ノスタルジーはドタバタに踏み荒らされ、怒りのエネルギーはギリギリの笑いでワイルドサイドを走る。なんてスリル、なんてエキサイティング!
なんとか説明したい思いからつらつら駄文をつらねてますが、ひとことで言えばもう、めちゃくちゃ格好よかったんです。ああ、格好よかった!格好よかった!!!
近年シティボーイズって別枠で観てる感じなんですが…別枠ってのは、ああおじいちゃんたちががんばってるう、この三人さえ揃えばなんでも楽しいって意味で……実際もうその存在だけで面白いので、こう思ってしまうのは失礼かも知れないけど悪いとは思わないのですよ。そういう存在ってスペシャルだから。やっぱり年齢のこともあるし、観られるだけで嬉しいってところもあるんです。でも今回はもうそういうの関係なしで、舞台作品としてもものすごく衝撃を受けた。「今の笑いを教えてほしい」と宮沢さんを呼び出した安定志向なんてどこ吹く風のきたろうさんや、身体大丈夫か!?と心配になってしまう程のまことさんの縦横無尽(まさかまことさんの木村伝兵衛が観られるとは!まず机にバーン!て上げられる脚に感動したよね…わっあんなに脚上がるんだ!って・笑)、リアルで出ずっぱり(笑)のゆうじさん、テンションの持って行き場が全く読めない戌井さん、そんな男たちの間をふわりふわりと駆け抜け、彼らの尻を叩く笠木さん。いつもは三人の「翻訳」を務めるようなせいこうさんが同じ線上に立っているように感じたことや、近年定番になっていたようなしげるさんの破壊兵器っぷりが影を潜め、それでもしげるはしげる(笑)だったことも新鮮でした。ドリームチームみたいな座組だった。
と言いつつ、「(チーズ)ケーキです」(ケーキを置く)「コーヒーです」(コーヒーを置く)を「ケーキです」(ケーキを置く)「チーズケーキです」(コーヒーを置く)「コーヒーです」(エアー)と言ってごまかしきろうとしたきたろうさんには舌を巻いたな(笑)予測不可能過ぎる。「ケーキです」で充分通じるのになんで言い直すかな!最高!そして逃げようとしたきたろうさんの腕をふん捕まえて追及したまことさんも最高。
いんやそれにしても、そこに立つ人物含めた舞台空間が本当に素晴らしかった。全景をひきで観られる席で至福でした。しかし今、それがよかったからこそ他の角度から観てみたいと言う気持ちも猛烈に沸き上がっている。今回のチケットホントに激戦だったようで、ギリ迄プレが外れまくって冷や汗かいた程だったのですが、当日券が毎日出ると言う宮沢さんのツイートを見てリピート欲が…ううう……。
カーテンコールのトークはまず気象&交通情報でした(笑)ソワレが17時開演で助かった…帰宅してから天気大荒れ。まことさんの「来年くらいに、またお会い出来たらなと思っております」との言葉が聴けたことも嬉しかったです。
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